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『『ノロイトワ』 』
海原・みなも1252

 海原・みなもは学校から帰る途中、都内某所を歩いていた。用があってきたが、それはあっさり終わった。
 やってきた地域はテレビなどで話題になる場所で、ちょっと高級感のあるが手頃な価格の店があったり、裏路地入ると石畳の道などがあり、風情がある場所だ。
 みなもはメーンストリートから住宅街のある道を覗いた。

 石畳の道には黒く塗られた板塀が続く。

(話題になるだけあって雰囲気いいです)
 夕日に照らし出された道は、より一層独特の雰囲気を濃くしている。
(一見無機質に見えますが、家からは人の気配がするんです)
 家々からは日常生活や店の人が活動する音が漏れてくる。静かではあるが温かみがある、この通りには。
 みなもは安心して足を踏み入れ、観光気分で歩いていた。

 コトリ。

 家と家の間、人が横向きでぎりぎり通れる隙間。その暗がりで何かが動いた気がした。
 みなもは警戒し、目を凝らしてその隙間をしばらく見ていた。
(風か猫でしょうか?)
 警戒は続けたまま、歩き始めた。

 ブスリ。
 きゃはははははーーーーーーーー。

「痛っ!」
 背中に鈍い痛みがあったと同時に、奇妙な甲高い笑い声を聞いた気がした。
 笑い声があったのは隙間であり、それは立ち去ったようだ。
 その場にとどまることをせず、移動しようとした。
 しかし、足が思うように動かない。壁に手を付き、痛みが引くのを待った。鞄が手から落ちた。
 背中の痛みは消えている。いや、痛みがひどく、マヒしてきているような感覚であった。
(何があったか見ないと対処できません)
 振り返ろうとしたが、上半身をうまくひねることができない。せめて手で触れようと手をのばすが、うまく伸びない。
 体がきしみ、震えが起こる。
(インフルエンザです?)
 両腕を抱きかかえるように震えが収まるのを待つ。次第に立っていられない状況になり、壁に肩を預けたままずり落ち、膝と手を地面につけた。
「ううっ……暗いから良く見えませんが……なんかおかしいですね」
 声がかすれている。別に喉が痛いわけでもない。
 手の先を見るとそれぞれ指が見えず、白いフカフカしたものがあるようだった。
 嫌な予感もするが、白いフカフカを確認する間なく、全身を貫くような痛みがあり、頭をのけぞらした。
「うっくっ」
 痛みは引くと同時に震えもなくなっていた。しかし、後ろの方にある違和感は居座っている。
(お、おさまりました。道に座り込むのはいけませんね)
 手で地面を押して立ち上がろうとした。
 しかし、なぜか立てない。
 確実に動作を取ろうと、手をまず地面についていることを確認する。異変に気付いた。
(……これは、前足……と言うべきでしょうか?)
 違和感の理由は変身したからだと理解した。その原因はあの笑い声の主だと推測できた。その上で、まずは身の安全を確保することが重要だと考えた。
 服は変身に巻き込まれたのかそこにはないが、カバンは地面に転がっている。鞄は鼻先で押して移動する。
(それにしても、あたしはどのような姿をしているのでしょうか?)
 塀が途切れているところにはガラス張りの戸があった。
 そこに写っているのは制服姿の少女ではなく、ボルゾイのようなすっとした背丈の高い犬だった。
 足元は白い毛だが、それ以外は自分の髪か制服の色のようだ。犬の目のためか色はよくわからない。
「わおーん(目立たないかもしれませんが……犬? 保健所に連れていかれてしまいます!)」
 思わず声が漏れたが、犬の鳴き声にしかならない。
(……尻尾?)
 人が近づいてくる音がした。メーンストリートの音も遠くなっており、どこから音がするのかがわかりにくくなっていた。
(ああ、まず、隠れないといけないです!)
 鞄を咥えると家と家の間ある人一人が通れる通路を進む。
 道の先は行き止まりだが、左右に道は伸びている。様子をうかがうと、誰かがすぐに来そうにはなかった。
(ここならヒトは来そうにありませんね……それより戻るにはどうすれば……)
 みなもは首をかしげる。

 パタパタ。

 先ほどから妙に気になるのは後ろだ。後ろでも、背中よりは高さとしては下――犬としては後ろと言うべきか――に違和感が続く。
 全身を写したとき「なぜ尻尾があるんだろう」とも考えたのだった。
(人間になく犬にあるもの。そして、あの時、刺さった物……呪い、ですよね……呪具なのでしょうか?)
 刺さったとはいえ、物理的に刺さっていたら痛みがひどいだろう。そのため、呪いのアイテムだろうと考えるのは道理だ。
 さて、後ろにある物を取るにはどうすれば良いのだろうかと考える。いや、尻尾が取れるかもわからないが、触らないことには始まらない。
 手で確認しようとして、前足を持ち上げた。そして、頭から地面に倒れ込んだ。人間のようにつかむことができない。
(あ、当たり前なことをしてしまいました!)
 みなもは自分にツッコミを入れ、次の手段を考える。
 顔を向けて何とかつかもうとするが、クルリと一回転して終わった。
(もっと胴体を曲げないといけません。それと、首をこう回して……)
 みなもは必死に曲がろうとする。
(あ、尻尾です?)
 確認ができたのは良いことだった。より一層、必死に後ろに向く。
 回らないように必死に後ろ足は地面につけておく。
 クルリ。
 一回転した。
(あ、あれです……テレビでよく見る映像ですね。尻尾が気になる子犬や子猫がくるくる回る……)
 一瞬、心がほんわかした、
(いえ、それより、どうやって戻れるかです。このまま戻れないっていうことはないと思いますが、困ります)
 もう一回、尻尾に触ろうとした。尻尾もできるだけ、動かす。
(動くんですね)
 妙に感心してしまう。一生懸命、尻尾を伸ばし、首を伸ばし、胴を曲げる。
 クルクルクルクル………。
(ああ、なんか、あの子犬や子猫の気持ちがわかりました……触るに触れないもどかしさや遊んでくれる何かがそこにあるですね)
 再びほんわかと胸の中が温かくなる。
(駄目です……そんな、犬の気持ちになっている場合ではありませんね。尻尾をどこかで挟むか、尻尾を掴んでくれるような人がいればいいのですが。言葉通じませんね……)
 冷静ではあった。ふと浮かんだのが毛の長いしっぽは後ろ足が近いということ。
(後ろ足で尻尾は踏めないでしょうか?)
 座る体勢のまま、後ろ足をあげてみたりする。
(尻尾がうまい具合に足と地面の間に挟まったとして……抜けるんでしょうか?)
 立てない気もするが悩んでも仕方がない。やらないとならない。

 ――なんか、つまんないー。おしまいだよー。

 声の主はみなもが大いに慌てないことが残念がっている様子だった。
 みなもはほっと息を吐いた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生
???/通りすがりの声/たぶん女/きっと子ども/何か

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご指名ありがとうございました。
 変身前後、変身前後……と膨らませた結果、ノリノリで書いた結果がこれです、が……。
 呪いの主は悪意はないけれど無邪気過ぎてで困る何か……です。
 私の中で尻尾と言ったら回るというイメージで書きました。
 では、よろしくお願いします。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年11月16日

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