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『年の瀬におせちと初詣を 』
浅黄 小夜ka3062)&藤堂研司ka0569

 リベンジである。
 料理を教えてほしいと研司に頭を下げ、彼の誘いを受けた結果、小夜はおせち料理のレクチャーを受ける事になっていた。
 全てが和食であるため完全な再現は難しいかもしれない、でもクリムゾンウェストオリジナルのおせちを作る勢いでもいいのだと研司は言う。
「要は縁起物で、三が日中保つものなら趣旨は合っている訳だからね」
 別にこの世界に限らず、地球ですら料理はその場の風土に合わせて変化していったのだと研司は言っていた。
 思考を交えながら、彼が真剣な顔で書くのは二人分の買い出しメモ。
 気さくで優しいお兄さんだけど、集中すると時々こういった真剣な顔を見せる。小夜は暫くその横顔を見つめていたが……はっと目的を思い出したかのように我に返り、「支度してきます!」と飛び出していった。

 +

 頭上でお団子にした髪に、まくって固定した袖、頑丈さと容量を重視した買い物バッグ。
 対・混雑用の買い物装備である、なんでも言ってください、と張り切る小夜に研司は仕方なさそうに笑いながらも、買い物メモの片方を渡す。
 年の瀬で混むだろうし、量も多くなりそうだから手分けしよう、と言いだしたのは小夜である。研司は少し心配していたようだが、小夜を一人前として扱うと決めていたし、心意気を挫くのも悪いと思ったのか、少し考え込むだけで案を飲んでくれた。
 研司お手製の買い物メモには回るべきお店の位置や買うべきもの、ワンポイントで食材の選び方も書いてある。恐らく彼がレストランを経営してる間に貯めてきた情報と知識だろう。

「じゃあ、二時間後にギルド街前で」

 …………。

 人が多い。
 年末という事もあり商店街は大混雑で、小柄な小夜は事ある度に人混みに揉まれては道を外れそうになっている。
 バッグだけは胸の前に抱えて死守、メモを手放さないようにしながら、人混みの隙間を縫っていく。

「昆布に栗、黒のお豆に、お豆腐としいたけ……」
 この辺は季節が然程離れてない事もあり、リゼリオでも問題なく手に入る。
 重くて大きいものは研司の担当だろう、その分細々したものは全て小夜の側だ。
(大体揃った……やろか?)
 二人でおせちを作るという事は、やはりお正月も一緒だろうか、もしそうであるならとても嬉しい、初詣……らしきものも一緒に出来ればって思う。
 研司は和服を着てくれるかどうか、お兄はんの事だからとても似合うだろう、普段の気さくな感じも親しみやすくていいと思うが、和装もきっと素敵だと思う、

 リゼリオは貿易が盛んだけあって普段見ないものも手に入る、ふと、そわりとした思いつきが浮かんだ。もしかしたらあるかもしれない、あればいいな、と思う。
 時間を確認する、まだ猶予はあるように思えた、正月の前に探したいものが出来て、小夜は再び商店街の中へと潜っていく。

 ……まずった。
 目的のものは幸いにも見つけられたが、人だかりは増す一方だった。
 そのいくらかは小夜と同じく、正月飾りが目的だろう。
 遠回りして待ち合わせ場所に向かう方がまだ楽だったかもしれない、このまま足止めされてたら遅刻してしまう、そう考えると焦る一方で、小夜はなんとか抜け出す場所を探そうとする。
「にゃー」
「猫さん……あわわ、堪忍なぁ、また今度な……!」
 顔見知りの猫を見かけるも、すれ違い際に声をかける程度の余裕しかない。
「向こうで年末の抽選会だってー!」
 何かイベントでもあるのか、はしゃぐ声と共に人だかりがごそっと動いた、小夜も思わず流されて行く。まずい、と判断して手だけでも伸ばす、隙間から抜け出せればと思ったが……。

「おっと」
 聞き親しんだ声とごつめの手が伸びて、小夜の手をキャッチした。
 顔を上げればやはり買い物袋を片腕に抱えた研司で、人ごみの中から引っ張り出してもらう。
「ふー、すごい人だかりだったな……」
「あ……その、お兄はん、おおきに……」
 助けてもらった礼を言う、待ち合わせ場所ではないが、合流できたので結果オーライだろうか。
 にしてもあの人混みでよく小夜を見つけられたものである。
「猫の声がしたから、もしかして、と思ってね」
 それだけでもない、担当分は小夜に任せると決めたが、やはり気にかけてはいたのだ、だから見つけるのも早かった。
 人だかりが散るのを待ちたかったが、どうも暫くはその様子もない、突っ切るか、と研司が言って、いける? と問いかけられれば、小夜も力強く頷く。
「ついてきて」
 小柄な小夜を庇うように、研司は壁になりながら道を作っていく。強い背中が守ってくれたから、小夜が進むのは格段に楽だ。繋いだ手はそのままに、後ろをついていくと、無事ギルド街に抜け出す事が出来た。

「よっし、それじゃあ……戻るか!」
 それがいいだろう、どの道あの有様だと暫く買い物は無理だ。
 おせちを作ってる間に人ごみもマシになるはず、その後は……。
「あの……おせちの後に、時間があったら、行きたい場所が……!」

 +

 小夜が行きたがった場所というのは、和もののお店だった。
 正月も研司と顔合わせする事、一緒に初詣をして、小夜の部屋でコタツに入りながらおせちを突っつく事の約束を取り付けて、二人はおせち作りに望んでいた。
 作るのは蒼の世界でポピュラーな三段重、小夜のリベンジ、という事で研司は作り方のレクチャーをしながらフォローに回り、初回の手本を除いて大体を小夜に任せて盛り付けていく。
 最初の段には黒豆の砂糖漬け、魚卵、たたきごぼう、だて巻きに栗きんとん。
 焼き物には研司が探し回った出世魚を、両側にはなますとレンコンの酢漬けを詰めて、煮物を作ってる間に正月の打ち合わせをしていく。

 和装を買いに行くなら一人で行く理由はない、どうせなら研司の和装も見たいし、二人で行ったほうがより楽しみが増えるに決まっている。
 だから、おせちを仕上げ、商店街も少し落ち着いた頃を見計らって二人で再び街へと出ていった。
 買い出しの時に探しにいったのは東方の品物を扱ってるお店だ、着物は勿論、正月飾りもあればいいなと思う、竹を連ねた飾りもの、木製の台に餅と蜜柑を置けばそれっぽくなるだろうか。

 年の瀬だ、ついでにお世話になった商店街のお店にも挨拶をしていく。
 来年もよろしゅうお願い申します、そう言いながら回るが、途中で向けられる目線がやや怪訝なものである事に気づく。
 店主は小夜を見て、研司を見て、もう一度小夜を見る。小夜のメイクはまだ落としていない、馴染みの店主は小夜の姿がいつもと違う事に気づいたのだろう。
「彼氏?」
「い、いややわぁ……」
 否定の意味でぶんぶんと首を横に振る、思わず地が出てしまったが、リアルブルーからの奇矯な言動には慣れてるのか余り気にされた様子はない。
 違う、大切な、尊敬するお兄さんである。彼氏か……と意識したこともない事を考えながら、今度こそ年末の買い物を締めくくっていた。

 +

 年が開けた。大晦日はギリギリまで起きてようとしたが、温まった布団に負けて途中リタイアしてしまった気がする。
 研司とは今日もギルド街で待ち合わせである。
 寝入ってしまった分早めに支度をして、入手した着物を広げて着付けを始める。
 リアルブルーで経験はしていたが、まだ覚えているかどうか怪しい、多分これで合ってるはず、と抜き加減を何度か調整しながら、帯を締めるところまで完成させた。
 髪を結わえて、飾りと簪を刺す。店に置いてるモチーフは色々あったが、選んだのは桜を数個束ねた清楚なもの。故郷を思うなら、やはりこの意匠が一番だと思った。
 メイクをして、血色補正用に買ったチークも差す。正月だ、これくらいはしてもいいだろう。

 蒼の慣習が大分持ち込まれているとはいえ、小夜の装いはやはり目立つ。待ち合わせ中はそわそわしっぱなしで、研司の姿を見ると、仲間を見つけた安堵で顔を輝かせずにはいられなかった。
 研司も今日は和装、きっちり着込んだ羽織袴姿で、髪も専門の店で整えて貰っている。
 素敵だろうとは思っていたが、実物を見ると思わず見入ってしまう。気さくな印象から一転格式ある大人の姿だ。
 行こうか、というエスコートに感嘆のまま頷いてしまう。

 詣でる場所は研司の提案で神霊樹にすると決めていた、あの場所は蒼の世界に通ずるところもあるから、きっと願いを届けてくれるだろう、と。
 手水舎はなく、神様を呼び出すための鈴や鈴緒もない。邪魔にならない隅っこに立ち、樹に向き合い、二礼二拍手をしてお祈りのために目を閉じる。

 何を願おう。
 リアルブルーに無事戻れますように? 勿論重要だ、かなり優先度の高いお願いだと言ってもいい。
 残してきた両親が変わらず健やかでいてくれますように、これもお願いしたかった、以前見た悪夢の件もある。
 後は――。
 ここで知り合った大切な人たちも、これからちゃんと無事でいてくれますように。
 自分に嘘はつけない、ここで知り合った人たちだって大切な人だ、いずれ別れる運命かもしれないけど、幸福である事を願っている。
 それと、多くの時間を一緒に過ごして、気にかけてくれたのは間違いなく研司だ。だから、彼にも新しい一年がいい年である事を特別にお祈りする。
 過ぎ去った一年は、多くの出会いと、出来事に満ちた時間だった。その事に感謝を述べて、今年も平穏で、良かったと思える一年であって欲しいと締めくくる。

 最後の一礼をしてお祈りを済ませ、目を開けたら研司が隣で待っていた。行こうか、との言葉に頷いて、神霊樹を後にする。

 蒼の世界から来て、紅式で行われる初詣。
 その願いが、二つの世界に届きますように。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3062/浅黄 小夜/女性/14/魔術師(マギステル)】
【ka0569/藤堂研司/男性/24/猟撃士(イェーガー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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音無です、続編のご依頼有難うございました。
前回は小夜ちゃんが押し気味だったので、今回は少しバランスを変えてみました。

恋になるかどうかはわからないけど、間違いなく特別な人。
相応に理由があるから、あなたに視線が引き寄せられるのです。
イベントノベル(パーティ) -
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ファナティックブラッド
2018年01月18日

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