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『【修羅往邪道】 』
泉興京 桜子aa0936

 ここには何もない。誰もいない。
 全てが崩れ去ったここに、どんな価値がある。
 分からない。分からない……。

 泉興京 桜子は、瓦礫の町をふらふらと歩いていた。
 見覚えのある看板。懐かしい道。
 彼女を産み、育んだこの町は、血と腐敗した悪臭に包まれていた。目を閉じてみても、あの頃の景色など一片たりとも思いだせない。
 ここは、彼女にとって、奪われた大地。失った故郷。いくら手を伸ばしても、掴み取ることのできない過去の幻影。
 だから奪い返す。
 父も、母も、友も。失ってしまえば、取り戻すことなどできはしない。

 そんなことは分かっていた!

 分かっていた。分かっていた。
 それでも進むしかなかった。仇を取らずにはいられなかった。
 でなければ誰かが浮かばれないだとか、死者がそれを望んでいるだとか。そんなことは微塵も考えなかった。ただ、己が満足できなかった。
 単純だ。これでは癇癪を起した子供も同然だ。
 それで良かった。そうしなければ、生きていくこともできなかった。
 身も心も血に染めて、ひたすらに戦い続けること。
 その中で、骨が砕けたこともある。肉が割けたこともある。血を吐いたことだって何度もある。
 その度に地を這いずり、差し出された手をも拒んで、己の力で、己のやり方で、修羅の道を駆け抜けてきた。
 既にこの体は傷だらけだ。心などというものも、見失ってしまった。そうしてでも、力が欲しかった。
 己の心を埋めるだけの力が。

 だがどうだ!

 汚名を被り、泥を啜り、嗤われ、時には慰み者とされようとも。
 ただただ敵討ちのみに生きてきたものの、幕切れは実に呆気なかった。
 全てを捨ててまで探し当てた仇は、肉を切り、骨を断った感触は拍子抜けするほどに軽く、彼女と渡り合うにはあまりにも非力だった。
 こんな雑魚に、故郷を奪われたのか。家族を奪われたのか。友を奪われたのか。
 悔しい。悔しい、悔しい!

「ふざけるでないわッ!!」
 奇しくも。
 追い続けた仇が逃げ込んだ先は、彼女の故郷だった。
 背丈は低く、桜子の腰ほどしかない。ひょろりと痩せた、枝のような手足。腹部だけはでっぷりと膨らみ、青ざめた肌からは、鼻を突くような汚物の臭い。
 餓鬼とでも呼ぶべきか。
 彼女から全てを奪い去ったのは、愚神ですらなかった。
 従魔。それも小物の群だった。
「父上を殺したのは、お前か!」
 地を転がる餓鬼の首に刃を突き立てると、最早血しぶきも上がらなかった。黒ずんだゼリーのような液体が、コポと染み出て地に溜まるのみ。
 見回すと、数えきれない数の餓鬼が伏している。当然、全て桜子が一人で屠ったものだ。
 刃を抜いて、次の餓鬼、また次の餓鬼と、死体の首に風穴を開けてゆく。
 そうしてみても、気持ちは晴れなかった。
「こんな……。こんな小物に、わしは、わしの故郷はッ! ア゛ア゛ァァァッ!!」
 廃墟に、桜子の絶叫が木霊した。
 皮肉にも。故郷を奪われて以来初めて感じた、人間らしい感情の昂りであった。

「キミ、どうしたんだい。ボロボロじゃないか」
 最早、目的も生きる意味もない。全てを奪われ、捨て去った今となっては、再び人間らしく生きようなどとは思えない。
 ただ、当てもなく歩き続けるだけ。
 気が付けば、まだ人類がそれなりの平和を享受できるような土地にまで辿り着いていた。
 餓鬼共と闘ってからというもの、裂けた服も、飛び散った返り血も、切れた肌もそのまま。浮浪者よりも酷い恰好のまま、桜子は彷徨っていた。
 お人好しもいたもので、そんな彼女を呼び止める男性がいた。まだ年若く、20代後半くらいだろうか。
 朝日が見えた。スーツを着た男性は、これから仕事へでも行くのだろう。アパートの1階からドアを開けて出てきた彼は、通りがかった桜子を見て放っておけなかったのだろう。
 ちょっと待ってて、と彼女へ告げて、男性はアパートのドアを開けて中に呼びかける。
「なぁ、ちょっと頼む。この子、事情がありそうだ。風呂に入れてやって、それから警察。助けてやってくれないか」
 すると、同い年くらいの女性が中から出てきた。その腕には、生まれたてと見える赤子が抱かれている。
 彼らはほんの僅かに言葉を交わしていたが、桜子にとってはどうでも良い。立ち去ろう。
 くるりと踵を返した彼女。
 だが。
「ほら、話がついたから。いいわよ、いらっしゃい」
 今度は女性の声。
 赤子の笑う声も混じる。
 ゆっくりと振り向いてみると、眩しいほどの笑顔で、桜子を迎えようとする家族の姿がそこにあった。
 暖かな彼らを前にして、桜子は思わず、
「幸せそうであるな。くだらん」
 刀を抜いていた。
 一瞬の後には、赤ん坊の首が地に落ちた。
 夫婦は、何が起きたのかも理解できず、硬直。
 さっさと理解するが良い。奪われた苦しみと悲しみを知るが良い。
 何故こんな平和ボケした連中にばかり幸せが訪れるのか。理不尽だ。不平等だ。
 苦しめ、悲しめ。そして復讐に取り付かれて、追ってくるが良い。

 桜子が立ち去ってしばらく。
 夫婦の絶叫が響き渡った。
「ああ、そうであるな。わしばかりが苦しむ道理はない。皆が苦しまねば、釣り合いが取れぬ。そうだ、ならば、バランスを取れば良いではないか」
 結論が出た。
 奪われたものを取り戻すため、奪い返そうとしても、何も得るものはない。
 ならば。何かを得られるまで奪い続けるしかない。
 善悪の区別など、とうに失った。
 だから、これからは己をこう定義しよう。
 邪道を往く修羅と。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0936/泉興京 桜子/女/7/攻撃適正】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご依頼ありがとうございます。
 動きそのものより、内面の描写に力を割いたつもりです。
 いわゆる闇落ちですが、「既に落ちていて、さらに落ちる」内容とさせていただきました。
 本当ならば、性格が明るい頃も描いた方がギャップが生まれるのかもしれませんが……。
 それでもこの内容としました。一貫性を持たせた方が、伝わりやすいかと思いまして。
 気に入っていただけましたら幸いです。
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2017年12月08日

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