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『けぶる月夜に揺らめく光。 』
アルバ・ソルka4189

 詩天、某所。
 そこに在る温泉に彼らが訪れたのは、そろそろ冬の声も聞こえようかという頃のことだった。
 彼――アルバ・ソル(ka4189)。そして彼女――クウ(ka3730)。
 この温泉に小旅行に行かないかと、アルバが誘った理由はひどく簡単で、以前にクウが福引に当たったとかでその温泉に行ったことがあるからだ。その思い出話がひどく楽しそうで、どうやらクウ自身も気に入った様子だったから、今度は2人で一緒に行かないかと誘ってみた。
 クウの楽しかった思い出を、少しでも共有してみたかったのかも知れない。そんな風に誘ったアルバの言葉に、彼女は快く『温泉? 一緒に行くの? 良いわね、面白そう!』とふたつ返事で頷いて。
 互いの予定を折り合わせ、小旅行計画は決行となった。もう冬も近い秋の終わり、吹き抜ける風は冷たくも爽やかで、どこまでも高く澄み渡る空がひどく清々しい、そんな日。
 温泉宿を訪れたアルバとクウは通された部屋で、軽く荷解きをして人心地ついた。それから何はともあれ目的の温泉を楽しまなければと、必要なものだけを手に部屋を出る。

「やっぱり一緒に楽しみたいわよね。この温泉、混浴もあったっけ?」
「そう、だね……あった……と思うけど」

 楽しそうに温泉へと向かいながら、別々に入っても楽しくないしねー、と無邪気な笑顔で振り返ったクウに、振り返られたアルバは何とも言えない曖昧な表情を浮かべて見せた。混浴、とさらりと言われた単語を胸の中で繰り返す。
 いや、まあ。一緒に温泉に行かないかと誘ったわけだから、そんなこともあったりするかもしれないなと、まったく思っていなかったと言えば嘘になるだろうけれども。
 そもそも、元々アルバとクウは古くからの幼馴染でもあるから、すっかり気心は知れた仲なのだし。それこそ男女の区別もされないような大昔には、一緒にお風呂に入りもしたけれども。
 そうは言っても、今の彼と彼女は『恋人同士』という関係なのである。すなわち、男と女のあれやこれやをもっと、色々と気にしても良い関係であり、年頃なのだ。
 しかも実はこの温泉旅行が、恋人同士になってから2人きりで行く初めての旅行。となればアルバとしてはやっぱり、それなりに色々考えもするし、期待も不安もあるし、緊張だってしているのだけれども――

「あ、ここみたい! ほらほら! アルバも早くこっちにきなよー!」

 混浴と書かれた看板を見つけて、嬉しそうに大きく手を振ってアルバを手招きするクウの、どこまでも邪気のない笑顔にほんの少し、苦笑する。その微妙な表情に気が付いて、む? とクウは小首を傾げた。
 何? と尋ねたら、返された応えは「何でもないよ」という微笑みのみ。それはすっかりいつも通りのアルバの笑顔で、ならいいけど、と頷く――アルバが内に秘めたあれやこれやには、気付いていない。
 なにしろ――なにしろ、だ。せっかくはるばる詩天までやって来た温泉なのだから、楽しまなければ損というもの。
 だからクウは「ならいっか♪」と気持ちを切り替えて、がらりと勢いよく扉を開けた。ほわり、中から漂ってくる湯気と熱気の混ざった空気に、嬉しくなって目を細める。
 温泉の熱が伝わっているのか、浴場の手前に設けられた脱衣所の床を踏みしめると、ほのかに暖かさを感じた。それが何だか嬉しくて、えへへ、と笑いながらパパっと着衣を改めると、ステップでも踏みそうな足取りでさらに奥へと向かい。
 浴場へと足を踏み入れた瞬間、わぁ、とクウは子供のような歓声を上げていた。
 もくもくと上がる白い湯気が景色を彩って、まるで別世界に迷い込んだかのようにも見える。その向こうからささやかに聞こえる湯の音が、なんとも風情を感じさせた。
 それに、何だか子供のようにワクワクして。

「よーし、楽しむぞーッ!!」
「……クウ、響いてるよ」

 浴場に仁王立ちし、おーッ、と両の拳を上げて叫んだクウの背後から、同じく湯あみ用に着衣を改めたアルバが小さな苦笑を零しながらそう言った。





 温泉の醍醐味といえばやはり、湯船につかりながら飲む酒ではないだろうか。もちろん異論は認めるが、特別感というか、非日常的な雰囲気があるのは事実だ――と思う。
 ゆえに温泉につかってふわふわと温まりながら、アルバとクウも盆にのせた徳利と酒杯を手に、ゆったりとした気持ちで酒を楽しんでいた。
 さしつ、さされつ、またさしつ。そうして互いに酒杯をちびりと重ねながら、最近の話や少し前の話をしているうちに、気づけば話題は2人が小さかった頃の思い出話になっていた。
 お互いにお互いを知り合う仲だからこそ、語りたい思いでもあれば、忘れたくとも忘れられない思い出もある。けれどもそんな思い出も、酒の肴に語ってみればやっぱり懐かしく、大切な思い出で。
 覚えてる? とクウがとくとく酒を注ぎながら、言った。

「こんな風に、昔も一緒に入ったこと、あったっけ? ふふ、懐かしいわね♪」

 そう、ひょいと肩をすくめて懐かしそうに笑いながら、クウがくいと杯をあおる。幼い日々はこうして思い返してみれば、懐かしくも遠く感じられた。
 まだ小さな女の子に過ぎなかった、あの頃。けれども気付けばクウはこうして大人になっていて、ちっぽけな女の子に過ぎなかった自分を懐かしく振り返っていたりする。
 それは、何だかくすぐったくて。――ほんの少しだけ、寂しさを感じたりもして。
 そんな自分を笑い飛ばすように、まったく、とアルバに片目をつぶって見せた。

「ほーんと、お互いすっかり変っちゃったわよね」
「君は変わらないよ。いや……とても綺麗になったか」
「………ッ!?」

 そう、茶化すように笑ったクウの言葉に、けれどもアルバはそんな気恥ずかしい事を、茶化すのではない真面目な表情で言ってのける。――こんな風に、思った事や感じた事はストレートに伝えるのが、アルバという男なのだ。
 それは、わかっていた事で。そんな風に、いつだって自分のことを迷わずまっすぐに見つめて、好きと言ってくれるアルバだから、クウは好きなのだけれども。
 好き、なのだけれども。

「あ……いや、うん、ありがと……」

 しどろもどろになりながらどうにかそう礼を言った、クウの顔が真っ赤に染まっていたのはもちろん、温泉で火照ってしまったからでも、重ねた酒杯に酔いが回ってきたからでもない。
 ただ単純に――照れて、しまった。それがクウ自身にはもちろん、傍から見て居たアルバにもよくわかった。
 幼いころからお互いをよく知っていて、だからこうして一緒にお風呂に入るのだって、もしかしたらクウには今更感があったのかもしれなくて。でもちょっと、いやかなりこういった恋愛ごとには奥手な彼女だからきっと、今になってようやくアルバのことを意識してくれたのだろう、と思う。
 その証拠に、先刻までとは態度が違った。先刻まではそれこそ、普段と全く変わらない、下手をすれば恋人同士であることも忘れているのではないかと危ぶむような『幼馴染』の顔をしていたのに、今は明らかにアルバの方をちらりと見てはぎこちなく目を逸らしたりして――『恋人』の表情になって、いる。
 それが、嬉しくて。そうして、安堵して。
 微笑んだアルバにますます、クウは頬に血が上るのを感じた。本当に、本当に今更だけれども、アルバは自分のことを意識しているんだな、と――好かれているんだなと感じてしまって、そうなったらもう駄目なのだ。
 気恥ずかしくて、照れてしまって。けれども自分の中にある想いを、自分もちゃんとアルバを好きなのだという感情を表現するための術は、悲しいくらいに拙い自分のことだって、クウはちゃぁんと解っている。
 解っていて――でもどうにかしたくて。だがどうしたら良いのか考えているうちに、どうやら今度こそ湯に当たってしまったらしい。
 これ以上なく真っ赤な顔で、クウはうぅ、と呻き声をあげた。

「な、なんかあつくなってきた……」
「え……のぼせちゃったか? 大丈夫?」

 そのままぶくぶくと湯に沈んでしまいそうな、クウを慌ててアルバは抱き留める。そうして顔を覗き込んでみれば、ここにきて酒もすっかり回ってしまったのか、ふにゃぁ……と今にも崩れてしまいそうな風情。
 これはいけないと、アルバは何とかクウを湯船の外へと連れ出した。足元もおぼつかない風情のクウに肩を貸し、ひんやりと涼しい辺りまで連れて行くと、そっと大切に横にならせる。
 そうして額に冷たい布を当てたり、首筋を冷やしたりと、介抱するうちにゆっくりとクウの顔色も元に戻り始めた。どこかぼんやりとしていた眼差しが、しっかりと焦点を結び始める。
 ぁー、とクウがばつの悪そうな顔になった。

「ごめん、アルバ……なんか、その……」
「――ああ、わかってる」

 どうしたものかと困ったようにも、照れたようにも見える素振りで視線をさ迷わせながら手さぐりに言葉を紡ぐクウに、アルバは大丈夫だと首を振る。それに、ほっとした笑顔になる彼女が、愛おしいと感じた。
 今だけではない。いつも、いつだってクウは容易く、アルバの胸の深い所を鷲掴みにして離さない。
 だから――アルバはそっと、かねてから用意しておいた物を大切に取り出した。そうしてまっすぐな眼差しをクウへと注ぎ。
 これを、と差し出したのは、そろそろ上り始めた月の光に美しく輝く指輪。

「君が好きだ。ずっと、一緒にいて欲しい。受け取ってくれないか」
「ん? コレって……つまり、そういう、アレ?」

 その輝きと共に静かな、だが確かな意思を秘めた声色で紡がれた言葉に、告げられたクウは数舜、瞬きをした。瞬いて、輝く指輪を見つめて、確かめるようにまたアルバを見て。
 ずっと一緒にいて欲しいと。指輪と共に告げられたその、意味を知らないほどクウは物を知らない子供ではない。
 だから確かめるように――見定めるように。アルバをじっと見つめたクウは、不意にふぅ、と息を吐き。

「……うん、いいよ」

 そっと、柔らかに微笑んだ。差し出された指輪を大切に受け取って、手の中に包み込む。
 この指輪に託された想いを、想った。告げられた言葉を、想った。――遥かな未来を、想った。

「……。部屋に、行こっか。もっとたくさん、気持ちを聞きたい」

 そしてクウは微笑んで、アルバにそんな『おねだり』をする。だってクウはアルバの、自分の気持ちをまっすぐに言葉にして告げてくれる所が、とても好きなのだから。
 もっとそれを聞かせて欲しいと、告げた彼女にもちろんとアルバもまた柔らかく微笑み、頷いた。


 ――夜はまだ、始まったばかり。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /   PC名   / 性別 / 年齢 / 職 業 】
 ka3730  /   クウ    / 女  / 18  / 疾影士
 ka4189  / アルバ・ソル  / 男  / 18  / 魔術師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

御二人の温泉への小旅行での物語、如何でしたでしょうか。
詳細をお任せ頂いてしまいましたのにすっかり甘えてしまい、本当に自由に綴らせて頂いてしまいましたが……ええ、本当に自由にしてしまいましたが……(汗
自由奔放なお嬢様と、手綱を握っているような振り回されているような息子さん――というよりは、息子さんのおかげで自由奔放なお嬢様、だったりするのでしょうか?
もしイメージと違うなどあられましたら、いつでもお気軽にリテイクをお申し付けくださいませ(土下座

御二人のイメージ通りの、新たな関係へと一歩を踏み出す穏やかなノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
■イベントシチュエーションノベル■ -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年01月15日

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