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『盛夏覚醒者五番勝負! 』
銀 真白ka4128)&クレール・ディンセルフka0586)&ミィリアka2689)&本多 七葵ka4740)&牡丹ka4816

「皆々、よく参られた。こうして今年も面と向かって会えることをうれしく思う」
 ミンミン蝉が季節を告げる道場で、銀 真白(ka4128)の威厳と落ち着きを持ちながらも風鈴のように澄んだ声が響いていた。
「お招きいただいて感謝するわ。しかし、リゼリオにもこんな場所があったのね」
 武人らしく一礼して応えた牡丹(ka4816)は、鞘入りの太刀を小脇に抱えながら、ため息交じりに場内を見渡した。
 純和風な作りの道場は、一見、西洋文化圏であるリゼリオには不釣り合いにも見えた。
 しかし近年リアルブルーからの纏まった人数の転移や、東方や北方との交流再開などがあり、ソサエティの存在から必然的にその交流拠点の役割を担うこととなるここリゼリオでは、急激な多文化都市の流れが押し寄せている。
 それを柔軟に受け入れて1つの街として成り立たせているのはすごい所であるが、それはひとえに住人の中の多くを占めるハンターの存在によるところが大きいだろう。
「確かに、俺たちエトファリカの人間にもずいぶん過ごしやすい街になったもんだ。あっちの味が恋しくなっても、探せば店があるんだからな」
「こっちの文化が長い私たちにとっては、新しいものの発見ばかりですけどね。ほんと、それこそ刀の精錬方法なんかほとんど変態じみてて――」
 腕を組んで肩を伸ばしながらしみじみとつぶやいた七葵(ka4740)の言葉に、クレール・ディンセルフ(ka0586)は意気揚々と語りながらも、油差しと使い込まれたなめし皮の布巾を手に魔導機器の調整に余念がない。
「――っていうことなんだけど、どう思うかなぁみーちゃん?」
「へ? え? あ、えーっと、すごいんじゃないかな!?」
 そんな彼女に不意に話題を振られて、柔軟運動に没頭していたミィリア(ka2689)は、目を白黒させながら「ござる」口調も忘れて声をうわずらせていた。
「発見という意味では、あたしたちだって同じよ。閉ざされた世界で生きていた分、世界はこれだけ広かったんだって、常々思い知らされるわ」
「そうだな。世界は広い――そして戦地も広い。だからこそ、日々の鍛錬が明日の生死を左右するものだ」
「そういうことっ。だからこそ今日は、お相手お願いするでござる!」
 ぴょんと飛び起きたミィリアに、真白と牡丹は僅かに頬をほころばせるも、すぐに心頭滅却するがごとく瞼を閉じて、不敵の佇まいで一堂に会した。
「取り決めは以前と同じ、『何でもあり』ってことでいいんだな?」
 七葵がコキリと首の節を鳴らしながら念を押すように訪ねると、真白はそのままの様子で静かに頷く。
 すると、クレールは何とも言えない表情で、眉を眉間に寄せて唸った。
「うう……そうして貰えないとまともにお相手できないながら、改めて念を押されると少し竦んじゃうね」
 それでも分解していたパーツをカチリと巨大な魔導剣へはめ込むと、試運転にブォンとひと吹き唸りを上げる。
「面白い。やはり武芸ものばかりでなく、そういう相手もいなければ、実践的な訓練とは言い難いわね」
 瞑想を終えて、一呼吸おいた牡丹の声。
 夏の熱さにどこか項垂れていた表情も、纏う空気さえも、今は凛と落ち着いて見える。
「去年は想定外の術の応酬に手を焼いたからな。今年はそうはいかないつもりだ」
「私こそ、今年も胸を借りるつもりで全力投球です!」
 それぞれがそれぞれに、自分へ向けて喝を入れる七葵とクレール。
 そして、機を見計らうようにして、真白がそっと右手を天へ向けて掲げた。
「それでは――各々がた、準備は良いか?」
 彼女の言葉に道場の空気がピリッと張り詰める。
 獲物を手中に、ある者は腰を落とし、ある者は前傾に構え、ある者はどっしりと床板を踏みしめる。
 開け放たれた窓から吹き込む盛夏の湿った空気が肌の間を抜けて、じっとりとした汗が喉元を濡らした。

 ――はじめっ!
 
 高らかな宣言と共に、五者五様に戦況は動く。
 ひとまず後方へステップを踏んだ真白と七葵と裏腹に、向かい合った真正面に飛び込んだのはミィリアと牡丹。
 同時にそれぞれ背中と腰に備えた太刀の鯉口を切って、柄に添えた右手に力が籠る。
 先に刃を抜き放ったのはミィリア。
 背丈の倍はゆうにある大太刀を抜くには片手ではこと足りず、獲物に飛び掛かる直前の猫のように大きく身を丸めて前傾になりながらも、両手で握りしめたそれを一息で鞘から走らせた。
「“先手必勝”先に打った方が勝つべし――でござるッ!」
 大きく一歩を踏みしめて、抜きながらの袈裟切りが號と音を鳴らす。
 天井すれすれの刃が熱っぽい空気を切り裂いて、牡丹の頭上に迫った。
 彼女はひらりと花弁が揺れるように身を逸らすと、抜きすがらの刃を大太刀の軌道に添えて、その刀身に滑らせるようにして一撃必壊の初太刀をいなす。
 そのまま勢いでミィリアの懐へと飛び込むと、抜き放った刃を胸の正中目がけて閃かせた。
「試合とはいえ、文字通りの真剣勝負。お互い明日を憂う身であるからこそ、果たせる時に決着を!」
「言われるまでもないでござる!」
 迫る刃に、ミィリアはそのまま真正面から飛び込んだ。
 転がるようにして身を丸めると、背中の鈍重な鞘が鋭い太刀筋を受け止める。
 それから長大な太刀で足元を薙ぐように旋回すると、牡丹もまた飛び上がってそれを躱した。
 天と地から視線があって、ミィリアはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「だけども、ここはさながら戦場っ。周りも忘れちゃダメでござるよ!」
「えっ――」
 不意に側面からものすごい熱量を感じ、牡丹は思わず目を見開いた。
「紋章剣――炎竜ッ!」
 試合開始と共に、“攻める”でも“引く”でもなく“動かなかった”鍛冶師クレールの炎刃が、眼前で競り合う2人へと迫る。
 ミィリアはそのままべたりと地面に身を投げ出してやり過ごしたが、空中の牡丹は避けるにも避けられず、刀身へ左手を添えて受けきる。
 それでも膨大なエネルギーをぶち当てるその一撃に彼女の身体は軽々弾き飛ばされて、壁際まで押しやられていた。
「みーちゃんには感付かれてたかぁ」
「そりゃ、付き合い長いから……でござるよ」
 特製の“カリスマリス”に炎の残滓をたなびかせながら苦笑するクレールだったが、不意に頭上に影が差して、背中に背負った魔導大剣を盾代わりに抜き放つ。
 直後に鈍い音が響いて、頭上から迫った七葵の刀がその重厚な刀身を撫でつけた。
「反応されるとは驚いた。あれからずいぶん場数を踏んだな?」
「私だって、戦士ですか……らっ!」
 魔導剣がマテリアル光と共に唸りを上げて、刀身に備えられた噴出機構が一斉に作動する。
 静の状態からノーモーションで動へと転じた一振りに、七葵は思わぬ重圧を柄ごしに感じ取った。
「七葵殿がクレール殿と相対するなら、私はミィリア殿のお相手をしよう」
「うわっと!?」
 視界に現れた上段の一刀に、ミィリアはごろごろ床板の上を転がってからぴょこりと立ち上がる。
 大太刀を真正面へと構えなおすと、同じく正眼に刃を構える真白と視線がぶつかった。
「リアルブルー式の刀術、とくと拝見させていただく!」
 切り上げ、袈裟、横薙ぎ。
 小柄な彼女でも取り回しやすいサイズの光斬刀は、美しい光の軌跡を描きながら矢継ぎ早にミィリアを攻め立てる。
「どちらかと言えば我流なんだけど……でも、遅れを取る気はないよっ!」
 柄を天に切っ先を地に、何度か剣閃を弾くように受ける彼女だったが、真白が踏み込みのために後ろ足へ重心を移した一瞬の隙をみて、逆にこちらが大きく距離を引く。
「むっ……!」
 不穏な動きに、不用意に前に出かけた身体をさばいて踏みとどまる真白。
 その僅かな硬直を見逃すミィリアではない。
「喰らえ、ミィリアの女子力――ッ!」
 床板を踏み抜かんばかりの踏み込みで、足先から腰、背中、肩を通って腕、柄を握る指の先まで。
 全身のバネというバネを通じて伝わる女子力(パワー)が、ミリほどもない斬魔刀の切っ先その一点へ集約し、舞い散る桜吹雪を纏いながら解き放たれる。
 それはさながら騎馬兵のチャージ、ライフルの弾丸、攻城兵器(バリスタ)。
 その実は、ひたすら真っすぐで全力な突き。
 初速から最高速のその一撃を気付いてから避ける術はなく、いなそうと刀身を寝かせるも、それも愚策であったと後に真白は反省する。
 膨大な質量を持ったその化物刀の先に触れたその瞬間、魔導トラックにはねられたかのような衝撃が彼女の細体を吹き飛ばしていた。
「くぅっ!」
「うわぁっ!?」
「何っ!?」
 宙を舞った真白の身体は、七葵と競り合うクレールに背中からぶちあたる。
 どんがらがっしゃんと、リアルブルーの絵巻物ならそう書かれそうな派手な音と共に、3人くんずほぐれつ折り重なって崩れ落ちていた。
「みーちゃん、やり過ぎだよ〜!」
「わっ、申し訳ないでござるっ」
 2人の下敷きになって諸手を上げて抗議するクレールへ、ミィリアは慌てて頭を下げた。
 そんな様子もつかの間、風切り音が耳元に迫って彼女は反射的に身をのけ反らせる。
 直後に、ほんの今まで自分の頭があった位置を、牡丹の太刀が桜花の幻影ごと切り裂いていた。
「さっきのはちょっと油断しただけよっ! いざ、尋常に!」
「わー。牡丹のそういうところは、ミィリアとっても尊敬してるでござるよ」
「問答無用ぉぉぉおおお!!!」
 雄たけびと共に疾風のごとき突きの連打がミィリアを襲う。
 どこまでも真っすぐなのは、牡丹もまた同じだった。
「大丈夫か?」
「うぅ、かたじけない」
 七葵の手を取って、真白はぐわんぐわんする頭を振りながら立ち上がる。
「すみません、助かります……」
 同じようにクレールの手も取って、三者散開。
 仕切り直し。
「みーちゃん、よくもやったな〜!」
 振り上げたバーストブレードを牡丹の猛攻を凌ぐミィリア目がけて振り下ろすと、彼女は大太刀を頭上に掲げてしゃがみ込んで、魔導大剣と太刀の両者を受け止める。
「ふ、不可抗力でござるよっ!?」
「それはそれ、これはこれっ」
 受け止められた大剣からぱっと手を放して、クレールは携えたカリスマリスを握り締める。
 手のひら越しに彼女のマテリアルが注ぎ込まれて、備えられた鉱物マテリアルに月の意匠が輝く。
「紋章剣――月雫!」
 意匠は魔導機関のように激しく回転しながら3本の光の刃を成し、眼前の2人へと突き伸びた。
 ミィリアは身じろぎせずに真正面からそれを受け止める中で、牡丹は半身開いた体さばきでそれをやり過ごす。
「姿無き刃……それでも剣を宿すなら、あんたも確かに剣士だわ」
 そのままダンスでも踊るかのように軸足を起点にくるりと身を反転させ、あっという間にクレールの背側面を取る。
 無論侮っていたわけではないが、「剣士」であることを認識したなら彼女の中での意識は変わる。
 世界に名をはせる剣豪となるためには、あらゆる「剣士」に勝たなければならないのだから。
 完全な死角から閃く彼女の剣閃、しかし今度は「質量ある」光の刃がそれを遮った。
 白雪が、彼女の視界にちらつく。
「横槍御免。転じて、お相手を!」
 鍔で競り合う状況に、真白は飛び込んだ勢いのまま牡丹の胸へ体当たると、よろけて空いたその間合いへ息もつかずに踏み込む。
「好都合! いずれあんたとも差を付けなきゃいけないのだもの」
「それは私も同じこと。武の道を進むなら、いずれ相対するのは道理」
「だったら、今こうして相見えた好機を――」
「――思う存分、ものにするまで!」
 小柄だからこその俊敏な足さばきで攻めに攻める真白を、牡丹も引きの姿勢でこそあるものの、はらり散る木の葉のようにふわりひらりと最小限の身開きで躱していく。
 それでも次第に壁際まで追いやられた時、彼女の覚悟は定まった。
 ほんの一太刀、切っ先で真白のそれを捉えると、手首の回転で巻き込むように剣先を天へと弾く。
 諸手で握った太刀を渾身の力で振り下ろした正中唐竹割。
 真白は刀身を寝かせてそれをいなそうとするが、頭上から迫るその勢いを、狙いを、逸らすことができない。
 もとより、牡丹の道場剣術というのは気剣体によって成されるもの。
 気――すなわち、相手を斬る決意を秘め。
 剣――すなわち、刀の特性を知り。
 体――すなわち、それを扱う身体さばきを会得する。
 それらがすべて合致して、初めて“技”は完成する。
 型の教えによる剣術は単調で時に読みやすく、実戦の中で生きて来た者達にとっては舞踊のように見えることもあるかもしれない。
 だが、日々同じ型を何百回も、何千回も、何万回も反復して振り続けるその剣には絶対的な“自信”が宿る。
 咄嗟の判断――その場その場での最善を辿る実践剣術とはまた違う、同じ機会、同じ状況の反復修練によってのみ身につく、一切の迷いのない「必殺」がそこにはあるのだ。
 気合いと共に叩きこまれた一撃に、受け止めることしかできなかった真白は思わず膝をつく。
 なおもじりじりと押し込まれ、もはや押しつぶされないように全身で耐えるのがやっと。
 しかし「やられるか」――その、ここ一番の死線に立てば花開くのが実践剣術だ。
 押しつぶされるのを覚悟して、諸手で支えていた光斬刀から右手を話す。
 パワーバランスが崩れ、牡丹の太刀が眼前に迫るその瞬間に、真白の右手は壁に掛けられていた練習用の槍棒を握り締めていた。
 横薙ぎに振るった槍の柄が、牡丹の足元を掬う。
「!?」
 想定外の足払いに、牡丹は尻餅をつきながらも上手いこと受け身を取って体制を立て直した。
 その間に真白は弾かれたようにその場を離れて、両者、一足一刀の間合いから距離を置いて見つめ合う。
「せいやぁぁぁぁぁ!!!」
 そんな二人の間を桜吹雪が吹き抜けて、それぞれ咄嗟に刀身で身を護った。
 目のくらむなかで垣間見えたのは先ほどの女子力一本突きを放つミィリアと、それを魔導大剣の分厚い腹で受け止めながらも一直線にここまで押し込まれているクレールの姿。
「みーちゃん、相変わらずの女子力……!」
「お褒めの言葉、ありがとうでござる!」
 不敵に笑い合う2人だったが、どこか各々言葉の節に皮肉が込められているような気がしてならない。
「油断大敵だ、真白殿」
「七葵殿っ!」
 突然の乱入者に気を取られていた真白に迫る七葵の電光石火の一閃。
 彼女はそれに応じるように手にした槍棒を突き出すと、七葵は足払いで綿布に包まれた穂先を蹴り上げ、振り抜いた刀で伸びた柄を叩ききる。
「隙ありっでござるよ!」
 動後の硬直を狙って、横薙ぎ旋風、ミィリアの大太刀が七葵を捉える。
 彼はその一撃を避けるでもいなすでもなく真正面から受け止めると、そのまま床を蹴って大太刀の勢いに身を任せた。
 吹き飛ばされるようにして彼の身体が宙を飛ぶ。
 そのまま人ならざる速さで牡丹の眼前まで一気に距離を詰めると、疾風のひと突きが放たれる。
「……鋭いっ!」
 牡丹は床板の上を滑るようにしてやり過ごすと、返しの刃を突き上げるが、それも七葵の小手で弾かれた。
 彼はそのままの体勢で身を捻ると、風車のごとく勢いの乗った蹴りが牡丹の背中を強打する。
 そして、肺を圧迫されてむせ返る彼女の首筋をさらに柄で追い撃った。
「そう簡単には……っ!」
 涙目で床を転がりそれを躱す牡丹。
 入れ違いに踏み込んだ真白が滞空する七葵に肩から飛び込んで、その身ともども崩れ落ちていた。
「チャンス到来っ!」
 折り重なる2人の頭上に雄々しく影を落とす大太刀とミィリアの笑顔。
 それも、その表情を照らした炎の刃の接近であわや飛び退くことになる。
「よそ見はダメだよ!」
 クレールが振り抜いた炎剣の代わりに魔導大剣を掴むと、刀身から噴き出すマテリアルの勢いで飛ぶように間合いを詰める。
 分厚い鉄板にハンマーを打ち込む時さがなら、上半身のひねりを乗せて穿ったそれをミィリアは背負った鞘で受け止めて見せるが、のしかかる一撃に流石に膝を折る。
「ファイトぉぉぉ、いっぱぁぁぁつ!」
 しかし謎の掛け声と共に持ちこたえた彼女は、振り回した大太刀で強引に魔導大剣を弾くと、返しの刃が唸りをあげた。
 クレールは迫る斬魔刀を前に弾かれた魔導大剣を投げ捨てると、握り締めたカリスマリスの石突にさらに手を添えて、真正面からミィリアの小さな懐へと飛び込む。
 振り下ろされた大太刀がブレストメイルを直撃して、身の芯に染みるような衝撃が全身を伝う。
 それでも歯を食いしばって石突にもう片方の手も添えて力を込めると、残った力で水月へと押し当てた。
「紋章剣――太陽……っ!」
「うわっ……!?」
 魔導の鍔から伸びた光の剣が、ミィリアの身体を弾き飛ばすように一直線に貫いた。
 傷も痛みも感じさせないその刃は、しかしながら内側から四肢を蝕むようにクレールのマテリアルを身体中へと駆け巡らせる。
「うう……まさかミィリアの太刀を避けないなんて」
「ど、どんなもんだ……私もたまには“女子力”発揮してかなきゃと思ってね」
 マテリアルの反作用で動きの鈍ったミィリアの前で、クレールはニッカリと笑みを作ってみせるものの、すぐに全身から粒のような汗を拭き出して、晴れ晴れとした表情でべしゃりと床に身を投げた。
「あ〜、もう動けない!」
「こちらも、一本ありだな」
 肩にぺたりと七葵の刀身がおかれて、ミィリアも頬を膨らませながら小さく項垂れる。
「むぅ、悔しいでござる……」
 その様子を見て、真白も額にうっすら浮かんだ汗を手の甲で拭いながら、ふっと緊張を解いて笑顔を見せた。
「ふぅ、今日はここまでだな。実によい稽古だった」
「ちょっと、あたしはまだまだやれるわよ」
「真白も牡丹もお互い負けを認めないだろうから、勝負がつかないとおもうなぁ……でござるよ」
「うっ、それは……」
 ミィリアの一言にドキリと視線を泳がせる牡丹。
 名前が挙がって真白も苦笑していると、七葵がうんと背を伸ばしながら口を開いた。
「そういえば、知り合いから西瓜を貰って来たんだ。水に冷やしてあるから、水分補給がてらどうだ?」
「西瓜? わぁ、ありがとうございます!」
 ぐったりしていたクレールは、その申し出にひょいと身を起こして目を輝かせた。
「西瓜……そう言えば、リアルブルーには西瓜割りとかいう催事があるって聞いたことがあるでござる。なんでも視界を手ぬぐいで覆い、心眼で西瓜を捉え、一刀のもとに両断し、その太刀筋を競い合うのだとか……?」
「……へぇ?」
 どこかから聞きかじって来たのだろう、ミィリアのリアルブルー座学。
 その「競い合う」という言葉に、牡丹の目の色が僅かに変わる。
「心眼を会得するとは……リアルブルーの剣術も侮りがたいな。せっかく西瓜があるのなら、これも稽古のうちになるか?」
「確かに、面と向かって戦う以外にも得られる修行は沢山あるわ」
 うんと首を捻った真白だったが、道場育ちの牡丹が逸る気持ちで後押しすると、納得したようにこくりと頷いた。
「だけど『競い合う』んだろ?」
 言葉の綾を取るようだったが、七葵の懸念ももっともだった。
 ミィリアの説明の通りをとるならば、西瓜を割り合わなければならないということ。
 そこで皆ピンと来たのか、はっと何かに思い至ると互いに顔を見合わせる。
 そしてその答えを代弁するように、クレールがひとつ声高らかに宣言する。
「良いじゃないですか。そういうことなら――」
 それに続いて、5人の声が重なり合って道場に響く。
 それはひと汗流した後の溌剌とした活気に溢れた、夏の熱さにも負けない気持ちの表れだった。
 
 ――もうひと勝負!
 
 
 
 
 
 ――了。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4128 / 銀 真白 / 女性 / 16歳 / 闘狩人】
【ka2689 / ミィリア / 女性 / 12歳 / 闘狩人】
【ka4740 / 七葵 / 男性 / 17歳 / 舞刀士】
【ka4816 / 牡丹 / 女性 / 17歳 / 舞刀士】
【ka0586 / クレール・ディンセルフ / 女性 / 21歳 / 機導師】
■イベントシチュエーションノベル■ -
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ファナティックブラッド
2017年12月15日

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