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『ミッレコセッデのクリスマス 』
弓月・小太ka4679

「わあっ! 小太さん見てみて。小さなエビに貝に……これはイカの足だっけ? とにかくいっぱい入ってる〜」
「そういえばフラさん、海も珍しがってましたねぇ」
 弓月・小太(ka4679)はフォークを止めてにこりとこたえました。
 きょうはフラ・キャンディ(kz0121)を誘って小洒落た料理店で一緒にランチ。テーブルに対面で座ろうとしたら店員がテーブルの角を挟んで身を寄せ合い座れるよう椅子を引いて案内してくれました。何も言わないのに恋人同士の扱いをしてもらったようですね。それもあるのかうきうきしっぱなしです。
(フラさん、ご機嫌ですねぇ)
 そう思う小太も終始笑顔。フラが楽しそうなのでやっぱり心が弾むのです。
「ボク、海を知らずに育ったから……小太さんのふるさとは海があったんでしょう? 山の料理も海の料理も詳しいもんね」
「詳しいというかぁ……まあ、比較的食材は手に入りやすかったですよぉ」
 小太は東方の古神道の神社みたいなところで生まれ育ちました。フラのように山奥に隠れて住んでいたわけではないのでそんなもんですよね。
「こっちもそうなんだろうけど……ボクってほら、エルフの小さな里に住んでたから……」
 もちろこちらでも都市部であれば流通はしっかりしています。
 フラは里から掟で出てきて海にも行ったとはいえ海鮮料理はいまだ珍しいようで。今回もトマトベースの海鮮パスタを注文しています。
「森の奥の洞窟を抜けた先の滝にありましたからねぇ。そういえば塩はどうしてたんですかぁ?」
「商人さんが来て薬とか売ってもらってたんだ」
「そういえば特産のパイプと取引してたんでしたねぇ」
 フラ、海鮮たっぷりパスタをちゅるん。小太はまったり濃厚なボンゴレを、ちゅるん。
 ここでふと思い付くのです。
「あ。話は変わりますがぁ」
 聞いていいのかな、と逡巡します。
 割とフラは隠し事をせず何でも話してくれると感じてはいますが、逆にこれまでフラの口から出たことがないので聞かない方がいいのでは、とも思います。
「?」
 見詰めるフラの目は明らかに小太とお話したがっているように映ります。小太、意を決しました。
「あ、あの……フラさんに聞きたいことが……というか、お願いがありましてぇ……」
「なぁに? ボク、小太さんのお願いなら何でも聞いてあげるよ?」
 にっこりと天使のような笑みを見せるフラ。相当機嫌がいいようです。
「そ、それではぁ……」
「うん。なになに?」
 じらしているわけではなかったのですが、フラは乗りよく肩を寄せてぴっとり。普段ならはわわ、と慌てますがいまは次のひと言への勢いとなりました。
「ふ、フラさんの手料理、食べてみたいですぅ」
「え」
 フラ、身を引いて固まりました。
「ふぇ? あの、フラさん?」
「その、お弁当とか……魚を釣ってその場で焼いて食べるとかじゃ、なくて?」
「そ、そうですねぇ。お弁当は、この前一緒に食べましたし……」
「あれは景色も良くて気持ちよかったよねっ!」
「そうですねぇ。今度は……もうすぐクリスマスですからぁ。ケーキは買うとしたら、料理は手作りのほうが……」
「そ、そうだよね、そうだよね……」
 ちら、とフラの様子をうかがうと激しく動揺しています。
(こ、困ってますぅ……とても困ってますよぉ)
 話題に失敗したかもしれませんよぅ、と小太も狼狽しますがもう遅いのです。
 ここで無理に話題を変えるとフラが落ち込むかもしれません。
「あ、あの、フラさんが作った料理であれば、どんな料理でも僕は嬉しいですよぉ?」
 というわけで押し切ることにしました。

 で、クリスマス近くの約束の日。
 小太、フラの下宿を訪れました。
「いらっしゃい、小太さん。メリークリスマス!」
 フラが赤いサンタ衣装にエプロン姿で迎えてくれます。ミニスカートですが、屋内は暖炉のぬくもりがあるから平気のようですね。
「メリークリスマスですよぉ、フラさん」
「ありがとっ。さ、上がって上がって」
 来る途中に購入したクリスマスケーキを手渡し、中へ。
 そして気付きました。
(確かフラさん、後見人の人と同居してるはずですよぉ)
「ええと……ジルさんはどうしたんですかぁ?」
「昔のお知り合いの人と会合なんだって」
 どうやら気を利かしたようですね。
 で、案内された部屋は赤い布や緑の布で精いっぱい飾ってありました。小さなツリーも飾ってありますね。
「き、きれいですねぇ」
「あ! あの……」
 フラ、もじもじしてます。ミニスカートのサンタ衣装から伸びる太腿をすりすりしてます。
「も、もちろんフラさんも綺麗ですよぅ」
「ありがとっ。小太さんも……とっても凛々しい感じ」
「ち、ちょっと恥ずかしかったのですがぁ……」
 言われて照れてしまいました。いつも通りの羽織袴姿でしたが、きょうは特別なので金糸縫い飾りの入った立派なものを着て来たのです。
「そうだ! 外は寒かったでしょ? 早速温かい料理を……」
 ここでフラ、はっとしました。
「ええと……フラさん?」
「あの……先にごはん? それともお風呂? それとも……ボク?」
「はうっ?!」
 腰をうずりと引いて聞いてくるフラに頭が真っ白になる小太でした。
「あ! ええと、どこかでまずはこう聞くもんだって……」
 どこで仕入れた知識なのかは、謎なのです。
「その……ご、ごはんにしましょうかぁ?」
「そ、そうだよねっ」
 改めて見詰め合って、笑みがこぼれました。安心した、ぬくもりのある笑顔です。これで二人とも緊張が解れたようですね。
「それでねっ、その……約束の料理なんだけど……」
「わ……これですかぁ?」
 熱心に熱心に言葉をつないでフラの持ってきた鍋は、豆料理でした。
「ボクの里でよく食卓に上がってたスープで、『ミッレコセッデ』っていうんだ」
「いろんな豆が入ってますねぇ」
「うんっ。ひよこ豆に白いんげんにレンズ豆。玉ねぎを煮込んで甘くした出汁で、キノコや野菜といっしょに煮込んだ食べ応えのあるスープなんだよ」
 トマトなどを使ってないので色みに華やかさはないですが、豆や野菜がごろりとした、食べるタイプのスープのようです。
「クリスマス料理でも華やかな料理でもなくてゴメンだけど……」
「フラさんの故郷の味なんですよねぇ? 美味しそうですよぉ」
 期待の瞳のフラ。
 先日の、手料理をお願いした時の様子と全く違います。
(こ、これは期待しても大丈夫そうですかぁ?)
 少し覚悟をしていたのですがこれは大丈夫そうと安心して、いただきます。
「ど、どうかな?」
 フラの期待の視線をあびつつ、スプーンですくった味は……。
「豆がいろいろ楽しめて美味しいですよぉ」
「よ、よかったぁ……」
「ふ、フラさん?」
 あらら。
 フラ、安堵のあまりに脱力して椅子にぐったりしました。
「小太さんに嫌われたらどうしようと思って……」
「ほ、本当に美味しいですよぉ。それに……」
 【フラが作った料理】という事実が何よりうれしいのです。
「それに?」
「故郷の味ということはフラさんもこの料理を食べて育ったんですよねぇ?」
「うん。お母さんの作った味には遠く及ばないけど、甘くて体が温まって……懐かしくて……」
 あ。
 フラ、しんみりしてしまいました。
「あ、あのぅ……フラさんの味は、フラさんの味だと思うんですよぉ。美味しいですから食が進みますし……こうすればもっと温かく……」
 小太さん、ぱくっと一口食べてからフラさんの方に寄ります。
 きょうの日を約束した、あのお店でのようにテーブルの角を挟んで隣同士に。
 そして小太のほうから肩をぴとっと寄せるのでした。
「うん……ありがとう。その……」
 これで落ち着いたフラ、目をとろけさせています。
 で、スプーンですくって……。
「その……はい、あーん……」
 二人のクリスマスは、まだまだこれから。


●おまけ
 その後。
「でも、フラさんてこういう家庭料理は教わってなかったって言ってたような気がしますよぉ」
 ぎく、とフラ。
 実は後見人に相談して口論していたようです。
「……でもっ! ボク、女の子として何もできないって思われたくないよっ。……生き延びるために焼いて塩を振るか香草と一緒に簡単に煮た魚料理とかじゃなくって、家庭的で、ぬくもりのある料理を作ってあげられる、そんな普通の女の子っぽいところも……ところも……」
 フラ、そう言って涙を流したのです。そんな自分はここにいないんだという、悔し涙。
「やれやれ。……いいかの? ワシが一人で隠れ住んでおった時、フラが来てくれてありがたかったんじゃ。それまでいくら家庭的な料理を作っても一人で食っておったからの。フラが来て一緒に同じ料理を食べて、初めて『これが家庭料理なんじゃの』と思ったもんじゃわい。やはり、会話があってこそじゃ」
「会話……」
 フラ、その時は目を丸くしたものです。
「フラの故郷の料理に豆料理はあるかの? それならワシも手伝ってやれるから一緒に作ろう。味をできるだけ近付けて。小太君には、それを食べながらフラの里での思い出を話すといいじゃろう。付け焼刃の料理より、きっと会話が弾むはずじゃ」
 ほわほわん、と思い出すスラ。
「ええと、お母さんがいつも食卓で楽しそうにしてたから。そら豆、インゲン、ひよこ豆〜♪ って口ずさみながら。それ思い出したんだ」
 えへへ、とごまかすフラでした。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka4679/弓月・小太/男/10/猟撃士
kz0121/フラ・キャンディ/女/11/疾影士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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弓月・小太 様

 いつもお世話様になっております。
 ふ、フラちゃんの手料理ですか!?
 え、ええとええと……、という感じでしたが、フラちゃんの故郷の郷土料理に落ち着きました。特に家事手伝いをしていたわけでもないため、既存の料理から似たものを見つけ、フラの味覚からできるだけ思い出の味に近付けたということで。
 作中の「ミッレコセッデ」は、「ごちゃまぜ煮」のニュアンスだそうです。実に家庭料理っぽいですよね。食べるスープとのことで、料理本を確認するとショートパスタも入るようですね。
 ともかく、健気なフラちゃんをお召し上がりください。
 ヒドイ味の料理になってドタバタになるルートは、フラちゃんがあまりに真面目に取り組んだため、かわいそうなので回避なのです。

 この度はご発注、ありがとうございました。
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2018年01月05日

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