▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『今年も夜露死苦ゥ! 』
クローディオ・シャールka0030)&ジャック・J・グリーヴka1305

 新年というのはどこか気持ちが浮つくもので、普段やらないようなことをやってみようとしたり、思わないようなことを思ってみたり……とにかく、1年の中で最も自制がきかない時期といえる。
 それはポルトワールにあるカフェの中でも同じことで、バロック調の小洒落た店内で良い年をした2人の男性が、改まった顔でお互いに頭を下げていた。
「新年、あけましておめでとう」
「今年もよろしく」
 と、社交辞令も早々にして「あぁ〜」と大きくため息をついたジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、どっかりと椅子の背もたれに身を投げ出した。
「どうにも気分が浮ついてしょうがねぇな。正月じゃどこもかしこも商談はストップで、働き甲斐がありゃしねぇ」
「新年そうそう呼び出されて、そんな愚痴を聞かされるこちらの身にもなってほしいものだ」
 冷静にたしなめながら、青い花柄のティーカップを傾けるクローディオ・シャール(ka0030)。
 ふんわりと、爽やかな柑橘の香りが辺りに広がる。
 彼はひとしきりその香りを楽しむと、一口啜って、そっとソーサーへと下ろした。
 その一挙手一投足に、店のカウンターの奥から彼らの様子をうかがうウェイトレスたちが一斉に頬を赤らめて色めく。
「それで、用件というのは何だ。わざわざこんな場所まで呼び出して」
「おう、そうだ。ちょっと俺様の暇つb――もとい、用事に力を貸してほしくてな」
「……ほう?」
 小首をかしげたクローディオにその『用事』を語り聞かせると、彼は要領を得たような得ないような悩ましげな表情で腕を組む。
「要するに、リアルブルー式の新年の挨拶ということで良いんだな」
「まったく、頓珍漢な風習だぜ」
 その言葉にひとしきり頷いたクローディオは、すくりと立ち上がると手早く会計を済ませて店員からコートを受け取る。
 そしてジャックの分を彼へ放り投げながら、自らの襟をピシリと正した。
「良いだろう、ひとまず送っていこう……暇なのでな」
 キリリとした表情で答えると、ジャックがニヤリと意味深な笑みで返す。
「ありがとうございました〜♪」
 浮ついた様子の店員たちが、満面の笑みでその姿を見送った。
 2人が出て行った扉の先では、チリンチリンと軽快な鈴の音が響いていた。

 ――その日の“暁の水平線”本社は、大勢の労働者たちで賑わいを見せていた。
 海沿いにある倉庫では沢山の出稼ぎ労働者たちが大きな麻袋を担ぎ、右へ左へと忙しなく行き交う。
 社屋にもひっきりなしに人が出入りして、今が働き時とでもいうような装いである。
 そんな会社へ近づく影に、真っ先に気付いたのは入口の受付係だった。
 突然鳴り響いた鈴の音に、ふと玄関口を見やる。
 途端に、観音開きの玄関扉を突き破って1台のバイク――ではなくママチャリが、その灰銀色のボディを元旦の澄んだ陽ざしで輝かせながら、エントランスへと飛び込んで来たのだ。
 それは華麗なドリフトを決めてフロアのど真ん中で停車すると、口元を髑髏のマスクで覆うドライバーの青年が礼儀正しく会釈をした。
「すまない、アポイントはないんだが」
 それに続いて、やたらめったらに文字や虎や龍の刺繍がなされたロングコートを着こんだグラサン男が2ケツの後ろから舞い降りる。
 彼は大きく「死」の文字が書かれた黒いマスクを装着すると、両の手をズボンのポケットに突っ込みながら、これでもかと大きく胸を逸らした。
「新年、明けましてオメデトウございます! 『オレイマイリ』に来たんで、夜露死苦ゥ!」
 そう叫んで手身近なところにいた社員の男と目があうと、ポケットから抜き取った拳で彼の頬をおもいっきりぶん殴っていた。
「な、なんだお前! 何しにきやがった!?」
 騒ぎを聞きつけてやって来た労働者たちが、突然の奇行に走る「死の(デス)マスク男」を取り押さえようと飛び掛かる。
 彼は掴まれる前に返す拳を彼らに浴びせかけると、大柄な男達が一斉に床に崩れ落ちた。
「ジャックよ、このマスクは付けなければならないのか?」
「おうよ、『オレイマイリ』の正装だ」
 受付の脇に愛車を立てかける髑髏マスク――クローディオの問いに、死の(デス)マスク――ジャックは二つ返事で答えると、ざっとざっと会社の中を見渡した。
「ひとまず、社長室を目指すぜ。トップに挨拶せにゃ、ちゃんとしたことにならねぇだろうからな!」
 脱兎のごとく階段を駆け上がり、何度か商談でうかがったことのある応接室のドアを蹴破る。
 そこにいたやたら派手な刺繍のジャケットを羽織った男達数名もワンパンで仕留めると、さらに奥の社長室のドアを乱暴に押し開いた。
「ひぃぃぃ!?」
 突然の闖入者に、書類整理をしていたらしい細身の眼鏡の男が悲鳴をあげる。
「あん? 社長はどこいった?」
 この男は確か秘書だったはず――記憶を思い起こしていると、彼は見事な五体投地で2人の前に崩れ落ちた。
「私めは何もしりませぬぅぅぅ! 社長なら倉庫! 倉庫に!」
 死の(デス)マスクはニッカリと表情をほころばせると、そのまま男の前へと歩み寄って、地に伏した襟首を引っ掴む。
「サンキュ。これは『てめぇの分』な」
 爽やかに発せられた宣告と共に、次の悲鳴をあげる間もなく男は地面に伸びていた。
「ヤロウは倉庫だ、行くぜ!」
「ああ」
 意気揚々と走るジャックに続いて、クローディオは白目を剥いて失禁する男に深く一礼してから、社長室を後にした。
 
 倉庫は社屋から敷地をさらに奥へ進んだ場所にある。
 そこから船着き場へと繋がっていて、荷物の積み下ろしをするというわけだ。
 いたる所に大きな麻袋がうず高く積まれた少し埃っぽい建物の中を、ジャックとクローディオの2人は特攻ジャケットを風にたなびかせながら駆け抜けていた。
 彼らの後ろ(主にジャックの)には、死屍累々とした光景が続いている。
「この会社は、どんな商品を扱っているんだ?」
「ジェオルジ産の小麦をやりとりしてんだ。これが上モノでよ、これだけのものを安定して取引できる相手はそうそう居ないぜ」
 意気揚々と笑顔で語って聞かせるジャック。
 はじめは訝しんでいたリアルブルーの風習だったが、時も経てばそれはそれで楽しんでいるようだった。
 なにより、ものすごくスカッとする。
 そんな彼を他所に、クローディオは積まれた麻袋を見渡しながら小さく首をかしげた。
 袋の口から覗くのは大量の干し草のような物品。
 はて、小麦とは藁のまま取引するものだっただろうか?
 というかこれ、麦……?
「――おうおう、待ちなぁ兄ちゃんたち」
 その時、2人の前に沢山の男達がぞろぞろと立ちはだかった。
 先ほど応接室にもいたような派手な刺繍のジャケット姿は、とても倉庫番の日雇い労働者には見えない。
「熱烈歓迎ってヤツだな。そうこなくっちゃ」
 どこか燃えた様子のジャックであったが、派手な集団の間からひときわゴツイ身体つきの男が前へと歩み出てくると、ふと眉間に皺を寄せた。
「てめぇら、何モンだ。よその組か? 軍か? いったい、どこで嗅ぎつけた?」
「何言ってんだてめぇ? 俺たちは、今年1年の『お礼』ってヤツをたっぷり返しに来ただけだぜ」
 返す言葉に、大男もピクリとその眉をひくつかせる。
「なるほど。それじゃあ、こっちの方で歓迎した方が良さそうだなぁ?」
 言いながらジャケットを脱ぎ捨てると、筋骨隆々の上半身が白日の下にあらわになった。
 天窓から差し込む光に照らされた肌からは、真冬の空気に冷やされた熱気が、湯気となって立ち上る。
 そして小脇に抱えた大口径のライフルを構えると、どっしりと足場を踏み固めた。
「ひゃはぁ! ガザさんの大口径徹甲弾だぁ!!」
「こいつにかかりゃ、どんな敵でもランチョンミートだぜぇ!」
 喝采で囃し立てるその他大勢の歓声を背にしながら、大男ガザはニヤリとまんざらでもない笑みを浮かべる。
「あばよ、『デスマスク』。冥土でパンでも焼いてな」
 同時に大砲のような音が響き渡り、空気がビリビリと震えた。
 マッチョにしてなお反動でよろけるガザの姿が、その弾丸の威力を物言わずに語っていた。
 ゴウと音を響かせながら、ジャックの脳天目がけて迫る特大の弾丸。
 しかし咄嗟に間に割り込んだクローディオが、左腕の振るい一発で鉛玉を弾き飛ばしていた。
「……は?」
 クローディオは何事も無かったかのように立ち上がってから、焦げ付いたジャケットの袖を払う。
 焼けついて空いた袖の穴からは、鈍く輝く鋼の腕がのぞいている。
「怪我はないか?」
「ああ。なんだよ、見てるだけは飽きたか?」
 クローディオは何と返すべきか言葉を探していたが、やがて襟元を正してから小さく頷いてみせた。
「そういう事にしておこう」
「ば、馬鹿なっ! ガザさんの徹甲弾が!?」
 落ち着き払ったその態度に反して、途端にざわつくのは対岸の男達である。
「うし。それじゃあいっちょ、やってやるとすっか。社長はきっと目前だ!」
「ああ、そうだな」
 準備運動のように軽く屈伸してから、一気に狼狽えるマッチョマンへの距離を詰めるジャック。
「熊と取っ組み合って殴り殺したガザさんが、こんな変なヤツらに負けるもんか!」
「そうだ! 俺様の手にかかりゃ、こんなモヤシ野郎ども――」
 刹那、ジャックの拳がガザの顎に綺麗に吸い込まれていた。
 ワンパン。
 それは見事な放物線。
 よもや、一般人が覚醒者に敵う道理はない。
 熊を倒そうが鮫を倒そうが、こちとら日夜、もっと強大な敵と戦っているのだ。
 ふわりと宙に浮かんだガザの巨体は、埃を巻き上げながら石造りの床にバウンドして、そのままピクリとも動かなくなった。
「ガザさぁぁぁぁん!!」
「こいつらバケモンだぁぁぁ!?」
 蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う男達だったが、ジャックはそれら1人1人丁寧に首根っこを?まえると「お礼」と共に鉄拳をプレゼント。
 逆に自坊蜂起になって襲ってくる輩へはクローディオが立ちはだかって、的確な一撃で意識を吹き飛ばしていた。
 やがて誰も立っている者がいなくなったころ、麻袋の山の陰で震える社長の姿をジャックが見つける。
「おう、シャッチョさん! 探したぜぇ!」
「ひぃぃぃぃ!」
 這い出すように逃げようとする彼の胸倉をむんずと掴んで、向き直らせるジャック。
「ゆ、ゆるしてくださいぃぃぃ! ちょっとした出来心だったんですぅぅぅ!!」
 小首をかしげる彼の肩をクローディオが優しく叩く。
「外が騒がしい。軍がやって来たのかもしれないな。早く済ませてしまおう」
「おっと、マジか」
 ビクリと肩を震わせて、ジャックは振り上げた拳をゆっくりと握り締める。
 そして、汗と涙と涎と鼻水でぐしゃぐしゃになった社長の脂ぎった顔に、勢いよく振り下ろしたのだった。
「明けましてオメデトウございます! 今年も美味しい小麦を夜露死苦ゥ!」
 
「あ〜、やり遂げたぜ!」
 うんと背伸びをしながら、清々しい表情でジャックは大きく深呼吸をした。
 チャリンコを引くクローディオと共に川沿いを歩くその横顔は、夕日で赤く染まっていた。
「感謝しなければな。今日は実に興味深いものを学ばせてもらった」
「だろう? たまには異文化交流してみるもんだぜ」
 言葉の使い道を間違っている気はするが、文化に触れるという意味では間違っていないのかもしれない。
 その時、クローディオがふと歩みを止めて、ジャックもそれに習って足を止めた。
「どうした?」
「いや、私もそろそろオレイマイリを済まそうと思ってな。しばらく彼女を支えていてくれないか」
 そう言って、ママチャリのハンドルを預けるクローディオ。
「どうしたんだ、ひとっ走り行って来るってか?」
「いや……その必要はない」
 ジャックがハンドルを握ったのを見計らって、クローディオは半身開くようにして拳を構えた。
 そして次の瞬間には、無防備な彼の顔面に鋼の義手が深く深くめり込んでいたのである。
「良き友として――今後ともよろしく頼む」
 ぐらりと大きく体が揺れて、ジャックは土手道に崩れ落ちた。
 クローディオは倒れる瞬間のママチャリを優しく抱き留めると、完全に伸びた友人を見下ろして満足げに呟くのだった。
 
 ――後日、“密輸グループを一網打尽! 謎の『死の(デス)マスク団』現る! ”という見出しが新聞の一面を飾っていたのはまた別のお話。



 ―完―

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka0030/クローディオ・シャール/男性/28歳/聖導士】
【ka1305/ジャック・J・グリーヴ/男性/22歳/闘狩人】
イベントノベル(パーティ) -
のどか クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年01月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.