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『白い聖夜は悲しみの陰を創る』
花邑 咲aa2346

 クリスマスの夜。
 その日に合わせたかの様に、しんしんと雪が降りコンクリートの地面が見えない位に積もった。
 花邑 咲(aa2346)は静寂に包まれた窓から鉛色の空を見上げた。
 雪は嫌いではない。
 白銀と化した平野で太陽の光で眩しい程に光る光景は、美しいと思わず吐息を漏らす程だ。
 冬休みだからなのか、昼間から子供達が楽しげな声が街に響くのを聞くだけでも良い。
 けれど、咲の記憶には嫌な光景がチラつく。
 鉛色の空からやってきた“悪魔”は、全てを奪い尽くして美しい町を灰と化した。
(……今日は、家にずっと居たからちょっと悪い事ばかり思い出す。明日は少し、外に出れば)
 カチリ、と音を立てて電気を消すとベッドの中でゆっくりと瞼を閉じた。
 “明日は良い日にしたい”と、思いながらゆっくりと微睡む中で夢が作られた。
「ーーっ!」
 口を動かしているのに、咲の口からは一言も発せられない。
 以前の依頼で見た従魔の姿がそのまま目の前に現れ、当時に持ってなかった指輪型の幻想蝶に触れる。
 しかし、うんともすんとも反応しない上に英雄の姿や声が聞こえないのだ。
「いやぁぁぁぁ!」
 グサリ。
 目の前で女性が殺され、血に塗れた従魔が黒曜石の様な瞳で咲を見つめた。
(あ、あぁ……)
 従魔が咆哮し、咲へと3本の指が付いた腕を伸ばし掴まれる寸前に目が覚めた。
 窓の外ではまだ雪は降り続けており、ふと時計に視線を向けると短針がちょうど7時を指していた。
 目眩がしそうな感覚がして、頭と肩に重りが乗っているのかと錯覚してしまう位に重たい。
 重たい体を起こし、咲はベッドから出ると部屋着から私服へと着替えると、積もった雪に足跡を残しながら公園へと向かった。

 キィ、と風でブランコが揺れる公園のベンチに、咲はしんしんと雪が降る空に向かって白い息を吐いた。
 今は雪に埋もれているが、春になれば色とりどりの花が咲く花壇。
 足跡1つもない公園の覆う雪に、咲はベッドに寝転がるように柔らかい雪の上に仰向けに倒れた。
(あの日も、こんな風に雪が降っていた……)
 瞳を細め、あの時と変わらぬ鉛色の空を見上げながら咲は朧気に思い出す。
(このまま雪が溶けなかったら、ホワイトクリスマスになるね、なんて言ってたわね)
 瞼の裏に映し出される“彼”の優しい笑み。
 その“彼”に向かって咲は、思わず笑みをこぼした。
 “けれど今、わたしの隣にあの人はいない”
 もう“居ない”のは分かってる。
 乾いて、酷く冷たい空に向かって右手を伸ばす。
(あの時わたしに抗う(守れる)力があったのなら、なんて… …)
 虚しく空を掴む拳に力を込める。
(今は、それが“有る”のに……)
『咲ちゃん、天使作っているの?』
 と、咲の顔を覗く幼い少女アラル・ファタ・モルガナ(az0053hero002)であった。
「……アラルさん? 吃驚しました。どうして此処に?」
 咲は瞳を丸くしてぱちくりと瞬きをしながら問う。
『母は、お買い物に来たのだけれども咲ちゃんの姿を見て、ちょっと声を掛けてみたのよ? 咲ちゃんは?』
「わたしは……散歩の途中です」
 首を傾げるアラルを見上げながら咲は、少しだけ言葉を詰まらせながら答えた。
「そういえば、“天使作っている”というのはなんですか?」
『母の世界では、よく子供達が雪の上に寝転がって手足をばたつかせたその“跡”が天使に見えるからなのよ』
 咲の疑問にアラルは優しい笑みを浮かべながら答える。
「そう、なんですね〜。元の世界が恋しいですか?」
『ううん、母は元の世界も好きだけど……恋しくはないの』
 アラルの銀の瞳が少し悲しそうにすると、咲に手を伸ばす。
「そうですか、私はちょっと昔の事を思い出して……」
 咲はアラルの手を取り立ち上がると、視線は地平線より遠くを見た。
『そう、母は咲ちゃんの昔を無理に聞こうとはしない。でもね、1つだけ言っておくの……過去は振り返るモノではない、アナタが今ココに居て成長する為の道だって』
「道……」
 アラルの言葉を咲は口にする。
『ほらほら、寒くなってきたからお家にかえるのよ』
 と、手を差し出しながらアラルは優しい声色で言った。
「はい。でも、ちょっとだけ一緒にお散歩してくださいー」
『いいのよ。母が咲ちゃんの手を温めてあげるのよ』
 手を取った咲は、未だに降り続ける雪の中に足跡を残した。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa2346/花邑 咲/女/20/命を守りし手】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度、シングルノベルのノミネート発注をしていただきありがとうございます。
おまけを含み3本も書かせていただき、とても嬉しくて楽しいです。
本当に、ありがとうございました!
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2017年12月06日

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