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『【融界】1.プロローグ 』
古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001)&鞠丘 麻陽aa0307)&Aliceaa1122hero001

●グロリア社
 固い足音が響く冷たい廊下を少女たちは歩く。
 豊かな金髪の上で狐耳がピコピコと動く──軽いステップで先を歩くのはAlice(aa1122hero001)だ。
 その後に続いてきょろきょろと周囲を見回しているのは古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001)。狐耳によく似た髪型にたくさんの花が咲いてる。そして、最後に続くのは見た目の年齢にそぐわない豊かな胸を持つ美しい少女、鞠丘 麻陽(aa0307)である。
「ドキドキしてきたのぢゃ」
「同じく、なんだよ」
 ここはかの有名なグロリア社である。エージェントには馴染みの企業だが、彼女たちはそのグロリア社の持つ建物の中でも更に許可が必要なほどの場所へ入り込んでいた。
 もちろん、正式な仕事のためだ。
 だが、今回はパートナーと二人一組が常のリンカーとしては珍しく、それぞれパートナーと別で、英雄二人と能力者一人という奇妙な組み合わせであった。
「もうすぐですよ♪」
 そう言ったAliceは目的のドアとその前に立つ人物に気付いて足を速めた。後の二人も彼女を追う。
 ドアの前には淡い金髪をショートにした女性が立っていた。白衣を羽織っているところを見ると研究者だろうか。二十代後半か、三十代か……柔らかな雰囲気を持った話しやすそうな女性だ。
「ホリーさん!」
「Aliceさん、皆さま、お待ちしておりました」
 ホリーと呼ばれた女性はにこやかに微笑むと三人へ丁寧に頭を下げた。
「この度はグロリア・インダストリーズのプロジェクトにご参加ありがとうございます。さあ、中へどうぞ」
 今まで元気よく建物内を観察していた麻陽だったが、ホリーが開いたドアの前で一旦足を止めた。彼女の躊躇を感じたホリーは笑顔を浮かべたまま軽く首を傾げる。
「どうぞ?」
「……あっ、ええっと」
 もじもじとドアとホリーを見比べる麻陽。そんな友人の背中をAliceが優しく押す。
「一緒に入りましょう♪」
「……うん、だよ」
 頷く麻陽に安心したような表情を浮かべたホリーは改めて室内へ三人を案内する。
「ようこそ、グロリア・インダストリーズへ」
 四人を飲み込んでドアが静かに閉じた。



●実験
 明るく清潔な部屋だった。
 中には四人以外の人影は無く、長テーブルと椅子が整然と並んでいる。
 卓上の一輪挿しに挿した可憐な花を見るに、普段は研究者たちの喫茶室として使っているのかもしれなかった。
 ガチガチの研究室を想像していた三人は予想外の部屋の雰囲気に拍子抜けした気分で立ち尽くした。
「紅茶と──ジュースも用意しました。ケーキもお菓子もありますよ」
 ホリーが甲斐甲斐しくお茶の用意を始めると、甘い匂いが彼女たちの鼻腔を擽って今度は小さな歓声があがった。
「座ってくださいね。お菓子もどうぞ。あまり緊張しなくても大丈夫ですよ」
 ワクワクと席に着く三人。
 もしかすると、参加する三人に合わせてこの部屋を選んだのだろうか。
 こうして、グロリア社の実験と意気込んで来た三人は予想外のティータイムの時間を得た。


 長テーブルへ飲み物とともにクッキーやキャンディー、パウンドケーキなどを並べるホリー。
 仲良く並んで座った三人が笑顔でお茶に口を付けてケーキを食べ始めたのを見て、彼女も向かい側へ一人腰をかける。
「改めまして。私は今回の実験で皆様のバックアップを担当するスタッフの一人、ホリー・バーニーです。気軽にホリーとお呼びください。実験にあたって知りたいことや不安なこと、また、実験中に気付いたことや違和感などがありましたらすぐに私をお呼びくださいね」
 嬉しそうに目の前のお菓子を皿に盛った麻陽だったが、その言葉で手を止めてAliceとホリーの顔を見比べる。
「実験とは聞いてきたけど、あなたからもくわしいお話を聞きたいんだよ」
 彼女と菖蒲はAliceを通じてここへ集まった。もちろん、Aliceからも話は聞いてはいたが、麻陽としてはグロリア社の人間からも仕事の内容を確認しておきたいのだ。
「ああ、そうですね。もちろん、ご説明させて頂きます。その前に──アイリスさんは主任のご家族だとお聞きしました。いつも主任にはお世話になっております」
 主任とは菖蒲と誓約した能力者であり、彼女の「ジーチャン」……家族だ。何かとグロリア社に縁の深い彼は「グロリア社名誉社員」との称号を持ち、更に社員から「主任」と呼ばれている。菖蒲は彼の英雄ではあるが、彼女自身はホリーとは会ったことはない。
「こちらこそお世話になっておるのじゃ。ご迷惑おかけしてないければいいのぢゃが」
 すました顔で本人が聞いたら呆れるだろう言葉を返す菖蒲。もちろん、聞きかじりの台詞を使ってみたかっただけだ。
「ホリーさんとは偶然知り合ったんです♪ そこで今回の”面白い実験”のお誘いを頂きまして♪」
 Aliceが楽しそうに友人たちの顔を見た。彼女は友人の麻陽や妹のような菖蒲と一緒にこの依頼に参加できて嬉しいのだ。
「特殊な実験みたいですから、気心が知れている関係の方が良いと思ったんです♪」
「ええ、ありがとうございます」
 頷くとホリーは改めて今回の協力者たちへ向き直った。
「今回のプロジェクト──ご協力頂く実験についてご説明させて頂きますね。
 新しいVBSを使ったシミュレーションを行います。
 ご協力頂くのは、
 『能力者(ライヴスリンカー)と他の能力者と誓約を交わす英雄(リライヴァー)との共鳴』実験、
 『英雄同士の共鳴』実験、
 『多重共鳴』実験、
 そして、それらの共鳴をした上で行う戦闘です。
 もちろん、これらの実験はVBSで再現されているだけのシミュレーションですので、当然無害です」
 本来、能力者と英雄は共鳴するためには、異世界の存在である英雄を現世界へと繋ぎ止める楔としての誓約を交わさなくてはならない。能力者と英雄は誓約によって互いを魂レベルで結びつけ、また、その際生まれた『幻想蝶』を使って共鳴を可能にする──。誓約を交わした英雄と能力者の関係はそういった重いものである。
 だが、この実験は違った。
 現実では難しい「誓約を介さない関係の共鳴」をシミュレーションの世界の中で行う。元来、結びつかないはずの個と個を結びつけ、その結果を観測するのだ。
「面白そうですよね♪」
 宝石のような青い瞳を煌めかせるAlice。
「ふたりと共鳴したらどんな姿になるのかも気になるし、内心ドキドキなのです♪」
 彼女の言葉で内容を理解したふたりも好奇心で目を輝かせた。
 普段、誓約を交わした能力者と英雄が共鳴を行うと、相互の個性が干渉してか共鳴後の姿が変わることが多い。また、クラスを持つ英雄同士が共鳴すればどうなるのか──想像もつかない。
「面白そうなんだよ、やってみるんだよ!」
 好奇心を刺激されてテンションを上げた麻陽だったが、ふと、この中で能力者が自分だけであることに気付く。
「ところで、何であたしなんだよ?」
 忙しい菖蒲の能力者はともかく、Aliceの能力者も参加した方が良いのではないだろうか、データは多い方が良いのではないか、と。
 そのもっともな懸念にホリーはファイルを広げる。そこには麻陽が事前に提出したデータが掲載されていた。
「麻陽さんの誓約は『英雄による変化を受け入れる』というものですよね。これは今回の実験にとても相性の良いものなんです。この誓約のもとに共鳴し活動を続けている麻陽さんは、能力者として今回の実験に精神的な適性が特にあると判断しました」
 なるほど、と頷く麻陽。
「こちらの都合になりますが、今回はまだ規模を広げて多くのエージェントの皆様に協力して頂いて行うことができないので……。もちろん、可能でしたら麻陽さんの英雄やAliceさんの能力者の方にもご協力して頂けたらと考えたのですが」
 ホリーが言うには、今はまだそこまでの対応は難しいらしい。
 だが、たとえ誘ってもらっても──と麻陽は自分のパートナーを思い浮かべる。
「うーん、あたしの英雄さんは研究の為に引きこもって出てこないんだよ」
 麻陽のパートナーである英雄は、以前から「現世界へは此方の世界の研究のために来た」と言っていた。そんな彼女はいつも僅かに残った元の世界の記憶と新しく現世界で得た知識を使って薬品の研究や調薬に励んでおり、恐らく今も「引きこもって」いるはずである。
 また、Aliceも頬を赤らめてはにかんだ。
「鞠丘さんやアイリスちゃんと共鳴するのはやってみたいんですけど……うちは嫉妬されちゃうかもしれないので♪」
「もしかして、黙って来た──?」
 菖蒲の問いに、こくん、と頷くAlice。
 ホリーにはその嫉妬の詳細は定かではなかったが、英雄と能力者の関係は密なものであるしと特に追及はしなかった。
「わらわのところは……きっと、忙しいから無理じゃろう……」
 多忙なジーチャンを思い浮かべて、菖蒲は少し寂しく思った。菖蒲自身は元々子供っぽい性格ではあるが、ジーチャンに対してはたまに甘えたい子狐のようなところもあるのだ。
 気分を切り替えて菖蒲はサクっと切り分けたパウンドケーキを口へと放り込んだ。甘くて美味しい。
 優しい眼差しで菖蒲や麻陽を見ていたAliceが改めて口を開く。
「もちろん、私は楽しい事は好きですし、麻陽さんやアイリスちゃんもそうだって知っているから誘ったのもあります♪
 でも、将来の研究の役に立つのではと思って協力したくて誘ったんです♪」
 その言葉通り、Aliceは実験についてよく調べていて、誘う時にもふたりの疑問には丁寧に答えてくれた。だからこそ、安心してここへ来れたのだ。
「そうぢゃ、これもお仕事、お仕事!」
「うん、この面子なら大丈夫な気がするんだよ」
 笑い合う三人に、優しい笑顔を浮かべたホリーがお代わりを用意した。
 そして、実験の始まるまでの短い間、四人はささやかなお茶を楽しんだ。



●next
 実験の始まりを告げるビープ音が鳴った。
 再現されたVBSの世界の中──。
 ひとり佇む菖蒲はなんとなく周囲のライヴスの高まりを感じた気がして、ゆっくりと目を開く。
「まずはわらわが相手じゃ。鞠丘おねーちゃん、Aliceおねーちゃん、本気でドウゾ、なのじゃ♪」


 ── next.「他者英雄共鳴A - enemy:アイリス」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa2336hero001/古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ/女性/外見年齢18才/ソフィスビショップ】
【aa0307/鞠丘 麻陽/女性/外見年齢11才/生命適性】
【aa1122hero001/Alice/女性/外見年齢15才/シャドウルーカー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お時間頂いてしまい申し訳ございません。
実はグロリア社を直接扱うのが初めてで不安もありましたが、他者共鳴とPVPに興味惹かれて書かせて頂きました。
これからどうなるのか、一読者としてもとても楽しみです!
今回のNPCは後日運用しやすいようなキャラクターにしましたが、この後のシリーズで変えても問題無いよう描いてあります。
シリーズものの一話とのことでしたので慎重に書かせては頂きましたが、
何かありましたらOMCのお問合せからよろしくお願い致します。
今回はご依頼頂き、ありがとうございました。
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2017年11月28日

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