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『北方の秘湯にて 』
レナード=クークka6613)&アーク・フォーサイスka6568)&シャンカラkz0226

 街路樹の葉が落ち始めた頃に届いた、北の園からの手紙。
 受け取ったレナード=クーク(ka6613)とアーク・フォーサイス(ka6568)は、封筒に書かれた署名に目を瞠った。龍騎士隊隊長・シャンカラ(kz0226)と、年長龍騎士・ダルマの連名。肩書きは堅苦しいが、ふたりにとっては遠方住みの友人だ。封を切り、したためられた達筆な文字に頬を緩ませる。

『龍園へ遊びに来ませんか? 過日のお礼に、良い温泉にご案内いたします』

 ――温泉!

 日々寒さが増し、いよいよ冬が来ようとしている今時分には嬉しい誘い。
 春には龍園の宴に参加し、夏は夏だけに現れる雪解け水のせせらぎで遊んだ。今なら北方の秋の風情が楽しめるかもしれない。
 ふたりはすぐに返事を出すと、約束の日に備え支度を始めたのだった。



 ――が。

「ふあぁ、寒っ……どこもかしこも真っ白やー」
「冬、だね……」

 全天をうっすら覆う雲は、冬の弱い陽を隠して一面仄白く光っている。大地も見渡す限り雪と氷で覆われていて、白く染まっていた。

 約束の日。
 龍園を訪れたふたりを最初に迎えたのは、耳が痛くなるほどの冷たい北風だった。西方では紅葉やきのこ狩りが楽しめる時期だが、北の大地には早くも冬が訪れていたのだ。
 次いで迎えに来たシャンカラとダルマの飛龍に同乗し、揺られること十数分。4人は、岩肌剥き出しの山裾にある、ささやかな針葉樹の森を訪れていた。レナードとアークは森の入口に佇み、眼前に広がる氷の原を眺め、白い吐息を零した。

「支度できましたよー!」

 その声に振り向くと、森の小道を辿った先でシャンカラが手を振っていた。ふたりが駆けていくと、彼の向こうに小さなログハウスと、脱衣場と思しき小さな小屋が2棟が見えた。ログハウスの煙突からは煙が細く立ち上っている。

「こっちはもうすっかり冬なんやねぇ」

 レナードが外套の前を掻き合わせながら言うと、

「はい、北方には秋というものが殆どないんです。春が来て、短い夏が終わってしまうと、あっという間に冬になってしまうんですよ」
「1年の大半が冬って事だね」

 シャンカラの答えにアークが頷く。西方と北方の気候の差を、肌で体感したふたりだった。
 そこへ、ログハウスから籠を抱えたダルマが出てきた。ふたりに銀世界の眺めを楽しんでもらっている間に、暖炉に火を入れてきたのだ。

「うッし、早速風呂行くか!」
「わーい、おーんせんっ、おーんせ……ん?」

 レナードはダルマが抱えた籠の中を見、目を瞬く。
 まず人数分のタオル、これは分かる。石鹸、洗髪料、これも良い。
 だが1番嵩張っているのは、瓶詰めのコケモモ酒数本と、美しい瑠璃細工のお猪口4個だった。

「温泉といやぁ酒だろォ!」
「温泉に入りながらお酒やなんて、オツやんなー」
「ダルマさん、悪酔いしないでくださいね?」
「……ダルマさんが伸びてしまったら、運ぶのが大変そうだね」

 わくわくしながら脱衣所へ駆けていくレナードに、大柄なダルマを見上げ真顔で呟くアーク。
 ともあれ、4人は男性用の脱衣所へ向かった。


「そう言えば、」

 各々服を脱いでいると、アークが思い出したように顔を上げる。

「手紙に、『過日のお礼』って書いてあったけど……」
「僕も気になってたんやー! 何かお礼されるような事したやろかー?」

 レナードも、靴下の爪先をぐいーっと引っ張ってぽんっと抜きながら小首を傾げた。

「やだなぁ、お忘れですか?」
「コレだよコレ」

 早くも上のインナーを脱いだ龍騎士達は、素肌の胸にかけていたそれぞれのお守りを手に乗せて見せた。
 シャンカラのお守りは、誕生日祝いにアークから贈られたもので、持ち主をあらゆる厄災から護ってくれるのだという。
 ダルマの方はカカオの実を象った紅玉の首飾りで、不老長寿の祈りが込められたアミュレット。贈り主はレナードだ。

「お礼ってその事やったんやー。龍騎士さんは律儀なんやねぇ」

 細い目を更に細めるレナードに、ダルマはペンダントトップを握りしめて言う。

「そりゃあ嬉しかったモンよ、何せ西方のダチに貰った品だ。なぁ?」

 シャンカラは頷き、お守りを両手で大事そうに包んだ。

「はい。自分でさえ忘れていた誕生日を、アークさんはちゃんと覚えていてくださって……。僕もダルマさんも毎日つけているんですよ。……お風呂に入る時は、流石に外さなきゃいけませんけど」

 シャンカラはちょっぴり眉尻を下げ、寂しそうにお守りを外す。ダルマにそういった素振りはないが、がさつな畳み方をした服の上に、紐が絡まぬよう丁寧に置いた。

「大袈裟だね、シャンカラ、は……」
「でもそないに大事にしてもろて、嬉しいやん、なー……」

 龍騎士達の様子を微笑ましげに眺めていたアークとレナードの語尾が、不自然に途切れた。
 お守りを外してしまうと、龍騎士ふたりの上半身を隠すものが何もなくなり、鍛え上げられた体躯があらわになったのだ。ダルマは鎧越しでも分かるほど屈強な身体つきをしているので、ある意味予想通りだが。シャンカラは着痩せする質らしく、実用的で絞り込まれた筋肉に包まれていた。
 龍騎士達はふたりの様子に気付かず、腰にタオルを巻き準備を終えた。そして、

「よォし、支度はできた、か」
「さあ、行きましょ……う」

 今度は、ふたりを振り向いた龍騎士達の声が、妙な具合に揺れた。




 脱衣所を抜けると、これまでとはまるで違う景色が広がっていた。足場が岩に変わり、その先の岩場の間から乳白色の湯が滾々と湧き出している。もうもうと立ち上る湯気がいかにも温かそうで、温泉独特の香りが何とも言えない風情を醸す。
 龍騎士達は先立って案内しながら、遠慮がちにふたりを振り返る。

「えー、っと。それは西方の入浴スタイルなんですか?」
「随分と変わった格好で入ンだなァ」
「いや……」
「そういうわけや、ないんやけどー」

 もじもじ答えるふたりは、大きなタオルを頭から被り、身体を覆い隠していた。まるでシーツを被ってオバケごっこをする子供のように。
 レナードはダルマの隆起した僧帽筋を見、次いでシャンカラの引き締まった広背筋を眺め、しょんぼりと息をつく。

「龍騎士さんが毎日鍛錬しとるのは知っとるけど……僕かてハンターとして、色んな依頼に行っとるのになぁ」
「んん?」

 レナードは自分が細身である事を気にしていたのだ。小声で打ち明けると、龍騎士達は首を捻る。

「気にするこたァねぇ、エルフってのはそういう種族なんだろ?」

 ダルマの言うように、エルフは全体的に小柄で華奢な身体が特徴的な種であるし、その上レナードの得手は魔術。後方から強力な魔法を撃ち込んだり、前衛の仲間を援護したりするのが主な役割だ。その前衛を担うシャンカラやダルマとは身体の使い方が異なる。

「そうですよ。華奢で儚げで、とても綺麗だなと思いますけど」
「き、綺麗やなんてそないな事、」

 レナードは赤くなって頭を振ったあと、ちょっとむくれたように頬を膨らせる。

「自分の方が長生きでお兄さんやのに……」
「『お兄さん』?」

 短命早熟なドラグーンコンビ、ぎょっとして顔を見合わすと小声でひそひそと言い交わす。

「レナードさん、僕よりも年下に見えるけど……まさかダルマさんよりも年上?」
「そういやエルフってのは俺らの8倍くれェ寿命があンだっけか……わっかんねェ、コレわっかんねェな!?」
「拙いよダルマさん、レナードさんの事を年下扱いしてたろう?」
「年下どころか完全に子供扱いしてたぜ!?」
「拙いどころか完璧に無礼じゃないかっ」

 最初は本人に聞こえぬよう囁き声だったものの、その内興奮してどちらも声が大きくなる。レナードはおろおろとふたりの間に割って入った。

「僕気にしてへんからっ。今まで通りで構わへんからーっ」

 ……と。それまで黙っていたアークが、並んだレナードとシャンカラを見上げ、ぽつりと。

「それでもレナードは、エルフの平均的な身長より背が高いよね……? ほら、シャンカラと同じ位ある」

 そうしてダルマへ視線を移し……というか、首の角度を更につけて仰ぎ、

「ダルマさんなんて、近くで顔を見ようとしたら首が痛くなっちゃうよ……皆、大きい、ね」

 珍しく唇を尖らせ、拗ねモードに突入していた。
 アークの身長は160センチ。レナードとシャンカラは170台半ば、ダルマに至っては190近い。
 レナードとダルマは何か上手いフォローをと必死に言葉を探す。だがしかし、シャンカラがにっこり笑顔で核弾頭をぶち込んだ。アークの黒髪をぽふぽふ撫で、

「小さくて可愛いじゃないですか。この位だと、丁度頭を撫でやすくて良いですよね」
「…………」

 ――空気が、凍った。

「あっ、あああえぇーっと、せや! お湯に浸かる前にまず身体洗わんとっ」
「お、おう、そうだなッ!」

 レナードとダルマ、硬直したアークと何も分かっていないシャンカラを促し、身体を洗いに向かう。勿論、その時点でタオルオバケは強制終了した。




 微妙な空気の中、何とかレナードとダルマが大仰にはしゃいでもたせ、4人揃って温泉につかる。湯が湧く岩場をそのまま利用した温泉は、秘湯という言葉がぴったりな野趣があった。
 少し熱めの湯に身体を浸せば、

「あ゛ー……」
「あー、堪らんねぇ……♪」
 ダルマの口からオッサン臭い声が、レナードの口からはゆるんと弛緩しきった声が漏れた。
 シャンカラは肩まで沈もうとしているアークを振り返り、

「その辺、少し深いので気をつけてください」

 支えようと手を伸べる。けれどアークはその手を借りずに、

「いくら僕でも、足がつかない程じゃないよ」

 ますます拗ねてちゃぷんと目の下まで潜ってしまった。レナードとダルマはどうなる事かとハラハラして見ていたが、シャンカラはアークの隣に浸かると、彼が佩いてきた刀の事に触れた。

「そういえば、今日の刀もとても綺麗な拵えでしたね。以前佩いていた刀よりも少し長いような」

 するとアーク、顎まで浮上して頷く。

「『蛍丸』という太刀だよ。暗い場所に置くと、少し不思議な事が起こると言われていてね」
「蛍……確か、光る虫でしたよね。という事は、不思議な事ってもしかして、」
「淡く光るんだよ」
「本当ですかっ?」
「さぁ、どうかな」

 大好きな刀の話になり、アークの機嫌も持ち直したようで。答えをせがむシャンカラをはぐらかし、悪戯っぽく目を眇める。
 アークは龍園に来る度、佩いている刀が違うと言っても過言ではない。刀好きで蒐集しているのもあるだろうが、北方にいてはなかなか目にする事ができない東方由来の刀達を、色々とシャンカラに見せてあげたいという意図もあるようで。現にシャンカラは、アークがどんな刀を佩いてくるかと毎回密かに楽しみにしていた。
 話の弾みだしたふたりに胸を撫で下ろすと、レナードはダルマが持ってきた瓶酒とお猪口を取り出した。

「ダルマさん、どうぞやでー」
「おっ、悪ィな」

 ダルマが手にした瑠璃色の杯に、とくとくと紅玉色の酒が注がれる。杯の中、瑠璃と紅玉の色が重なり、得も言われぬ深い色の水面が揺蕩う。
 ダルマもレナードの杯にコケモモ酒を注ぐと、軽く掲げてかち合わせた。キンと澄んだ音の余韻と共に喉へ流し込めば、身体を包む熱い湯と、よく冷えた酒の温度差が心地よい。

「ええ気分やねぇ」

 早くもほやんと眦が垂れ始めたレナード。その鼻先に、ひらりと何かが落ちてきた。

「あ、雪やー!」
「良いじゃねェか、雪見酒だな」

 空を覆っていた雲が雪を落とし始めたのだ。小粒でさらさらした粉雪は、音もなく降ってきては湯の水面へ溶けていく。
 レナードは空を仰ぐダルマを横目で見やった。さっきはあまりに頑強な体躯に気をとられていたが、褐色の肌には幾つもの傷痕が走っている。これまで彼が越えてきたのだろう竜達との死闘を思い、そっと目を伏せた。

「……これからはあのお守りが、少しでも護ってくれたらええんやけど」
「ん、何か言ったか?」
「何でもあらへんよー」

 笑顔の内に誤魔化して、レナードはくいっと杯を干す。

「おかわりー!」
「おいおい、ペース早ェんじゃねぇか?」
「大丈夫やてー」
「あれ? レナード達、いつの間に飲んで……」
「ダルマさん、僕達にも下さいよー」

 そうして合流した2組は、差しつ差されつ雪見酒を堪能した。はらはら舞い散る粉雪の中、滑らかな湯に浸かり、友人と共に干す杯は堪らなく甘く。
 気付けば――あろうことか隊長職にあるシャンカラまで――全員酒を過ごしていた。


「やべ、ちと呑み過ぎたか……おぉい、そろそろ引き上げンぞ」

 ダルマの声に、3人は力なく返事を返し立ち上がろうとした――が。

「ちょっとノボセてしもた……わわっ!」

 立ち上がった瞬間、レナードの細い身体が大きく傾いだ。

「危ないっ」

 すかさずその腕をアークが掴む。が、体躯の差で引っ張られてしまった。

「アークさんっ」

 ふたりまとめて抱え上げようとしたシャンカラだったが、やはり酔っ払いである。二人分の体重を支えきれず、つるっと足を滑らせてしまい、

「おわあァァ!?」

 前にいたダルマを巻き込み、全員で湯にダイブ。派手な飛沫が高々と舞い上がった。




 そうして這々の体でログハウスに戻った4人は、夕食もとらず寝台へ飛び込んだ。じきに全員寝息を立て始める。
 やがて陽が落ち、暗くなった部屋の中、アークの「蛍丸」が淡く煌めいたが、誰一人気付かないままだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6613 / レナード=クーク / 男性 / 17歳 / 青星紋の共闘者】
【ka6568 / アーク・フォーサイス / 男性 / 17歳 / 龍騎士隊隊長の友人】
ゲストNPC
【kz0226 / シャンカラ / 男性 / 25歳 / 龍騎士隊隊長】
【ダルマ / 男性 / 36歳 / 年長龍騎士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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贈り物のお礼にと、北方の秘湯に誘われたレナードさんとアークさんのお話、お届けします。
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。秋のお話ですのに、お届けがすっかり冬になってしまいました……
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました!

■イベントシチュエーションノベル■ -
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2018年01月22日

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