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『コドモと乙女の狭間で 』
エステル・ソルka3983

 エステルは、目の前で繰り広げられる馬術を、目を丸くして食い入るように見つめていた。
 辺境部族最大と言われているオイマト族は金の鬣の馬を祖霊とした一族であるというのは知っている。
 それ故か馬術に優れているということも。
 その族長であるバタルトゥも馬術が得意だとは聞いていたがは、ここまで見事だとは思わなかった……!
「……エステル。どうした?」
「あっ、はい! わたくし元気です!」
 呼ばれてちぐはぐな返答をするエステル。
 馬上のバタルトゥがカッコよくて、王子様みたいで、見惚れてしまったなんて流石に恥ずかしくて言えなくて慌てて言葉を探す。
「えっとあの、バタルトゥさん、すごいです! 本当にお馬乗るの上手です!!」
「……そうか?」
「はい! わたくし感動しました! でもラピスさん、わたくしのお馬さんですのに……どうしてわたくしの言うこと聞いてくれないんですかね」
 目に見えてしょんぼりするエステル。
 そう。バタルトゥが操っている馬は彼女の愛馬だ。
 エステルが『愛馬にもっと上手に乗れるようになりたい』とバタルトゥに手ほどきをお願いしに行って――それではお手本を……と馬術の実演をしてくれて、今の状況がある。
 確かに、あまり上手ではないから教えを請いに来たのであるが、こうも愛馬に違う対応を見せられると主として気落ちするのも仕方がないのかもしれない。
「……エステルは、馬に乗る時に緊張しているのではないか?」
「緊張、です? うーん……。確かにちょっとドキドキはしてるかもしれないです」
「緊張していると、馬にもそれが伝わる。なるべくリラックスするといい……」
「分かりました! やってみるです!」
 バタルトゥと交代し、愛馬に跨るエステル。
 ――リラックス。リラックスするです……!
 全力寛ぐことを意識した彼女。愛馬に進むよう指示して……急発進した愛馬に身体がついて行かず、そのまま後ろに倒れて――。
 慌てて手を伸ばすバタルトゥ。エステルの背を支えてそのまま抱え上げる。
「あ、あら……?」
「……リラックスしろとは言ったが、力を抜き過ぎてはいけない……。背筋を伸ばして、腰で身体を支えるように意識するといい……」
「…………!!!?」
「……エステル?」
「は、はい!? 聞こえてますです!」
 ちょっと待って抱っこされてるし顔近い!!
 みるみる頬が朱に染まる彼女。それに気づく様子もなく、バタルトゥはエステルを馬上に戻す。
「……出来るか?」
「はい! やってみます!」
 動揺をひた隠しにしながら頷くエステル。
 言われた通りに背筋を伸ばし、腰を意識して愛馬を歩かせる。
 何だか、いつもよりお尻が痛くないような気がする。
「あ、いつもより身体が楽な気がするです……!」
「……足に力が入っていると、臀部が痛くなる」
「なるほどです……。あ、バタルトゥさん。もう1つ聞いてもいいです? 方向転換する時のコツってあるですか? ラピスさんに方向転換の指示をするとイヤイヤされてしまう時があって……」
「……ふむ。……方向転換をする時に手綱を多用してはいないか?」
「はい。手綱を引いてるです」
「慣れていないと手綱を使いがちだが、それはあくまでも補助だ……。脚と重心を移動すれば、馬はそれで十分理解できる……」
「えっ。そうなんです!?」
「……ああ。試してみるといい」
「あ、本当です! ラピスさんイヤイヤしないで曲がってくれたです……!」
 きちんと動いてくれる愛馬に目を輝かせるエステル。
 バタルトゥに言われた通りにしたら動いてくれるということは、今までの彼女の指示は愛馬にとって分かりにくいものだったのだろう。
 何だか急に申し訳ない気持ちになってくる。
「わたくし、今までラピスさんに負担をかけてたですね……。可哀想なことをしたです」
「……初めは皆そんなものだ。気にすることはない……。言われただけで出来ているのだから、エステルは筋がいい……」
「そうですか? ありがとうございます……!」
 頬を染めるエステル。褒められてちょっと嬉しい。
 でもちょっとドキドキし過ぎて、心臓が持ちそうにない……。
「……大丈夫か? 疲れたのだろう。少し休憩するとしよう……」
「あ、ハイです!」
 バタルトゥは挙動不審のエステルを乗馬で疲れたのだと思ったらしい。
 乗馬より感情の浮き沈みで疲れているのだが――それに気づかぬ族長は、馬を降りようとするエステルを手伝おうと思ったのか、手を差し出してきて……。
 バタルトゥの思わぬ優しさに、嬉しいやら恥ずかしいやらで、彼女はまた動揺して赤くなった。


「スノウさんがごめんなさいです……」
「……いや、構わん」
 ぺこりと頭を下げるエステル。
 休憩がてらお昼を食べる為に座った途端、彼女の愛猫がバタルトゥの頭に駆け上がって降りなくなった。
 ――スノウさんずるいです。わたくしもバタルトゥさんによじ登りたいです……!
 ……あ。ちがうです。レディはそんなことしちゃダメだったです。
「……?」
「あっ。えっと! お昼にサンドウィッチを用意したです! 好きな具を挟んで食べてください! タルタルソースはちょっと自信作です!」
「……そうか。戴こう」
 サンドウィッチを口に運ぶバタルトゥをドキドキしながら見守るエステル。
 ドキドキしながら恐る恐る口を開く。
「……どうです?」
「うん。旨い……」
「良かったです! デザートはメイプルパウンドケーキです! 甘くて美味しいです!」
 にこにこしながら食事に舌鼓を打つエステル。
 最初はあまり料理が得意でなかった彼女も、一生懸命練習をして色々作れるようになってきた。
 このサンドウィッチやパウンドケーキもそうで……。
 バタルトゥが笑顔になってくれたらいいなと頑張ってみたのだが……。
 チラリと族長に目線を送るエステル。
 ――笑ってはいないが、雰囲気が柔らかい気がする。
 少しは喜んでくれているのだろうか……。
「……ごちそうさま。美味しかったぞ」
「お口に合って良かったです! 食後に一休みしましょう!」
 ころりと寝転がるエステル。
 辺境の赤き大地に逞しく生える草と、澄んだ青い空が目に入って目を細める。
「……バタルトゥさん、教えるの上手です」
「……一族の子供達にも教えているからな」
「そうなんです? イェルズさんにも教えたりしたです……?」
「ああ……。あいつは小さい頃から無謀で、良く馬から転げ落ちていた……」
 幼い補佐役を思い浮かべてくすりと笑うエステル。
 バタルトゥの低い声が心地よくて、何だか眠くなってくる。
 ――折角バタルトゥさんと一緒してるです。寝てはいけません。寝ては……。
「……エステル?」
 少女から返事がないことに気付いて、覗き込むバタルトゥ。
 どうやら眠ってしまったらしい。頭の上からも規則正しい寝息が聞こえて来る。
「……眠ったか」
 目を細めるバタルトゥ。
 自分に娘がいたらこんな感じなのだろうかと、ちょっと考える。
 ――まあ。実子は望むべくもないのだが。養子を迎えるという手もある。
 こんなことを考えるなんて、自分も歳をとったということか――。
 バタルトゥは己の上着を少女にかけると、草を食んでいる彼女の愛馬の手入れを始めた。


 エステルが目を開けるとすっかり日が傾いて、ラピスの毛並みがピカピカになっていた。
「ああああ。バタルトゥさんのお休みさんが……! 寝てしまってごめんなさいです……!!」
「……気にするな。俺も十分休んだ」
 涙目でしょんぼりする少女を宥めるバタルトゥ。空を見上げて、夕焼けを見つめる。
「……もう日が暮れる。暗くなる前に戻るとしよう」
「でも、でも、まだ乗馬の練習が……!」
「……基礎は教えた。1人でも練習出来るだろう……」
「まだ早駆けのコツを教わってないです……!!」
「そうか……。ではそれまた次の機会にな……」
「……! はいです!」
 次の機会、という言葉に目を輝かせる少女。
 恋する乙女としては、次のデートの約束というのはとても嬉しいもので……。
 ――バタルトゥとしては、娘を遊びに連れて行くようなものなので大分感覚にズレがあるワケだが。

 このズレが、喜劇となるか悲劇となるかはまだ分からないが。
 少女がレディへと変わる時――きっとその結果が見られるだろう。
 未来は神のみぞ知る。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka3983/エステル・ソル/女/14/素敵なレディになりたい少女

kz0023/バタルトゥ・オイマト/男/28/仏頂面な族長(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております。猫又です。

エステルちゃんの休日、いかがでしたでしょうか。
族長と致命的なズレがあって非常に申し訳ない感じなのですが、年齢が2倍違いますもので……!!
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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2017年12月04日

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