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『罪の名前 前篇 』
宮ヶ匁 蛍丸aa2951)&藤咲 仁菜aa3237)&ナイチンゲールaa4840)&狒村 緋十郎aa3678)&火蛾魅 塵aa5095

 寒空の下鐘がなる、乾いた空にひび割れるように。 
 それが歪んだ音色に聞こえるのは少女たちの心象がよくないからであろう。
 それは邪な時告げの咆哮。
 それは大切な人の死を告げる鐘の音。
 短く一度鳴らされたそれの音が静まると、人々の声が、喧騒が戻ってきた。
 少女二人は囲まれていた。『藤咲 仁菜(aa3237@WTZERO)』は突き飛ばされて地面にころがり泥を纏い。
 『ナイチンゲール(aa4840@WTZERO)』は冷えた視線で黒服の男たちを眺めている。
 だがもっともものものしい雰囲気を醸し出しているのは大衆である。
 彼らは口々に、殺せ、やら。罪人をゆるすな、やら。叫びをあげて少女たちに石を投げた。
 それが背に、体に当ってもナイチンゲールは微動だにしない。
 目の前の男を睨み続けた。
 そうしないといけなかったから。けれどそうしたところで運命が何か変わるわけではない。
「そんな! 絶対に違います、あの人が、あの人がそんなことできるわけがないんです」
 仁菜の叫び声、それにナイチンゲールは歯噛みした。
「あの人が、何百人も人を殺すなんて、絶対にありません。だってあの人は、何百人の人を守るために自分を殺す。そんな人なのに。なのに!」
「だが事実だ!」
 男はH.O.P.E.の腕章をちらつかせながら告げる。
「血にまみれた奴を発見したとき、一般人、H.O.P.E.職員含むすう百の死体が見つかった。切り傷は奴の持つ愛槍の刃紋と一致した、言い逃れはできない」
「それはあなた方が勝手に決めただけですよね?」
 ナイチンゲールが問いかける。
「本人が認めたことだ」
 直後二つ目の鐘が鳴る。
 三つ目の鐘が鳴った時、それは彼とお別れの時期だ。
 そう通達には書いてあった。

《『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』H.O.P.E.における裁判の結果に従い、被告を死刑とする》
 
 この国における死刑の意味は、更生の余地なしと判断されたことを意味する。
 蛍丸はそれほどの罪を犯したのだ。
 であればなぜ。
 なぜそんなことをしたのか。
 それが仁菜は知りたかった。
「彼に逢わせてください」
「だめだ!」
「私たちは仲間だったんです!」
「だめだ」
 ナイチンゲールは鉄の壁のようにそびえたつ男たちを見て茫然とした。
 もうどうしようもない事実を前に、けれど思考は放棄せずに黙って手立てを考えていた。
 けれど、ああけれど。
 時間は刻一刻と奪われていくのだ、力を持たない。あの揺れ始めた鐘が、音を打ち鳴らすならきっとそれは……処刑の合図。
 三度目にして終りの鐘の音。
 二人の少女に届いたのは、聞こえるはずのないギロチンの降りる音。
 残酷にして無慈悲なる断頭台。
 その儀式が済んだのか、男たちが守るとびらから次々と身なりのいい大人たちが這い出してくる。
 彼らは少女たちに目もくれず口々に、思い思いの雑言を吐きながらその場を後にした。
 見世物さらし者とされないだけ、死してなおの辱めを受けないだけまだましだ。
 周囲に集まった人間たちは告げる。
 泣き崩れる仁菜。
 この世に手遅れな物があると、仁菜は知っていたはずなのに。
 守れなかった、救えなかった。
 何度も私をすくってくれた彼なのに。
 悲鳴のような声が響く廊下から一人また一人と立ち去っていく。 
 ナイチンゲールは口元を伝う血をぬぐう。
 気付かぬうちに唇から血を流していたのだ。
 いつのまにやら唇をかみ切るほどに力が加わっていた。
 それに気が付かな方のは心の痛みに比べたらこんな物、痛みと感じられないほどだったから。
「蛍丸さん。ごめんなさい、わたし、私あなたを守れませんでした」
 悲痛な叫びが虚空に伸びて消える。
「あなたは、私を助けてくれたのに。あなたは私を救ってくれたのに」
 同じ思いをナイチンゲールは抱く。だがそれを口にする資格は自分には無いように思えたから。
 その少女たちの悲痛の声を扉越しにききながら一人の男が動く。
 彼はずっとこの部屋にいて、その光景を見つめていた。
 彼は蛍丸が創設した【暁】の副長でありながら、この場の参列に許された唯一の人間『火蛾魅 塵(aa5095@WTZERO)』
 その光景を目の当たりにしているあいだ、まるで彼は闇のようにそこに逢った。
 彼は誰もいなくなった処刑場の中央に降りると、床にわずかに残る血痕へと指を滑らせる。
「小隊【暁】は隊長の死を持って解散かねぇ」
 そうやってつぶやいた塵の瞳には見通せない闇がある。
「くそ惰弱どもの導いた結末にはよぉ。俺ちゃん興味はねぇだよなぁ。俺ちゃんが気になるのは天秤が傾いてるっつうことよ」
 告げて塵は踵を返すと空を仰いだ。
「ゆるさねぇ……なに、俺ちゃんの憎悪の対象が増えただけだ」
 塵は告げる、何者かに向けて。
 おそらくそこにこの運命を仕組んだ何者かはいない。
 けれど塵は自分の胸に刻むためにも呪うのだ。
「俺ちゃんはよぉ。殺すぜ。殺すって決めた奴は絶対に殺す」
 呪うことは得意だ。そしてその呪いを成就させることも得意だ。
 そう塵はまた闇に溶けるように消えて行った。
 
 次の日。小隊【暁】その頭目『黒金 蛍丸』の死が世界中に報道された。
 彼の罪状は大量虐殺。
 彼は多くの人間をただただ殺したとして。罪に問われ処刑されたことが捧持されたのだ。


第二章 再開

 その事件に再びスポットライトが当たることになるのは、その二年後の事である。
 その二年で世界はそこまで大きく変わらなかった。
 心優しい少年が死ぬ。そんな日常は当たり前。
 そう言いたげに世間は蛍丸の死を飲み込んでいく。
 だがそれを許さないと近い、調査を続けている人間が何人かいた。
 その日も仁菜とナイチンゲールが古びたカフェで卓を共にしあの事件はなんだったのか。調査結果を報告しあっていた。
「やはり、何も、何も出てこないですね」
 仁菜はしょんぼりと項垂れる。
 二年も時間があったものの情報はまるで出てこない、不自然なほどに隠蔽されているのか。それとも本当に何もないのか。
「あの日、他にも沢山のリンカーが作戦に赴きました。けれど生きて帰った人は一人もいない」
 それはロシアでの戦いの事。あれは環境的にも状況的にもかなり厳しい戦いで、蛍丸を残して誰もが帰還できなかった。
 対して帰還できた蛍丸は、その任務で百人以上の人間を殺し、二度と会うことができなかったのだが。
「せめて、あの依頼で何があったか知っている人がいたなら」
 その時である、仁菜のスマートフォンが震えて画面に文字が表示される。送り人は塵。
 そのメッセージ欄には信じられない文字が浮かんでいた。
「狒村さんが見つかったって」
『狒村 緋十郎(aa3678@WTZERO)』彼も蛍丸と同じミッションに赴き、そして帰れなかった一人。
「話を聞きに行きましょう、彼なら何かを知っているかもしれません」
 そうナイチンゲールは席を立つ。同時にスマートフォンで経路について調べ始めた。
 彼がいるその場所に赴くには特別なルートを確保しなければならない。
 彼がいるのは極寒の大地ロシアのさらに奥だからだ。

   *   *
 
 極寒の大地に対応できるような寒冷装備はリンカーには必要ない。
 霊力を纏う寒さでなければ体を蝕むことはできないからだ。
 それでも何があるかは分からないので整えられるだけの装備は整えてきた。
 その足で二年ぶりに踏みしめるロシアの大地はあの時よりも寂しく二人の瞳に映った。
「こんなところにあの人が」
 次の瞬間である。冬の風が形を成すように集まり塊、そして緋十郎の姿をとって二人の前に現れた。
「お久しぶりです。狒村さん」
 そうナイチンゲールは頭を下げた。
 その姿は、かつての妻たる吸血姫の英雄との共鳴姿と良く似ているが。隻眼となり、纏う外套は氷雪を思わせる蒼白。似ているようで全く違う、異質な霊力がナイチンゲールの頬を撫でる。
「ああ、そうだな。本来は二度と会うつもりもなかったが」
 そう悲しげにつぶやいた緋十郎は左目を瞑っていた。
 そして折れて凍てついた大剣を地面に突き立てると。二人を交互に見る。
「あなたはあの時蛍丸さんと一緒にいたはず。だったらあの時の真実をあなたは知っているはずです。教えてください」
 そう口火を切ったのは仁菜。
 その言葉に小さく緋十郎は頷いた。
 しかし。
 次いで口にした言葉は信じられないものだった。
「俺はいまなんだと思う?」
 あまりに漠然とした質問、しかしナイチンゲールはかざすように緋十郎の冷気に手を伸ばすと愕然と目を見開いた。
「まさか、英雄」
 その言葉に緋十郎は頷いた。
「数日間に、この世界に新たな門が開いた。その時この世界から失われた人間たちが英雄となって。大量にこの世界へと送り出された」
 緋十郎は遠く空を眺めながらつぶやく。
「そして、黒金もそこにいた」
「うそ……」
 仁菜が崩れ落ちる。
「その場所はどこなんです? 嘘か本当かは私達が目で見て決めます。死んだ人が生き返るなんて奇跡、信じませんがそれでもないとは言い切れない」
 その言葉に緋十郎は頷いた。
「そうだな、俺もあの時死んでいるはずだ。この身が変容したのもおそらくは」
「あなたは何か知ってるのですか?」
 仁菜は重ねて問いかける。
 その言葉に緋十郎はゆっくりを語り始めた。
 あの日自分が見た全て。
「黒金が数万の命を選んだ『事件』の中で俺は数万の命も数百の命すらも選ばず因縁深き、氷雪を操る愚神の少女一人の元に赴いた」
 あの戦いは愚神たちの罠だったという。かの白い少女含めた強大な愚神たちが総出で町を滅ぼそうとしていた。
 その眼前に立ったのが、たった十人のリンカーではどうしようもない。
「己の体を憑代として差し出し。そのまま行方不明となっていた」
 その際、緋十郎は一度は裏切ってしまった少女との和解の為に己の左目を少女に喰わせ、また事件の経緯の中で妻たる吸血姫と魔剣の化身たる少女……己の二人の英雄すらも失った。
 そのまま冷たい闇に落ちて消えたのだと。
 そして他のリンカーたちも同じように冷たい結末をたどっているはずだと、緋十郎は告げた。
 そんな昔話を聞き終えた後に、仁菜とナイチンゲールは顔を見合わせる。
 気になるワードを緋十郎が口ずさんだためだ。
「数万の命を守った?」
 そう、緋十郎は確かに言った。救ったと。
 蛍丸は確かに人をすくっていたのだ。
 ただただ百人の人間を殺したわけではなかった。
「だったら、なんであの人は」
「数百の命を奪ったからだろうな」
 緋十郎は言った。それは犠牲と呼ばれるべきものだと。
「誰をどれだけ救おうとも犠牲は犠牲、そして殺したのは黒金だ。本来罪とは救済したことで帳消しには……」
 緋十郎は思い出す。幼馴染の少女、救ってきた人々。救えなかった白い少女。捨ててしまった最愛だったはずの人。
 罪と救済を重ねるだけ重ねて、やっと気が付いたその言葉。
「帳消しにはならない」
 その言葉が重たく少女たちにのしかかる。
「さぁ、いけ、そろそろ彼女が目覚める」
 どうかした魂の主導権は八割を彼女が握っている。
 緋十郎は告げた。普段は愚神の憑代として意識が表に出ることも叶わぬ身だが、少女が『眠っている』間だけはこうして自由を許されているようだと。
「ありがとうございます」
 そう仁菜は告げてロシアの大地を後にする。
 この異常現象も気にはなるがそれはH.O.P.E.が調査すればいい。
 彼女達がやるべきことは一刻も早く蛍丸を見つけること。
 ただ、それだけだ。

第三章 罪の名前。

 その森はライブスで変容してしまっていた。
 美しい灯りは瞬いて煌いて、妖精のような存在が済むのかと思えば過剰に生成された霊力の生らしかった。
 その森の奥地に扉はあった。
 そしてその大きな扉を囲むように沢山の人々が横たわっていて。
 それが全員英雄だという事がわかった。
「うそ……」
 その一団の中に蛍丸がいた。
 共鳴姿なのでわかりにくかったが彼が確かにそこにいた。
「黒金さん!」
 ナイチンゲールが駆け寄る。
 その声に気が付いたのか蛍丸はナイチンゲールへと視線を向けて。
 そして空っぽの表情を向けた。
「また、会えるなんて思いませんでした」
 まるで二人と会えたことが嬉しくないとでも言うように。
「お二人はなぜここに?」
 そう穏やかな笑みを浮かべる蛍丸。
 そんな彼へ。仁菜が飛びかかった。
 上空斜め上からかぶさるように右ストレート。
 ジャンプ力、加速力、拳の速さが相まって世界をとれる右ストレートが蛍丸にさく裂する。
「蛍丸さんの馬鹿ぁああああ!!」
 吹きとび地面を転がる蛍丸、そんな蛍丸の胸ぐらをつかみあげて、仁菜は蛍丸をガクガクと揺すった。
「……藤咲さん」
「何でいっつもそうなの! 何が大丈夫なの! 本当馬鹿! 馬鹿!」
 揺する仁菜の表情は髪の毛に隠されて見えない、けれどひずんだ声が。落ちる雫が彼女の胸の痛みの表れだと知った。
「ごめんなさい。僕がいたばかりに」 
 そうじゃない。そんな怒りがまた仁菜の胸の中にあふれてきて再び拳を握る。
 すると。ナイチンゲールがそれを止めた。
「藤咲さん、話をきかないと。殴るのはそのあとにでも」
「あ、殴るのは止めてくれないんですね」
 蛍丸がそう小さく微笑んだ。
 それはかつてよく見た。当たり前のようにそこに逢った少年の笑顔だった。
「……久しぶり」
 そうナイチンゲールは蛍丸に笑みを返す。
「私はあなたのやったことをとやかく言ったりしない」
 だってナイチンゲールは信じているから。蛍丸がどんな判断をして、どんな苦悩を抱えて、どんな行動をとったにせよ。
 それは彼の信念にもとずいた行動だ。
 彼の心、思いは信じられる。
 だから彼が間違った判断はしていないと信じられる。けれど。
「でも置いてかれた…って、ずっと思ってた」
 ただただそれが残念でならなかった。
「離してくれませんか? なぜ蛍丸さんがあんなことをしたのか。なぜ蛍丸さんは反英霊として時代に名前を残しているのか」
 その言葉に蛍丸は屈託なく答える。
「あれは誰かに強要されたのでもなく。僕が望んでやりました」
「そう言うことを聞きたいんじゃないです」
「いえ、聞いてください。僕は確かにそれを選んだんです。そうするしかなかったわけでもなく、誰かのかわりをするというわけでもなく。僕がそうしたかったからそうしたんです。悔いはありません。あれしかなかったそう思います。
 蛍丸は言った。この惨状。何百という人間を殺した罪がどこにあるか問われた時。
 蛍丸は迷わず告げたと。
 彼は選んだのだ。選択肢は無数にありながら
【数万の命を救うために、数百の命を切り捨てる】
 その選択を。
「なんで……」
 その言葉を受けて仁菜は思う。
「なんで」
 蛍丸がその選択をしたと知って彼の強さを見た。
 蛍丸ならそれができる、実感もした。
 けど絶対に許せない。そうも思った。
 同時に怒りと悔しさが湧いたのだ。
「何で頼ってくれないの」
「それは……」
 わかっている、その問いかけの答えが自分を傷つけるような答えであること。
 けど、自分は、それでも一緒にいたかった。
 彼にとって力不足だとしても、同じ血で手を汚させまいと気遣ってくれたのだとしても。
 それでも、ぶつかって、話をして一緒に。一緒に歩みかった。
「なんで私たちに何も相談してくれなかったの?」
 ナイチンゲールは告げる。
 口では頼りにしてるといいながら、決して守らせてくれない彼に。
 大丈夫といいながら、どんどん前に進んでいってしまう彼に。
 今度こそ言葉を、思いを伝えるため。
「全部全部自分で決めちゃって」
 断頭台に向かう前に時間はあったはずだ。連行、拘留、裁判。どのタイミングでも助けを求める機会はあったはずだ。
「何で数百の命と自分の命を諦めたの」
 仁菜が告げる。
 何百の命、そして自分の命。犠牲は必要だったとしてもそれをよしとする人ではなかったはずだ。
 そうしないために強くなろうとする人のはずだ。
 なのに、今の蛍丸は覇気すら感じられない。
 そして何より。
「「なんで一緒に連れて行ってくれなかったの!」」
 少女二人は声を重ねて蛍丸に告げた。
「私ね。あなたを見てるのが好きだった」
 ナイチンゲールが歩みを進める。
「大切な人達に囲まれてるあなたが。愛する人と寄り添っている姿が……好きだった」
 思い出されるのは幸せな日々。あのときに戻れるならそうしたい。
 そんな思いもある。
「だから死なせたくなかった」
 ナイチンゲールは次の瞬間腰の刃を抜いた。
「なのに……」
 確かな手つきで首元に添えられた刃は一瞬もぶれることが無い。
 片手で歯を抑えて蛍丸がうかつに動けば喉を切り裂く、そんな石を目で語る。
「何もかも一人で背負い込んで。
 どうせこうなるって分かってたからだよね。
 そのことがどうしようもなく蛍丸らしくて
 だから許せない……!」
「ごめんなさい、二人とも。でも僕はああするって決めて、そしてどんなバツでも受け止めるって」
「一人じゃ無理でも皆で頑張れば、救えたかもしれないじゃない」
「救えなかったんですよ。現にボク以外のリンカーは全員死にました。そしてぼくが数百の命を手にかけなければ、きっと。他の人たちも」
「蛍丸さんは苦しんだはずです、なのにまだ私たちの前で笑っている。なんですか」
 仁菜が懸命に訴えかける。
「僕は大丈夫だからですよ」
 仁菜は思い出してた最後に見た彼の姿を。
 あの時だって大丈夫って笑って……でも、帰ってきてくれなかった。
「あなたが、大丈夫なわけないじゃない」
 そうナイチンゲールは反応があるまでずっと、蛍丸を睨み続けた。
 けれどその言葉にも、表情にも、蛍丸は困ったような笑みを返すだけだった。
「ずるいよ、いつもそうやって……っ」
 そう崩れ落ちるナイチンゲール。がらんと剣を落してそして涙をこぼした。
「それでも、あえてよかった」
 そう涙する少女二人の手を取り蛍丸は告げる。
「ただいまです。二人とも。辛い思いをさせてごめんなさい」
 その時だ。二人の耳に声が聞えた。

「あれ、蛍丸だってよ」

 その声音には畏怖と憐憫、そして嘲笑が混じっている。
 あざけるような言葉の波が一気に押し寄せた。
「蛍丸ってあの黒金の?」
「大量虐殺の張本人?」
「あんな奴まで呼び出されるなんてどうなってんだよ」
「英雄だけ、呼び出されるんじゃねぇのかよ」
 そんな声を聴いて、少女二人は反射的に蛍丸を背で隠した。
 今度は、今度こそは護りきる。そんな意識をあらわにする。
 そんな中だ。
「うっせーよ、パンピー屑ども。いや、今は英雄か?」
 悠々と歩き近づく男が一人いた。
「お前らも、泣いてどーなるもんでもないだろ、たてよ」
 男は炎を纏っている、一切を灰燼に帰すような豊かな炎を。
「俺ちゃんたちでどうするか、考えねぇといけねぇんじゃねぇの?」
 立っていたのは塵だった。
 彼は周囲の有象無象を一別すると高らかに告げる。
「ここにはよくねぇ奴らもいるみてぇだな」
 グダグダと騒ぐ、英雄たち。
 彼らはおそらく蛍丸と同じような過去から召喚された者たちなのだろう。
 彼らは蛍丸を知っていた。
 さらには英雄になれずに、しかも消え損ねた魂も大勢見える。
 その全員が蛍丸に対して敵意を向けていた。
 だがその敵意の前に塵は堂々と立つ。
「おまえちゃんたち、はずかしくねぇの? どうせ人間、死ぬ時は死ぬんだろ? だったらいつ死んでも一緒じゃねぇか」
 そう言って塵は笑った。
 その言葉にヤジが飛ぶ。蛍丸は悪で、殺戮者で、罰せられるべき存在だ。
 そんな声が波のように降りかかる。だが塵は一言でその場を静まらせてしまう。
「死んだ理由? お前らがよえーからだろ」
 殺気が場を満たした。
「いずれ死ぬ力も無ぇ雑魚どもなんざ、今俺等で皆殺しにするか?」
 静まり返った場。それに塵は「つまらねぇ」と吐き捨てて。そして少女たちに向き直る。
「さて、これからは種明かしと、今後どうするかの話だ」
 塵は続けて告げる。
「ハッピーエンドなんて俺にとっちゃ犬に食わせてぇ代物ナンバーワンなんだけどよ。手を貸してやってもいい」
 そのためには真実が必要だ。
 そう全員の視線が蛍丸に集まる。
 その視線を受けて蛍丸は頷いた。
「では、話すだけ話してみましょう。あの日何があって、僕はどういう決断をしたのか」
 それはあの日までさかのぼる。物語。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』
『藤咲 仁菜(aa3237@WTZERO)』
『ナイチンゲール(aa4840@WTZERO)』
『狒村 緋十郎(aa3678@WTZERO)』
『火蛾魅 塵(aa5095@WTZERO)』
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。鳴海でございます。
 この度はOMCご注文いただきありがとうございました。
 今回は蛍丸さん衝撃の展開で、書いているあいだもすごく悩みましたが、皆様の中で腑に落ちる展開であれば幸いです。
 それでは今回はこのあたりで。
 また何かあればよろしくお願いします。
 鳴海でしたありがとうございました。
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2017年11月14日

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