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『『すすき野の水面に映るキツネかな』 』
海原・みなも1252

 海原・みなもは自宅に向かって歩いていた。帰宅してすべきことが脳内をかすめる。しかし、気になることがあり、ふと足を止める。

 ザ、、、ザ、、、ザ、、ザ、、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ――。

 雑音が耳に届く。ラジオから聞こえるような音でもあり、機械が発する音でもありそうだ。どこから聞こえるか全くわからない。その音のとぎれとぎれであったが、徐々に間隔を短くし始めた。
(町の中の音ではありません。これは、危険です)
 みなもは直感した。家の中が安全かわからないが、外にいるより安心できるのは事実だ。
 得体の知れないものには近づかない方がいい。たとえ、異界を知っているとしても。

 ザザザザザザザザ――。

 音が連続し始めた直後、ドクッと心臓が鳴った。強烈な衝撃や寒気が襲った。
 みなもの視界が晴れると、そこはススキが一面に茂るところに立っていた。町の中にいたはずなのに、野原の真ん中にいるようである。
 無意識に境界をまたいだとしても、異界との境界見える。今回は異界のど真ん中にいるような雰囲気である。
(何かに投げ飛ばされたのでしょうか? それとも異界の方がやってきたのでしょうか?)
 みなもは周囲を見る。
 色がなく、白黒に見える。いや、白黒に見えるが、空も黒いグラデーションであり、光がないだけのようにも見える。
 大風が吹き、ススキの穂を鳴らす。みなもの制服を、髪を揺らした。
(これは……壮大です……でも、早く出ないといけないです)
 境界を意識しようとするが、全く見えない。
 みなもは愕然とする。
(どうしたらいいのでしょうか?)
 風に揺れるススキを見る。ススキ以外に何もないのだろうか? 水があれば脱出の手助けになるのではないかと期待したが、それも感じられない。
 ススキの間を何かが移動していく。
 それは害をなす存在か、それとも友好的なのかという点は重要であり、手がかりであった。
「あ、あの」
 声をかける。
 それは立ち止まった。
『おーや、おや? 面白いのがおるのお?』
 見事な白髪の、若い女だ。服装は花魁と言うものだろうか。
『ここでその姿は無粋よえ? まあまあ、世界はうぬを消し去るよ』
「待ってください!」
 そこには美女はおらず、一匹の白い狐がたたずむ。
「ケケケーーーン」
 キツネは鳴き声を残し立ち去った。
 キツネの鳴き声であったが「すすきがはらの住民が増えるのじゃ」と言い笑ったように、みなもには聞こえたのだ。
「まさか……キツネしかいないからあたしもキツネになるとか……そんなわけありません。それより、実は、観光地のすすきがはらかもしれません。わかっています、それは現実逃避ですよね」
 彷徨う異界「すすきがはら」。
 現世と背中合わせの異界の中で、移動する物があるとはいう。それは「場所」や「建物」などであるにもかかわらず移動し、人を惑わせる。取り込む、そして飲み込む。
「う、ううぐっ」
 全身の毛が総毛立つ――比喩ではなく、静電気に動かされるような、何か異変を覚えた。
 周囲への警戒は怠らず、自分で自分を抱くように縮こまる。
 キツネがびょこびょこと通り過ぎる。それらの多くはみなもを見ない、気にしない。
 時々、ちらりと見て首をかしげるものもなくはない。声をかけるものはない。そのキツネの表情がにんまりと笑った。
「な、なに?」
 みなもは震える体を押さえる。
 耳が引っ張られるような痛みを覚える。手で触れると伝わるのは毛の生えた大きな耳の感触。
「う……落ち着こう……」
 かつて変身はしたことがあるのだから慌てる必要はないが、ここが彷徨う異界であるというのが引っかかる。
 抜け出せるのか、抜け出せずどこかに運ばれてしまうのではないかと言う恐怖がある。
 しかし、体の変化により痛みが走り、思考が中断した。体を「く」の字に折る。
 尾てい骨あたりがうずく。みなもは視界の端に尻尾の姿を確認した。徐々に脚や体も角度が変わる。
 立っていられない状況になり、手を地面につく。地面についた手が否応なくみなもの目に入る。
 毛が生え、爪が見える。きっと手の内側は肉球になっているに違いない。確認をする余裕はまだなかった。
 視界が変わる。鼻が伸び、前に突き出る。
「う、うわああ」
 悲鳴があがる。変身に痛みがつきものと言う話もあるが、まさにそれだった。
「う、く……はあ、はあ」
 暫くすると、みなもは痛みを感じなくなった。
『つまり、変身は収まったのですね』
 独り言をつぶやいた。しかし、耳に届いた声は、狐のそれだった。
『え、ええ! ま、まあ、変身するとそういうこともありますよね』
 声帯も変わればその通り、と冷静に考える。
 意識は別であり、みなもはみなもだと言い聞かせる。非常に重要なことである、自我を保つことは。

 ススキが揺れる。
 みなもの毛も揺れる、ひげも揺れる。
 人間の姿であるときより、敏感に風を感じる。

『何もなければ、気持ちいいです』
 ほっと一息つき、目を細める。

 風が吹くと、隠れているキツネが見えた。
 それらは新しい仲間を見ると小躍りするようにみなもの回りを走った。二周くらい回った後、それらは走り去っていく。
『あ、待ってください』
 みなもは声をかけた。それらは足を止め、振り返り、尻尾を振る。まるで「早くおいで」と言っているようだった。この辺りにキツネしかいないのは明白だ。
 みなもは追いかける。
 四肢を使って走るのに違和感がない。むしろ、爽快感があった。
 キツネたちはみなもが追いつく寸前で走り出す。
『一人にしないでください』
 みなもは誰もいない野原が心細くなる。仲間がいるならば一緒にいたい。
 仲間?
 みなもは一瞬困惑をして足を止める。
(仲間って? あたしは海原・みなもです……人間です、人魚とのハーフで……)
 目の前のキツネたちが足を止め、みなもを見つめる。首を傾げた後、走り出す。
 風が吹き、ススキが揺れる。
 誰もいないススキの野が広がる世界。
(キツネたちがいなくなると……あたしは独りです。でも、ここはきっと……)
 彷徨う異界「すすきがはら」であるとすれば、居座るのも問題だ。異界に手放してもらないとならない。
 だから走らないといけない、仲間の追いつくために。

 仲間、仲間、キツネは仲間。ここはすすきがはら、キツネたちの居場所。
(だからあたしもキツネ。おかしいことは何一つもありません)
 みなもは納得しているが、一方で「違う」とも思う。

 走る、走る、走る……。
 戻りたい、戻りたい、戻りたい……どこへ?

 みなもは走り出し、キツネたちを探していると湖が見えた。
 キツネたちは水を飲んでいる。みなもも水を飲もうとした。
 前に体を傾げたとき、みなもの足が滑り水の中に落ちた。陸地に上がりたいともがくが、なかなかうまくいかない。むしろ、陸地が遠のいていくようだった。

 怖い、怖い……怖くはない、怖くない……。

 みなもは気付くと町の中にいた。
『ここは?』
 夢でも見ていたように霞がかかる頭が徐々にはっきりしてくる。己の体勢や鏡に映る姿で状況を理解した。
 姿が戻るように念じるが、難しいようだった。異界が消えたのになぜだろうと不安になる。

 みなもはおとなしくしておくこととした、水が治してくれるはずだから。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生
????/白狐/女?/数えたことはない/キツネ

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご指名、ありがとうございます。
 このようなところにいるキツネならばただのキツネぽいのから天狐とか九尾とかいるかもしれない……化けました。
 書き終わった後、ああすればよかった、とか思うあたりが恐ろしいです。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年12月15日

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