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『どこかの誰かさんの為に 〜ねばーえんでぃんぐぶれいんすとーみんぐ〜 』
清水・コータ4778)&橘・沙羅(6232)&橘・エル(6236)

「…ってエルさん何の話それ」

 とまぁ、殆ど反射的に訊き返してしまう。

 何だかんだで付き合いの長い橘姉妹――と言うか主に姉こと橘エルの方――から「その話」を持ち掛けられた時点の清水コータの反応としてはまずそれ。正直、聞かなかった事にしたいって言うかそもそも何故そんな面倒そうな事をわざわざ企画しようと思うのかと言うか何故そこでわざわざ自分まで巻き込まれるのかと言うか…とにかく諸々あんまり乗り気にはなれない感じだった。

 いやまぁ、確かに自分は便利屋で、何処かの誰かさんが営む斡旋業と銘打った諸々の騒ぎにもよく巻き込まれたり、意外と普通に仕事を請け負ったり、職場の冷蔵庫共用させてもらってプリン入れといたり等々と何だかんだで雇用関係を基とした付き合いはあるし…ある意味で認めたくはない気がしないでもないが、取り敢えず彼らとは身が近い、と言える立場ではある。

 つまり、持ち掛けられた「その話」については――あんまり乗り気にはなれないが、断る気にもなれない、と言った辺りのあまりやる気のない着地点に落ち着く訳である。
 いやまぁそれ以前にこの姉の方は、人を巻き込む際に多少問答無用なところもあるが。…あー、それこそ彼女が主と尊敬(と言うかいっそ崇拝)する何処かの誰かさんの薫陶なのかもしれないが。

 とまぁ何だかんだで、話が持ち掛けられた時点でコータとしては断る選択肢は消える訳である。それは勿論、はっきり嫌だと言う訳ではないが…なんだろう。渋々、ともなんか違うし…この感情をどう纏めるべきか凄く困る。困るが――困っている間にも持ち掛けられた当の話は当たり前のように進められている。…コータが「その話」に乗ってくれる、と言う事を当たり前のように前提としつつ、当のコータを置いてけぼりにして話は進む。
 ある意味いつもの事である。

 で、そもそも何の話なのかと言えば。

「尊敬する主様に喜んでもらう為に、イベントを企画しようと思っておりますの」

 …との事である。



 因みに、言い出した発案者も当の橘エルの方らしかった。…一昔二昔前のその筋な英国お貴族様の女家庭教師と言うか何と言うかそんな感じの洋風な風体で、分厚い本がいつもその片手にあったり――気が付くと何処からともなく取り出したティーセット一式で茶を淹れては嗜んでいたりする少々エキセントリックかもしれない一見普通に優しげなおねえさま。そして何故か丸眼鏡の下の瞳は光の加減でかいつも見えない。…いや目の表情がわからないと怖い事も結構あるんだが。…主に持ち掛けられた話をどう判断するべきかと言う辺りの事情で。
 何にしても当の「この話」、別に当の「主様」からの傍若無人な無茶振り――もとい依頼と言う訳ではないらしいとの事でコータとしては多少ほっとした。で、成り行きとしてはエル自身の妹である橘沙羅がまずエルから話を振られ――沙羅の方も沙羅の方で当の「喜ばせたい人」とやらに含むところがない訳ではないらしいが――まぁ当の喜ばせたい人を喜ばせる事自体に不満はないので、一応、普通に賛成。そして、どうせやるなら本当に楽しんでもらいたいです、と言う、そこだけ聞くなら至極真っ当な言い分に聞こえる流れで――だからお兄さんことコータの元に相談に行こう、とこれまた自然の流れの如く決まったのだとか。

 コータとしては何故そこでそう話が纏まるのかが果てしなくわからない。そして何故自分が彼女らから兄と呼ばれているのかも相変わらずよくわからない。…つまり自分が彼女らから兄と慕われていると言う事になるのだろうか?と表面上一番普通そうな可能性を当て嵌め考えるだけ考えてはみるが、改めて互いの関係性やら直接顔を合わせた時のやりとりやらを幾ら思い返してみても、何だかあまりそんな気はしないので――二人がコータを呼ぶ「兄」発言の意図はやっぱり良くわからない。

 ともあれ、そんな感じで二人から唐突とも言える謎の相談をされているのが今の状況。

「…そんな藪から棒に「あの人」を喜ばせろと言われても」
「ええ、お兄様の方で何かいいイベント案はありませんかしら」
 にっこりと淑やかな笑顔で臆面もなくエルちゃんが振って来る。…但し眼鏡の下の目がやっぱり見えないのでどう反応したものかと正直迷う。…て言うか実際、話の本題としても本当に何をどうしたら。
 と。
「お兄さんなら何か良い案が思い付くんじゃないかって思ったんです」

 …。

 今度は信頼の眼差しと共に投げられたその科白。眼差しと言う形容の通りに今度はエルりんじゃなくて沙羅ちゃんの方――橘姉妹の妹の方こと赤髪ニンジャちゃんがそんな風に言って来る。何その沙羅さんの根拠のない全幅の信頼。て言うかそんなところで信頼されても困る。でも信頼されたからには何か答えなきゃなぁと多少お人好しな気にもなり、コータはうーんと唸りつつ腕組みして空――と言うかその場の天井を見上げて考える。考えるがあまり本気で頭が回転している気がしない。碌な考えが浮かばない。
「そうだなぁ…なんかさ、ほらあれ、吹き戻し。だっけ? あれ渡しとけばいいじゃん。きっと一人で十時間くらい遊んでいるって」
「あ、確かにそれありそう。です」
「でしょ? そんな頑張ってイベントー、とか企画しなくてもさぁ」
「否定は致しませんが…それではわたくしの気が済みませんわ。もっと他にも何か素敵な事を考えて下さいませんかしら?」
 そう、もっときちんと確りはっきり派手にイベントになるような事を! とエルさんはのほほんと力説。いや、多分力一杯力説してるんだろうが口調のせいか何なのかどうにも発破を掛けられている気がしない。
 結果、コータとしてはやっぱりやる気は出ない。…いや、アレを特に喜ばせたいとも思わんし。て言うかアレは日々勝手に色々喜んでるし。好き放題色々な事に興味持って勝手に面白がって勝手に何でもやっている。つまらないと思えばつまらなくなくなるように勝手に何か始めるし。わざわざ横からお膳立てする必要ないような…特に出る幕ないって言うか。
 …そうだよ別に何も改めてする事なくね?
「ですからそれではわたくしの気が済まないのですわ!」
「…なんで?」
 素朴な疑問。
「それは勿論、主様には日々お世話になっているのですから、感謝の気持ちを何処かで表す事をしなければならないと使命感に駆られるのはごく自然な事でしょう?」

「…」

 ごめん、なんか、同意できない。
 …確かに「あの人」には世話になってる事はなってるけどその逆、こちらが「あの人」の世話をしている件も合わせて考えたなら充分相殺できている。と言うかむしろこちらが感謝されていいレベルで世話をしているような気がしないでもない。
 沙羅の方でもそう思ったのか、エルへの同意の返事は上がらない――で、返事を返す代わりにやや濁すようにして、別の案をひょいと挙げて来た。
「…えぇと、何なら時期のイベントに乗っかっちゃっていいような気もしますけど」
「おー、そーだよそーだよその通り。今だったらハロウィンとかクリスマスとかお正月とかそれっぽい手頃なの控えてるじゃん」
「ですよね? ハロウィンもクリスマスもお正月も、どれも趣向を凝らして色々考えられそうですし」
 仮装にかこつけてサプライズ!とか。
 クリスマスのプレゼントにかこつけてサプライズ!とか。
 餅つきとか凧揚げ、羽子板の類でサプライズ!とか。
 うん、と頷き自分の中で考え込みつつ、沙羅はそんな風に挙げて来る。結構真面目に考えての発言らしい雰囲気はあるが…コータにしてみればそこには再び素朴な疑問が。
「…ところで何で喜ばせるのにサプライズ必須?」
 驚かせる=喜ぶってのもそりゃあるけど、何か今の言い方だとサプライズにこそ拘ってるよーな。
「えっ…ほら、あの人頑丈だし大抵の事は楽しんでくれるから、ちょっと無茶なサプライズ仕掛けてみてもいいんじゃないのかなって…この際だし」
「…。…あーまぁ何となく言いたい事はわかった」
 つまり「喜ばせる」目的ではありつつ、「なけなしの意趣返し」込みでちょっとヒドい事仕掛けちゃえ的な。
「わかってくれましたか。じゃあお兄さんは具体的に何かいい案ありますか? 例えばプレゼントの中身に仕掛けるトラップとかだったら、火薬の量とかどのくらいが最適だと思います? 結構派手にやっちゃっていいと思うんですけど」
「って火薬仕込むの?」
「火薬仕込まないと爆発しないじゃないですか」
「…。…プレゼント爆発させる気なんだ…」
「だってサプライズなんですよ? そのくらいしないと」
「いやそれサプライズはサプライズでも人が喜ぶ類のサプライズじゃないと思うけど」
 むしろ爆弾魔の所業と言うか。
「でも「あの人」だと面白がりそうだと思います。結果として喜びそう」
「…うん、まぁ、それも否定はできないよね」
 でもあの人、どんなサプライズ仕掛けてもむしろ最終的にこっちがあさっての方向にサプライズさせられるのが常な気がするんだけど。
「…。…それも否定できませんね…」
 何を想像したのか一拍置いて真っ青になりつつ、うーん、と再び考え込むアール嬢。
 そこに、ぱむ、とエルさんが両手を合わせる音が重なった。
「二人とも。お話がズレておりますわ。ハロウィンもクリスマスもお正月も、それはそれで別に確りと企画するべき素敵なイベントであって、今回のお話とは違います」
 今わたくしがアールとお兄様に相談を申し上げているこのイベント計画は、あくまでわたくしたちのあの方に対する感謝の気持ちから湧き出ずる特別なイベントの企画なのですわ。時期に基づく既存イベントに便乗ではどうしても特別感が薄れてしまいますでしょう? それでは足りませんわ!
 …と、またエル嬢はなんか力説。え、そういうもん? 駄目ですか? とコータと沙羅は軽く驚くが――何かエル的にこの方向では納得行かないらしい。
 となると、話はまたスタートラインに戻る。

「…じゃあやっぱり吹き戻しのアレで良くない?」
「ですからその他にも何か素敵な案を出して頂きたいのですわ!」
「…。…ってあれ? ひょっとして吹き戻しのアレ、採用されてる?」
「勿論ですわ。わたくしもこれは主様に喜んで頂けるおもちゃだと思いますもの。ほほほ」
「…いや本当に採用されるとは思ってなかったんだけど…まぁいいや。でもそれじゃ足りないって他どーすんの。その手のおもちゃが揃ってる民芸品店とか駄菓子屋とか繰り出して吹き戻しのアレに続く第二候補第三候補探すの? それともまた路線変えるべき? あ、バケツプリンとか俺的には魅惑的だけど」
「あ、それ私も食べたいかもです。「あの人」も喜ぶと思いますよ。…そうだ、わんこプリンで勝負、とかどうでしょう」
 わんこプリン。…つまりわんこそばのプリン版。
「うお、ホントにそれに決まったら俺がめちゃくちゃ嬉しいんだけど! プリンで勝負なんつったら負ける気しねーし」
「…お兄様。これはお兄様を喜ばせる企画の相談ではないのですけれど…」
「あ、腕尽くでプリンを取り合う勝負、ならお兄さんだけが有利じゃなく済みますよね?」
「…いやむしろそれ、俺が完全に不利になる気しかしないんだけど沙羅さん?」
「そうなれば「あの人」もお兄さんやり込められるのとプリン独り占めの相乗効果で楽しめるかも」
「え、なにその生き地獄」
「でもどうせなら私も食べたいですし、姉さんにも食べてほしいですし、何でもありのバトルロイヤルな感じにした方がいいかもしれませんか?」
「いや、そうしたら今度はニンジャスキルの持ち主な沙羅ちゃんが圧倒的有利じゃない?」
「え、なんでそうなるんですか。ニンジャスキルって大袈裟な」
「いいかげん自覚しようよ沙羅くん、キミの身体能力は常人離れしているのだと」
「何言ってるんですかお兄さん。あのくらい誰でも動けますよ」
「誰でもってまず俺無理だけど」
「そんな事ありませんて。お兄さんはやろうとしてないだけですよ。それより「あの人」の常人離れした怪力の方が圧倒的有利だと思いますし、何でもありならお兄さんのシーフスキルの方が私なんかより余程有利だと思うんですが」
「そうかなぁそんな事ないと思うんだけどなぁ…まぁ、何かしらのやりようもあるっちゃあるか。あいつその辺の経緯は滅茶苦茶になった方が喜びそうな気がするし」
「でしたらわたくしはそのバトルロイヤルを拝見しつつ、お茶の用意をしておりますわ」
「んじゃこれで決定…って事でいい訳?」
「ええ。素敵なイベントになりそうな案を頂けて。お兄様に相談して良かったですわ」
「…ところで要するにバトルロイヤルの景品がバケツプリンだかわんこプリンって事ですよね。予算は大丈夫なんですか姉さん」
 参加者(仮)の胃袋を考えると、たかがプリンと言えど用意するのに生半可な金額で済む気がしない。
「あら、それはお兄様が用意して下さるのですよね?」
「え、何で」
「だってお兄様ですもの」
「いやいやいやそこは言い出しっぺのエルお姉様が予算組む流れでしょうよ」
「ほほほ。…ここは雇用主たる主様に頼るべきところでしょうか」
「いやそれ色々本末転倒じゃない? …喜ばせたい当の相手に予算頼むって」
「つまり予算考えてないんですね…」
「ほほほほほ」
「いや笑って誤魔化そうとされても」
「…それじゃまず案より何より先立つものから考えないとじゃないですか。何か予算にしていいような資金のあてとか、あるんですか」
 姉さん、
「ほほほほほ」
「…。…全然ないって事なんですね」

 じゃあそもそも、イベント案を求めるこの相談自体色々無茶な話のような。

「あー、拾った宝くじでも当たってりゃそれで何とかするんだけどなー」
「あ、あの人、前ーに実際に拾った宝くじ当たってた事あったみたいですよね?」
「は? なにそれ? そんな幸運持ってる相手をわざわざ喜ばせる事に腐心するって俺たちどんだけお人好し…!」
「何を仰るんですかお兄様! 主様は幸運の上に幸運になって然るべき御方ですわ!」
「じゃあその幸運でまた宝くじ当ててもらえばいいんじゃない? それまで俺寝て待ってるから。プリンの夢見ながら」
「…それって結局予算は「あの人」頼りって事になるような…」
「では予算の掛からないイベント企画と言う事を前提に、改めて一から案を練り直しましょう!」
「えーまた一から計画って」
「だったら宝くじ待ちでいいと思いますよ」
「そんな訳には行きませんわ! 二人とももっとやる気になって頂きませんと!」
「えー」

 ってもう、エルちゃん希望のイベントとして話が纏まる気が全然しないんだけど。うん。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【4778/清水・コータ(しみず・-)/男/20歳/便利屋】
【6232/橘・沙羅(たちばな・しゃら)/女/18歳/斡旋業務手伝い兼護衛】
【6236/橘・エル(たちばな・-)/女/20歳/斡旋業職員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 御三方様にはいつもお世話になっております。こちらこそお久しぶりです。
 OMCリニュ後は初になりますが、今回は発注有難う御座いました。…発注、何とかなったようで何よりです。
 そしてお久しぶりにも関わらずまたもお渡しが遅くなってしまっております。
 大変お待たせ致しました。

 内容についてですが…結局ただひたすらだらだら話しているだけ、のような流れになりました。橘エル様以外あまりやる気がなかったと言う以上、実際の行動にも殴り合いにも発展しなさそうな気がしたので。また、発注日から起算するとまだ当日になってなかったので文中でハロウィンとかも候補のイベントに挙がっております。
 そして何故か清水コータ様効果(?)でプリンな流れになりました。
 更には何故か某美しい夢(仮)時の宝くじ小ネタが最後に出てくると言う…(つい)

 諸々合わせまして、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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東京怪談
2017年12月18日

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