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『黒い教え 』
黒の貴婦人・アルテミシア8883)&紫の花嫁・アリサ(8884)

 悪の言葉を吐くということを紫の花嫁・アリサ(8884)はしたことがなかった。
 勿論、愛する者を罵り、嘲ることを考えてこともなかった彼女は、それを行うことでどんな気持ちになるのかも勿論知らなかった。

 初めての悪い言葉は彼女に今まで味わったことのない程の高揚感と開放感を与えた。それは、黒の貴婦人・アルテミシア(8883)の力によるところが大きく、本来与えられる感覚とは違っていたが、アリサにはそういうものとして心に刻まれた。
 そして、女性同士の肌の触れ合いがとても官能的なものであるということも。

 それでも、愛する人々への言葉として相応しくないことを言っている自覚はある。
 愛しているからこそ、明日からまた彼らといつも通り過ごすために夢の中であるここで全て吐き出すのだ。
 そう思いたい。が、一度疑心に苛まれ始めた理性がそれを許さない。

『本当に愛していたのだろうか?嫌悪していたからこそ、酷い言葉が止まらないのではないか』

 嫌悪や嘲笑の言葉を吐きながらアリサは心の中で考えれば考えるほどそれが真実であるように感じる。

『こんなに気持ちがいいのはこの言葉が本心だからではないか』

 言葉を重ねれば重ねるだけアリサの心を表現しようのない気持ちよさが満たすのだ。
 愛情と嫌悪の間で揺れる天秤は嫌悪へと傾き始めていた。

「本当の気持ちを吐き出すのは気持ちいいでしょう?」

 アルテミシアが、辛かったのね。と優しく声をかけ、天秤を大きく揺らす。

「私の前でなら、いくらでも吐き出しなさい。彼らの前では……言えないわよね?」

 アリサが同意すると、アルテミシアは慈愛に満ちた笑みを深め続ける。

「本当の気持ちも言えないなんて。よほど抑圧されてきたのね。アリサがそうやって犠牲にして、……違うわよね。アリサに犠牲を強いて、その姿を眺めて喜んでいたんだもの」

 アリサの脳裏に、義理の両親や故郷の人々がアリサを哀れみに満ちた瞳で眺め嘲笑する姿がありありと思い起こされる。

「そうやって、自分より下の存在だとアリサを見下して自分たちの心を満たしていたんだわ。彼らがいなければアリサは幸せになれていたのに。彼らがアリサの幸せを自分の物にしていなければ」

 感情よりも先に理性がアルテミシアの言葉をその通りだと言った。
 そう思えば今まで自分が感じてきた辛さや悲しみ、苦しみは全て説明が付く。
 そう理性は判断したのだ。

「……っ」

 ぎりっ。

 膨れ上がった黒い感情のあまり歯のかち合う音がする。

『脆いものね』

 アルテミシアはほくそ笑む。

 どんな気高い信仰も、強固な理性も、強い快楽の前では無力だ。
 特にアリサの様に快楽を知らない者への効果は推して知るべしだろう。
 そうやって何人もの人間にアルテミシアの『教え』、七つの大罪を吹き込んできた。
 だからこそ目の前の聖女の表情を見れば、彼女がどんな心情なのか、どんな言葉をかければより深く堕とせるのか手に取るようにわかる。

 自分だけが犠牲を強いられ、その姿を嘲笑されてきた事は『憤怒』の、彼らの幸せが元々自分の物になるはずだった事は『嫉妬』の感情で彼女を蝕みその身に黒い憎悪の炎を灯したようだった。

 ただ、これは殆どすべてアルテミシアによって吹き込まれたもので事実ではない。アリサを惑わせ作った綻びへ毒を流し込んだ結果が、今のアリサなのだ。

「なんて気持ちの悪い人々なのでしょう……」

 黒い言葉は止まらない。
 泉の様にあふれ出るそれをただただ垂れ流すアリサの表情は日頃の聖女然としたそれとは真逆にも見える。

 アルテミシアは何も言わずにただその様子を眺めている。
 アリサの口から出た言葉は彼女の耳から再び自分の中に入り込み黒い炎に油を注ぎ続ける。
 愛情の皿に乗っていた重りは黒い炎に燃やされ、嫌悪の皿には彼女の黒い言葉と共にその灰が積もっていく。

 ―カタン―

 天秤が傾ききったのと、アルテミシアが立ち上がったのは同時だった。

「私ならアリサに幸せを与えてあげられるわ」

 甘く囁き、黒い感情で震えるアリサを抱き寄せる。

「こんなに震えて。もうそんな思いをする必要はないわよ。ここにいれば幸せを与えてあげる」

 こんな風に。そう言って施される口づけは砂糖菓子の様に甘く、ささくれだち冷え切ったアリサの心に幸福感と悦びを伴って染み込んでいく。

 触れ合う肌。

 アルテミシアに触れられた部分から身体が気持ちよさが広がり体が火照るような感覚をアリサは感じていた。
 それはとても幸せな気持ちへと彼女を誘っていく。

『この方といれば……』

 触れるだけではない口付けを進んで受け入れる事にも戸惑いはない。
 こんなにも幸福感を伴う事が悪いことであるはずがない。
 アリサの心にはそんな確信めいた思いがあった。

 そして、必然であるかのように、

『この幸せをもっと深く味わいたい』

 そんな気持ちに心が支配されていくのだった。

『さて、次は何を植え付けようかしら』

 一方のアルテミシアは、そんなことを考えながら深く深くアリサへと口づけていくのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見)/ 次なる『教え』は 】

【 8884 / 紫の花嫁・アリサ / 女性 / 24歳(外見)/ 黒い炎に焼かれ 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 アルテミシア様、アリサ様、度重なるご依頼ありがとうございます。

 今回はアリサ様からアルテミシア様の元へ歩んでいかれている様に感じましたので、そのように描かせて頂きました。お楽しみいただければ幸いです。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
 またお会いできる事を心からお待ちしております。
東京怪談ノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年12月18日

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