▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『乳姫選 前編』
月乃宮 恋音jb1221


 2018年、春。
 月乃宮 恋音(jb1221)が部隊の同僚と共に立ち上げた事務代行業は、順調にその業績を伸ばしていた。
 それに加えて「裏の顔」に於いても祖父やその取巻き達の手から権力や資金源その他諸々を剥奪――いや、譲り受けることに成功していた。あくまで穏便に、と記録には記しておこう。
 しかし、その膨大な「資産」もただ持っているだけでは宝の持ち腐れどころか、却って足枷とも鳴りかねない。充分に活用するためには、相応の組織力が必要不可欠だった。

「……今後は仕事の種類も増えるでしょうし、多様なニーズに応えるためにも人材の拡充が急務ですねぇ……」
 かつては共に天魔と戦い、事業の立ち上げにも参加してくれた【内務室】の仲間達には、既に役員としてそれぞれ重要なポストに就いてもらっている。
 彼等も優秀な人材であり、その仕事ぶりには満足しているが――まだ足りない。質ではなく、量が。
 どんな案件に対しても、自分達に出来ないことはないと胸を張って言える組織を作るためには、更にいくつかの才能を発掘する必要があった。

 その候補者のリストが今、恋音の手にある。
 アパート「風雲荘」の一角に設けられた、こぢんまりとした事務所。
 一日の営業を終えた夕刻、ひとり机に向かった恋音はエントリーシートの一枚一枚を丁寧に見返していた。
 傍らには名前と簡単なプロフィールが書かれた、数ページにわたるリストが置かれている。
 その最後のページ、一番下に載せられた名前の上に打ち消し線が引かれた。
「……この方で最後、ですねぇ……」
 役員に昇格させる者は、内部の協力者から選ばれる。
 募集に応じた者達はまず書類審査でふるいにかけられ、次に面接でその人柄や能力、適性を見極められることとなった。
 能力は高くても、組織の中ではそれを発揮しにくい者もいる。
 役員として上に立つよりも、下から支えることが得意な者もいる。
 頭も切れるし能力も申し分ないが、全幅の信頼を置くには不安がある者もいる。
 そうした者には別に活躍の場を設け、或いはさりげなく遠ざけることとして――残ったのは六人の女性達だった。

「……特に意識して、女性ばかりを集めたわけではないのですがぁ……」
 結果として事務所の桜の園――いや「乳の園」度がますます上がることとなったのは、やはり流石のチチノミヤ。
 と言っても全員が立派な胸部装甲の持ち主、というわけではない。
 基準はあくまで能力と、そこに信用度や性格等を加味した内面的なものだ。

 面接の様子を思い返しながら、恋音は六枚のエントリーシートを机の上に並べてみる。


 一人目は15歳の現役高校生、専攻は阿修羅。
 添えられた写真から受ける印象の通り、育ちの良い深窓の令嬢タイプだ。
 しかし、お嬢様であることは間違いないのだが……正統派とは言い難い。その実家は先祖代々「ヤ」の付く渡世を渡ってきた由緒正しき家柄なのである。
 学校への送り迎えは黒塗りのリムジンで、外出時には前後左右に黒スーツを従えるのは当たり前、授業中でもそこかしこに身を隠した黒スーツが目を光らせているという、いかにもなお嬢様待遇。
 しかし彼女はそれを特に窮屈だとも思わず、周囲から浮きまくっていることにも気付いているのかいないのか――という天然おっとり系だった。
 とは言え、流石にいずれ一家の跡取りにと目されているだけあって、義侠心は人一倍だ。
 そして何より、彼女は自分の強味を心得ている。
「……この方は、現当主にとってただ一人のお孫さんなのですよねぇ……」
 海千山千の極道者にも人らしい弱点はある、それがこの孫娘の存在だった。
 それこそ目の中に入れても痛くないレベルで溺愛する彼は、孫娘の「お願い」に対して首を横に振った試しがないという。
 もちろん組の面子や進退に関わるような事柄に関してはそう簡単にはいかないだろうが、それでも。
「……彼女を押さえておけば、裏社会を押さえたも同然……というのは言い過ぎかもしれませんが……干渉の余地を得るという面でも有用でしょうねぇ……」
 今後は裏社会との接触も増えるだろう。
 彼女の人脈と組織への影響力は必ず役に立つはずだ。


 二人目は今年で20歳になるアーティストで、言語学の専門家。
 数年前まで家庭の事情で海外を転々とし、お陰で様々な言語を自在に操れるようになったという帰国子女。そのせいか肝心の母国語が少々おかしなことになっているが、それも彼女のキャラとして欠かせない要素のひとつだろう。
 見た目は穏やかで母性的、少しぽっちゃり気味の体型と相俟って、みんなのお母さんといった雰囲気だ。実際あと10年もすれば事務所のオカン的な存在となって、若い子の面倒をよく見てくれることだろう。
 幼い頃から異国を渡り歩いていたというだけあって、彼女はコミュニケーションの達人だ。
 文化の違いをものともせず、言葉の通じない相手とでも意思を通わせることが出来る点は特筆に値する。もしかしたら動物とも意思疎通が出来るかもしれない。
「……その他の点では特にこれといって秀でた点は見当たりませんが……彼女の場合、それだけで充分ですねぇ……」
 これから世界規模で業務を展開していくことを考えると、言語の専門家は有難い。
 初対面から相手の緊張をほぐし、ついガードを緩めさせてしまう、その人柄も大いに役立ってくれることだろう。


 三人目は23歳のインフィルトレーター。
 小柄な体型に大きなおっぱいという見た目は多少、恋音と被るが……それは置いといて。
 彼女は元売れっ子のキャバ嬢として、夜の世界では「知らない奴はモグリ」とまで言われた伝説的な存在だ。
 そんな彼女がなにゆえ久遠ヶ原学園に籍を置くこととなったのか、そのあたりの事情はエントリーシートにも書かれていない。
 恋音も面接でそれを問うことをしなかった。
 事情は人それぞれ、ただ縁あって今こうして協力者として共に歩んでいる――それだけでいい。
「……23歳と言えば、世間ではまだ若く青いと思われているのでしょうが……」
 この事務所では、恐らく最年長だ。
 恋音本人を始めとして、立ち上げメンバーは殆どが十代の若者達。
 業務に関してはどんな大人にも引けを取らない彼等も、夜の世界に通じるには些か若すぎた。
 しかし、昼の世界だけで生きていけるほど、この業界は――そして恋音達が目指す場所は甘くなかった。
「……その点、この方は年齢こそ若いですが、既にその世界ではブランドとして確立された大ベテランですからねぇ……」
 彼女を推さない手はない。
 きっとこれから、夜と昼とのパイプ役として欠かせない存在となってくれるだろう。


 次の書類に伸ばそうとしていた恋音の手がふと止まる。
「……そろそろ、一度休憩にしましょうかぁ……」
 お得意様からいただいた美味しい紅茶とケーキがあることを思い出し、そっと席を立つ。
 思いのほか長時間、同じ姿勢で座っていたようだ。
 大きく伸びをすると、あちこちの骨や関節がバキバキと悲鳴を上げる声が聞こえた気がした。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【jb1221/月乃宮 恋音/女性/外見年齢19歳/乳神様】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

アドリブOKということで、遠慮なく想像を膨らませてみました。

口調や設定等、また意図された展開との齟齬がありましたら、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
シングルノベル この商品を注文する
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年01月15日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.