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『その姿は魅惑的でいとおしい』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 工房から足早に自宅へ帰ったシリューナ・リュクテイア(3785)は、作業中の事故でガラスの膜に覆われてしまいガラス細工と化したファルス・ティレイラ(3733)を専用の部屋にそっと置いた。
 薄暗い部屋に設置してある電灯に、魔力を注ぐと不思議な灯りが部屋を明るくし、美しく妖艶なガラス細工と化したファルスにシリューナは手を伸ばす。
 薄い膜越しに鼓動を感じ、その姿に熱を帯びた瞳で見つめると思わず笑みをこぼす。
 “ティレ、この姿の貴女は一番美しく何物にも代えがたい”と、思いながらシリューナは抱き締めた。

 一方、未だに閉じ込められているファルスはガラスの膜内で居心地良さそうに目を閉じ、微睡む意識の中でシリューナの声が遠く、はっきりとは聞き取れないが何処か優しそうに聞こえた気がした。
(お姉様がこんな優しい声を出すなんて、きっと夢……)
 そう“夢”だの“願望”と、思い込んでファルスは心地の良いガラスの膜にその身を委ねる。

「やっぱり、ティレはこの様な姿だからこそ美しさが際立つ」
 魔力がガラスの表面で動くと、ファルスの表情がコロコロと変わるかの様に色が変わる。
 寝ているのか、起きているのかは分からないが、今はシリューナのモノとして“そこに在れば良い”のだから。
 ファルスの体にピッタリと密着しているガラスの膜だ、多少なり声を出しても本人の耳には届かないだろう。
 石化の時とは違う魅力。
 色が有り、温もりが有る。
 石化は石化で良いが、こちらも別の魅力がある。
 頭を撫でる手をスルリ、と顔まで下げると掌で頬をゆっくりと撫でる。
「これは、これで……」
 吐き出される息は、ファルスを覆っているガラスの膜に一瞬だけ曇らせる。
 指先だけでは足りない、と感じたシリューナは頬を近付けて体を密着させた。
「やはり、ガラスの膜越しに感じるファルスの温もりは居心地が素晴らしい」
 頬に唇を寄せると、ほんのりと温かい。
 顎、凹凸の無い首にから丸く女性らしい肩を撫でるように手を滑らせる。
 シリューナの顔の位置も、手と同じ位置までゆっくりと下がる。
「か細い首、私の腕でも折れそう」
 瞳を細め、両手で首を掴み力を入れたらポキッと折れそうだ。
 抱き枕とは違い、ガラスの膜があるので少々硬いが“人の温もり”があるのは、余計に手離せなくなる。
 シリューナは、ガラス細工のファルスを抱えると広いベッドの上で横にする。
「あぁ、何時もこうなら……」
 口元を吊り上げ、ファルスの前では絶対に見せない笑みを浮かべるシリューナは、横たわるガラス細工の彼女の体に手を滑らせる。
 体の芯が熱くなる。
 シリューナは、ギシッとベッドを軋ませながら乗るとファルスの隣でごろんと横になる。
「抱き枕より、素晴らしい」
 ツルリとしたガラスの膜、硬いのは少し邪魔かもしれないがそれ以上に、シリューナにとっては世界で1つしかない人の姿だ。
 温かい。
 胸元に耳をぴったりと寄せれば、ファルスの鼓動が耳の鼓膜を激しく震わせる。

(天井……?)
 ガラスの膜越しに見覚えのある光景を見たファルスは、未だに閉じ込められている。
(温かい……)
 人の温もりに近い温かさを感じながらファルスは、“もうこのままでも良い”と半ば思考放棄する程に先程より心地が良い。
(あぁ、お姉様の、部屋の、天井)
 頭の隅にあった記憶から場所だけは理解した。
 しかし、何故そこに居るかまでは考えない。
 今までに色んなモノに固められたのだ、ファルス自身が起こした事故で“慣れてしまった”状態。
 まるで卵に戻り、母竜に温めて貰っているかのような温もりは何時ぶりだろうか? と、ぼんやりとした頭で考える。
(懐かしい……)
 温もりに体の1部が溶け込むような、そんな不思議で心地の良い感覚がファルスの思考が、体が、受け入れようとしている。
(溶けるなら、せめて、お姉様と)
 覚めたハズの視界がぼやけ、意識が徐々に奪われてファルスは再び微睡みの中へ。

「今日はこのまま、私の抱き枕に」
 少女らしい体つきの曲線に手を添え、シリューナはガラスの膜に覆われているファルスの顔を見上げた。
 どの角度で見ても、この少女は美しくそして幼さが残る顔は愛らしい。
「ティレ、そんな表情をして……そんなに中は心地の良い?」
 少し口元を吊り上げて微笑むファルスの顔を見て、シリューナは空いてる手で優しく彼女の頬を撫でる。
 ぱちくりとファルスが瞬きすると、ファルスは満足げに笑みを浮かべながらシーツを掛ける。
「魔法のガラスの膜に覆われたティレも悪くない」
 と、思いながら魔法の灯りに照らされながらシリューナは瞼を閉じる。
 開かれたファルスの手を、シリューナの手がぎゅっと握り締めた。
「また、ドジしてこうなる事を楽しみにしている」
 いや、“ドジをしてもらわなければ私の楽しみが無くなる”
 ファルスという少女が生きたままの芸術となり、それを愛でるのがシリューナの楽しみなのだから。
 どんなドジでも良い、チョコであろうとも凍っても全てがいとおしい。
 ドジでならなければ、シリューナの手で“お仕置き”という名目で石化させれば良いだけの事だ。
「次はどんな姿を見せてくれるの?」
 と、問うてもファルスは答えれないだろうが、シリューナは今の彼女を瞳に、心に、刻み付けながらその温もりを感じながら微睡みの中へと一緒に沈んでいった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は、ノミネート発注をしていただきありがとうございます。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。
私自身、こういう内容はとても好きです。
生きているからこそ、無機質の様な姿は彫刻を生きたように造る職人がソレを愛する気持ちに近い、と思います。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
本当にありがとうございました。
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2017年12月11日

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