▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『解放は至福なお仕置きの後で 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 シリューナ・リユクテイアの長く細い指先が、棚の中で鎮座していた魔法道具へと向かい伸ばされる。かつては膨大な魔力を孕んでいたはずの品だが、手に取ったそれからは今となっては何の魔力も感じられなかった。時が経つ事により、その力を失ってしまったのだろう。
 そうして、一つ一つの道具の魔力をシリューナは確認し、不要なものとそうではないものへと分けていく。
 そんなシリューナから少し離れたところで、床掃除をしているのは彼女の弟子であるファルス・ティレイラだ。
 倉庫には数々の魔法の品が並べられており、好奇心の強いティレイラにとっては興味をそそられるものばかりだ。ついつい視線がそちらに行きそうになるのを必死におさえ、ティレイラは気を引き締めるように身につけているエプロンの紐を結び直した。何せ今は、姉のように慕っている師匠と共に、彼女の営む魔法薬屋の倉庫の大掃除をしている最中なのだ。
「お姉様も一緒だし、普段以上に頑張らないと! 塵一つ逃さないわよ〜!」
 気合を入れ、ティレイラは雑巾を持つ手に力を込めた。

 ◆

 大掃除は順調に進み、このまま何事もなく終わる……かのように思えた。
 けれど、どうにもトラブルに巻き込まれやすく、時にその好奇心のせいで自分から巻き込まれに行く事もあるのがティレイラという少女なのである。
「いたっ!?」
 しばらく床掃除に集中していた彼女だったが、どうやら向きを変えようとしていた拍子に壁に立てかけてあった石版へとぶつかってしまったらしい。
「って、え!? 嘘でしょ!?」
 綺麗な模様の刻まれたそれを支えていた物が衝撃で少しずれてしまったらしく、石版は未だ床へとしゃがみこんでいる少女の方へと向かいゆっくりと倒れてくる。
 ティレイラの背丈以上もある石版を慌てて全身を使って受け止め、少女は自身へとのしかかるその重量に小さくうめき声をあげた。そして、なんとか倒してしまわずに済んだ事にホッと安堵の息をこぼす。
 けれど、ここは数々の魔法道具が保管されている倉庫。その石版とて、例外ではない。
「ん? あ、あれ?」
 突然の違和感に、ティレイラは首を傾げた。急に石版の重みが軽くなり、支えていた箇所の感触がなんだか変わったような気がしたのだ。
 石版が急に柔らかくなったかのような、そんな感触。しかし、ハッとティレイラは真実に気付くと、その瞳に絶望の色を宿す。石版が柔らかくなったのではない。石版の持つ魔法の力により、ティレイラの体がずぶずぶと石の中へと飲み込まれていっているのだ。
「嘘!? ま、またやっちゃった……!」
 あたふたともがきながら、ティレイラは声をあげる。しばらく助けを求め叫んでいると、足音と共に人影が現れた。
「魔力の反応がしたと思ったら……やっぱり」
 違和感を感じティレイラの元へとやってきたシリューナは、自身の想像通りの光景が広がっている事に肩をすくめてみせた。次いで、落ち着いた様子で魔法道具から溢れる魔力を解析する。
「衝撃を受けたせいで、一時的に封印の効力が発動したのね。誤作動のようなものだわ」
「そ、そんな事より助けてくださいよぉ!」
「魔法の品に不用意に触れるのが悪い」
 冷静に状況を判断するシリューナに向けてティレイラは慌てて助けを求めるが、黒髪の師匠から返ってきたのはぴしゃりとした窘める声だった。
「しばらくそのままでいなさい。お仕置きよ」
「そ、そんなぁ……!」
 涙声でもがくティレイラだったが、すでに身体の大部分が石へと飲み込まれており自分ではどうする事も出来ない。とうとう、少女の身体はその悲鳴ごと全て石版へと飲み込まれてしまった。
 少女の姿が消えた後、石版の表面に何かが浮かび上がる。それは、涙を浮かべたティレイラの姿であった。まるでレリーフされているかのように、少女は石版の一部と化してしまったのだ。
 シリューナは、ゆっくりとそれに近寄りしばしその姿を観察する。変わり果てた弟子の姿を、真紅の瞳から注がれる視線がなぞった。
 彼女の指が、そっと石版へと伸ばされそこに浮かんでいるティレイラの頬へと触れる。先程、魔法の品に触れていた時とは違い、まるで感触を確かめるかのようにゆっくりとシリューナは弟子の肌を撫でた。
 硬質な曲線を撫でると、ひんやりとした石の温度が指先から伝ってくる。磨き上げられた石版のその感触は、普段のティレイラの温かく柔らかな感触とは正反対なものであったが、滑らかであり心地が良い。
「嗚呼、なんて……」
 シリューナの唇から、自然と溜息がこぼれ落ちた。しかれども、それは封印された弟子に呆れているせいでも哀れんでいるわけでもない。
「なんて美しく、愛らしいのかしら」
 ――ねぇ、ティレ。
 名前を呼ぶ声に、無意識の内に熱がこもる。シリューナの口からこぼれたのは、その造形に打ち震える歓喜の溜息であった。甘い吐息に混じり感嘆の声が漏れる事すら厭わず、シリューナはオブジェと化した弟子を今一度撫でる。
 まるで、お気に入りの芸術品を撫でるかのように、その手つきは優しく、それでいて愛しげだ。
 頬、腰、足元……ティレイラの長く伸びた黒髪の先っぽまで、そっくりそのまま浮かび上がらせているそのオブジェは、数々の美術品を見てきたシリューナすらも唸らせる程に精巧で美しかった。
 それに、世界に美しいオブジェは数あれど、ティレイラを飲み込んだものはただ一つここにしか存在しないのだ。唯一無二のそのオブジェは、シリューナの心を奪うには十分な出来栄えだった。
 目をうるませながらもがき、悲鳴をあげたままの姿で固まってしまっているティレイラの、哀れみ以上に愛しさを感じるその表情も含め全てが愛らしくて仕方がない。
「ふふ、本当可愛いわ」
 うっとり、とまるで恋に落ちた少女のように、シリューナは高揚した表情でティレイラへと語りかける。
 冷静で落ち着いているシリューナがこうまで感情を高ぶらせている様を、見た事がある者は恐らくいないだろう。ティレイラにだって、普段は決して見せない姿だ。
 すっかりこの芸術品に夢中になったシリューナは、抱きしめたり撫でたりと思うままにティレイラの事を可愛がり始める。
 どこかで、掃除に使うためにと用意していた箒が倒れる音がする。しかし、その音すらも今のシリューナの耳には届かない。
 もはや掃除などしている場合ではない。せっかくの"お楽しみ"の時間を、シリューナが逃す理由はなかった。
 恐らく石版の封印が解けるまで、シリューナが愛らしい弟子を愛でるこの時間が終わる事はないだろう。
 はたして、それがいったいいつになるのか。石版と化しているティレイラに、知る術などない。
 少なくとも、まだしばらくはティレイラにとっては散々な――けれど、シリューナにとっては至福であるこのお仕置きの時間は、終わりそうにはなかった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ライターのしまだです。このたびはご発注ありがとうございました!
お二方様のお気に召すお話に出来ていたら幸いです。何か問題等御座いましたら、お手数ですがご連絡ください。
それでは、またいつかご縁が御座いましたらよろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(パーティ) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年01月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.