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『三百六十度 』
クラン・クィールスka6605)&アーク・フォーサイスka6568

 青い空を、雲がゆっくりと流れて行った。それをまたゆっくりと目で追いながら歩くことができる程度には、穏やかな時間の中に立っていた。
 クラン・クィールス(ka6605)はつい先ほど、アーク・フォーサイス(ka6568)と共に依頼をひとつこなしてきたところだった。依頼内容は荷馬車の護衛。盗賊団の出やすい道を走行するためだ、とのことだったが、厳重な護衛体勢を警戒したのかどうなのか、結局、賊は現れなかった。荷馬車にとっては幸いだったが、護衛をした方としては。
「物足りない、という顔だね、クラン」
 アークが隣で少し笑う。表情を変えていたつもりのないクランは、アークが言葉通り「顔」で判断したのではないのだろうと気がついた。あてずっぽう、か。いや、そうではあるまい。
「それはアークの方だろう」
「おっと」
 バレてしまった、と言うように、アークは肩をそびやかす。
「盗賊団が出てくれたら良かったのに、と言うつもりはないけど、気合を入れていた分、肩すかしを食ったような気持ちにはなるよね」
「まあ、確かに」
 クランは素直に頷いた。実のところ、クランも似たような気持ちだったのだ。戦闘になってもならなくても報酬に増減はないし、もちろん依頼が失敗となったわけでもないのだが、なんとなく、後ろめたいような気がするのは事実だ。クランもアークも戦闘狂というわけではないにしろ、体を動かしていたいと思う性分だから、なおのことだ。
「あの街道に盗賊団がたびたび現れていることは事実らしい。護衛に恐れをなして逃げた、というには見た目に迫力はなかったはずなんだけど」
「そうだな。アークや俺もそうだが、他のメンバーも若手が多かった」
「クランの仏頂面に恐れをなしたかな」
「アークの気迫に、じゃないのか」
「まあ、全員警戒心むき出しだったことは確かだね」
 共に仕事をした他のハンターたちの顔を思い浮かべ、クランとアークは今回の依頼を振り返った。依頼をこなしたあとに、こうして反省会のようなことをするのは珍しくない。アークは執着とは無縁の、さらりとした印象がある青年だが、仕事に関する姿勢は真摯だ。そういうところはクランと似通っている。だからこそ、背中を預けられるほどの信頼関係を築くことができたのだろう。
「戦闘に入るつもりでいたからこそ、消化不良感があるんだろうな」
「そうだね。体力も有り余っていることだし、少し訓練も兼ねて打ち合おうか」
 アークの提案に、クランは頷いたが、続けられたセリフに驚いた。
「もう少し行くと、開けた野原に出るはずだから、そこにしよう」
「え、今からすぐか? 訓練用の模造刀も持ってないのに」
「模造刀?」
 アークが笑いを含んだ声で、ひとこと、そう返した。そんなものが必要なのかと言いたげに細められた涼やかな両目に挑発されて、クランも鋭く笑む。なるほど、本気になっていいということか。



 ほどなくして、アークが話していた通りの野原に出た。人はおろか、鳥獣の類も見当たらない、だだっ広いところだった。乾いた風が、背の低い草木を揺らしてゆく。
 クランはウォーミングアップとして大きく肩を回しながら剣の鞘を払った。見れば、アークもまたしなやかな動きで腕や背中の筋肉をほぐし、刀を構えている。
 充分に体をほぐしたあと、ふたりは無言のまま、ひた、と静かに視線を合わせて、黙って一礼をした。これが、開始の合図となった。
(左!)
 アークの最初の一撃を、クランは苦も無く受け止める。キィン、と澄んだ音がする。
(右、そして突き!)
 受け止められ、かわされ、楽々といなされた形となったアークだが、その表情には余裕がある。まずは小手調べ、というわけだ。
(このくらいなら、努力して読むまでもない)
 お互いに口数の多い方ではないためか、言葉を交わさずともわかりあえてしまうことは多い。だが、普段誰に対しても口数が少ないからこそ、ふたりだけになると気安く言葉を発することができるようになるのも事実だ。ことに、こうして体を動かしているときには、興に乗りやすいように思う。
 だから。
「甘く見られているのか? それとも、怖がってるのか」
 こんな軽口も飛び出す。
「まさか、遠慮しているなんてことはないだろうな」
 クランは低くそうつけ加えて、突きを交わすために飛び退いた間合いを、ぐっと詰める。アークは避けることなく、クランの剣の刃を、己の白い喉元ギリギリにまで引き寄せた。互いの顔が、息がかかりそうなほど近づいた状態で、ふ、と笑う。
「遠慮? まさか。君と俺との仲じゃないか」
「そう言うわりには攻撃がヌルい。自分から誘っておいて」
「そう? それはどうも……、すまないなっ、と!」
「っ!?」
 アークはくるりと刀を反転させ、柄の部分でクランの刃を押し返しながら間合いを取った。一歩間違えば自分の首の皮を切り裂いていたかもしれないというのに、なんという怖いもの知らずなのか。
 驚きに目を見張りつつ、クランの双眸が爛々と輝きを得た。
「そう来なくてはな」
 アークが取ったばかりの間合いをそのまま活かし、下段から突き上げる攻撃をしかける。素早く姿勢を構えなおしたアークが、その攻撃をむしろ迎えに行くように受け止め、そのまま激しく打ち合った。
「いいね、ぞくぞくするよ」
「アークがそんなにスリルを好むとは知らなかった」
「ただのスリルに興味はないよ。相手がクランだからさ」
「そうやってプレッシャーをかける作戦か?」
「本心なんだけどな」
 打ち合いが早くなるにつれて、軽口も増えた。怪我を負う危険も増しているという緊張感が、脳を痺れさせる。そうして打ち合いながら、クランはふと、不思議なものだな、と思った。思ったら、口に出していた。
「不思議な感じがする」
「何が?」
「アークと、向き合っているのが」
「ああ……。それは俺も、少し思ってた」
 クランのつぶやきに、アークも頷いた。こうして訓練をすることは珍しくはないが、それよりも圧倒的に、ともに戦っていることの方が多い。つまり、敵対して向かい合っているよりも、同じ場所から同じ敵を見ている方が多いのだ。もしくは自分が見れない敵を代わりに見てもらう、そして、自分は彼の見れない敵を見る。
 そういう、視界の共有。信頼しているが、ゆえの。
 お互いに、軽く笑い合った、そのとき。

 タァーン!!

 どこからか、銃声が響いてきた。
「「!!」」
 クランとアークは一瞬にして打ち合いをやめ、背中合わせの姿勢をとって周囲を見回す。クランが目の前の百八十度を。アークが反対側の百八十度を。汗で湿った肩がぶつかり合った。
「戦闘、の様子はないね」
「あっちの山から、鳥が飛んで行った。漁師だろうか」
 状況判断も、信頼のおける相手とならば早い。ふたりはとりあえず警戒を解いて武器を鞘に収めた。
「どうする、確かめに行ってみるか?」
「そうだね。何もなければそれでいい。何かあれば……、次の仕事にありつけるかもしれない」
 ふたりは再び向き合う立ち位置に戻って頷き合った。手合わせの興奮が残っているためか、どちらの顔も上気している。
「クラン、大丈夫? 息が熱いようだけど?」
「アークこそ。激しくしすぎたか?」
 言葉の応酬の軽さもまだ、健在だ。ははっ、と笑い合って、ふたりは、肩を並べた。
「それじゃあ、行きますか」
「ああ。行こう」
 同時に、足を前へ踏み出す。百八十度と、百八十度。ふたり合わせて三百六十度の視界で、前へ進むのだ。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568/アーク・フォーサイス/男性/17/舞刀士(ソードダンサー)】
【ka6605/クラン・クィールス/男性/18/闘狩人(エンフォーサー)】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ごきげんいかがでしょうか。紺堂カヤでございます。
このたびは、ご用命賜りまして誠にありがとうございました。
シチュエーションが「当人たちは普通に話しているのに、周囲からしたらアレに聞こえるやつ」ということで、「どこまで書くべきかな!? やりすぎてはいけませんし!!」とドキドキしながら執筆させていただきました。
ふたりの尊き信頼関係を描けていたなら、と思います。
どうぞこれからもご活躍くださいませ。ありがとうございました。
■イベントシチュエーションノベル■ -
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ファナティックブラッド
2017年12月07日

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