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『トリックだけのハロウィンパーティ!』
森永・ここ阿0801)&来生・千万来(0743)&来生・億人(5850)


 本日はハロウィン、死者や悪霊が地獄の門を通って現世に蘇る日だ。
 と言っても現代のここ東京で、それを文字通りの意味に捉える者は多くない。
 仮装パレードやパーティを楽しみながらお菓子を貰える、ただの言い伝えを模したお祭り騒ぎのイベント――それが一般的な現代のハロウィンだ。


「その裏側で何が起きてるにしても、まずは今日という日を楽しまなきゃね!」
 森永・ここ阿(0801)は今、都内の公園で開かれているハロウィンパーティに潜入していた。
 パフスリーブのミニスカドレスにとんがり帽子、肘まである手袋、ニーハイブーツ。その全てが黒を基調に、アクセントとしてオレンジ色があしらわれている。
 そして手には魔女の箒と魔法のステッキ。
「そう、今日のボクは魔女! トリック&トリック! お菓子いらないから思いっきりイタズラさせて♪」
「なら貰ったお菓子は全部俺のもんやね」
 胸の谷間にすっぽり収まる形でここ阿に抱っこされた黒猫が、嬉しそうに金色の瞳をすぅっと細めた。
 それは魔女の使い魔という設定で来生・億人(5850)が変身した姿。リード付きの首輪にはオレンジ色のジャック・オ・ランタンを模した小さな鈴が付いている。
「ええか千万来、俺がトリックオアトリート言うたらすかざずそのカゴ差し出すんやで?」
「いや、いくらハロウィンでも猫が喋ったら拙いでしょう……」
 ここ阿の肩越しに後ろを振り返った黒猫に、ミイラ男が溜息混じりに首を振った。
「そんなん誰も気にせぇへんて☆」
「そうそう、千万来は相変わらずノリが悪いんだから♪」
 くるりと振り向いたここ阿は後ろ向きのままで歩きながら、大きなカゴを抱えたミイラ男――来生・千万来(0743)をじっくりと眺めた。
「でもその割には気合い入ってるよね、その仮装。言われなきゃ千万来だってわかんないよ」
 それはそうだ、わからないようにわざわざ顔が隠れるコスを選んだのだから。
 コスプレ必須と聞いて、まず頭に浮かんだのが「誰か知ってる人に会ったらどうしよう」というその一点。
 だって恥ずかしいじゃないですか。
 とは言え、誘いを断るという選択肢はなかった。
(「ハロウィンとか別に興味ないし俺には関係ないと思ってたけど、この二人だけで行かせたらロクなことにならないからな……」)
 自分のノリが悪いのではない、彼等のノリが良すぎるのだ。
 世のため人のため、皆が安全にハロウィンを楽しむために、監視役は必要不可欠――ならば自分がそれを担うより他にないではないか。
(「ハロウィンの平和は俺が守る!」)
 思いっきり引っこ抜いた貧乏くじを握り締め、千万来は決して二人から目を離すまいと心に誓うのであった。


 パーティ会場となった公園は、思い思いの仮装をした人々の熱気に溢れていた。
(「へえ……皆けっこう本格的なんだな……」)
 黒猫を抱えた魔女の後ろに付いて歩きながら、千万来は物珍しそうに周囲を見回す。
 ハロウィンのコスプレと言ったら既製品のありがちな衣装そのままか、せいぜい少し手を加えた程度のものだろうと思っていたが、なかなかどうして。
 小物の作り込みや特殊メイクなど、こっそり「本物」が紛れ込んでいてもわからない程の出来映えだ。
 いや、実際に紛れ込んでいるのだけれど。
 その本物は今、ここ阿の手を離れて周囲に愛想を振りまいていた。
「姉ちゃんたち、ハッピーハロウィンやでー♪ イタズラするからお菓子もちょーだい?」
 二本足で立ち上がり、つぶらな瞳でお願いポーズ。
「「「キャーーーーッ!!」」」
 上がった悲鳴に恐怖の色はない。
「ウソやだカワイイ!」
「え、この子本物のネコ? ぬいぐるみかと思った!」
「どうやって喋ってるの? 腹話術か何か?」
 撫でられ、抱き上げられ、もみくちゃにされて、黒猫億人はゴロゴロと喉を鳴らし鼻の下を思いっきり伸ばしてご満悦。
「俺は魔女の使い魔やからな、喋れて当然や。まあハロウィンの魔法っちゅーやつやね」
 祭の怪しげな空気に呑まれた女の子達は、その説明に何の疑問も抱かなかった。
 集団心理ってコワイ。
「それじゃ、ハロウィンらしく軽〜くイタズラしちゃおっかな♪」
 魔女ここ阿が魔法のステッキを振りかざす。
「カボチャのランタンよ、カワイイお化けになぁ〜れっ☆ きらりーん!」
 セルフ効果音と共に振り下ろされたステッキの先端からキラキラ光る粒子が溢れ出し、カボチャのランタンに降りかかる。
 するとどうでしょう、オレンジ色のカボチャのランタンは白いシーツを被った可愛いお化けに――なりませんでした。

 ぼんっ!!

 カボチャが大きくなった!

 ばんっ!

 巨大カボチャから足が生えてきた!

 いわゆるパンプキンヘッドなら、カボチャ頭の下には胴体がある。
 しかし、コイツは頭から直接足が生えていた……しかもムッキムキで毛むくじゃらな。

「……キモ……」
 思わず呟いたここ阿の耳に響く、逃げ惑う客達の黄色い悲鳴。
 女の子達に抱っこされ、ナデナデされてトロけていた黒猫億人も、ぽいっと放り出されて地面に転がった。
「な、なんや!? 人がせっかくハーレム気分でムフフしとったん――に、あぁぁぁっ!?」
 何事かと見上げれば、視界を覆う足の裏。

 ずしぃーーーん!

 間一髪で平面化を免れた億人は、物陰に逃げ込んで様子を見る。
「ちょ、何これ今のナシ! 元に戻れっ!」
 ここ阿が再び魔法をかけるが、焼け石に水どころか火に油。

 ばいーん!

 顔の脇から丸太のような腕が生えてきた!
 巨大カボチャは荒ぶる鷹のポーズをキメて不敵に微笑んでいる!

「ここ阿、何してるんですか!」
「それはボクが知りたい! 何がどうなってるの!?」
 パニックに陥った参加者達を会場の外へ誘導しながら千万来が叫ぶ。
 しかし、ここ阿が事を収めようとすればするほど、カボチャはどんどんパワーアップ、そして遂に。

 身長10メートル超のメガパンプキン、爆誕!
 マッチョな手足には鉛筆ほどもありそうな太さの剛毛がびっしりと生え、頭はモジャモジャの七色アフロ、逆三角につり上がった目の縁には尖って痛そうな睫毛が埋め込まれている。
 黄ばんだ歯は人間などひと噛みで粉々に砕かれそうな――いや、違う。
 なんかぷるんぷるんしてる。
 芋羊羹?
 手足の剛毛は、よく見れば鉛筆型のチョコだ。
 頭のモジャモジャはレインボー綿あめ、睫毛はアイスクリームコーンか。
「あの色はココア味やな……」
 じゅるり。
 億人は口から溢れたヨダレを舐めながら巨大な怪物を見上げる。
 察するに、あのメガパンプキンは全部お菓子で出来ているのだろう。
 ならば人畜無害、むしろハロウィンに相応しい。
「そういうことなら、この俺が食べ尽くし――ぅおっとぉ!!」
 ぼとぼと、どっすーん!
 目からビームならぬ巨大なゼリーの塊が撃ち出され、億人を襲う!
「あかん、まずはコイツを大人しくさせんと、食う前に潰されてまうわ」
 こんな時、非力な黒猫に出来ることは何もない。
「俺のせいやないもんね、俺の魔力を制御できんかったここ阿が悪いんや」
 知らんぷりを決め込んで、そろりと後ずさる黒猫億人。
「まあ頑張ってやー、そいつ倒したら後片付けには協力して――ん?」
 あれ、リードが何かに引っかかったのかな。
 引っ張ってもウンともスンとも――
「げっ!?」
 リードの先は、包帯グルグルの足の下にあった。
「……ほう……やはり元凶はあなたでしたか、億人」
 包帯の下に隠れた表情は見えないが、その声音と全身から漂うオーラは何と言うか、ヤバい。
「ち、千万来……いや、あのその、これには深い事情が……!」
「では、その事情とやらを詳しくお聞かせ願いましょうか?」
 千万来は黒猫の首根っこを捕まえて、目の高さに持ち上げる。
 もう観念するしかなかった。

「……ここ阿に買収されたんや、南瓜プリン5個で。ハロウィンらしい軽いイタズラで皆を楽しませたい言うてな……」
「なるほど、それで彼女に魔力を分け与えたというわけですか」
「ほんのちょっとのつもりやってんけどな、ウッカリぎょーさん分けてもーたらしくて」
 ここ阿にはそれが制御できず、結果として今ここ。
「こうなることを予想して監視も怠らなかったというのに……」
 千万来は深い溜息と共に首を振る。
 それでもこの事態を防げなかったのは自身の不徳の致すところだ。
「とにかく、あれを何とかしなければなりません。俺にも魔力を分けてください」
「ええけど、何くれるん? 南瓜プリンめっちゃ美味かったで♪」
「そんな要求ができる立場ですか?」
 そうでした。

 脅しに屈した形で千万来に魔力を分け与えた直後。
 二人の頭上にメガパンプキンの巨大な足が迫る!

 ぷちっ。

「あれ、今なんかイヤな音が聞こえたのは気のせいかな?」
「ええ、気のせいです」
 ここ阿の声にしれっと答える千万来。
 億人を放り投げて自分だけ逃げて来たよ、なんてことを言う必要はない。
 世の中には知らない方が幸せなことも多いのだ、うん。
「そんなことより、早くあいつを退治しないと」
「えー、もったいないー」
「元に戻せないなら倒すしかないでしょう」
「ま、それもそっか」
 軽いノリで頷いて、ここ阿は自分に魔法をかける。
「れっつ巨大化! ハイパーメガここ阿、ここに参上!!」
 その身長はメガパンプキンよりも5センチ高いぞ!
「勝った!」
 え、ダメ?
 そういう勝負じゃない?
「でもこのサイズに見合う武器なんて持ってないし!」
 武器がなければ素手で挑むしかないけれど。
 仮にも花も恥じらう乙女に対して、ここで肉弾戦――相撲かプロレスにでも打って出ろと?
 だとしてもウェイトの差がありすぎる。
 そのハンディを埋めるためには横幅も巨大化――
「却下」
 とは言え、このままでは戦う手段がないことも事実。
 しかし!
「武器ならここにあります、俺を使ってください!」
 千万来は巨大な包丁に変身した!
「……なんで包丁?」
「いや、カボチャが苦手そうなものって何かなって考えて」
「でもあのカボチャ、なんか余裕で笑ってるよ?」
「大丈夫、奴は今までナマクラ包丁としか戦ったことがないんです、油断している今のうちに!」
「おっけー、そういうことなら……研ぎに出したばっかりの包丁の切れ味、その身でとくと味わうが良いッ!」
 ここ阿は巨大な包丁を振りかざし――

 すぱぁーーーん!

 頭のてっぺんから一刀両断!
 更に角度を変えて八等分に切り分けたら、次は包丁を横に入れます!
「喰らえ、マジカルとぅいんくるスライサー!」
「何ですかそれ」
「ボクの必殺技! 今名付けた!」
 切り刻まれ、無数の種と共に飛び散るメガパンプキン。
「あ、この種クッキーだ」
 ぽりぽりぽり。

 頭の崩壊と共に手足や他のパーツも甘い匂いを撒き散らしながら崩れ落ちていった。
 後に残るはお菓子の山――


「さて、お二人にはイタズラの罰として会場を綺麗に片付けてもらいますよ」
 ミイラ男に戻った千万来は、ここ阿と億人にそう言いつけた。
「特に億人は元凶として、責任を持って元通りにするように。もちろん魔力も使って、です」
「……えぇー……魔力使うと疲れるんやで……」
 踏まれた衝撃で元に戻った億人が不満そうな声を上げるが、千万来は聞く耳を持たなかった。
「言ってたでしょう、後片付けには協力するって」
「それはお菓子を食べる的な意味で……あ、お菓子の山はどないすんのや、全部俺が食べてもええんか? そんなら掃除もやったる――」
「あれはお詫びの意味も込めて、参加者の皆さんに持ち帰っていただきます」
「そんなぁーーー」
「まあまあ億人、楽しかったし結果オーライで良いじゃない! 片付けだって魔法でやれば楽しそうだし! ほら、まだ魔力残って――」
「ここ阿は魔法禁止です」
「そんなぁーーー、その2!」
 しかしやっぱり、千万来は聞く耳を持たなかった。
「元通りに復旧……いや、使う前より美しく!」
 ほーれ、きりきり働く!

 それはそうと、この惨状。
 会場の責任者や参加者達に何と説明し、どう謝罪すべきか……それが問題だ。
 ひとり責任を感じ、頭を抱える千万来だった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【0801/森永・ここ阿/女性/17歳/トリックandトリック】
【0743/来生・千万来/男性/18歳/トリックandトラブル】
【5850/来生・億人/男性/996歳/トリートandトリート】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

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イベントノベル(パーティ) -
STANZA クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年11月17日

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