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『とある一家の真実』
ラファル A ユーティライネンjb4620)&クフィル C ユーティライネンjb4962)&美具 フランカー29世jb3882)&御供 瞳jb6018


 ――あいつが……俺の母親?
 ――探してた悪魔が俺の中にいる?

 ――俺が死ねば悪魔も一緒に死んでたってことか。
 ――俺は何も知らずに、死ぬほど苦しいリハビリに耐えてたってのか。

 ――俺の中に潜り込んだ悪魔野郎を生かすために――


 悪夢から目覚めたラファル A ユーティライネン(jb4620)は、暫くぼんやりと天井を見つめていた。
 見慣れた自分の部屋ではない。病院でもない。
「……そうか……ゆうべ、あいつが迎えに来たんだっけ……」
 クフィル C ユーティライネン(jb4962)、昨日まで姉だと思い込んでいた、あいつ。
 実は母親だったと聞かされても、まだ実感は湧かない。
 何と呼べば良いのかもわからない。
 だから家の中にその気配がないことを感じて、ラファルは安堵の息を吐いた。

 ベッドを離れて隣の部屋に行くと、食卓におにぎりが二つ、皿の上にラップをかけて置かれていた。
 添えられた湯飲みからは、まだ湯気が立っている。
「……俺が起きるのを見計らって、こっそり置いてったのか……」
 ラファルは無造作にラップを剥がすと、おにぎりを手に取った。
 綺麗な三角に整えられたそれは、飯粒が潰れて餅になりそうなほどしっかりと固く握られている。
 コンビニやスーパーで売られているものでは有り得ない。
「これもお袋の味って奴かね……」
 歯応えのあるおにぎりを噛み締めながら、ラファルは昨日のことを思い返していた。

 昨日、ラファルの世界は足下から崩れ去った。
 それまで信じていたことが全否定され、自分自身さえ否定されたような気になった。

 けれど、それもほんの一時のことだ。
 嵐のような感情の爆発が収まれば、自分でも怖ろしいほど冷静になっていた。
「……俺はもう、全部誰かのせいにしてケツまくって逃げられるほどガキじゃねーんだよな」
 全部あの女が悪いのだと自分に言い聞かせて、素直に悲劇のヒロイン気分にでも浸っていれば幾分かは気が楽になったかもしれない。
 だが、違う。
 それで楽になるような性分なら、そもそも身体の殆ど全てを機械化してまで生き延びようとは思わないだろう。
 リハビリに耐えることも出来ず、途中で折れて寝たきりの生活になっていただろう。
 ましてや撃退士になって、自分をこんな目に遭わせた悪魔に復讐してやろうなどとは考えもしなかったはずだ。
「そうさ、俺は撃退士だ……嫌んなるくれー生粋の撃退士なんだ」
 撃退士には撃退士のやり方がある。
 腐っている時間はない。
「ごっそーさん」
 皿と湯飲みを軽く洗うと、ラファルは部屋を後にした。


(「……ラーちゃん……ほっぺにごはん粒ついとるで……」)
 脇目もふらずに歩き去る娘の後ろ姿を、クフィルは物陰に隠れてこっそりと見守っていた。
 自分が用意した食事など食べてくれないのではないかと案じていたが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
 杞憂と言えばもうひとつ。
 暫くはショックが抜けず、自分の世界に籠もりきりになってしまうのではないかと思っていた。
 しかし娘は自分が思っていた以上に強く、立派に成長していたようだ。
(「それにしても、どこ行くつもりなんやろ?」)
 気になる。めっちゃ気になる。
 気付かれないように、こっそり後をつけてみようか――


(「……ったく丸見えだっつーの。あれで尾行してるつもりかよ……」)
 後頭部に熱い視線を感じつつ、ラファルはひたすら先を急いでいた。
(「何のつもりか知らねえが、こっちは探偵ごっこに付き合ってる暇はねーんだ」)
 目指す先は学園の事務室。
 そこで個人情報の閲覧許可を取り、クフィルが入院していた病院を割り出す。
 病院がわかれば、そこの入院記録を調べるのは難しくない。
(「義体特待生の義務ってことで色々ボランティアもやらされたが、そいつがこんな所で役に立つとはな」)
 傷病撃退士の慰問を真面目に続けていたおかげで、ラファルは撃退士専門病院に顔が効く。
 そこで得られた情報は全て、クフィルの口から聞かされたものと一致していた。
 つまり、全て真実。
(「まあ、こんな調べりゃすぐにわかるようなことで嘘を言っても意味ねーしな」)
 意識不明だった期間や入院期間、症状に身体記録。
 文字を追うだけで、当時のクフィルが置かれた状況が手に取るようにわかった。わかってしまった。
 何故なら、今までにラファルが慰問してきた数多の患者達も皆そうだったから。
 どれほど苦しく、そして無念だったことか。
(「……許したわけじゃねえけど……わかっちまったからな……」)
 これ以上は責められない。
 責める気になれない。
 心の中で「解決済み」のスタンプを押して、ラファルは次なる目標へ向かった。


 自分に融合しているという悪魔はいったい何者なのか、その手がかりを求めて学園の資料室へ。
 しかし、データベースにも報告書にもそれらしき存在は見当たらない。
 ただひとつ見付かった資料はラファル一家が遭遇したあの事件に関するものだったが、そこにも目新しい情報はなかった。
(「……となると、残る線は生き字引的な奴に当たってみるしかねーか……」)
 記録にも残らないような裏事情に通じていそうな者。
 ひとりだけ、心当たりがあった。


「……ほう……」
 思いがけぬ訪問者に、美具 フランカー29世(jb3882)はすっと目を細めた。
 懐かしい顔だ。名前は確か、ラファルと言ったか。
 大規模戦闘で何度か共闘したことはあるが、それほど親しく言葉を交わした記憶もない。
 それがこうして自分を訪ねて来るとは、どういう風の吹き回しだろうか。
「単刀直入に言う。俺に癒合してる悪魔のこと、何か知らねーか」
「単刀直入に過ぎるのう、もう少しわかるように話せ」
 このラファルという娘、隊長補佐としていきいきとメンバーの面倒を見ていた覚えがある。
 指導力はあるかもしれないが、コミュニケーション能力には少々難がありそうだ。
「……なるほど、そのようなことが……」
 話を聞いた美具は、遠い記憶を手繰り寄せる。
 フランカーの一族は天界でも古い家柄、その歴史の中で数々の事件に遭遇してきた。
 その記録は美具にも引き継がれ、知識として残されている。
「心当たりがないこともないのう」
「だったら勿体ぶってねーでさっさと教えろ」
「ふむ、人に教えを請う態度とも思えぬが……まあ良かろう」
 美具はかつての天界からは反逆罪として追放されていた身だが、今回の状況を受けて晴れて許され、天界に帰還できる運びと相成った。
 帰ってしまえばもう、こちらの世界に来ることはないだろう。
「餞別代わりに教えてやろう……そなたの望む答えである保証はないがのう」
 そっと目を閉じた美具は、記憶の底からその欠片を掬い取るように言葉を探しながら、ゆっくりと話し始めた。

 悪魔の名前は伝わっておらぬ……仮にAとでもしておこうか。
 Aは他の生物の体に潜伏するタイプの悪魔じゃ。
 宿主の選り好みはしないらしく、天使に寄生して隠れていたこともある。
 潜伏中にその存在を気取る事はほぼ不可能、だから神出鬼没じゃ。
 表立って活動すれば存在を感知する事は可能じゃが、奴もなかなか尻尾を出さぬでのう。
 あの時も潜伏したままじゃった奴の存在をどうやって嗅ぎ付けたのか、それは知らぬ。じゃが当時の天使軍はかなり周到に網を張ったようじゃ。
 結果、居場所を突き止めて奴が活動している所に踏み込んだのじゃ。
 そこまでは良かったのじゃが、いざという時に思わぬアクシデントに見舞われてのう。
 あと一歩のところで人界の特級撃退士や天使を警戒していた撃退士と鉢合わせして大混乱となり、結局は取り逃がしたらしい。
 その際に元々の寄生体が死亡していることはかろうじて確認したが、新たな宿主を見付けることは出来ず、奴の行方はそれきり途絶えている。
 奴の最高潜伏期間は数10年単位じゃ。
 だから死んではいない、どこかで生きていることは確かじゃが――

「まあ、今ならわかる。そなたの中にいるのじゃな」
 美具は体内を透かし見るような視線をラファルに向けた。
「で、それをどうするつもりじゃ?」
「決まってんだろ」
 どうやら自分が死んでも奴を道連れにすることは出来ないようだ。
 ならば引きずり出してぶっ殺すまで。
 ただ、絶対に逃さず確実に仕留めるためには、もっと情報が必要だ。
「あんがとよ、まあ正直ほとんど前に進んだ気がしねーけどな」
「しかし、これ以上のことは恐らく誰も知るまい。真相は闇の中じゃ、当事者に話を聞くことも出来んしのう」
「死人に口なし、か」
 いや、口ならある……かもしれない。
 正攻法で行き詰まったなら、胡乱な方向から攻めてみるのもアリだろう。
 胡乱にも程がある気がしないでもないが――


「オラァになんぞ用だべか?」
 ラファルの前に現れた少女は、抜き身の巨大剣を肩に担いでいた。
 その剣身にはナイスミドルのイラストがでかでかと描かれている――それがこの少女、御供 瞳(jb6018)が痛撃退士と呼ばれている所以だ。
「痛子じゃねぇだよ、イタコだぁよ」
「ああ、知ってる……だから来たんだ」
 この痛子、じゃないイタコ撃退士の口寄せは本物だ……多分。
 彼女は行方不明になった「旦那様ぁ」を探して学園にやって来たそうだ。
 その旦那様は、なんでも四国の山奥のイキガミさまだそうで、彼女はその嫁になるはずだった、らしい。
「んだぁ、したども結婚式の日に悪魔どもぉが大挙してやってきて、村をめちゃめちゃにして行ったんだべ。そんときに旦那様ぁはオラァをまもってゆくかたしれずになったもんだで、学園にいた方がみつけやすがろうとこっちに来たんだべ」
 しかし、彼は悪魔との戦いで暴走したまま戻れなくなり、やむなく撃退士によって倒されてしまった。
「だけんど、旦那様ぁの残留思念というか幽霊がずっとオラァを守ってくれていたんで全然寂しぐながったなぁ。ほれ、このドラゴンズレーヤーに宿っているんだべ」
 傍目にはただのペイントされた痛剣にしか見えないが、本人がそう言うのだからそういうことにしておこう。
 それはそれとして――
「ラファルさぁとは前に大規模戦闘で一緒に戦ったことがあったべな」
 実はその時から、瞳には気になっていたことがあった。
「オラァ、ラファルさぁがなんや霊に心配されとるのはわがっとったけれど、立ちいれる関係でながったからほっとくしかながったべ」
 しかし、今日はこうして自分から尋ねて来てくれた。
「餞別代わりちゅうことで、オラァがひとつちがらになるんだべ」
「餞別?」
「んだ、オラァも今回の事で四国さ戻って、村さ復興して旦那様の菩提を弔うんだべ」
 そうと決まれば善は急げ。

「降ろしたい相手っちゅうのはててごだべ、名は何というんだべか?」
 口寄せには対象となる人物の本名、それに生年月日と命日を知る必要があるそうだ。
 しかしラファルは、そのどれも聞いたことがなかった。
「……だそうだ」
 ラファルは瞳に面と向かったまま、背中に声をかけた。
「ラファルさぁいってぇ誰とはなすてんだべか?」
「なに、ここんとこずっと俺の後ろでちょろちょろしてる鬱陶しいネズミがいてな」
「……ちゅぅ」
 物陰でネズミっぽい何かが鳴いた。
「もうとっくにバレてんだから、素直に出てくりゃーいいのにな……追っ払ったりしねーから……つか知ってんだろ、教えろ」
 言われて、クフィルがおずおずと顔を出す。
「名前はミラジュ・T・ユーティライネン、うちらと同じ撃退士や。生年月日は――」
 クフィルから情報を得て、瞳は口寄せの準備にかかった。
 その様子を見守るラファルの横で、クフィルが居心地悪そうにもぞもぞしている。
「あ、あんなラーちゃん、うち……ここにおってもええんやろか? 邪魔やったら外すで?」
 その様子にちらりと一瞥をくれ、ラファルは独り言のように言った。
「……降りて来た霊ってやつが本物かどうか、俺にはわかんねーんだよ」
 それを聞いて、クフィルは覚悟を決めてように座り直す。
 伸ばした背筋はもう、微動だにしなかった。

 やがて瞳が口を開く。
 マンガやゲームのように、イタコが故人の姿になってまるで生きてそこにいるかのように会話をする――などということはない。
 実際の降霊術は、死者がイタコの口を借りて自分の言いたいことだけを一方的に伝えて来るものだ。
『……俺の名はミラジュ・T・ユーティライネン……』
 普段とは違った、どこか遠くから聞こえるような低い声。
『……俺の一族は大昔の強大な悪魔を人の身に封じて弱らせる役割を担う、封印の一族だった……だがその事実は長い歴史の中で忘れられ、俺もあの世で先祖から聞かされるまでは何も知らなかった……』
『……ホテルジャックがあったあの日、俺は娘を守ろうとした。だが何者かに背後から襲われて命を落とした……同時に不完全ながらも封印が解けてしまった……』
『……封印の器が破壊される……つまり死ぬことによる解放は不完全なもの……奴には他の器が必要だったのだろう……今、奴はそこにいるんだな……?』
「ああ、ここにがっちり抑え込んでるぜ。だから安心して成仏しな……親父」
 最後の一言は口の中だけで呟き、ラファルは立ち上がった。


「ラーちゃん」
 口寄せが行われた線香臭い部屋を出て、外の空気を吸っていたラファルの背にクフィルが声をかける。
「そ、そんなことうちなんにも知らんかったやってなー、堪忍なー」
「本人さえ知らなかったなら、他の誰にも知りようがねーだろ……もういいから、謝んな」
 そんなことより、外の新鮮な空気を吸ったせいか頭が回り始めたようだ。
「天使側は、寄生、人界側では封印、見解の相違とはいええれー違いだな。まったく……」
 美具の話では、奴は神出鬼没だと言っていた。
 が、何かの手違いで封印の一族であるラファルの父を宿主に選んでしまったことが運の尽き、というところだろう。
「で、俺もまたその一族ってわけかい」
 結局、これは自分で何とかするしかないのだろう。
 自分以外には誰にも、どうすることも出来ないと言うべきか。
「つってもなー、その封印を解く方法もわかんねーし……まだ腑に落ちねーこともあるんだよな……」

 ――居場所を突き止めて奴が活動している所に踏み込んだのじゃ――

 美具はそう言っていた。
 ということは、宿主がラファルの父親であることは知っていたのだろう――ただ、恐らく名前や家族関係までは把握していなかったに違いない。
 当時の天使達にとって、そんな情報には何の価値も意味もないからだ。
 だからその妻が特級撃退士であることも知らなかっただろう。
 だが念のために外で騒ぎを起こして、人間達の目をそちらに逸らしておく程度の頭は働く。
 そう考えると、クフィルが駆り出された雑魚戦は予め仕組まれたことだった、ということになる。
 しかし彼女がそれを瞬く間に片付けて、戻って来ることまでは予測出来なかったのだろう。

 そこまで考えて、ラファルの思考は止まった。
 思い当たってしまったのだ、今まで考えてもみなかった可能性に。
「親父も撃退士だって言ってたよな」
 ならば、そう簡単に危機に陥ることはないだろう。
 少なくともアウルを持たない一般人のテロリストごときがどうにか出来る相手ではない。
 では誰が?
 現場の状況から、クフィルはそれを悪魔の仕業と思い込み、ラファルもそう信じ切っていた。
 しかし、それは有り得ないのだ。彼の中にいた悪魔は、彼が生きている限り自ら封印を破ることは出来ないのだから。

 残る可能性は、ひとつ。


「おいおい、冗談だろ……」
 ラファルは乾いた笑みと共に、ゆっくりと首を振った。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb4620/ラファル A ユーティライネン/女性/外見年齢16歳/進む者】
【jb4962/クフィル C ユーティライネン/女性/外見年齢22歳/見守る者】
【jb3882/美具 フランカー29世/女性/外見年齢18歳/教え導く者】
【jb6018/御供 瞳/女性/外見年齢13歳/家族を繋ぐ橋】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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2017年12月27日

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