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『サンタクロースが当番制だったら 〜杢の場合・2〜 』
ka6890

 サンタクロースが『当番制』だった――。
 この事実について知る者は多くないが、誰かが確実にその年のサンタクロースを務めている。
 プレゼントを配り、幸せな一時を味わって欲しい。
 その想いを胸に、杢(ka6890)は再びソリを走らせる。

「うわーいっ! 我輩に聖輝節のプレゼントでありますっ!」
 自称『幻獣王』チューダ(kz0173)の声が、幻獣の森に木霊する。
 相手は人間では無いものの、サンタクロースとしてはプレゼントを渡す対象になる。
 もっとも、チューダがこの一年で良い子にしていたのかは甚だ疑問であるが。
「はい、プレゼントだんず」
「やったであります! もうこれは我輩の物であります!」
 杢からプレゼントとして箱を受け取るチューダ。
 早々に包装を破いて中身の確認をする。
 周囲に包装の紙を撒き散らす辺り、その性格が滲み出ている。
「……あっ! これはナッツと桃の詰め合わせであります!」
「エビフライが良いかと思っただんずが、好物を教えてもらえただんず。それでプレゼントに選んだだんず」
 杢が辺境巫女からチューダの好物を聞けたのは幸いだった。
 単純馬鹿なチューダを考えれば、ナッツと桃さえ食べさせておけば大抵は満足するのだ。
「これで今年の年末はナッツと桃を食べながら寝て過ごすのが確定であります」
「……ちっ。何を言ってやがる。お前はいっつも寝て過ごしてるじゃねぇか」
 チューダの喜びに水を差すのはシマエナガの幻獣テルル(kz0218)。
 飛行帽を被った白くて丸い可愛さを持つ幻獣だが、性格は気の短い職人気質。
 チューダのツッコミ役としても一定の評価を得ている。
「ふふふ。我輩だけがサンタさんからプレゼントをもらったので、嫉妬しているでありますね」
「ばっ、ちげぇよ。バカ! お前はいつまでプレゼントを貰って喜んでいるだよ。そもそも、ナッツも桃もいつも食ってるじゃねぇか」
 どうやらテルルはサンタクロースと聖輝節に対して、やや否定的のようだ。
 魔導に興味を持って研究を続けるテルルだからこそ、浮かれた空気は苦手なのかもしれない。
 しかし――杢サンタに抜かりは無い。
「せばちょうどええだんず、これテルルさんへプレゼントだんず」
「……へっ?」
 杢はテルルにも箱を手渡した。
 しっかり、テルル用のプレゼントも用意していたのだ。
 できるサンタクロースはひと味違うのである。
 思わず呆気に取られるテルル。その横からチューダが茶化しにかかる。
「あれ? テルルにもプレゼントでありますな。さっき、聖輝節に否定的な発言が聞こえたでありますが?」
「ちょ、待てよ。誰も完全否定まではしてねぇだろ。
 も、もらえるもんは……もらってやらんでもねぇけどよ」
 テルルはさっきプレゼントをもらって喜んでいる年齢じゃない、と否定した手前、プレゼントを受け取る事に躊躇いがあるようだ。
 杢は、そんなテルルに優しく言葉をかけてやる。
「ええ子にしてたごほうびだんずよ」
「じゃ、じゃあ……仕方ねぇな」
 ちょっと顔を背けながら杢よりプレゼントを受け取るテルル。
 そっと地面に箱を置いて中身を確認する。
 その瞬間、テルルの顔が一変する。
「おおっ!? こ、こいつは幻獣用フライトパックじゃねぇか! ハンター用のフライトパックができたっつーので、俺っちが作ろうとしてた奴だぞ」
「まさかこっだなもんが役に立つなんでなあ……」
 テルルの笑顔に杢は、報われる気持ちになる。
 錬魔院でテルルの存在を聞きつけた研究員が、幻獣用フライトパックを製作しているという情報を入手したのはラッキーだった。研究者と話を付けた杢は、早速入手して幻獣の森を訪れたという訳だ。
 喜び勇んだテルルは、早速フライトパックを装着する。
「よぉし、いっちょやってみっか!」
 フライトパックのスイッチを入れるテルル。
 フライトパックから轟音と共にブースト開始。人間に比べて体重の軽いテルルを浮遊させる事は容易だったようだ。
「……おおおっ!!」
「凄いであります! テルルが宙に浮いているであります!」
 既にテルルは人間よりも高い位置に浮遊している。
 見上げる状態となったチューダも何故か大喜びだ。
「喜んでもらえて何よりだんず」
「すげぇな、サンタ。こんなもんまで手に入れてくるたぁ、やるじゃねぇか」
「テルル! 我輩もやりたいであります!」
 杢を褒めている横から、チューダがフライトパックの使用を申し出る。
 チューダがこういう事を言い出せば、確実に碌でもない結果が待っているのだが、上機嫌なテルルはその事をすっかり忘れていた。
「仕方ねぇなぁ」
 そう言いながら着地したテルルは、フライトパックをチューダに装着させる。
「いいか。飛行の方向は体重移動だ。右に重心を傾ければ、右に移動する。急激に移動させればそれだけスピードも増すから気を付けろよ」
「分かっているであります。ささ、早速浮上であります」
 テルルはかなり重要な事を説明したはずだが、馬鹿のチャンピオンが聞くはずもない。
 チューダは早々にフライトパックのスイッチを――入れる。
「うぁぁぁぁぁ!」
「馬鹿っ! 一気にブーストしすぎだ!」
 チューダが勢い余ってブーストをフルスロットル。
 強烈なブーストと共にチューダの体が一気に上空へ移動する。
「と、止まらないでありますぅぅぅぅ」
「落ち着け、重心を意識しろ。右に体を傾けろ!」
「こ、こうでありますか……?」
 チューダは空中で体を右に傾ける。
 瞬間、チューダは右へ推進を開始する。
 だが――。
「ぶべらっ!」
 チューダは顔面から大木に激突。
 地面に落下して無様に倒れ込んだ。
 急いでテルルはチューダの元に駆けつける。
「だ、大丈夫か!? フライトパックが」
「酷いであります! 我輩の心配をするであります! 杢、我輩を労るであります!」
 泣き叫ぶチューダの頭を撫でながら、杢はそっとため息をついた。


「プレゼント?」
 パシュパティ砦にて部族会議の首長バタルトゥ・オイマト(kz0023)と出会えたのは、幸運であった。
 何せ、部族会議でもバタルトゥは多忙な存在だ。
 連合軍に顔を出したと思えば、パシュパティ砦にて各部族との調整に追われている。
 そんな忙しいバタルトゥを杢を捕まえるのに、数日を要していた。
「そうだんず。サンタクロースとしてプレゼントを渡すだんず。何がいいだんず?」
「…………」
 杢の問いに、バタルトゥは沈黙している。
 おそらく欲しい物を考えているのだろうが、この沈黙した空気が重苦しさを纏い始める。
「欲しいものはないだんず? 揚げたてのエビフライならすぐに用意するだんず」
「…………」
「おや、杢さん。今度はバタルトゥさんへのプレゼントですか?」
 部屋へ入ってきたのが、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)。
 部族会議の首長補佐役を務める帝国軍人である。
「ふふ、バタルトゥさんの事ですからプレゼントを聞かれて黙っているのではありませんか?」
「そうだんず。さっきから何も喋らないだんず」
「きっと杢さんに気を遣っているんですよ。無理なお願いをすれば杢さんを困らせると思っているんです」
「!」
 ヴェルナーの言葉に反応したバタルトゥが、振り向いた。
 どうやら図星だったらしい。
「凄いだんず。良く分かるだんず」
「ええ。付き合いも長いですから。
 そうですね、バタルトゥさんへのプレゼントは『お嫁さん』というのはどうでしょう?」
「……待て」
 ヴェルナーがとんでもない事を言い出したと気付いたバタルトゥ。
 しかし、ヴェルナーはその言葉を止める気は無い様子だ。
「待ちません。部族の方でも良き伴侶をというお話があったでしょう? オイマト族にとっても部族会議にとってもバタルトゥさんの血筋を残しておくべきと考えるのは当たり前ですよ。もし、バタルトゥさんが倒れたらどうされるのです?」
「それは、イェルズが……」
「では、イェルズさんにもしもの事があればどうします? 経験を積めば部族を率いられるかもしれません。ですが、さらにその先はどうするおつもりですか? 族長であれば、その後の事まで考えるべきだと思いますよ」
「…………」
 ヴェルナーの一方的な主張で、バタルトゥは再び黙ってしまった。
 バタルトゥの嫁については、本人も周囲から強く言われているのだろう。まだ歪虚との戦いが続いているという事を理由にしているが、バタルトゥ自身が奥手で動けない可能性も否定はできない。
「嫁っこだんずか……難しいだんず。ハンターの知り合いで良い子さおるかもしれねぇだんず」
「ええ、是非探してあげて下さい。きっとバタルトゥさんは自分から探すタイプではありません。彼の身を案じてくれる方をお願いします」
「……勝手に、進めるな」
 ヴェルナーの強引な押しを前に、バタルトゥはそう言い返すのが精一杯であった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6890/杢/男性/6/猟撃士(イェーガー)】
【kz0173/チューダ/男性/10/幻獣(小)】
【kz0218/テルル/男性/10/幻獣(小)】
【kz0023/バタルトゥ・オイマト/男性/28/闘狩人(エンフォーサー)】
【kz0032/ヴェルナー・ブロスフェルト/男性/25/疾影士(ストライダー)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊です。
発注ありがとうございます。
今回はキャラ数を増やしながら、少しストーリーを追加する形とさせていただきました。チューダやバタルトゥがやりそうな事を膨らませながら、サンタクロースへお願いをするシチュエーションになります。普段の戦闘から離れ、日常が垣間見られるノベルとなっております。もし、機会がございましたら今回登場したNPCが関わる依頼にも参加ご検討いただければ幸いです。

それではまたご縁がありましたら宜しくお願い致します。
イベントノベル(パーティ) -
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年12月21日

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