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『ポッシブルなミッションはデンジャーのフレグランス的フィーリング 』
ソーニャ・デグチャレフaa4829)&鬼灯 佐千子aa2526)&サーラ・アートネットaa4973)&日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001)&迫間 央aa1445
 大使館といえば港区や渋谷区なわけだが。
 重力を繰るレガトゥス愚神に国土と民とを食い尽くされ、わずかな生き残りが身を寄せて暮らすカルハリニャタン共和国大使館――現亡命政府臨時本部は、他の大使館などひとつも存在しない閑静な住宅街にひっそり佇んでいる。
 が。
 今日の静けさは常の穏やかなものならず、やけに押し詰まっていた。
「先ほどから日本国民から数百の問い合わせが入っている」
 亡命政府代表兼陸水空統合軍大将が重々しく口を開いた。
 頭の上から冗談みたいにアンテナが突き出しているのは、愚神との戦いで首から下をすべて機械化するに至った彼が、通信機能を体に装着しているからなのだが……彼の電話はいかついおっさんがでっかい声で独り言を垂れ流しているようにしか見えないので、共和国民からは実に評判が悪い。
「なんでも『にゃーたん・さーらん いけないルージュ★マジック 生き恥だよ全員くっころ!』のネット公開は明日の12時でまちがいないかとの話だったが、覚えはあるかね?」
「はい、いいえ。覚えはありませんが、昭和のセンスでありますな」
 ソーニャ・デグチャレフは右眼を塞ぐ眼帯をずり下げ、げんなりと応えた。
「アートネット特別情報幕僚、貴官はどうだ?」
 ソーニャのとなりに立つサーラ・アートネットは代表の言葉にぎくりと身をすくませ。
「は、はい! いいえ!! 自分も覚えはないのであります!」
「そうか。いや、デグチャレフ観戦武官以外で思い当たるのが貴官しかいないのだが。というかむしろ貴官だからこそやるだろうと」
 代表の冷めた声音がサーラを追い詰める。
 いや確かに企画自体はサーラが作ったし、タイトルだって彼女が昭和の日本の芸能界を参考につけた。しかしそれはあくまでこっそり楽しむためであり――
「自分のはとにかく上官殿の生き恥、他人に見せてなどやらんのであります!!」
 生暖かい目で代表は憤るサーラを見上げ、顔面を縦線で埋め尽くしたソーニャを見下ろした。
「好かれているな、観戦武官」
「は。それはもう、取るものも取りあえず転進したくなるほどに」
 ともあれ。
「仕末をつける必要があるなら貴官らでつけたまえ。この件に関して亡命政府は無関係とする」


「ということで、猶予はこれから24時間。それまでに小官らは“写真集”用の写真データを回収し、犯人を断罪せねばならない」
 元大使館の応接間、ソファに深々と400キロの体を沈めたソーニャが渋い顔でコーヒーをすする。
「了解であります! 自分は仮にも特別あつかいとはいえ情報幕僚の席についている身……伊達や酔狂で地位を与えられているわけではないと思い知らせてやります!」
 敬礼を決めたサーラに、鬼灯 佐千子がひかえめにツッコんだ。
「でも企画自体はアートネットさんのものなのよね? 自分で自分に思い知らせることになるんじゃないかしら……」
「うぐぅ!」
 ここで場を取りなしたのは不知火あけびである。
「まあまあ。ソーニャがアイドルがんばってるのは知ってるから、私も全力でお手伝いするよ! でもはずかしい写真がちょっと流出しちゃったら……にゃーたんファンが増えちゃうからそれはそれでよし?」
 友だちのアイドル活動を全力で応援したいからこその発言だったが、当のソーニャは「そんなことになったら小官割腹して果てるよりなくなってしまうのである」。
 そんな彼女を優しく見やった日暮仙寿がうなずき。
「俺もソーニャの介錯を務めるつもりはないさ」
 かくて彼は伸ばしていた背筋をソファに預け、ため息をついた。
「それにしても、そんな写真が盗撮できるとすれば内部犯か? 代表兼大将は除外してもよさそうだけどな。そうなるとやはりサーラしか」
「自分、各種ソフトを駆使したアイコラしか作っていないでありますー! 盗撮なんて数千枚しか――」
「写真の出どころは判明したわね」、佐千子がそっとサーラから距離をとり。
「転進、転進である!」、ソーニャが佐千子の後ろに身を隠し。
「えーっと、あれだよね。いろいろあるんだよね! ね、仙寿様!」
「え? あ、う、うん? そうだな、そうなのか?」
 仙寿とあけびがなんとも言えない顔を見合わせ。
「とにかく事態の収拾が第一です。我が自治体の提携アイドルにいかがわしいイメージがつくのは、自治体にも私の立場にも、なにより共和国によろしくありませんし、ファンの期待にも背きかねません」
 ソーニャとサーラの友人であり、にゃーたん&さーらんのプロデュースを担当する公務員でもある迫間 央が静かに締めくくった。
「迫間殿が真っ当なことを……」
 おののくソーニャへ苦笑を返した央は、すらりとソファから立ち上がる。
「Pとして、アイドルのおふたりの気持ちを最優先したい。そして私はファンのみなさんやスタッフのみなさんの筆頭として、おふたりの味方でありたい。それだけのことです」
 その言葉にはかすかな曇りもなかった。そう、央はいつだって大真面目にソーニャとサーラのことを考えているのだがしかし。
 宣材はすべて私が管理しているはずなのに、いけませんねサーラさん……。解決したらもれなくPチェックをさせていただきますよ。共和国再興と自治体活性化のため、秘匿と活用の判断をしなければ。
「……迫間さんも射撃対象に入れておくべきかしら」
 佐千子は自らの腰部後方に埋め込んだ幻想蝶の中に手を差し込んだ。
 20mmガトリング砲「ヘパイストス」の確かな固さがその指に応える。
 任せてデグチャレフさん。写真もデータも私が責任もって粉砕するわ。アートネットさんについては要相談だけど、とにかく全力で守るから。
 他の面々がコメディ指定する中「シリアス全開」を告げてきた彼女。その厳しく引き締まった顔は、ひとりだけアメコミ調なのだった。


「央さん」
 細く絞ったあけびの声音が央の右耳に忍び込む。
「三、二、一」
 ガチャリ。央がドアを押し開け、あけびと共に室内へ転がり込んだ。
「敵の潜伏なしです」
 天叢雲剣を抜き放ち、室の右半分を探った央がサムズアップ。
「こっちも大丈夫!」
 左半分の索敵を担当したあけびが守護刀「小烏丸」を鞘に収め、うなずく。
「SR8、クリア」
 外骨格式パワードユニット「阿修羅」をまとう佐千子がガトリング砲の砲口を慎重に巡らせつつ、後ろのソーニャたちに告げた。ちなみにSR8はサーラのルーム(8畳)である。
「内部犯じゃないかとは言ったが、さすがにサーラの部屋にはいないんじゃないか?」
 そう言いつつも雷切の柄に置いた手は離すことなく、仙寿が内へ踏み入った。
「犯人は現場に戻るもの……きっとまた、この子たちのところに現われるはずよ」
 全方位を哨戒し、ソーニャとサーラをカバーできる位置取りを心がけた佐千子が低く言い放った。

 ――流出の源と思われた共和国情報本部資料室(16畳)は空振りだった。
『監視カメラの映像に不自然な点は認められず。入退室チェック機能も反応しておりません、データベースにログイン履歴および侵入の痕跡なしであります。トラップも起動していないでありますね』
 大量の資料が収められた棚が並ぶ室の奥、パソコンとそれに付け加えられた怪しげな機器をチェックし終えたサーラが言った。
『犯人はここに来ておらぬ、というわけか』
 顔をしかめたソーニャに佐千子がうなずいてみせ。
『だとすれば知っていたことになるわね。この資料室に目当てのものがないことを』
 そうして静かにガトリング砲の銃口を央へ向け、彼女は青ざめた笑みを投げる。
『残念だわ。でも、あなたの罪も私の悔いも、全部この弾で洗い流すから――』
『ちょっと待ってください! そもそも私は亡命政府の建物に入るのが初めてで』
 あけびが深刻な顔を振り振り。
『央さんの回避力ならカメラに映らないとか簡単ですよね。同じシャドウルーカーだからわかります。央さんなら、できるって!!』
『待ってくださいあけびさん! その信頼はしちゃだめなやつ!』
『いつか追いつきたいって思ってました。人の夢ってほんとに儚いですね』
 ウェッティな方向に盛り上がるあけび。
 央は救いを求めて仙寿を見たが。
『介錯は俺が』
 決意を胸に据えた剣客の気に迎え討たれ、技と業(わざ)とを尽くして逃げ出すこととなるのだった。

「それにしても……同志サーラ。小官泣きながら転進してもかまわんか?」
「え? なぜでありますか、上官殿?」
 サーラの自室の壁と天井にはもれなくソーニャのポスターが貼り並べられており、しかもそのすべてが手作りなうえ、ソーニャではありえないポーズと表情で。
「自分が撮影しました上官殿のお姿をモデリングして3Dソフトで描き起こし、計算を重ねて自然な佇まいと表情で」
「サーラさんはそのくらいで。上官殿が大変なことに」
 央にきゅっと頸動脈を絞められ、言葉と共に意識を失うサーラであった。
「サーラってソーニャ……さーらんってにゃーたんのこと大好きなんだね!」
 あけびの気づかいが、ソーニャの割れかけた心にそっととどめを刺した。
「えひぃぃぃぃぃ」
「ごめんなさい。私が守れるのはデグチャレフさんの命だけだから……」
 崩壊するソーニャから目を逸らし、佐千子が唇を噛み締める。私にもっと力があれば! まあ、力うんぬんの問題ではないので、気に病む必要はないかと思います。
「サーラが犯人なら、佐千子の言うこともまちがいじゃないんだがな」
 と。仙寿のため息があけびの声音で吹き散らされた。
「うわ、あれってにゃーたんだよね! すごい! なんて言うか、んー、超すごい!! ――って仙寿様! まだ捜査がすんでないってば!!」
「未成年には目の毒だ」
 仙寿があけびの襟を引きずって部屋から出る。純情男子には室に渦巻くサーラの情念の強さが辛すぎたし、つまらないこだわりだとわかってはいるが、できれば女子にも純情であってほしいじゃないか。
「ふむ。これとこれは使えますね。これは一部修正の後、握手会の特典に」
 こちらは成人男子で実に重たい恋愛劇を演じてきた経験者である央。ポスターの商品価値を見定めていた冷徹な目がふと止まった。
「これは、どういうことでしょう」
「ついに放送できない系のものに当たりました?」
 成人済みの佐千子が妙に目を細めながら――純情よりもその生来の生真面目さから――央へ近づく。
「いえ。几帳面に角を合わせて貼ってあるポスターが、ここだけずれてるんですよ」
 見れば、壁に貼られた一枚だけが微妙に傾いでいた。
「ああああああ、『おねだり上官殿〜小官、同志のシャケが食べたいのである〜』がぁあぁあぁ!!」
 いつの間にか復活してきたサーラがあわててポスターの角度を調整にかかる。
「しょうかんかえゆ。そこくかえゆ。そーにゃ・でぐちゃれふ、はがねそうか(鋼壮歌)せいしょう。ふみしめにじるはおのれ ふみこえゆくはあのひ」
 ふらふら転進、よちよち去って行こうとするソーニャをふんぬと高い高いした佐千子がなにかに気づき、声を発した。
「アートネットさんの目線が届く場所にあるのに、曲がったまま気づかなかった?」
 サーラの身長は154センチ。その手が余裕で届く位置のポスターに、本人の意図しない歪みがある……おかしい。
 ちなみにいつの間にかサーラの身長が26センチ縮んでいたので、報告官が考えたトリックが使えなくなったことはここだけの秘密。
「外部からの侵入者があったということですか」
 央と佐千子の思考の狭間へ、あけびが言葉を差し込んだ。
「そういえばドアに鍵はかかってなかったな。サーラ、部屋を出るとき鍵はかけてきたんだろう?」
 あけびの目を後ろから塞ぎつつ、仙寿が訊く。
「それはもう! ここにあるのは資料室に持ち込めない代物ばかり――自分の手で守らなければならないものでありますので!」
 守らなければならないものがポスターという形を得た「癖」なところはあれだが、さておき。
 事態は次なる展開を迎えることとなるのであった。


 最高に解せぬ顔でキッチンに立つソーニャの格好は“慰問用制服600-N03”――にゃーピンク(特別にカラーリングが調整されたピンク)の共和国統合軍服に、にゃーピンクのフリルエプロン。着ている当人からしたら悪夢のような有様であった。
「なぜか地味にバージョンアップしているし」
 最初の国民慰問の際、ソーニャに与えられた制服は“N01”だった。それがいつの間にか、番号ふたつ分進んでいる。
「あ、自分がモデリングした上官殿の3Dデータを元に機能性を0・27パーセントアップさせたものであります!」
 うれしげにサーラが敬礼。さーイエロー(説明略)の“慰問用制服600-S01”を着込み、同色のフリルエプロンをまとった180センチの圧はなんとも凄まじかったが、それよりもなによりもその“癖”は実利にまで繋がっているのが実に恐ろしい。
 そして。
「それは技術革新ね! 素材を変えたわけじゃないのよね? ということは、素材のカッティング? 縫製かしら?」
 思わぬ伏兵――佐千子がやけに高い声をあげる。
「その世界を体感できるのは鬼灯殿だけだ」
 渋い声で言うソーニャへ佐千子はくわっと振り返り。
「だってコンマ27よ!? むしろどうしてわからないのかをじっくり問い詰めたい!」
「アイアンパンクあるあるですねぇ」
 央はため息をつき、サーラを見やる。
「上官殿、一枚いただくのであります!」
 本体ではなくレンズにバッテリーが繋がった一眼レフを構える姿にまたため息をついた。
「同じ眼鏡としてごく一部見習いたいものですね」
「そうしたら結局丸ごと飲まれそうだけどな」
 央のつぶやきにげんなりと仙寿がツッコむが。
「いや、俺よりも仙寿君、その格好はどうした?」
 年下の友人をななめに見上げる央。
「?」
 玲瓏たる少年に足されたにゃーピンクのフリルエプロン。
「仙寿様はぱっとした色似合うよね!」
 こちらはさーイエローのフリルエプロン装備のあけびである。
「ああ、その、あけびも、似合ってる」
「ありがとー! ほんとはにゃーたんとおそろいのほうがいいかなって思ったんだけど、着物の色にはこっちかなって」
「悪くない。いや、いいと、思う」
 いつの間にか全員がふたりを見ていた。それはもう、なんとも言えない目で。
「上官殿。自分、強い酒をいただいても?」
「許可する。小官これからキロ単位で砂糖を吐くのでバケツが入り用だ」
「それはそれは……ちょうどよかったわね。クッキーに使えるから」
「にゃーたんの吐いた砂糖入り、商品価値は高そうですね。サーラさん、一枚と言わず数十枚撮っておいてください」
 などということもありつつ。

「バターを右手 サラダ油は左手 ボウルにどぼんでぐーるぐる」
 ダミ声で歌いながら、サーラが支えるボウルの中身をかき混ぜるソーニャ。
「クッキーの歌なんてあるんだー。ね、仙寿様も歌っちゃう?」
「静かに。計量が狂う」
 あけびに無声音で応えた仙寿が計量スプーンにすくった油をそっとボウルに落とし入れた。
「匙に残る油の量が……だとすればあと0・3いや、0・4ミリリットルか」
 それこそコンマ1をも違えまいとするその几帳面さ。
 感覚派のあけびからすればちょっともどかしいわけだが、お菓子は計量命なところがあるので見守ることにする。
「仙寿君が言ったように内部犯とは考えていません。なぜなら共和国統合軍の人員は三名ですからね。しかし、亡命政府の敷地内には国民の方がいらっしゃいますから、その内の誰かが手引きした可能性は高いでしょう」
 エプロン隊のクッキーづくりをサーラのカメラに収めつつ、央は佐千子に説明した。
「でも、ここでクッキーを焼くことにしたのはどうしてです?」
 佐千子が問い、央が答えた。
「犯人はこの敷地内にいます」
 サーラのチェックによれば、この数日間で共和国民以外の人間が敷地へ入場した記録は残されていない。共和国民がふたり以上連れ立って外へ出た記録もだ。
「つまり、内部からの手引きで入場できたとしても、退場はできていないということですね」
「だからこそおびき出します。犯人は強行突破で脱出するよりないわけですが……ソーニャさんのはずかしい写真をばらまこうという輩ですからね。目の前にお土産をぶら下げられては食いつくよりないでしょう」
 人員がひとつところに集中している今だからこそ、犯人はあっさり逃げ出しそうなものだが。こちらは現状手詰まりで、賭けに出るよりないところでもある。
「クッキーの焼き上がりが勝負の時ですね」

「ほんとはお昼寝させたいとこだけど 時間の都合でカットである」
 一応節をつけながらボウルの中身を横に押しやるソーニャ。
「あれまあここに 寝かせておいたクッキー生地が」
 すかさずサーラが冷蔵庫から休ませたクッキー生地を取り出した。
「ちょっと待ってくれ。この生地の計量は」
「仙寿様ここはそういうクレームつけるとこじゃないから」
 仙寿をなだめつつ、あけびが麺棒に薄力粉をすりつける。
 そして伸ばした生地を型抜き、余熱しておいたオーブンに放り込んで10分余り。
「祖国の味わいクッキー 完成であーるー」
 ソーニャがオーブンから取り出した熱々のクッキー。熱を入れられたバターと砂糖の香りが実に香ばしい。
「それでは小生が味見を」
 誰よりも早く伸びた手と、聞き覚えのない声。
「……いや、小官聞いたことがあるぞ。この声は」
「上官殿、自分もであります!」
「奇遇ですね。私も実は」
 ソーニャ、サーラ、央が言い合った。頑なに声の主を見ないまま。
「知り合いか?」
 わけがわからず小首を傾げた仙寿。
 それとは逆方向にあけびは小首を傾げ。
「そういう感じでもなさそうだけど」
 しかたなく、場を代表して佐千子が声の主に問うた。
「どちら様?」
 そこそこ以上に放っておかれて消沈していた声の主ががばーっと顔を上げた。
「小生、この世に生を受けて43年! にゃーたん愛して四ヶ月余り! H.O.P.E.香港支部で“千鎌”の異名を取る蟷螂拳士チャ」
「名前はいいです。知ってしまうと粉砕しづらくなるから」
 無慈悲に言い放ち、佐千子がガトリング砲を発射!
「うおおおおおおおお、それが当たったら小生あっさり死んでしまうぅん!?」
 よくわからない動きで分速2526発の砲弾をかわすチャなんとか。
「むしろそれを狙ったんですけど……なにこの人?」
 佐千子がソーニャとサーラにあきれた顔を振り向ける。
「彼奴は先日のPV撮影で小官の幼い唇を己がものにしようと企んだ、ストライクゾーン低めのドルオタである!」
「あのときはお世話になったのであります! でもおっさん殿のアシストが足りなかったばかりに千載一遇の機会を逃したのであります! 無能極まりなし!」
 対照的なふたりの返事に佐千子は深いため息をつき、もう一度“千鎌”へガトリング弾を叩き込んだ。
「いやだから当たったら!! しかしにゃーたん味のクッキーはうまい!」
「言葉を濁せばアイドルファンはすごいな。素直に言えば気持ち悪い」
 口の端を引き攣らせる仙寿にあけびが大きくうなずいた。
「アイドルってほんとに大変だよね」
「さすがにそれですませるとおふたりがかわいそうですね……さて、あなたが写真集騒ぎの主犯ということですか?」
 苦い顔で進み出た央に“千鎌”が不敵な笑みを向ける。
「くくく。小生は代表だ。先月発売されたフォトブック『オールハンドゥNYA-RA(税込3024円)』のあまりのぬるさに憤る有志たちのな! 小生らが望むはジュニアアイドルのイメージビデオ的なアレだぁ!! それを知らしめるため、この亡命政府に潜む同志の手引きで小生ここに在る!」
「強引にまとめてきましたね! 問題は共和国内ににゃーたん・さーらん推進派がいるという事実ですが、それはまあ置いておきましょうか」
「できれば問題にしてほしいところであるがそれよりも。“千鎌”、キャラが濃くなったな」
「思わぬ同志を得て感涙であります! にゃーたんのぬるさには自分も激しい憤りを禁じ得ません!!」
 サーラの両手でかっくんかっくん揺らされるソーニャの顔は、信じていた部下の思わぬ裏切りに蒼白口パカーである。しかも。
「えー、にゃーたんとさーらんのフォトブック出てたんだ! おっきめの本屋さんなら売ってる!?」
「友だちの顔がどうなってるか見てから言ってやれ」
 盛り上がるあけびの袖を引き、ソーニャをちらと見やる仙寿だった。
 その間にも“千鎌”が蟷螂捕蝉式――蝉を捕らえようとする蟷螂を見立てた構え――を決めてとても残念なことを叫ぶ。
「生まれたときから幼女スキー! “千鎌”チャ」
「生まれたときには歳上好きだったのね」
 重いため息を共に引き金を絞る佐千子。名前をみなまで言わせないのは様式美ってやつだった。
「おおおおおおおおおおーい! 小生共鳴してないので当たったら死」
「共鳴してないのか。なら安心だな」
 銀の髪をたなびかせた美丈夫が小烏丸を抜き放つ。これぞあけびと共鳴した仙寿である。
『手加減するからね、峰打ちで!』
 あけびの声に“千鎌”がすくみあがった。
「峰打ちって、その刀ってば両刃わぁーっ!?」


「代表兼大将が関わらないと言ったのは国民への配慮でしたか」
 該当する国民の顔写真をサーラに返し、央は眼鏡を押し上げた。
 国民が事件に関与しているのは代表からすればすぐに知れたのだろう。しかし、高齢者と未成年ばかりの国民を裁くことは、現在の共和国には致命傷となりかねない。
「アイドルにスキャンダルはつきものですしね。男性関係でさえなければ致命傷にはならないと踏んだこともあるでしょうが」
 央に続いて口を開いたのは佐千子だった。
「デグチャレフさん、合法? だものね」
 短時間の内に人の闇を十二分に見せられた彼女。その言葉はすでに達観の域にあった。
「小官むしろ裏切り者を査問にかけたいわけであるが」
 ソーニャの横目をサーラが「冷たい目線、ありがたくあります!」と真っ向から受け止める。それはもう、最高の笑顔でだ。
「しかし、こんなものにそれほど価値あるのか」
 仙寿が“千鎌”から押収した写真を指して疑問を述べた。
「かわいいよね。すっごくいいと思う!」
 あけびが笑顔で取り上げたそれは。
 コラや際どいアングルの写真のいちばん上に重ねられていた、仮眠するソーニャの写真。
 彼女のめくれあがったシャツの奥に映る、かわいらしいへそだったのだ。


 さて、ここで迫間 央さんからのリクエストにお応えしよう。ソーニャさんどうぞ。
「もうこんなアイドル地獄はこりごりであるーっ!!」
 ……転進できるかなっ?


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ソーニャ・デグチャレフ(aa4829) / 女性 / 13歳 / にゃーピンク】
【鬼灯 佐千子(aa2526) / 女性 / 20歳 / 赤鉄の守護者】
【サーラ・アートネット(aa4973) / 女性 / 16歳 / さーイエロー】
【日暮仙寿(aa4519) / 男性 / 17歳 / 明ける日は遠けれど】
【不知火あけび(aa4519hero001) / 女性 / 18歳 / 闇夜もいつか明ける】
【迫間 央(aa1445) / 男性 / 25歳 / 素戔嗚尊】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 癖とはかくも激しきものなればこそ。
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2017年12月12日

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