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『年年歳歳、花相似たり 』
アーク・フォーサイスka6568)&レム・フィバートka6552

 今年の寒さにもずいぶんと慣れて来た。
 冷え込み初めの秋口は「またこの季節が来たのかぁ」と憂鬱になる気分も、慣れてしまえばそれはそれで過ごしやすいスタイルを作り上げてしまうものだから、人間の適応力というのはやっぱりすごい。
 そんな事を考えながら、同じようにハンターとしての生活にももう完全に慣れ切ったな――と、アーク・フォーサイス(ka6568)は今にも降り出しそうな曇天を見上げて白い息を吐いていた。
「あー。アーくん、また考え事してるー!」
 すぐ隣で響いた不満タラタラの声に、幼馴染のふくれっ面を思いながらふと視線を下ろす。
 そこにはイメージと寸分たがわない表情、角度、ポーズのレム・フィバート(ka6552)の姿があって、思わずふっと笑みを噴き出した。
「えっ、何? 何で笑われたの、私?」
「何でもないよ。降ってきそうだな、と思ってさ」
 目を丸くした彼女から取り繕うように視線を逸らすと、その瞳にはいつもよりもどこか賑やかな――と言うよりは浮ついた街の景色が飛び込んで来た。
 赤、緑、白、特徴的な色合いで飾られたお店や街路樹は、それだけで今が何の時期かを思い出させる。
「そうか、しばらく街を離れていたからすっかり忘れていたよ」
「何が?」
「聖輝節」
「ああ〜」
 その言葉に、レムもポンと手を打って深く頷き返す。
「どおりで仲のいい兄妹ばっかりだと思ったら、あれみーんなカップルかっ」
「兄弟って……まあ、俺らもそんなもんか」
 苦笑しながら、アークはあらためて道行く人たちを見渡した。
 久しぶりに戻って来たらすっかり聖輝節ムードになっていたこの街は、よく見なくても見慣れた風景ながら、どこか異国の地に迷い込んでしまったかのような気にさせられる。
 そんな通りを手を繋いだり、組んだり、互いに微笑みあって行き交うカップル達。
 そうして一旦意識してみると、なんだかこっちの方が気を使ってしまうもの。
 無意識ながら彼らの時間を邪魔しないよう、通りの端側に足が向く。
「見て見て、アーくん! マーケットやってるよ!」
 服の裾を引っ張られて、視線が再び人々から街へと映る。
 レムが指さす広場の方から、沢山の屋台の賑わいが目に飛び込んで来た。
「せっかくだから見て行こうよ!」
「良いけど、少しお腹がすいたな……」
「屋台で何か売ってるんじゃないかな?」
 半ば引きずられるようにして、広場へと向かう2人。
 沢山の露店が立ち並ぶマーケットでは、先ほどの通りの様子とは打って変わって家族連れや年寄り、子供達。
 そんな、村のお祭りめいた光景が広がっている。
 もちろんカップルも居ないわけではないが、ここへ来る目的の大半は聖輝節当日や新年を迎えるための買い物だ。
 自然とそういう所帯の人々が集まって来るものである。
「アーくんち、調味料切らしてるのなかったっけ?」
「ええと……確か胡椒と唐辛子がそろそろ」
「ハーブ類は?」
「ああ、魚用の詰め合わせがそろそろ底を尽きそうだったかな」
「じゃあ、あっちの方ですなっ」
 そう言って、ぴゅーっと人の波を駆けて行ってしまうレム。
「あ、ちょっと……!」
 見失わないように、慌ててその後を追う。
 と言ってもモノトーンの帽子がトレードマークになって、人込みの中でもそうそう見失うことはないのがありがたい。
 手際よく揃えてくれた品物に代金だけ払って紙袋を小脇に抱えると、ほんのりと漂う香辛料の香りがちくちくと小腹を刺激した。
「はい、これっ!」
 そんな矢先、視界の端からずいっと突き出されたソーセージ串。
「これは?」
「さっき見かけたから、お会計してる間に買って来たの」
 言いながら、レムははむはむと自分の分にかじりつく。
 受け取ったソーセージを噛みしめると、薄皮に包まれた甘い肉汁がじんわりと口の中に広がる。
 すきっ腹が喜びできゅっと反応するのを感じていた。
「おいしい。ごめんね、後で払うよ」
「うん? いいよいいよ、私のおごり! ほら、依頼終わって今の私リッチだしっ」
 彼女は、ドンと鼻高らかに胸を叩く。
 が、すぐにバツが悪そうに苦笑して頬を掻いた。
「ほら、今回は助けてもらっちゃったし……そのお礼だからっ」
 そして、もむもむソーセージを頬張りながら視線を外す。
「ダメだな〜。逆に、私が守ってあげなきゃいけないのに」
「そんなことないよ」
 本心から言ったアークだったが、レムは変わらない笑みを浮かべたままぽんぽんと帽子の頭を叩く。
「いつも守ってもらってるじゃないか。男としては、ちょっと複雑だけどね」
「も〜、そんなこと言って。私はアーくんに後れを取るつもりはさらさらないから、ちゃんと覚えといてよ!」
 プリプリと小言を添えながら、残ったソーセージを口ぱんぱんに詰め込んだレム。
 アークは宥めるように苦笑で返すも、彼女がいつもの調子に戻ったようでホッと胸を撫でおろす。
 そんな時、ふと鼻先を詰めたい感触が舞い降りて視線が天を仰いだ。
「……降って来た」
 ちらちらと、小さな白い粉雪が華やかな街に降り注ぐ。
「ホントだ、雪だ〜!」
 同じように空を仰いでキャッキャとはしゃぐレムの姿を見ると、アークもどこか胸の内が温かいような気持ちになれる。
 この気持ちに、どれだけ助けられて来たことか――
「冷えて来たし、そろそろ家に帰ろうか」
「そうだね。グローブも磨かなきゃ」
 彼の提案に頷いて、それでもマーケットの喧騒を名残惜しむようにてくてくと歩きはじめるレム。
 空を泳ぎ、店先を泳ぐその視線がふと止まって、吸い寄せられるようにその足がとある露店へと吸い寄せられていく。
「どうかした?」
「ねえ、アーくん見て見て! このマフラーあったかそうじゃない?」
 彼女が指さしたのは、店先に掛けられていたお日様のような黄色いマフラー。
 そのモフモフとした感触を楽しむように、レムは毛糸づくりのその表面を撫でまわす。
「どうですか? 職人さんの手編みなんですよ」
「へぇ〜、そうなんだ!」
「良ければ色違いもあるんですが」
「わ〜、こっちもいいねっ」
 店員に勧められるままに黄色いマフラーを首に巻き付けながら、色違いのマフラーを胸元へ当ててみる。
 が、何か違ったらしく口をへの字にしながら小首をかしげると、やがて閃いたように表情をはじけさせる。
 そしてぴょんとアークの傍に飛びよると、彼の肩にそのマフラーを当てがった。「えっ、何?」
 突然のことに狼狽えるアークを他所に、レムはひとしきり彼の顔とマフラーとを見比べて満足げに頷く。
「やっぱりアーくんのが似合ってますぞっ。ねぇねぇ、これお揃で買おうよ! 私は黄色、アーくんは青って」
「はい、とってもお似合いですよ!」
 1人盛り上がるレムに、店員がにこやかに合いの手を入れる。
 いまだ状況を飲み込み切れておらず気圧されるアークだったが、次第に理解してくると肩に当てられたマフラーをしげしげと手に取った。
 空のように清々しく、それでいて海のように深い青色のマフラー。
 柔らかい手触りは、手にしただけでぽかぽかと暖かさを感じる。
 寒気でかじかんだ手には、とても優しい温もりだった。
「確かに、悪くないね……でも、いくらかな」
 依頼の報酬があるとはいえ、生活のことも考えるとあまり高価なものは手を出せない。
 店員もその意図を汲んでか、小さく頷いてから指折り数える。
「1つだとこれくらいですけど、2つセットで買ってくださるなら……これで良いですよ!」
 そう言って指示した指の本数に、アークもそれならと財布の紐を解く。
「えっと、1人いくら?」
「いいよ、さっき奢って貰った分だから」
 そう言って、値段も教えずに会計を済ませてお店を後にした。
 雪の降り注ぐ街を色違いのマフラーを巻いて並ぶと自分達も街行くカップルの一員になったような気分になって少し小恥ずかしくも感じたが、それ以上の暖かさが包み込んで、悪い気はしない。
「へへ〜、アーくんに買って貰っちゃった」
「大事にしてよ?」
「もちろんだよ〜!」
 レムは2つ返事で頷いてから、マフラーにもふっと顔をうずめる。
 そして、その暖かさにほんのり頬を染めてみせた。
「ねぇ、アーくんさ。私たちって、周りにどう見られているのかな?」
「えっ?」
 突然の言葉に、アークは思わず聞き返してしまう。
 マフラーのせいか首筋がかーっと熱くなったのを感じながらその横顔を覗き込むが、彼女はいたって真面目そうに腕を組んで、街のショーウインドウに映る2人の姿をうんうん唸りながら眺めていた。
 それを見て、アークは面食らった半面、噴き出したように笑いをこぼしていた。
「あ〜、また笑った! もう、今日のアーくんひどいよ〜。2回も笑った! 2回だよ!」
「ごめんって」
 眉間に眉を寄せる彼女と鏡面ごしに目を合わせて、アークは静かに首を振る。
「俺らは俺らで変わらないよ。季節が毎年、必ずやって来るようにさ」
「何それ?」
 振り向いたレムに、アークはただ笑いかけてから1人歩き出した。
 彼女が小走りでそれに追いついて来ると、もう一度それぞれのマフラーを見比べて、幸せそうに頬を綻ばせる。

 年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず――2人の距離は、花か人か。
 それはまた来年もやって来るこの季節に、ひとつの答えが見えるだろうと。
 
 
 
 ――了。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568/アーク・フォーサイス/男性/17歳/舞刀士】
【ka6552/レム・フィバート/女性/17歳/格闘士】
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2018年01月10日

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