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『寒い夜だから 』
ラドヴァン・ルェヴィトaa3239hero001)&アークトゥルスaa4682hero001)&雨水 鈴aa3146hero001)&天狼心羽紗音流aa3140hero001)&巳勾aa1516hero001
 まことに遺憾ながら、クリスマスイヴである。
 街にはやる気に満ち満ちた男女――ときには男男や女女、性別不明同士もいるのだろうが――が行き交い、やらかす前のムード補給にいそがしそう。
「寒いな、体も心も」
 金の顎髭をこすり、ラドヴァン・ルェヴィトがうそぶいた。
 186センチに83キロながら、見事にバンプアップされた胸筋は100キロ超級にも負けぬ圧を放っている。……ちなみにその肌を覆うTシャツに印刷された文字は“食いだおれ”、そこに薄手のダウンを羽織っているだけなので、それは寒いだろうというものだ。
「体のほうは服を買え。心のほうは……浮かれてる輩、シメるか?」
 横を行く天狼心羽紗音流が、隻眼でラドヴァンを流し見た。シャドウルーカーたる彼の技をもってすれば、ちゃらついた男子の十人や百人、気づかせる前に絞められる。
「風よけが減れば余計寒くなるだろう。呪うくらいにしておこう」
 鍛え抜いたおっさんたちが、そこそこ以上の真剣さで行き交う恋人たちを呪う。なんというか、凄惨である。
「……飲みにでもいくか」
「うむ」
 なんとなく決まったところで、紗音流が和装の袂からスマホを引き出した。
「ま、このへんでふらふらしている奴もいるからな、せっかくだ――」
 その瞬間。
「さねるちゃん毎度〜。私だよ★」
 ラドヴァンと紗音流の間に潜り込んだ優男――雨水 鈴が右手を挙げた。
「私だよ、じゃねーわ。呼んでもおらんのに来んな。去ね去ね」
 しっしっ、紗音流の追い払う手を肩でブロックして一歩も退かず、鈴はへらへらとまとわりつく。
「飲みに行くんでしょ? 行く行く私もついてっちゃうから連れてって〜」
「紗音流の知り合いか? 友の友は友、いいだろう。ついてこい!」
 豪快に笑うラドヴァンに紗音流が「あー」という顔で顔を寄せて。
「待て! こいつカネ持ってねぇぞ!?」
 鈴は色男らしくカネはないが、力だけは有り余ったドレッドノートである。そんな馬力でたかられたら……
「誰かと思やぁ紗音流じゃねえか。伴天連の祝い日に男ばっかでほっつき歩いてるたぁ、そっちの気に目覚めちまったかい?」
 伝法な口調で声をかけてきたのは、紗音流とは逆に左眼を塞いだ渋い和装の男。
「置きゃあがれ! んなわけあるかい! こっちの渋いのは巳勾。元は蛇神って奴よ。ま、飲み友だわな」
 紗音流に紹介された巳勾は呵々大笑。
「相も変わらず賑やかなもんだねぇ、おまえさん!」
 そして襟を正してラドヴァンと鈴に向かい。
「お連れサン方、お初にお目もじ仕る。俺っちゃ巳勾、見ての通りの益体者さ。ひとつお見知りおきをってね」
 鈴が「私は雨水の鈴だよ。よろしくね」、にっこり手を振る。
「ラドヴァンだ。……しかし、この国の冬はどうも肌に合わん。早いとこ中からあっためてやらんと落ち着かんぞ。紗音流、店は任せていいんだな?」
「おう、そっちはアテがある」
「途中であとひとり引っかけていくか。ちょっとマジメな奴だからな、解してやらんと」
 そして一行は雑踏を筋肉と神威でかき分け、夜の街を行く。

「おう、いたか! このへんで働いてるって話、憶えててな。これから酒飲みに行くんだが、いっしょにどうだ?」
 バイトしているカフェの後片付けをしていたアークトゥルスが顔を上げると。
 ラドヴァン以下、なかなかのおっさんたちとちゃらいイケメンが手を振っていた。
「こりゃまた別嬪さんじゃねーの! どこの店の子?」
 赤毛のおっさんこと紗音流に問われ、アークトゥルスはおずおずと。
「いや、このカフェのバイト、だが」
「そんな返しがあるか。こいつはアークトゥルスだ。依頼で知り合ってな。優男に見えて芯が強い。一度じっくり話をしてみたいと思ってな」
 ラドヴァンの横から顔を出したちゃらイケメンこと鈴がにっこり。
「おっさんたちが奢ってくれるってさ〜。行こ行こ」
「酒の友が増えるってぇのはいいもんだ。どうだい、俺っちたちに一杯、付き合っちゃくれねぇかい?」
 渋いおっさんこと巳勾がうなずいた。
「店、もう終いなんだろ? 俺様が凍えちまわないうちに飲みに行こうぜ!」
 だったらもっと厚着すればいいのにな。
 アークトゥルスはため息をつき、エプロンをはずして店内に声をかけた。
「すまないが、今日はここで上がらせてもらっていいだろうか?」
 この妙なテンションの連中に店の中へ乱入されてはたまらない。断固食い止めるのがいい店員というものだろうし、見れば皆彼と同じ英雄だ。酒を酌み交わすも一興というものだろう。


「お待ちしてましたどうぞー」
 赤提灯に照らされたおでん屋ののれんをくぐると、すかさず丸々とした女子店員が声を張って出迎えてくれた。
「席作っといてくれた?」
「どうぞー」
 小上がりに案内された一行が靴を脱いでテーブルを囲む。一応八人席らしいが、でかいのがいるので結構な埋まり具合だ。
「おでん屋か。コンビニのじゃないのは初めてだな」
 ラドヴァンが珍しげに年季の入った店内を見回し、うなずいた。
「綺麗どころの兄ちゃんたちは小洒落たレストランのほうが似合いそうだが、ざっくばらんに滋味を味わうのも悪くねぇ」
 巳勾も同じように首肯する。
「御店主、邪魔をさせてもらう」
 アーウトゥルスが四角いおでん鍋の向こうの店主へ一礼。
「私は飲めたらどこでも大丈夫! それにしてもするっと入れたね」
 鈴へ紗音流が得意げに。
「さっき予約入れといた。って、リンリンは帰れ」
「いやだぁ〜さねるちゃんに奢ってもらうまで私絶対帰らない〜!」
 くねくねじたばた。
「だってひどいんだよ? コタツから引き抜かれて、外へポイだよ? そう簡単に帰ってなんかやんないでしょ?」
 一同が顔を見合わせた。こいつ、だらけてたところを能力者に追い出されたな。
「そういやこいつ、ワシが飲み過ぎて寝とったらいつの間にかとなりに転がっててなー。そんときもおんなじこと言いながら、勘定の紙だけきっちりこっちの払いに重ねとったわ」
 げんなり語る紗音流だったが、ともあれ。
「お飲み物なんにしますかー?」
「ワシ熱燗〜。赤提灯ったら熱燗だろ〜。で、とりあえずおでん適当に盛り合わせでな」
 紗音流の音頭で次々酒が決まり、杯と猪口の縁がガチンと打ち鳴らされた。
「っ、染みるな」
 熱燗を呷ったラドヴァンがぐぅと喉を鳴らす。冷えた体に熱が巡り、こわばっていたなにかが溶け出すこの感じ――たまらない。
「いい酒をぬる燗でってぇのも乙なもんだが、安いのは熱くすると締まるねぇ。悪くねぇやな」
 巳勾も空になった猪口を掲げてにやり。さすがは蛇というものか、熱でいや増した酒精の刺激をまるで感じていないかのようだ。
「どっちもいい飲み方するなぁ。ワシも負けてらんねぇわ」
 ラドヴァンと巳勾、そして自分の猪口にも燗酒を注ぐ紗音流。そう言いながらも意外なほど綺麗に飲むのが彼だ。飲み慣れているということもあるのだろうが、余裕がある。
「誰かのお金で飲むお酒は格別だね〜。アークトゥルスくんもそう思うでしょ?」
 空気を読まず、生中を手にした鈴の無体なセリフにどう反応すべきか悩みつつ、アークトゥルスは半ば中身を残した猪口を見やった。
「あなたはその、天衣無縫だな。俺はなかなかその域には」
「そういうときは飲め! 心を開け! 自分を開放しろ!」
 ラドヴァンがアークトゥルスの猪口に酒をつぎ足し。
「他人にも自分にも容赦しねーのが飲みの席よ」
 紗音流が飲め飲めと促し。
「同じ銚子の酒を飲んで、男は心を通わせるってもんでぇ」
 巳勾がさらに酒をつぎ足した。
 そして。
「同じ英雄として、おまえたちの依頼の話や過去の武勇伝が聞きたい」
 上気した顔を巡らせ、アークトゥルスが一同に話をせがむ。
 彼が酒にあまり強くないらしいことを察したラドヴァンは、酒を勧めるのをやめて言葉を返した。
「武勇伝なんてもんはアレだがな。俺様は戦乱の世界から来た。陰謀と戦争の毎日よ。今は気楽なもんだが……」
 おでんの皿から大根をつまみ、取り皿の上で割った。中までしっかりと出汁が染みこんだ大根は、旨みの潤いで彼の口を満たす。
「うむ、コンビニのとは格がちがうな! あっちの世界じゃメシは燃料補給みたいなもんだったからな。ちがいを味わえるってのはいいものだ」
「あー、わかるわー、それ。ワシも殿様だったからな。毒味毒味でワシんとこに届くメシはみんな冷えっ冷えよ。熱いってのはうまい!」
 熱燗を呷って煙管を取り出す紗音流。
 六角の羅宇(中央部の管)まで含めてすべてが鋳鉄で造られた、喧嘩仕様の延べ煙管である。
「好き勝手やる煙草もなー」
 火皿へ詰め込んだ刻み煙草にマッチで火をつけ、ひと吹かし。
「うまそうに吸ってるの見んのは気持ちいいやね。ま、床に撒かれたら尻っぱしょって逃げ出すんだが」
 昔、煙草の灰は蛇よけに使われた。ニコチンの毒が効くかららしいのだが……そうして笑んでいる巳勾に限ってはそこまでの力は期待できないようだ。
「俺の仕事は飢えて困ってどうしようもねぇ連中治してやることでよ。今は武勇伝演じる奴らの後始末が稼業だが、普通の人ってぇのをしょってる奴らの背中はでっかくて強ぇ。治してやりがいがあるってもんよ」
 彼の全身を、右手を這う蛇鱗の入墨には、無数の細かな傷が差し込まれている。それは、彼が後ろから回復スキルを飛ばしているだけの男ではないことを示していた。
「俺は元の世界のことをほとんど憶えていないが、この世界で機会をもらった。この身をもって弱きを守り抜く機会を。そして」
 猪口を掲げて一同を見渡し。
「同じ卓を囲み、先達と語らう機会を」
 思わぬいい話展開におっさんたちがほろりとしかけたが。
「おでんにロールキャベツってちょっと謎じゃない? 誰が考えたのかな……ソーセージもわからないよね。わからないから、おかわり〜」
 がんもどき、タコ、ソーセージ、そしてロールキャベツ。食べでのあるネタを黙々とさらっていた鈴が、眉根をしかめつつ店員へ手を挙げたことで一気に場の空気が崩壊した。
「おぬしやっぱ帰れ!」
「じゃあ脚だけ残ってりゃいいな!?」
「俺は兄ちゃん乗っける戸板ぁ剥がしてくらぁ」
「いやいや! 私の五体は満足をご所望で――あっ、そっちは曲がちゃダメなほうだから!」
 暴れる男たちをやわらかな目線で見やり、アークトゥルスはそっと自分の猪口に酒を注ぐ。少しぬるくなったが、これはこれでいいものだ。
「おまえたちは気の置けない仲なのだな。願わくば俺も加わりたいものだ」
 酒を干し、微笑ましく男たちの取っ組み合いを見守るが。
「お客さんたちガタイいいから! 暴れられたら店壊れちゃいますよぉ!」
 店主の乱入によって騒ぎはノーコンテストに終わり、鈴は辛くも五体の満足をキープしたのだった。

 とりあえず、それぞれ好みの酒と肴で仕切りなおし。
「どて焼きのいいとこは味噌なめてるだけで三杯飲めるっつーとこだなー」
 紗音流は箸の先を八丁味噌ダレへつけてにやり。
 どて焼きは焼き物ならぬ煮物に区分される料理だが、この店のものは串を打って焼き物の体裁に整えてあり、具も食べやすい。
「奢りのいいところは私が財布持ってなくても三杯飲めるところだよね〜」
 と、紗音流の皿から串をつまみあげるのは鈴だ。焦げ茶色に染まるまでしっかり煮込まれた牛すじには七味がたっぷり振られており、とにかく酒が進む。
「この甘辛さってやつは日本特有だよなぁ」
 濃厚なタレを三度づけして焼き上げられた焼き鳥の皮へかぶりつき、串から引き抜くラドヴァン。パリっとした歯ごたえの直後に広がる脂の旨み。噛めば噛むほど味が出る。
「俺も慣れるまで少しかかったが、今はこれを口にすると帰ってきた気になる。不思議なものだな」
 品よく、しかし焼き鳥の作法に従って、アークトゥルスは串のままぼんじりへ口をつけた。サクサクとした食感はタレに負けない濃厚な脂との間に一種のギャップを生み、食べる楽しさをいや増してくれる。
「旬じゃあるが、こんないい鰤をなめろうにしてもらっちゃ箸が止まる道理がねぇや」
 このメニューのために純米のぬる燗を頼んだ巳勾が、卵黄を崩してからめたなめろうを口に運んだ。鰤の脂を葱、紫蘇、生姜、大蒜と、たっぷり加えられた香味がさっぱりと引き立てる。
 ちなみに、ラドヴァンやアークトゥルスに地物メニューを解説するのは彼の仕事である。
「それにしても一年、早いよなあ」
 熱燗の猪口を手に、紗音流がため息をついた。
「気から始まるのは病だけじゃなかろう。老け込みだすと早いぞ?」
 麦焼酎の燗を呷ったラドヴァンが酒精の勢いをもって胸を張ってみせる。
「ラドヴァンくんはグルコサミンよりプロテインって感じだよね」
 混ぜ返す鈴。空気をあえて読まないくせに、場へ溶け込むのも妙にうまい。今日会ったばかりとは思えない気軽さで、二倍近い歳の差があるラドヴァンに絡んでいく。
「歳ばかりのせいではない気はするがな。俺も時が過ぎる速さは実感するところだ」
 焼酎薄めの梅サワーをなめたアークトゥルスが深くうなずき、それを勧めた巳勾もまた眉根を引き下げてしみじみ語った。
「そうやって忙しなく明けて、気がつきゃ暮れてくもんだぁな」
 紗音流は吹かした煙管の雁首をコンと灰皿の縁に打ちつけ、灰を落として。
「なんかなあ。こっちの世界に来てから歳とってる実感ねえし? 気がついたらガキだった契約主も大人んなってるしよ」
 それは英雄ならば誰しも感じるところではある。
 年齢を重ねる者ももちろんいるが、それは時間という絶対の法則によるものではなく、自らの常識や認識といった意志によるものなのではないか?
「俺様のロマンスグレー化は遠いか」
 ラドヴァンは感慨深げに酒を口に含んだ。
 自分はもうおっさんだし、それこそ歳うんぬんで悩むような歳でもない。しかし、彼の超年下の友人は……ちゃんと成長できるんだろうか。いや、あの子は成長したいと望んでいるのだから、かえってぐんぐん大人になってしまうかもしれない。停滞せず、しかし過ぎた成長もせず、健やかに育ってくれればいいのだが。
 加えて契約主が自己完結型なだけに、そちらも気にはなるところだ。そう思うとまあ、まだまだ老け込んでいる場合ではない。
「ウチの坊に追い越されっちまうのはちょいといただけねぇなぁ」
 巳勾は未だ少年の域にある契約主を思い、口の端を歪めた。
 意識不明の兄を救いたいと医療者を志す少年は、今も精いっぱい背伸びして、つま先立ちで人生を突っ走っている。その意地と意気を守ってやりたいのは年長者の身勝手かもしれないが、できうることならこのままずっと――
「そうだな。俺も同じように思う」
 アークトゥルスには巳勾の心情が誰より理解できる。
 彼の契約主は愚神に襲われ、殺されかけた恐怖を越えて「弱きを守ること」を誓った。傷を恐れず脅威の前へ立ちはだかるその勇気。その強くあらんとする意志が、高潔さが、アークトゥルスには快く、そしてほろ苦い。
「うちはそういうのないかな〜。もっと私のこと優しく養ってほしい!」
 鈴の契約主は最近引きこもりをやめた、コスプレを嗜むお嬢様だ。まがりなりにも社会人となったせいか、へらへらだらだらしている鈴への当たりが結構きつい。いや、鈴がことあるごとにいじり倒すのが大きな原因ではあるのだが。
「ま、おぬしらんとこのガキも目ぇ離してるとすぐ大人になるぞ〜。後悔すんなよ〜。してやれることは思いっきりやっとけよ〜」
 紗音流の言葉にそれぞれの思いを持ってうなずく英雄たちだった。

「っと、湿っぽくなっちまったな。なんだ、女の話でもしちゃう?」
 紗音流がぽんと手を打ち、場の空気を切り替えた。
「女? 武勇伝より思いつかんな……。俺様のいちばん身近な女は6つだぞ?」
 ラドヴァンにすかさず鈴が乗り。
「ラドヴァンくん光源氏すぎ! あ〜、でもさ、英雄生活してると意外にそういうのってないよね。出逢いがないわけじゃないのに。アークトゥルスくんは? バイトしてるといろんなお客さん来るでしょ?」
 水を向けられたアークトゥルスは赤みのさした頬をほろほろとうなずかせ。
「そうだな。いつも窓際の奥に座る令嬢はカフェオレを注文するのだが砂糖は使わない。なんでも太ると困るらしい。ゆえに俺は彼女の入店前に砂糖壺を片づけるようにしている」
「……なんてぇか、もったいねぇ御仁だね。そんな気ぃ回すよりその顔でにこにこしてやんな。花みてぇな若い娘さんが詰め寄せるってもんだぜ」
 苦笑する巳勾に、今度はラドヴァンが話を向ける。
「そういう巳勾はどうだ? それなりの心得はある顔だろうが」
「俺かい? そうだなぁ……」
 そして男たちは語る。
「となりの領地の姫というのが」、ラドヴァンが前世界の姫君を評し。
「いやいや、そこは濡れ透けだろ!?」、紗音流が癖(へき)を押し出し。
「深川あたりに小股の切れ上がったいい芸者が」、巳勾がちょっと色っぽい思い出を綴り。
「女子は包容力だよね! 社長とか令嬢とか!」、鈴が強く主張し。
「そうかそうか、それはいいな」、アークトゥルスはひたすらに皆の話へうなずいた。
「やっぱもったいねぇなぁ」、巳勾が渋い顔で言い。
「アークトゥルスの恐ろしさ、俺様今さらながらに思い知ったぞ」、ラドヴァンがアークトゥルスから少し体を離し。
「コンビ組んだら行けるかも……乗っちゃう、輿?」、なにやらよからぬ思いを鈴が巡らせ。
「ワシ、アーちゃん絶対旅行とか誘わんわ」、紗音流が酒をぐいぐい呷り。
「? いったいどうした? 俺はなにかしてしまったか?」、アークトゥルスがふわりと小首を傾げた。
 それを聞くともなく聞いていた丸っこい女子店員はやれやれと独り言ちる。
「天然たらしは困るよねー」


 払いを済ませた一同は再び夜の街へその身を晒す。
「うおお、これでは酔いもすぐ引いちまいそうだな!」
 ダウンをかき寄せ、ラドヴァンが吼えた。アークトゥルスの様子を見ながらだったこともあり、そこそこの酔いで抑えたものだからなおさらだ。
「兄ちゃんはてめぇで帰れるかい? なんだったら送ってくぜ?」
 巳勾の気づかいをアークトゥルスは礼儀正しく辞退し、一同へ頭を垂れる。
「今夜は学ばせてもらった。また、このような機会を持ちたいものだ」
「あー、機会ってったらまた旅でもしてえなあ! 今日来てねえ連中にも声かけて……沖縄とかいいんじゃね!? あとハワイとか! 冬ぶっ飛ばして南国リゾートって感じ?」
 紗音流が指を折り折り候補地を挙げていく。先ほどアークトゥルスは旅行に誘わないと言ったことはすでに忘れているらしい。
「いいねぇ。どこに行ったって酒はある。酒は百薬の長ってね。そいつを楽しく飲めりゃあなお心気の甘露よ」
 どこへ行ってもやることは変わらない。どっしりと腰の据わった風情を醸し出す巳勾だった。
「お供しちゃうよどこまでも! みんなの甘露は私の役目だから〜」
 見事におっさんどもへたかりきった鈴が満面の笑みを輝かせた。そして。
「で、お開き? それとも河岸変える?」
 顔を見合わせた一同。
 なんとも言えない名残惜しさが、帰路への一歩を踏み出させなくて。このままではすぐまた凍えてしまいそうでもあるし。
「……常連のご婦人が営まれているスナック? というものは知っているが」
 果たしてアークトゥルスの切り出した言葉に飛びついた。
「名前を聞いたことはあるんだが、俺様まだ行ったことがない!」
「和の次は洋、悪くない。俺は氷抜きでちびちびやんのが好きでねぇ」
「わー、タダ酒タダ酒!」
「おぬしマジ帰れ! ラドにゃあワシがスナックの流儀、きっちり教えてやっかあ」
 かくて一同は同じ道へ歩を進める。
 心地よい夜をもうしばし分かち合うがため、ゆっくり急いで賑やかに。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ラドヴァン・ルェヴィト(aa3239hero001) / 男性 / 46歳 / バトルメディック】
【天狼心羽紗音流(aa3140hero001) / 男性 / 45歳 / シャドウルーカー】
【雨水 鈴(aa3146hero001) / 男性 / 24歳 / ドレッドノート】
【アークトゥルス(aa4682hero001) / 男性 / 22歳 / ブレイブナイト】
【巳勾(aa1516hero001) / 男性 / 43歳 / バトルメディック】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 酒は臓腑へ染み入り、友は心芯へ染み入る。
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2017年12月25日

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