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『恋の秋色 』
エステル・クレティエka3783)&ルナ・レンフィールドka1565)&ユリアン・クレティエka1664

●待ってたわ

「ルナさんいらっしゃい」
 街の入口にまで出迎えに来た兄の姿を見つけ、親友の頬が綻んだのに気付けば、エステル・クレティエ(ka3783)は自分達の母親の采配に心の内で感謝を告げた。
(正解だったみたいね)
 母に頼まれた買い物だという荷物はそれなりに大きい。兄妹で日程をすり合わせ、先に帰郷していたユリアン(ka1664)は男手だからとしっかり使われているようだ。
「お待たせしちゃいましたか?」
「大丈夫だと思うわ……兄様、今来たばかりでしょう?」
 確信をもって兄に目配せすれば、予想通り頷きが返る。
「えっ? でも……エステルちゃんに案内されながらでしたし」
 到着時間の予想をこんな正確には出来ないはずだとルナ・レンフィールド(ka1565)は思う。
「あー……そこは、母さんの勘っていうやつかなあ」
「勘、ですか?」
「そうとしか言いようがないの」
 説明に困るとユニゾンの態度で示されて、ルナの疑問は深まっていく。
「母さんに聞いても、ね」
「いつも同じ返事だから、きょうだい皆種明かしは諦めてるのよね」
 ――精霊が教えてくれるのよ――なんて。

「運ぶの手伝いましょうか」
「大丈夫。自分の荷物があるだろう?」
「そんな大きいの持ったら観光もできなくなっちゃいますよ」
 視界が塞がれて危ないからと、前に出て先導するエステルも加勢する。
「そうだよ。なによりお客様なんだしね。母さんも挨拶したいってさ」
「……こ、光栄ですっ」
 そういう意味ではないと分かっていても、言葉と人の組み合わせが効果的に緊張感を煽ってくる。
 心を向けている人の母親であり実家だと考えるからいけないのだが。一度意識してしまうと簡単には巻き戻せない。
(私は親友の家に遊びに来ただけ。それ以上でもそれ以下でもない……っこれで、なんとか!)
 収穫祭には吟遊詩人が多く集まるとか、二人の伯母もそのうちの一人だとか。いつもならもっと流暢に返せるはずの話題にも、ぎりぎり及第点の言葉しか返せていない。
「年に一度だから、兄弟全員何か新調して貰ったり……」
 今年は何にしようかなと楽し気なエステル。
「父さんも一日は帰って来たしね。昔からちょっと特別だったな」
 うちでは家族が揃う日なんだよと、微笑むユリアン。
(私、このまま自分を誤魔化しきれるかな?)
 目的地まで、あと少し……

●即興劇に出てみない?

「確かに依頼でもたまにみかけるけど」
 ハンターの仕事としてはイレギュラーだし。そうそう機会もあるわけ……え、お母さんも昔よくやってた?
「って……ううぅ」
 格好良かったんだろうなってわかる。そんな人の娘であることは誇りに思ってる。薬草も、魔法も、日常の何かしらさえ、憧れているのだから。
「……やって、やりますとも!」
 私だって、できるんだから。
「ルナさん、兄様手伝って!」

「ふぇ? お姫様役!?」
 私はエステルちゃんに招待してもらって、ここではお客さんだと思っていたんだけれど。
「私でいいんですか? ……遊びに来ただけなのに、飛び入りなんて」
 でも、歌姫役。歌うお仕事。そう言われると楽しそうだなって思っちゃう。
 劇に混ざればそれだけ祭に溶け込める……より、楽しめそう。
「確かに。お客さんの立場より、皆さんと同じように楽しめたら嬉しいです」
 でも、他の方達も新参者相手にいきなり合わせろって……えっ、お二人が一緒? 私なら真骨頂?
「それなら、やってみたいです!」
 私、頑張りますね!

「……俺アドリブ無理だよ?」
 そもそも母さんが持ってきた話、という時点で仕方ないという気はしてた。人手が足りないっていうけど……いや、言わない方がよさそうかな。母さん、笑顔だし。
「即興劇だっていうのが救い、かな」
 エシィとルナさんなら、タイミングも読めると思う。
「衣装があるからそれを収穫祭中に着ていてもいい……ん?」
 準備が楽だって話だけど……サイズ、ぴったりだったら……いや、なんでもない。

●仮面の裏

  のびやかに天を目指して
  ひかり求めて水をとらえて
  若く青々ひろがれば きっと

 楽団の音に乗せて、声が踊る。
 ダンスの合間に届けられるゆっくりとした歌声は、踊りつかれた人々の足をひとときの休息へと誘うための癒しの調べ。

  あたためる熱の強さに
  請いて焦がれて煙を追って
  のぼり続けてただよえば いつか

 くるり、くるりと翻る、ドレスと仮面の羽根飾り。また一組、あちらも一組。示し合わせたように、ソファーへと足を向けていく。とても、顔を隠し、立場を隠しているようには見えない。
「いつ来てもここの空気は良くないな。風が滞って気が淀んでいる……」
 仮面の下の視線とやらは、皆、どこを見ているのやら。そんな奴らの一員であるかのような、質素な仮面をとってしまいたくなる。兄王子は被りを振って、人目のない場所へ下がってしまいたいと溜息が零れた。

  支えあう壁の向こうへ
  乗り越えた先眠りの橋に
  前だけ見据え踏みしめて とおく

「兄上はまたそんな所で……少しは弁えて下さい。形だけでもね」
 隣に立つのは弟王子。色違いの仮面は見慣れているので、互いに居場所が見つけやすい。何より彼ら兄弟はあまりソファーへ向かわないので、探す手間も少ないのだ。
「気に入ったお嬢さんは居ませんでしたか」
 答えを分かった上で聞いてくる。お忍びで花嫁探しをしている……という体だ。

  起き出した光の欠片
  人々の中流れるままに
  眩しきは時とめどなく そばで

「お前の付き合いでなければ長居はしたくないんだが」
「そんなだから、皆が心配するんですよ」
「それは……」

  巡り合う環の内に秘め
  求め与えて受けて差し出し
  滴る汗に振り返る かつて

「本当に俺こう言う場は苦手なんだけど……任せていいか?」
 一節分、返す言葉を考えた兄王子だけれど。気付けば予定の時間となってしまっていた。
「仕方ありませんね」
 目配せに肩をすくめて、弟王子は身を翻した。

  運ぶには力強さと
  やさしさ秘めてのぞむ道先
  ふうわり舞ってまっすぐに……

 ――ヒュオォォオオオオオオ――

 バルコニーへと続く大きな扉が開き、強い風の音がする。燭台の火が消えてゆき、元から薄暗かった会場は闇へと包まれた。
「何事ですか! 皆様、落ち着いて行動なさって……!」
 観客達の安全が大事だと、歌姫が自慢の声を張り上げる。騒がしくある中で、その声は確かに人々へと届いた。
 だからこそ、目立ってしまった彼女に注目が集まる。
「……あの娘だ」「……怪しげな術を使ったに違いない」
 ひそひそ囁き合う声の中から、悪意ある声が波紋のように広がっていく。ダンスを隠れ蓑にしていた者たちが、歌姫を贄に差し出したのだ。
「仮面を奪うのだ!」「魔女へ制裁を!」「罪を暴け!」
 煽られた人々が彼女へと迫っていく。白を基調にした歌姫の衣装は暗闇の中でもよく見えてしまう。
「そんなはずはありませんわ!?」
 よく通る声は弁明を連ね誤解を解こうとするけれど、恐怖に囚われた人々は聞く耳を持たない。
「扉が開かないぞ!」「出られないと言うの!?」
 騒動の裏で逃げ出そうとした者たちの驚愕の声が、更なる混乱を呼び起こす。
「さっきは……風が、あったのに」
 どうして。歌姫の呟きが闇に溶ける前。彼女の前に舞い降りた人影が視界を塞いだ。

「姫君。貴女の美しい歌声はこんな淀んだ場所には似合わない。さぁ参りましょう」
 背に歌姫を庇う兄王子に人々との対峙を任せ、弟王子は歌姫へとエスコートの手を伸ばす。
「さぁ、行きましょう、姫君。人の皮を被った魔物達が踊るこの舞台を降りて」
 高い窓の向こうから差し込む月の光が、丁度、歌姫の足元を照らした。
「ほら。暗き道も貴女の手のぬくもりがあれば怖くない。何処までも貴女の望む場所へお連れしましょう」
 さあ、お手を。
「え……と」
 芝居がかった仕草だけれど、それが当たり前の様子。ぼう、と見とれる歌姫の動かぬ気配に、兄王子も声をかけた。
「巻き込んだのは俺達の力不足だから……ああ。これ以上はもたせられない。ごめん」
 咳払いがひとつ。何を、と歌姫が尋ねる前に、彼女の身体がふわりと浮いた。
「手荒い扱いをお許し下さい」
「兄上、あちらに!」
 弟王子が指さす先へと走り出す兄王子。その腕の中には、横抱きと、思わぬ接触に言葉をなくした可憐な歌姫。
「説明は後で。今は俺たちを信じてくれる?」
 安心させるように微笑むけれど。染まった頬に驚かせた事を詫びる。
「そこの可愛い妖精のお嬢さん、力を貸してくれませんか」
 舞台の下で一部始終を見守る視線、観客へと演出がわりに薔薇を投げれば。黄色い声が上がった。

 歌姫を連れ出そうとする王子達には追手が差し向けられたけれど。身のこなしの軽い二人はすべてをことごとく躱し、時には跳ね返した。屋敷を逃げまわり時間を稼げば、騒ぎの影で屋敷を包囲し終えた兵達がすべてを抑え込んだ。決着は早く、収束へと向かっていく。
 庭園の東屋でひとつ息を吐き、交わすのは互いへのねぎらいの言葉。
「私達の潜入調査もこれで終わりです。取りこぼしもなくてよかった……」
「あの……どうして、私は」
「少し、読まれていてね。君を盾にされるかもしれなかった」
「兄上、終わったからと気を抜きすぎではないですか」
 口調が崩れているとの弟王子の指摘に、歌姫はくすりと笑みを零す。
「……可憐な貴女の微笑みが見られるのなら、悪いことではなかったようですね」
 歌姫の手を取る変わり身の早さに、つい瞬きを繰り返してしまう。
「そろそろ、行かなくては」
 居住まいを正した兄王子もまた、歌姫の手を取った。
「また何れ……今度は青空の下でのびやかな歌声を聞かせて下さい」
 あの場所は、歌を閉じ込めるだけの檻だったから。

●星明りの舞台

 舞台袖から出たエステルを待ち受けていたのは、約束していた想い人ではなかった。舞台での彼女の立ち振る舞いに見惚れた少女達が、是非王子役の方とお話ししたいと押しかけてきている。
「血は争えないな……」
 我関せずといった距離から、エステルを眺めるのはユリアン。彼と話したいと思って出待ちをしていた少女達も居たのだが、彼はそつなく振り切ることに成功していた。
「兄妹揃って人気者だな?」
 片手をあげて振り返れば、同じく片手をあげた幼馴染が微笑んでいる。
「来てくれたか……呼んでくるから、よろしく頼む」
 張り切っていた分、疲れもあるだろうから。妹が少しでも長く、求める時間を過ごせるために動くとしようか。

「劇の衣装のままでごめんなさい……」
「確かに少し見慣れないけれど、似合っているし。格好良いと思うよ」
「……格好良いだなんて……」
 悪気なく褒めてくれる想い人に、喜ぶべきか、落ち込むべきか。少しだけ不服の意思をこめて、エステルは小さな声で感謝を告げる。
 区切りを兼ねてユリアンが手早くそれぞれを紹介し、そろそろダンスの時間だと続けた。

「あ、あの……このまま踊るのって、ちょっと、ないですよね……っ」
 それでも着替える選択肢はなかった。忙しい人の時間を分けてもらっているのだ。一緒に過ごすための大事な時間は減らしたくない。格好は二の次だけれど、それでも気になってしまうから、何度でも謝罪のような言葉を連ねてしまう。
「俺は気にしないけど……」
 少しとはいえ、沈黙が怖い。傍に居る。既にエスコートされていて、その腕に触れていて。心は、嬉しいと思っているのに。
(手、奮えないで……)
 深く呼吸をし、少しでも気分が落ち着くように努める。
「……少し、触れるよ?」
「え」
 ふわりと包まれたような感触に、無意識に俯いていた顔が上がる。気付けば大きなストールが、エステルの腰に緩く巻かれていた。
「気分だけでも、スカートみたいにならないかな?」
 間に合わせだけど、これで留めてとブローチを渡される。言われるままに手を動かすばかりで、真っ赤になっていることに気付くのは、もうしばらく後の事。

(後で、素敵な人だねって伝えなきゃ)
 親友とその想い人がダンスの輪へと向かう背を見送りながら、ルナは劇をやり遂げた達成感に浸ろうとしていた。
(伯母さまにもご挨拶してみたいし……あと……)
 記憶を探り出してどうにか頭の中からお姫様抱っこを追い出そうと努める。無駄だと分かってはいるのだけれど。
「あー……ルナさん。踊ろうか? ステップは簡単だし」
 なにせ、隣に居るのだ。きっと頬は赤いままだけれど。今ならまだ、劇の興奮を理由に誤魔化せると信じておくことにする。
 せめて、精一杯の笑顔を向けて。楽しんでいる事、この場所に居られることの喜びを伝えようと思い直す。
「よろしくお願いしますね、王子様♪」
「足を踏んでも大丈夫だよ。これでも慣れているから」
「お言葉に甘えちゃいますね」
 差し出された手に自らの手を重ねて、ダンスのステップを確かめるように踏み始める。リズムに乗れれば、あとはただ身を任せるだけ。
「ここまで随分慌ただしかったけど。今からでも、ここの空気を楽しんで欲しいからね」
 陽もずいぶん落ちているし、あたりはかがり火や家の灯りばかり。さらに頬が熱くなったことを、悟られていなければいいなと思う。
(やっぱり好きだなあ)
 伝えるにはまだ、時間も何もかも足りないと思うけれど。

「ら、来年も私と踊ってください。来年はちゃんと、女の子の服装の私とっ」
 兄の力を借りるのではなく、自分で踏み出してみたいと思ったから。秘めたままよりも、近付くことで得られる嬉しい気持ちを、更に育てたくなったから。
「それなら俺は、土産話を待っていればいいのかな?」

「それじゃあ、行ってきますね!」
 スウィートを手に楽団が演奏する舞台へと飛び入り駆けていくルナの背を見送る。
「空気があっているのかな。楽しそうだ」
 それなりに規模のある、初めて来た街の舞台でもあれだけ堂々としているのだ。あれ以上大きな舞台だって、きっと君は優雅にこなすのだろう。
(でも、今は)
 この舞台で、のびやかに。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1565/ルナ・レンフィールド/女/19歳/奏魔術師/歌姫】
【ka1664/ユリアン/男/19歳/疾風影士/兄王子】
【ka3783/エステル・クレティエ/女/17歳/魔術師/弟王子】
イベントノベル(パーティ) -
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2017年11月30日

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