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『炎の神楽舞 』
弓月・小太ka4679

「秋もずいぶん深くなりましたねぇ」
 見上げるもみじは燃えるように赤く染まっていた。
 弓月・小太(ka4679)はひとしきり星形の葉の重なりと色合いを楽しむと別の場所に移動した。
 小太が手にしているのは、竹箒。
 一の鳥居と拝殿を結ぶ石畳を横切り、落ち葉を掃く。もみじの落葉はもうしばらく後。いまははく必要がない。
 青い袴の足元をざっ、と箒を払う音が響く。耳をすませば冷たくなった風、ちょろちょと桶に溜まる御手洗場の水、そして参詣する人たちのまばらな足音が聞こえる。
 あと一か月で押し迫る。忙しくなる前の静けさともいえる。
「あれ?」
 ここで、気にもしていたなかった参詣者からの声が。
 振り返ると見慣れた姿があった。
「あ、ふ、フラさん、お散歩中ですかぁ?」
 フラ・キャンディ(kz0121)である。
「うんっ。小太さん今日は用事があるって言ってたの、これだったんだね」
「は、はいですぅ」
 照れた。
 隠していたわけではなかったが、小太にとってはごく普通のことでそれをことさら口にするものでもないことだと感じていた。
「おおい」
 その時、社務所から呼ぶ声が。
「一人風邪を引いて早引けしたから、一人少ないまま頑張ろうな」
「は、はいですよぉ」
 答えた小太の横で、フラが巫女衣装の袖をつんつんと引っ張った。
「あの……ボクで良かったらお手伝いするよ?」
「ふえっ? ええと……」

「え? 着替えるの」
「ええ。一般の人と間違えられるわけにはいきませんから」
 結局手伝うことになったフラ、巫女に案内されついて行く。
「小太くん、ちょっと」
「は、はい〜」
 付き添っていた小太は宮司に呼ばれ別室に急ぐ。
「フラさんといったの。不慣れじゃろうから小太くんについて掃除をしてもらうことにした。その分、一人を屋内清掃に移したから頼むの」
「は、はい……任せてくださいですよぅ」
 頼られた、と意気に感じ一礼して辞した。
 弾む心のままフラを足早に追った。
「ええと、どこでしょ……あ」
 先の巫女が襖を閉め、部屋を後にしていた。
(フラさん、一人で着れないはずですから……)
 もう着替え終わったのだろう、と襖に手を掛けた。きょうはフラと顔を合わさない予定だった。それが、一緒に過ごすことができる。
 嬉しかった。
 すぐにフラの喜ぶ顔が見たかった。
 ――がらっ!
「フラさん、着替え終わったので……ふぇ?」
「え?」
 固まった。
 小太は襖を開けたまま。
 フラは、上着を脱ごうと思いっきり万歳したところで。びくっと綺麗に伸ばした背筋がふるえ、金髪ショートの頭が振り返り愕然とする。
「あん、だめっ。まだだよっ」
 すぐにくの字に屈むフラ。前は脱いだ上着ですぐに隠れたが内股で地団駄する下半身は脱いだままだったり。下着の白さと丸みが小太の目に焼き付く。
「あ、はわわわわわ!? ご、ごめんなさいですぅ!?」
 すぐに回れ右してぴしゃっと背中越しに襖を閉める。
 真っ赤な顔はうそをつかない。フラは大きな姿見を前に着替えていたのだ。
 ふぅ、と心を落ち着けたところで部屋の中から声がした。
「あの……小太さん、助けて。……入って来て」
 かぼそい、本当に困り果てた声。
「フラ……さん?」
 襖を再び開けると、腰まで上げた赤い袴を手で支え背中を向けているフラがいた。
「説明聞いただけでできると思ったんだけど……やっぱり難しくて」
 フラ、先は元の服を着て巫女を呼びにいこうとしていたらしい。
「ほら、一人風邪で帰って忙しいのにボクの着替えなんかで時間取ってもらうの、申し訳なかったから」
 だから手伝って、と。すでに上着も袖を通し袴もはいて手で支えている。後はしっかりと結んだり絞ったりする作業だけだ。
「じゃ、手伝いますよぉ」
「うん……お願い」
 不安そうに縮める小さな肩を間近に、フラの背中から両手を回して衣装を整える。
(う、後ろから抱いてるみたいですぅ)
 フラの髪の毛や香りに鼻をくすぐられもじもじしながらも真面目に手伝った。

「ふうん。……普段は立ち止まってゆっくり見ないけど、こんな身近な場所でもきれいな紅葉が見れるんだね」
 白と赤の巫女衣装になったフラ、竹箒を手に折り重なるもみじの葉を見上げていた。
「フラさん、こっちに……」
「え、何? わあっ!」
 小太、フラを案内して神社本殿裏側の床下に案内した。乾燥してさらさらした砂となっている場所があり、じょうろ状の穴がいくつか開いていた。底では崩れた砂を跳ね上げようと虫が顔を出している。
「蟻地獄ですよぉ」
「ええと、蟻は……」
「そ、それは可哀想ですぅ」
 そんな会話で笑いあったり。
「これ、何をしておるか」
「はわっ、ごめんなさいです」
 神社の人に怒られ急いで境内清掃に戻ったり。
 とはいえ、フラが張り切ったのでもうすでにほとんど終わっていたり。
「ほ、本当は参詣する人に気遣って穏やかに掃くんですよぉ」
「え、そうだったの? ……ごめんなさい」
 いいんですよ、とのんびり箒を使う小太。フラもそれに習う。
 じっくりと、丁寧に――。

 やがて夕暮れ。集めた枯れ葉とは別に焚火の火が点された。
「あの……なんか雰囲気、変わったね」
 寒さと暗さもあってか、厳かな雰囲気に敏感に反応したフラが聞く。
 同時に小太、遠くから呼ばれた。
「もうそんな時間なのですねぇ。ええと…もしもまだ時間が大丈夫でしたら此処で少し待っていて貰えますかぁ?」
「う、うん。大丈夫」
 戸惑いながらもしっかりした返事に笑顔を見せ呼ばれた方に急いだ。

 残されたフラは一人なってはじめて気付く。
 ここが、渡り廊下で本殿から横に伸びる小さな舞台前であることを。
 やがて数人の女性が渡り廊下からやって来た。
「あら、可愛い巫女さん」
「あ、だから練習の順番を……」
 そんなささやきを交わしながら部隊の端に座った。やがて男性も来て同じ位置に。大太鼓の覆いが外された。
 ――ここん。
 ばちで縁を叩いたのが合図だった。
 ――ひゅひょ〜、とんとんとんとん、とんたとんた……。
 優雅に尾を引く横笛の音と、軽快で展開を急ぐ太鼓の音が始まった。
 何度も繰り返される前奏。
 拍車を掛けるように大きくなる太鼓の音。変わらぬ笛の音。
 何かの始まりを期待させるような旋律から……。
「あ」
 すっかりのめり込んでいたフラ。渡り廊下から現れた人物を見て思わず声を上げた。
「いようっ!」
 掛け声も音楽のように。
 すすすっ、と舞台中央まで赤や金を織り交ぜたきらびやかな衣装の人物がやって来た。
 ぴた、と右手の模造刀を横に開き前に左手の神楽鈴を構えると顔を上げる。
「……小太さん」
 軽い化粧をしていたが見間違えるはずがない。
 食い入るように見るフラの視線を受けた小太は一瞬だけ目を合わせたが、人形のように表情を変えない。
 すっ、とその視線が外れた。太鼓が、笛が展開を始めたのだ。
 ――ぴーひゃらら、ぴーひゃらら、とんとんとんた、とんたとん。
 小太は右ひざを大きく横に上げて体全体で軽く跳ね大きく見せる。
 着地と同時に小さな歩幅ですすすっと舞台奥へ。神楽鈴は絶えず振って鳴らしつつ、刀は腕に対して垂直に立てたまま横に開いて固定。
 ふと、左足に体重を乗せ傾くと四十五度の角度で進路変更。これを四回繰り返す。東西南北、四方を表す四角形の動きだ。右手の剣は常に内側。
(これをもう一度……次は逆です…)
 儀式舞の手順通りに動く小太。
 ――ととん!
 そして太鼓の合図。囃しの笛は変わらないが太鼓のリズムが変わった。
 同時に一直線に舞台前に進む。リズミカルに小さく跳ねながら右手の刀を左右に振って。一定の地点に来れば今度は同じ振り付けで後退。
 あるいは、単調で退屈な動きだと評する人もいるかもしれない。
 ただ、手順にのっとった儀式舞は派手な動きがない分、練習量や滑らかさ、味などが目立ちやすくごまかしがきかない。
(ふっ……はっ……)
 くわえて連続の絶え間ない動き。持久力が求められる。
(フラさんが、見てる……)
 小太、フラの様子を確認したわけではない。右に移動、今度は左。
(今は練習で……年末年始の本番ではここに多くの人がいますが……)
 雰囲気は確実に違う。
 それだけに一層表が引き締まった。右に剣を払い、左鈴をからからからと揺らす。
(……フラさんが……今日はフラさん一人のために)
 派手な動きはない。
 それでいて東西南北二回右回り、二回左回りなど手順はしっかりしている。休む間もなく小刻みに動く。辛いところだ。意識も保てなくなる。
 一人のために。
 たった一人の……。
(フラさんのために)
 やがて舞のお終い。
 ――とたん、しゃん。
 舞台前を向き、足を踏み鳴らして神楽鈴を一度だけ大きく鳴らす。笛と太鼓が止む。
 本来ならここで万雷の拍手が響くところだが――。
 ――ぱちぱちぱちっ。
 たった一人の拍手。
 それでも熱心な、心からの拍手。
 ふっ、と意識が戻った小太が見たのは、燃え盛る焚火のそばでのめり込んでいるフラの姿だった。熱い眼差しをまっすぐ向けている。
 尊敬と、感動と、そして感謝のこもった視線で。
(フラさん……)
 舞いきって荒くなった呼吸を整え、深々と礼。再び熱くなるフラの拍手。ここでようやく小太の顔に笑顔が戻った。
(フラさんに、なんて声を掛けましょうかぁ)
 照れくさく、そんなことを思いつつ囃しの女性や男性に礼をする小太だった。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka4679/弓月・小太/男/10/猟撃士
kz0121/フラ・キャンディ/女/11/疾影士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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弓月・小太 様

 いつもお世話様になっております。
 境内の掃除だけかと思ったら、神楽舞。フラちゃん、小太さんのカッコいいところを見ることができてテンション上がりました。お目めキラキラです。
 神楽舞は、鬼退治などのストーリー性のあるのでもよかったのですが、今回は儀式舞で。一人での舞でしたし。また、小太さんには儀式舞のような神秘的なものの方が似合いそうですしね。
 もしも実際にホールではなく秋の例大祭など神社で奉納神楽を鑑賞する機会がありましたらお囃子も気にしてみてください。特に何、というわけではありませんが、そういった人たちも一体となって神楽をつくりあげているのですから。
 偉そうなことを書きましたが、関係者ではないので作中の細かな所作は創作です。

 この度はご発注、ありがとうございました。
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2017年11月24日

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