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『アマミの里にて 』
艶朱aa1738hero002)&天海 雨月aa1738

 始発の電車に乗って、それからいくつかの交通機関を乗り継いで……。

「ッはー! つ、い、たァーーー!」

 数時間に一本のバスから降りた途端、艶朱(aa1738hero002)は力の限り伸びをした。何時間座りっぱなしだったろうか。首をゴキゴキ鳴らしつつ振り返れば、誓約者の天海 雨月(aa1738)が荷物を背負い直している最中だった。
「さてと。今から歩きだぞー」
 中性的な顔立ちに穏やかな笑み。二人をここまで連れてきたバスが遠のいていけば、後に残るのは随分と古びたバス停だ。艶朱は「ついた」と言ったけれど、あくまでもここは目的地から最寄りのバス停。本当の到着ではない。

 ――澄んだ空気。雲一つない青空。

 二人が歩くのは、山と湖に面した、のどかな地。四季折々の花が咲くそこは、今は紅葉が美しい。
 ここは雨月の地元。能楽を生業としつつ代々陰陽師や巫僧、現代では能力者を輩出するアマミ一門の里。見渡す限り悠久の時を誇る自然が広がる。ここにある人工物といえば、アマミ一門の家や能楽堂程度だ。
 雨月はアマミの宗家、天海の次男坊。今日はいわゆる、里帰りである。

「艶朱、はぐれんようにな」
 振り返ってそう言えば、後方では英雄が「白線だけ踏んで進む遊び」をしている。「難易度高ェンだよ!」と大声が返った来た。そのはずだ。アスファルトは古びていて、白線も掠れている。小学生男子のような鬼の言動に、雨月は「いつも元気だよなー」と緩やかに微笑んだ。
 艶朱は雨月が生まれる前からこの世界にいる。英雄、というとこの世界ではいまだに物珍しさがあるようだが、雨月にとっては英雄のいる風景こそが当然で、家族の一人だと雨月はこの鬼に感情を抱いていた。
 そして、雨月の“家族”は艶朱だけではない――樹上から葉擦れの音がして、青年が顔を上げれば、大樹のねじれた枝の上に天狗がいた。
「おや、坊ちゃん。おかえんなさいまし」
 朗らかに雨月を出迎えたその妖怪は英雄だ。雨月の相棒ではない、彼の家族の誓約英雄であり――雨月にとっては、幼い頃から一緒にいる家族である。
「うん、ただいま」
「おう、出迎えありがとなァ!」
 アスファルトから砂利道になったことで白線遊びを諦めた艶朱も“家族”を見上げる。艶朱にとってもまた、アマミ一門の者はあまねく家族なのである。

 雨月坊と艶朱が帰って来た――知らせはあっという間に駆け巡り、アマミの英雄達が藪や茂みから顔を出す。アマミの者は全て能力者で、その英雄は何の縁か妖仙の類ばかりである。ゆえに、この地は人々からは「百鬼夜行さながら」と言われている。二人の歩みに人ならざる者共がついて来る様はまさに百鬼夜行であった。

 そうして歩いて、ほどなくして。
 ようやっと、寺院さながらの立派な建物――アマミの家が見えてきたのである。







 艶朱の豪快な――ともすれば「うるさい」とも言われかねない大きな声が廊下に響く。見かける家族一人一人へ挨拶をしているのだ。
(声枯れたり疲れたりしないのかな……まあいっか)
 隣で艶朱の大声を聞くのも雨月には慣れ切ったもので(耐性ができているとでも言おうか)、変わらぬ様子で磨き上げられた廊下を歩き続けた。
「お土産、気に入ってもらえてよかったな」
 と、雨月が艶朱を見やる。「そーだな!」と英雄は得意気に笑った。
 二人が手土産として持ってきたのは、艶朱の知人に分けてもらった伽羅の香木である。今しがた、挨拶もかねて雨月の兄にしてアマミの頭領に渡してきたところである。
 さて、そんな二人の向かう先は舞の稽古場である。「もう年末近いし」と雨月の希望だ。
「香木は舞の時に焚くって話だからよ、合うか確認してもらわねェとな!」
 艶朱が笑う。「そうだね」と雨月が頷く。香りの確認もかねて、足音は稽古場へと続いて行った。


「――……ふう」
 稽古がひと段落すれば、雨月は軽くシャワーを浴びて着替えをして。
 そういえばさっきから艶朱がいないな……と、雨月は更衣室にて帯を締めた。英雄は他の家族と遊んでいるんだろうか。まあ、自分は一息つくとしよう。そう思っては戸に手を伸ばそうとして――

「はーははは!! 行くぜ雨月!!!」

 パーン、と戸が開いて。見上げるほどの偉丈夫――まあ艶朱なんだけど――が雨月を見下ろして、鬼の牙をニッと剥いて笑っていた。
「うん?」
 雨月は目に見えては驚いていない様子だ。慣れているがゆえか。艶朱はそんな相棒を軽々と片腕で抱え上げる。
「わ。……行くぜって、え、何処に?」
「餅つきだ!」
 言うなり、ドタドタと全力の足音を廊下に響かせつつ走り始める艶朱。奥方様に見つかったらお説教されるかも。なんて思いつつも、雨月は首を傾げる。
「餅つき……今?」
「準備ならダイジョーブだ! 行く前に言っといた!」
(多分来月もすると思うけど……まぁいっか、楽しそうだし)

 かくして攫われた(?)果てに辿り着いたのは、広い庭である。
 奥ゆかしい日本庭園。そこに、デーンと臼がある。艶朱が呼んだからか、人と英雄で賑わっている。

「よっしゃ! やるぞ! 餅つき!」
 艶朱は嬉々として杵を手にしていた。「杵やりたい!」と彼の熱い要望によるものだ。なので雨月は合いの手として、傍に控えている。
「やろうかー」
 準備OK。雨月が英雄を見上げる。
「いくぞおおおおおおおお!!」
 ドでかい声と共に、逞しい腕が雄々しく振り上げる杵。

「よいっしょおおおおおおおおお!!!」

 ドレッドノートの膂力を以て、艶朱は杵を叩き下ろす。
(……当たったら痛そう……)
 ぺったんぺったん。英雄が凄まじいパワーでついていく餅を上手くひっくり返しつつ、雨月は豪快な杵さばきに感心している。というか大丈夫かな、こんなに力いっぱいやって。臼壊れないかなー……なんて、ボンヤリ思うのであった。あと、常時艶朱が「どっこいしょおおおおおお!!!」と腹の底から轟くような大声を出すので、相変わらずすっごい声だなー……とも思った。まあ、いつもあの声量だけど。それに周りに家もないし、近所迷惑にもならないだろう。身内に「うるさい」とは言われるかもしれないが。

 そうして、山彦が返ってくるほどの賑やかさがひと段落したころ、餅はつきあがった。
 ついた餅はアマミの家族皆で丸めて、おやつ時。

「きなこと、あんこと、砂糖醤油にみたらしに……」
 割烹着姿の雨月が、せっせと餅につけるものを取り分けてゆく。
「俺は磯部な! 大根おろしな!」
 艶朱は待ちきれないらしい。お皿を片手に、目を輝かせて声を弾ませる。あれだけ杵をぶん回していたが、彼に疲労のヒの字もない。流石の元気印である。
「ああ、うん、磯部と大根おろしもな。おっけ」
 味付けされた餅を、英雄がねだるままひょいひょいひょいっと積んでいく。
「艶朱、一口がでっかいから。丸呑みしないようになー」
「わァ〜かってらァ、任せろ」
 言ったそばからぺろっと一口で磯部餅を口に放り込む艶朱である。まさに「分かった(実行するとは言っていない)」である。ブレないなぁ、と思う雨月である。
「さて、俺はぜんざいにしようかな。最近寒ぃから」
 雨月は自分の分を取り分ける。と、視線を感じて顔を上げれば、英雄がじっと彼を見ていた。
「雨月それ美味そうだな……?」
「ん? 食べる? いいよ、あげる」
 あんまり食べると晩ご飯が入らなくなるかもー……と思うも、まあいいか、おいしいんだし。艶朱の分もぜんざいを取り分け、二人で並んで縁側に座った。遠景、赤や橙と紅葉で着飾った山が見える。空の青さとの対比、太陽を浴びて色が一層鮮やかなのは、まことに風流である。
「綺麗だなー」
「趣があるな!」
「おいしいなー」
「うめェなー! おかわり!」
「えー、まだ俺食べてるから自分でよそってきて……ってか食べるの早いな艶朱」
「餅ついたから疲れたんだよ」
「絶対ウソでしょそれ」
「バレたか! ははははは!!」
 豪快に笑いつつ、鬼はお代わりの為に立ち上がる。雨月の青い瞳に映るのは相棒の背中、それから、ワイワイと楽し気に餅を食べている人間達と英雄達の姿。そこに、この世界の出か異世界の出かの線引きはない。彼らはアマミの名の下に、家族としての日常を謳歌していた――。







「うーん、重い」
 雨月は背中と両手いっぱいに荷物を持って、古びたバス停の前に立っていた。
 あれから実家でしばしの時を過ごしたが、楽しい時間はあっという間。帰らなければならない日がやってきた。というわけで……雨月は土産をたんと持たされたのである。「よいしょ」と背負い直す。
「雨月! バス! バス来たぞ!」
 隣の艶朱(もちろんお土産を持たされまくっている)がはしゃぐように言う。毎度毎度、バスや電車が来るたびに「来たぞ!」と嬉々として伝えてくるのはいつまで経っても変わらない。

 さてこれから支部近くの家まで、また長旅である。
 荷物棚や空いている席に荷物をヨイショと置いて、座って――車窓から流れる景色。

「どうすっかァ」
 落ち着いたところで英雄が問うた。「何が?」と雨月が問えば、土産として貰った随分上質な反物のことだと鬼が返した。
「あー、あの綺麗なやつなー。普通に着物とかにも映えそう」
「香木くれたダチに、匂い袋なりに使って貰えって言われたんだが……問題がある」
「ん?」
「……俺、縫えねェんだよなァ。雨月どうだ?」
「俺も布袋は作れないかな。家に帰ったら聞いてみたら?」
 留守番している第一英雄ならどうにかできるかも。「そうすっかァ」と艶朱は伸びをして、背もたれに巨体を深く預けた。
「ああそうだ。おみやげで貰った大福食べる?」
「ン! 食べる!」
 雨月に問われた瞬間、艶朱は背もたれから身を起こした。窓の外では色彩が煌いていた。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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艶朱(aa1738hero002)/男/30歳/ドレッドノート
天海 雨月(aa1738)/男/22歳/生命適性
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2017年12月21日

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