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『サンタクロースが当番制だったら 〜杢の場合〜 』
ka6890

 聖輝節の季節が、今年も巡ってきた。
 冒険都市リゼリオでは、誰もが夢をみる時期。
 叶うはずのない願望を抱いても、この時期ばかりは誰も否定はしない。

 お金は無いが、何処からともなくプレゼントが贈られる。
 今は独り身でもきっと聖輝節本番までに彼女ができる。
 抱くだけなら問題なし。聖輝節を過ぎても叶わないというクレームは一切受け付けられないが……。

 夢が溢れ、幸せいっぱいの聖輝節。
 だが、多くの者は――ある事実を知らない。
 
 聖輝節の象徴であるサンタクロースが『当番制』であるという事を。

「今年はおらが当番だんず。けっぱっていくだんずよ」
 杢(ka6890)はサンタクロースの衣装に身を包み、行き先の最終確認を行っている。
 杢の背後にはトナカイとプレゼントを乗せたソリ。
 そう、今年は杢がサンタクロース当番。
 これからプレゼントを『良い子』へ配りに行く事になっているのだが、配送先はクリムゾンウェストとリアルブルーの二つの世界に跨がっている。今年のサンタクロース当番はかなり厄介のようだ。
「けんど、おら負けねぇず。みんなにプレゼント配るだんず。ちょぺっとおぐいるかもしれねぇずが……」
 それでも杢は気合い十分。
 すべてのプレゼントを配るべく配送順にチェックに余念が無い。
「ほったら、行くだんず。最初の良い子は誰だんず?」
 最初の行く先をチェックした杢は、ソリに乗ってトナカイを走らせる。
 空に向かって登り始めるトナカイ。
 光の道を駆けながら、ソリは徐々に上空へと舞い上がる。
 プレゼントを心待ちにする者の元へと――。


「おおっ!? こいつぁ、ワシへのプレゼントか?」
 杢が最初に訪れたのは、ドワーフ王ヨアキム(kz0011)。
 地下城『ヴェドル』へ忍び込むには苦労させられたが、枕元にあったプレゼントを発見したヨアキムの笑顔を見ればその苦労も報われる。
 髭面ドワーフでも、あれだけ無邪気にはしゃいでくれれば嬉しいものだ。
「喜んで貰えて何よりだんず」
 物陰で喜ぶ様を見守る杢。
 さて、その杢がヨアキムに渡したプレゼントとは――。
「……ま、まじかよ。こいつは……」
 ヨアキムが箱から取り出したのは、アフロのカツラ。
 それも通常よりも数倍増しで大きくなった巨大アフロだ。
 そして箱の中には杢からの手紙が添えられている。
「なに……えーと……おおい、給仕!」
「給仕じゃありません。執事のキュジィです。それで何でしょう?」
 ヨアキムに呼ばれてやってきたのはキュジィ(kz0078)。
 聖輝節間近で様々な用事がある中でも、暇を持て余すヨアキムは容赦なくキュジィを呼び出してくる。
 さすがのキュジィの笑顔も張り付いて能面のようだ。
「おい、給仕。これを読んでくれ。ワシにはよく分からん」
「はいはい。なんですか、この手紙?
 えーと……『このアフロは世界ヘビー級王者モンドリアンが後世に残した物です。身につけた者は世界王者の気風と強さを身につけ……』なんですか? これ。大体、何のヘビー級かも分からない王者なんで……」
 理解不能という様子のキュジィだが、キュジィは忙しさのあまり忘れていた。
 ヨアキムが真性の単純馬鹿であるという事に。
「こいつを付ければ、ワシは世界王者になれるのか!
 よぉーし、ワシはモンドリアンの後を受け継ぐぞ! 行くぞ、キュジィ! 今から歪虚の奴らをぶん殴りに行くぞ!」
「ちょっ! 待って下さい、ヨアキム様!」
 アフロのカツラを装着したヨアキムは、そのまま歪虚討伐へと出発する。
 冗談を冗談と受け取れない馬鹿には過ぎたるプレゼントであった。


「プレゼント、ですか?」
 杢は、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の前に姿を見せる。
 本来であればルール違反なのかもしれないが、ヴェルナーの欲しい物を調べても見つからなかったのだ。このままでは引き下がれないと、杢はプライドを賭してヴェルナーへ対峙する事にしたのだ。
「そうだんず。欲しい物はないだんずか?」
「ふふ、私を良い子と認定していただけた時点で嬉しいですよ。確かに要塞管理に加えてバタルトゥさんの補佐までやっていますからね。評価いただけたのは何よりですよ」
 要塞ノアーラ・クンタウ管理責任者であると同時に、辺境部族会議大首長補佐を担うヴェルナーである。
 これだけの業務を一人で切り盛りできるのはヴェルナーだからできる芸当であるが、その業務を素直に評価された事が嬉しかったようだ。
「で、欲しいものは何だんず?」
「そうですねぇ。正直、そのお気持ちだけで十分なんです。
 もう少し大人な振る舞いを学んだバタルトゥさんが欲しいと要望されても、実現は難しいでしょう?」
 ヴェルナーが欲しい物とは、冷静に見えて暴走しかねないバタルトゥに大首長としての振る舞いを学ばせる事であった。
 物品でない以上、プレゼントとして贈る事はサンタクロース当番の杢にとって困難と言えるだろう。
「それは難しいだんず」
「そうでしょう。でも、杢さんにも役目がおありです。
 ですから、次の方には『私からのプレゼント』として何かを贈っていただくのはどうでしょう。季節のプレゼントが贈られたとなれば、その方との交流も深められます」
「分かっただんず。でも、何を贈ればいいだんず?」
 頷く杢。
 それに対してヴェルナーは笑顔で答える。
「そうですね、あなたの欲しい物を贈っていただけますか。優秀なハンターである杢さんが欲しいという物です。きっと次の方も喜んでくれますよ」


「誰ザマスっ!
 ヴェルナーさんの名前を語ってあたくしの枕元にプレミアムエビフライを置いたのは!
 とんだ嫌がらせザマスっ! さては、ヴェルナーさんとあたくしの仲を引き裂こうとしているザマスね?」
 月面基地「崑崙」で森山恭子(kz0216)が大騒ぎしている。
 ヴェルナーの言う通りに杢が好きなエビフライを置いてみたのだが――。
「これで良かっただんずか? 分からないだんず……」
 首を傾げる杢をよそに、恭子の怒声は廊下へ響き渡る。


「プレゼントねぇ。この年になるとプレゼント貰うのも億劫なんだよなぁ」
 酒場で捕まえたジェイミー・ドリスキル(kz0231)は、グラスに注がれたシングルモルトを傾けながらそう呟いた。
 年齢からすればサンタクロースからプレゼントをもらうには不自然だ。
 子供ならば良かったのだろうが、少なくともドリスキルが素直に喜べない。
 それでも杢はサンタクロース当番。
 何かをプレゼントしなければならない。
「何か欲しいものはあるだんずか?」
「そうは言ってもなぁ。酒をサンタクロースからもらうのも罰当たりな気がするしなぁ。お酌してくれる美女、なんて言えばサンタクロースの組合からクレームでも出そうだ」
「困っただんず」
「まあ、欲しい物なんざ俺が自分の手で掴み取るもんだ。
 俺の願いはCAMパイロット達を見返す事なんだが、こればっかりはくれると言っても断るからな」
「そうだんずか。もらえる物でも断るだんずか」
「ああ、これは俺が自分でやらなきゃならねぇ。人から与えられるもんじゃねぇって事だな」
 ドリスキルは、チビリとシングルモルトに口を付ける。
 杢自身も分かっているが、サンタクロースは万能ではない。
 ヴェルナーの時のように与えられない物もあれば、ドリスキルのように欲しがらない者もいる。
 結局は、何をすれば喜んで貰えるのか。
 すべては、ここに帰結するのだろう。
「難しいだんず。サンタクロースにも不可能はあるだんず」
「そうだろうな。
 じゃあ、そこに座って今まで敵と戦った話でもしてくれ。思い出話ってプレゼントをくれりゃそれでいい。酒の肴にもなるだろうし、俺がCAMパイロットに勝つヒントがあるかもしれねぇしな」
「分かっただんず。それならおらにもできるだんず」
 ドリスキルの申し出に、大きく頷く杢。
 それならば杢であってもプレゼントする事ができる。
 否、杢だからこそできるプレゼント――サンタクロース当番として過ごす夜は、こうして過ぎていくのであった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6890/杢/男性/6/猟撃士(イェーガー)】
【kz0011/ヨアキム/男性/54/機導師(アルケミスト)】
【kz0078/キュジィ・アビトゥーア/男性/24/疾影士(ストライダー)】
【kz0032/ヴェルナー・ブロスフェルト/男性/25/疾影士(ストライダー)】
【kz0216/森山恭子/女性/58/一般人】
【kz0231/ジェイミー・ドリスキル/男性/53/一般人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
近藤豊です。
如何でしたでしょうか。手持ちのNPCが多く、すべてのNPCの登場は字数的に困難でしたが、なるべく特徴があるNPCを選んでみました。もし、他のNPCや今回登場したNPCでもっと関わりたいというNPCがありましたら発注をご検討下さい。
タイミングが合えば、もっと深掘りさせていただければと思います。

それではまたご縁がありましたら宜しくお願い致します。
イベントノベル(パーティ) -
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年12月12日

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