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『辿り辿った想いを胸に。 』
ギュンター=IXka5765)&ガブリエル=VIIIka1198

 夕暮れの茜に染まり始めた道を、ギュンター=IX(ka5765)は懐かしい心地を胸にのんびりと、ステッキを規則正しく響かせながら歩いていた。ステッキと反対の手では近くの村で買い求めた、土産の美味しそうな焼き菓子の袋が時折、かさかさとささやかに自己主張を繰り返している。
 若い頃から幾度となく辿った、通いなれた道──けれども、ギュンターがこの道を辿るのは実のところ、久しぶりのことだった。というのも、少し思うところがあってギュンターは、ひどく長い休暇を過ごしていたのだから。
 長い、長い休暇。任務に縛られることもなく、他の何に煩わされるでもなく、ただのんびりと気ままに過ごした日々。
 そんな長い休暇を終えて仲間の邸へと戻る、ギュンターの足取りは知らず軽やかで。かさかさと鳴る紙袋の音を聞きながら浮かんでくるのは、楽しくも懐かしい仲間達の顔ばかり。

(審判の名の弟分は元気でしょうか……)

 今もまた仲間の1人の顔を思い浮かべ、ふ……、とギュンターは微笑んだ。身体はもちろんのこと、弟分がちゃんと煙草を控えているのかというところも大いに気になるし心配なのだが、きっとそれを尋ねれば心配性が過ぎると呆れられるのに違いない。
 その表情まで思い浮かぶようで、微笑んだギュンターの脳裏をよぎるのはまた別の、こちらは老齢の友とでも言うべき教皇の名を持つ男。もっともこちらの友人は、心配は心配だが先の弟分とはちょっと意味合いが異なって、本人も色んな意味で心配だけれども、その周りにいる人間の方も色んな意味で心配というか――むしろ、周りの方が大丈夫じゃなくなっているかもしれないという不安がよぎるというか――
 知らず、心の中で天を仰いで誰にとも知れず謝罪する。土産はしっかり買ってきたのでどうか許してほしい――ギュンターが謝ることではないのだけれど。
 そんな風にあれこれと思いを巡らせながら歩けば、それなりに長い道のりもあっという間に過ぎて行く。もうあと少しで邸の門前というところでまた思い出したのは、かつてギュンターの部下、小アルカナでもあった少女のこと。
 もちろんそれは昔のことで、今は正義の名を持つ少女。あの子は果たして、変わらず元気にやっているのだろうか……?
 そんなことを思いながら歩いていたギュンターは、おや、と立ち止まって行く道の先を見晴るかした。

(噂をすれば……)

 ギュンターの行く手、邸の門を挟んだ道の向こう側から歩いてくるのはまさしく、たった今まで思い返し案じていた『正義』の少女。けれども彼女の方はまだ、ギュンターの姿に気づいていないようだ――否。
 ギュンターが気付いたのに、彼女も気付いた。気付き、つと此方へ向けた眼差しを受け止めてギュンターは、とても穏やかに微笑んだ。





 ガブリエル=VIII(ka1198)が少し長めの休暇をもらったのは、ゆっくりと考える時間が欲しかったからだ。

(自分にとっての『正義』は何だろう)

 それは誰もが抱くかもしれない、言ってみれば陳腐でありふれた疑問。けれどもガブリエルにとっては己の存在そのものにかかわると言っても過言ではない、重大な疑問。
 ――この身に戴く『正義』の名を、思う。その名のもとに動く自分を、思う。
 すぅ、と夕暮れの冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。昼から夜へと移りゆく時間のこの、昼の暖かな空気から入れ替わった夜の、キリリと冷たいそれを胸いっぱいに吸い込む瞬間を、ガブリエルは嫌いではない。
 空の色も、そう。晴れやかな昼の空よりも、闇に輝く夜の空よりも、ガブリエルが好むのはそのどちらでもなくどちらでもある、日が昇る前の瑠璃色や、日が沈む前の紅の空だから。

 ――『正義』の名をいただいているなら、白黒はっきりしたものを好み選びそうなところなのに。

 そんな風に言われたことはもちろんあって、そうしてガブリエル自身も困ったことに、その意見に全面的に同意するしかないのだ。いや本当に、自分自身よくそう思ってるのだ、わざわざ指摘してもらわなくとも。
 『正義』。一筋の悪をも許さない、絶対的な善性を掲げた純粋無垢な印象を持つその名を持つ自分が、昼でもなく夜でもない曖昧な時間をこそ好むなんて――そんな曖昧な自分が『正義』だなんて。
 あぁ、それはなんたる皮肉! 否、或いはもしかしたら……

(その反動ってヤツなのかもしれないね)

 くす、とそれこそ皮肉にそんなことを思ったりもしたけれど、そうしたところで自分自身の中に澱のように巣食っている違和感、そこから生じた疑問が泡沫のように消えてしまうわけもなく。
 考えようと、思った。ガブリエルにとっての、この名を引き継いだ彼女自身の『正義』とはいったい、何なのか。
 考えて、考えて。そうしてついに見つけた答を胸に、彼女はようやく長い休暇を終えて、仲間達のもとへと帰ってきたのだった。
 ――あともう少しで門前にたどり着く。その寸前、ふと聞こえてくる規則正しい杖の音に気が付いて、ガブリエルは1つ小さな瞬きをし、眼差しを正面へと向けた。
 聞き覚えのある音。これは、と立ち止まって行く道の先を見晴るかせば、そこには予想通りの人の姿がある。
 かつての上司。そして、かつて身寄りのなくなったガブリエルを組織へと引き取ってくれた、恩人でもある人。
 その人が立ち止まって、こちらを見ていて。そうして目が合ったのに彼は、とても穏やかに微笑んだ。





(ああ、なるほど)

 ぶつかった眼差しと、浮かんだ笑みにガブリエルは、尋ねるまでもなく直感した。どうやらこの元上司も、ガブリエルと似たことを考えていたらしい。
 そう、感じたことすらまた同じ。すなわちギュンターもまた、久方ぶりに会った元部下の少女がどうやら、自身と同じようなことを考えていたのだろうと察してしまって、浮かべた穏やかな笑みを深くした。
 ふふ、と知らず零れた笑い声は暖かい。そうしてどこか、面白そうな響きも孕んでいる。

(成程、考えることはどうも似てしまうものですね)

 かつての上司と部下。それより何より、ガブリエルを『組織』に迎え入れたのはそもそも、ギュンターだ。
 なればこそ、仕事でもプライベートでも長くないとはいえ重ねた時間が、知らず、互いの行動や思考を似通わせてしまうのだろう。それは驚きよりもどこか、くすぐったさを感じさせる。
 ゆえに顔を見合わせて2人、笑った声も似ているように感じてしまうのはもしかしたら、思い込みに過ぎなかったかもしれない。或いは本当に親子のように似通ってしまっている部分があるのか。
 そんなことを考えてまた、笑いを零して。それからギュンターは1歩先んじて邸の門扉へと辿り着くと、キィ、と軽く押し開けた。
 そうして自身は門の外に留まったまま、さあ、とガブリエルを促す。

「参りましょう」
「――私を未だ女扱いするのは貴方だけだよ」

 『レディーファーストです』と言わんばかりのギュンターの顔と、どうぞと促す手を見比べてつい、ガブリエルはふふっ、と笑い声を零した。いったいこの人の目には、自分はどんな風に映っているというのだろう。
 どうかしたらかつてギュンターに拾われた頃の姿から、殆んど変わっていないのではあるまいか。今やすっかり成長し、レディーどころか颯爽たる男装の麗人となった彼女をまるで、か弱い淑女のように。
 ――まぁそれがくすぐったくも、面白くもあるけれど。
 そんな風に考えて、少しばかり気取った様子でガブリエルは、促されるままに門を通り抜けた。とはいえ彼女の顔に浮かんでいたのはやはり、いつも通りの颯爽とした笑みだ。
 淑女というよりは貴公子のように、けれどもギュンターにはやはりどこか少女らしく感じてしまう仕草でガブリエルは、門を通り抜けたところでくるりとこちらを振り返った。彼女に続いて門を抜け、扉を閉めたギュンターを見て、さ、と軽やかに笑う。

「久々の帰還だ。皆に挨拶しようか」
「そうですね。元気にしていると良いのですが」

 色々と、と口中で呟いたギュンターにひょいと肩をすくめて見せて、今度はガブリエルが玄関のベルを軽やかに鳴らした。そうして扉が開かれるのを、2人並んで待つ様はやはり、どこか親子のようにも見える。
 中から聞こえる、微かな足音。声。血の繋がった家族ではもちろんなく、ならば気持ちの上で繋がった家族なのかと問われればやっぱり首を振らざるを得ない、それでも単なる仕事上の仲間と呼ぶにはなかなかに難しい人々。
 ガチャリ、扉が開く。中から覗いた顔に微笑みかける。

「ただいま戻りました」

 異口同音にそう告げた、2人に仲間達がおや、と軽く目を見開いた。そうして嬉しそうな風情で、ギュンターとガブリエルを代わりばんこに見ながらこう告げる。

「やあ、久方ぶりだね。元気にしていたかい?」

 ――それは懐かしい、いつも通りの時間の始まり。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職 業 】
 ka5765  / ギュンター=IX  / 男  / 65  / 符術師
 ka1198  / ガブリエル=VIII / 女  / 28  / 聖導士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
大変お待たせしてしまい、本当に申し訳ございません。

御二人の長い休暇を終えての物語、如何でしたでしょうか。
自由に、と仰って頂いたのにすっかり甘えてしまって、本当に自由に綴らせて頂いてしまいましたが……ええ、本当に自由にしてしまいましたが……(汗
何となく、ダンディなおじ様とハンサムレディーなお嬢様、というイメージでした、はい。
もしイメージと違うなどあられましたら、いつでもお気軽にリテイクをお申し付けくださいませ(土下座

御二人のイメージ通りの、長の休暇を終え伸びやかな空気をまとうノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
WTアナザーストーリーノベル(特別編) -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年12月11日

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