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『にゃにげなくても楽しき森の一日 』
ハヒヤ・ベリモルka6620

 梢を揺らしながら吹き通ってゆく風。その風に誘われるように光をちかちかと反射させる湖。ほとりには水辺を好む小さな白い花が咲き、ときおりミツバチの来訪を受けている。さらに高いところを飛ぶのは、翡翠色の翼をもつ鳥。
 楽園、というところのことはわからないけれど、もしかしたらここと同じようなところかも。
 我……ハヒヤ・ベリモルは、胸いっぱいに森の空気を吸い込む。それだけで満たされた気持ちになるけれど、一日はまだ始まったばかり。素晴らしいことはまだまだこれから待っている。
「まずはにゃにをしようかにゃ」
 わくわくと弾む胸を抱えてぐるりと森を見渡すと、少し先の草の上に、つやつやした赤い実が落ちているのに気がついた。近づいて、そうっと拾い上げる。木イチゴによく似た実で、見ているだけで甘酸っぱい味がしてきそう。
「美味しそうにゃ」
 我はにっこりしてしまった。でも、と首を傾げる。どうして、こんなに完璧に熟した実が、こんなところに一つだけ落ちているのだろう?
 と、もう少し先に、またひとつ、同じような実が落ちているのを見つけた。屈みこんだ姿勢のままそこへ進んで拾うと、もう少し先にまたひとつ。そしてまた、ひとつ。
「にゃんだか誘われているみたいだにゃ」
 我はひとりでくすくす笑った。おとぎ話が始まりそうな感じがするにゃ、と思って楽しくなる。そうやって赤い実を、五つほども拾ったところで。
「にゃ?」
 我は、大きな樹の根元に辿り着いた。立派な樹、と見上げると。
 きゅ、きゅ。
 そんな鳴き声が聞こえてきた。枝の上に、何匹かのリスがいる。リスたちはシッポをふさふさと振って、赤い実を手にしていた。
「にゃるほど! この実はこの子たちの落としものだったのにゃ」
 ずいぶんとよくばったものらしく、枝の上には赤い実が山のように積まれていた。
「落し物、届けに来たにゃ!」
 ぴょん、と背伸びして、我はリスたちに拾った赤い実を差し出した。背伸びしても、枝にはちょっと届かなかったんだけど……。リスたちはびっくりしたようで、しゅっといなくなってしまった。
「あっ……。残念にゃ……。我は敵じゃにゃいのに……」
 仕方なく、樹の根元に座りこむ。落し物の実は、我がいただいてしまうことにした。つまみ上げて口へ入れると、想像通りの甘酸っぱさで美味しい。お行儀が悪いけれど、食べながらついつい鼻歌が出た。この歌を歌うと、いつも、なんだか、悲しくなってしまうのだけど。
 今日もまた、少しだけ沈んだ声になりかけて、いけにゃいいけにゃい、と首を振る。と、さっき逃げて行ったはずのリスたちが、するすると幹を伝って降りてきた。手には赤い実を持っていて、我の膝にちょこんと座る。
「一緒に食べてくれるにゃ?」
 我の言葉がわかるみたいに、リスはきゅう、とひとつ鳴き、手に持った赤い実をかじる。我も残りの赤い実を、にこにこ一緒に食べた。悲しく寂しい気持ちは、あっという間に吹き飛んだ。我は持ってきたお菓子も取り出して、リスたちに分けながら食べた。リスたちはシッポを振って、くるくる回って、喜びを表現してくれた。その動きの可愛らしさに、我もついつい声を出して笑う。
 食べ終えるとリスたちは、またするする幹を登って樹の上へ戻ってゆく。ときどき我の方を振り返るのが、なんだか誘っているように見えて、我はようし、と腕まくりをした。木登りしよう!
「木登りは好きにゃ。得意にゃ!」
 くぼみに足をかけ、幹や枝に手をかけて、大きな樹を登る。リスのようにするすると、とはいかないけれど、かなり順調に進めている。リスが登りやすいルートを選んで先導してくれているのが大きな理由だろう。我は、これまで登ったことのないような高さにまで来ていると感じていた。
「ふう」
 そろそろ疲れてきた、と思って呼吸を整えると、リスはまるで笑うように、きゅ、と鳴いて、我の視線を前へと促した。素直にそちらを向くと。
「わあ! きれいにゃ!」
 樹の上から、森が一望できたのである。湖の水が、宝石のようにきらきらしている。空が、ずいぶんと近く感じ、同時に、果てのなさも感じる。
 景色をまるごと吸い込むように、たっぷりと眺めて、我は樹の中腹あたりまで下りて来た。樹の上は思ったよりも安定している。場所を選べば、お昼寝だってできそうだ。リスが教えてくれた、陽だまりのできるポイントでしばしうとうとする。一度だけ体が傾いて、危うく落ちそうになったけれど、その前にリスが起こしてくれた。
「すっかりお友だちになれたにゃ」
 我がそう言ってにっこりすると、リスはやはり言葉がわかっているように嬉しげにくるくると回った。
 たっぷり遊んで、お昼寝までしたら、もうそろそろ帰らなければならない時間。名残惜しいけれど、またリスにも会えるだろうという確信が、我にはあった。
 樹の下まで見送られて、我はリスにも樹にも手を振った。にゃんと素晴らしい一日であったことか。
 やはり森は素晴らしい。
 自然の中であるから、楽しいことばかりではないとわかっているが、だからこそ、楽しい一日を過ごせたときには喜びもひとしおだ。
 我は満足して、スキップをした。
 そうして、スキップして、ご機嫌で帰る途中、うっかりクマに遭遇しそうになって慌てて逃げたのは、また、別のおはにゃし。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6620/ハヒヤ・ベリモル/女性/14/霊闘士(ベルセルク)】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ごきげんいかがでございましょうか。
紺堂カヤでございます。この度はご用命を賜り、誠にありがとうございました。
森での楽しい一日を演出できておりましたら幸いにございます。
一人称にて、というご希望でしたが、読みやすさを考慮して地の文での語尾や口調の特徴は控えめにさせていただきました。
お気に召しますように……。
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ファナティックブラッド
2017年11月28日

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