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『まもりとなつきの始まりの話 』
神塚 まもりaa5534)&高森 なつきaa5534hero001

 幾つかの世界の『自分』を渡り歩いた先に――強い願いの光を見た。

 導かれ、オレは、おれは、俺は、僕は、私は、オレは――……。







(くそっ、なんで、なんでだ――!)

 繁華街の片隅、暗い路地を可憐な美少女が駆けていた。
 彼女の名前は神塚まり。本名、神塚 まもり(aa5534)。列記とした男である。
 なぜ彼が女装しているのか。そしてなぜ、メイクが汗で崩れるのも構わずに走っているのか。

 状況は数時間ほど遡る。

 ド赤貧であるまもりのライフワークは、女顔で着痩せするのをいいことに、女装して女としてコンパに参加、男に奢ってもらったり貢いでもらったりすることだった。
 今日も同様にしていたのだが……運が悪かった。気付けばストーカーらしき男に追われていた。

(それにしてもしつこい……ッ)
 足を緩めず舌打ちをする。いつもなら、ちょっとしつこい男ぐらい、中高と陸上部で鍛えた足で簡単に撒けたのに。この辺りの路地裏は「撒けるエリア」に最適で、何度も使ってきた場所なのに。迫り来る気配は遠退く気配がまるでない。
(ここ数年、塩と水だけで生きてる日が多かったからか? 空腹だからって運動サボってたからか? もしかして相手も陸上部とか!?)

 いや、それにしてもこれは。

(何かが……おかしい)
 奇妙な予感が沸き上がる――瞬間、ボキッと嫌な音がして、まもりは勢いよく転倒する。ヒールが折れたのだ。くそ、ヒールなんか履いてくるんじゃなかった。女用の靴で思い切り走ったから酷い靴擦れを起こしていて、さらに転倒してストッキングも伝線したあげくに膝も擦り剥いている。息を荒げすぎて喉も肺も痛い。走りすぎて脚の筋肉も張り裂けそうだ。ありとあらゆる痛みが全身の神経を刺激している。もう、散々である。
 くそ、と悪態を吐いた。直後である。

「大丈夫かい?」

 優しい――けれどねっとり絡むような嫌悪感を感じさせる声。
 弾かれたようにまもりが顔を上げれば、すぐ目の前に『あの男』がいるではないか!
「なッ――!?」
 いつのまに。前からだと!? そんな馬鹿な。足音も気配も……。なんだ、こいつ!
「お、まえ、バケモノかよ」
 転倒の姿勢のまま、青い顔でじりじりと後退するまもり。男はニンマリと笑った――口を耳まで裂かせながら。

「ああ、『愚神“バケモノ”』だよ」

 愚神。
 その言葉に、まもりは目を見開いた。
 おい、マジか、冗談だろ?
 すべてがスローモーションに見える。異形化した男の手が振り上げられる。
 凍り付いた脳に過ぎるのは走馬灯か。これまで騙してきた男達との思い出。
 ああ、これはその報いなんだろうか。後悔先に立たずとは、なんともはや。
 そして走馬灯の最期の記憶、それは幼い頃に行き倒れて、H.O.P.E.エージェントに助けられたこと。

(俺は……ここで終わるのか。あの日、繋いでもらえた命……エージェントになる夢……諦められねぇよ!)

 愚神の手が振り下ろされる。
 まもりは目をギュッと閉じた。

 ぐしゃり。

「……っ、……、……あ、れ?」
 痛みはなかった。死んだからか?
 いや、違う。
 誰かが、まもりを抱えて跳び下がったのだ。そう――助けられたのだ。
 一体誰が? 抱えられたまもりがおそるおそる顔を上げれば、麗しい青年のかんばせが、ニコリと穏やかな笑みを浮かべていて。

「オレは高森なつき。……喚んだのは、君かい?」

 英雄――高森 なつき(aa5534hero001)と名乗った青年に、まもりは確信めいた直感を覚える。
 そして、生まれて初めて、『美貌』というものに、見惚れた。

 光を透かし、虹色に輝く色素の薄い髪。
 ひどく整った顔に浮かぶ、柔らかな微笑。
 英雄然とした佇まい。

 夢に描いた英雄との出会いが、今まさに実現していた――。

 呆然としていた。だがまもりの意識は、再度響いた轟音に現実に戻る。愚神が巨腕を振るい、壁に大穴を開けたのだ。
「……どうしようか」
 まもりを抱えたまま数歩跳び退き、なつきが穏やかな声でまもりに問う。
「オレ一人じゃ、残念だけどアレには勝てないみたいだ」
 英雄は、人間と誓約を結んで共鳴してこそ、本当の力を発揮できる。
 まもりとなつきに今、必要なこと。それは誓約を結ぶことだった。
「誓約……、」
 でも、いきなりそうなったって、こんな混乱の最中で、冷静に考えられるはずがなくって。言葉を迷わせるまもり。散々考えた挙句、まもりはなつきを見やった。
「貴方は……何か、結びたい誓約は、ある……?」
「そう……だね」
 まもりの問いに、なつきは一瞬、目を細めて遠くを見て。
「オレはこの世界で縁と呼べるものは君しか、いない。オレと……家族になってくれるかい?」
「! ……俺も、貴方と家族になれるなら嬉しい」
「じゃあ、決まりだね」
 紳士然と笑むなつきが、そっとまもりの手を取った。
 重なる掌、誓約によって生み出される幻想蝶――無数の蝶が舞うような、美しい光が二人を包んで。

 降り立つ足音。
 二人は一人に。

 翻るドレスの豪奢な赤。
 夜になびく射干玉の黒髪。
 前を射抜く瞳は紅玉。
 完成された美しい四肢は、まるで命が宿った彫刻。

 ――これが、共鳴。

「うわ、すげっ……!?」
 まもりは自らの体に漲るライヴスの力を感じていた。そしてライヴスの中になつきがいる、不思議な感覚。が、それよりも自らの外見の変貌になによりもまもりは驚いていた。
「ていうか、あの」
 たゆん。
「これ……」
 ぼいん。
「おっ……」
 ぱい。
『ん?』
 ライヴス内でなつきが不思議そうにする。何か問題が? と言いたげだ。なのでまもりはそっと呟く。
「俺……男なんだけど……」
『……まじで?』
「まじで……」
『……』
 それきり黙り込むなつき。
(なん……だと……)
 ライヴスの中でなつきは青い顔をしていた。てっきりまもりを女の子だと思っていた。それも結構……いや正直に言うとドストライクだったのだ。でも男だった。マジかよ。ああ、早速作ってしまった黒歴史。
『姉か妹いるかな……』
「姉ならいるけど……」
『そっか……』
「あ、えっと、まあ、女装してたし、間違えたってしょうがないよな!」
『……』
「先に言わなかった俺も悪かったよ! ほんと!」
『……』
「はっ その、女装してたのは趣味とかそういうのじゃなくって、ええとこれには深い事情が」
『……』
「なんか言ってくれよーーー!!?」
『“なんか”……』
「そういう意味じゃなくて!?」
 と、やいのやいのしていると、また愚神が襲いかかって来た。
「っとぉ!?」
 体が軽い――まもりは鮮やかにそれを回避する。
(すげえ……止まって見える……!)
 これが共鳴の力か。なんのかんのあったが、何はともあれ今はこの愚神をどうにかせねばなるまい。それはなつきも同感のようで、彼も気を引き締めてはライヴス内より愚神を見据えた。
 二人を繋ぐ絆、そこからまもりに流れ込むのは、なつきが抱く武器への深い愛情で。それがまもりに、『戦い方』を教えてくれる。どうすれば目の前の敵を倒せるのか、を。
「ったく、めんどくせぇことしやがって!」
 よくもストーキングしてくれたな。今更ながらまもりの心に沸きあがるのは愚神への怒りである。手をサッと横に振るえば――展開される数多の銃器。

「思い知れェッ!!」

 銃声が轟々と、響く。







 こうしてまもりとなつきは愚神を撃破し。
 H.O.P.E.へ通報すれば、あれよあれよとなんだかんだでエージェント登録証にサインをしていた。それから愚神討伐の感謝として報酬も得られたのである。

「君とオレは家族になった訳だけど、まだ互いのことをあまりよく知らないと思うんだ。とりあえず、飲もう〜」
 エージェントとして初めて得られた報酬。なつきが間延びした声でそう提案すれば、まもりは金欠を理由にそれを渋った。が、「働いて家計助けるから、それにお安い飲み放題なら安心でしょ〜」と英雄がそそのかす。

 というわけで、なう、居酒屋の個室。
 お酒と、おつまみと、賑やかさと。

「そういえばなつきさんってお酒飲めるの? その、年齢的な意味で……」
「こう見えて三十歳なので……飲めるよ?」
「えっ、マジですか……」
「ところで君って男の子なんだね」
 ジョッキを片手になつきが顔を上げれば、メイクを落として男の姿に戻ったまもりがピーチフィズを飲んでいた。酒のチョイスが女子である。
「男ですね……」
 なつきの問いにまもりが頷き、サラダを取り分けてくれる。やっぱり女子みある。
「……」
 ふ、となつきが微笑んだ。
「……嘘だ!!!」
 そしてワッと突っ伏して泣き始めてしまう。これにはまもりもビックリ。
「え!? なに!? え、なつきさん酔った!? さっきまで酔ってなかったよな!? 前触れもなく酔わないで!?」
「お゛ん゛な゛の゛ごだどお゛も゛っでだの゛に゛」
 カラアゲ用のレモンを握り潰して慟哭するなつき。顔は真っ赤である。
「ああっ レモンがーーー!! ちょっとなつきさん落ち着いて下さいよ!」
「ワンチャン君おんなのこになったりしない? ねえ、ねえワンチャンある? あるよね!?」
「ないです! ノーチャンです! アッ……怖い! 目がガチで怖い! 必死か!!?」
「おんなのこだとおもっ……だからっ……ふぐぅぅぅぅ」
「落ち着いて下さいよ!!?」
「とりあえずキスしよう」
「ファ!?」
「とりあえずキスしよう」
「コイツ二回言った! エッ酔うとキス魔系男子!? なに、なんなのこれ! 俺初めてなんだけど!?」
「やさしくするから!」
「豪快にレモン握り潰しといてよく言うな!?」
「いいからキスしよう!」
「誰かたすけてえぇぇぇぇえええええ!!!」

 このあと滅茶苦茶なだめた。
 で、なつきが泣き伏せてテコでも動かなくなったので、無理矢理共鳴して帰りましたとさ。ちゃんちゃん。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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神塚 まもり(aa5534)/男/21歳/回避適性
高森 なつき(aa5534hero001)/男/18歳/カオティックブレイド
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2018年01月09日

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