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『あたたかな冬を 』
イスフェリアka2088

 辺境の大地は南部は比較的温暖だが、北部は山野が多く、寒冷な土地である。
 オイマト族の冬の逗留地も比較的温暖な南側に位置しているが、雪は多く――。
 それでも、その場所にはあまり雪が積もらないと聞き、不思議に思っていたイスフェリアだったが、実際にやって来てその理由を知ることとなった。
「……そっか。温泉の熱で地面が暖かいのね」
「そうなの! だから雪もすぐ解けちゃうんだよ」
「あの小さな暖かい泉はユフィンって言うの。私たちのご先祖様が、金色の鬣の馬に導かれて見つけたんだって」
 子供達の説明に目を細めて頷くイスフェリア。
 そういえば、オイマト族の祖霊は金の鬣の馬だったな……と思い出す。
「ねえねえ族長。もう遊びに行ってもいい?」
「……もうちょっと待て。少しじっとしていろ」
「えー! つまんなーい!」
「動いたらサイズが測れなくてもっと時間かかっちゃうよ」
 メジャーを手に渋い顔をしているバタルトゥに抗議する少年。
 イスフェリアはくすくすと笑いながら少年を宥める。
「バタルトゥさん、今の時期になってから子供達の服を用意するなんて珍しいね」
「……秋に一度まとめて新調したんだが、この子は特に成長が目覚ましくてな……。もう一度用意しなければならなくなった……」
「ああ、そういうこと……」
 少年の身体にメジャーを当てながら言うバタルトゥに頷くイスフェリア。
 一族思いで周到な族長が用意を忘れるはずもないとは思っていたが……。
 この少年には何度か会っているが、子供達の中でも目立って成長が早いように思う。
「本当大きくなったよねー。私ももう少ししたらきみに身長追い抜かれちゃうかもしれないね」
「うん! 俺、族長やイェルズくらいでっかくなるんだ!」
「お兄ちゃんばっかりずるい! お姉ちゃん、あたしだって大きくなってるよ!」
「ボクだって大きくなってるもん!!」
 イスフェリアに頭を撫でられてえっへんと胸を張る少年。
 我も我もと飛びついてきた子供達にもみくちゃにされて、彼女は笑い声をあげる。
「……お前達、イスフェリアが困るだろう。程々にしておけ……」
「でもお姉ちゃん笑ってるよ?」
「ボク達痛くしてないよ?」
「……痛い思いをさせてからでは遅いと言っている」
「バタルトゥさん、私なら大丈夫だから」
 説教口調になるバタルトゥをアワアワと宥めるイスフェリア。
 族長はため息をつくと、メジャーを降ろして少年を見つめる。
「……よし。遊びに行ってもいいぞ……」
「やった! お姉ちゃん遊ぼうぜ!」
「あ、ごめんね。今産着縫ってる最中だから……これ終わってからでもいい?」
 ふんわりと笑顔を浮かべる彼女。
 この地に遊びに来た直後、一族の女性が生まれたばかりの赤子を見せてくれた。

 ――この間生まれた私の子です。イスフェリア様、どうぞこの子に貴女様のご加護を。

 女性に請われ、抱き上げた赤子は柔らかくて、とても温かくて……小さいけれど、力強い命の力を感じて――。
 いずれ大きくなるこの子にも何かしてあげたいと、産着を縫い始めた。
 加護なんて大袈裟なものはあげられないかもしれないけれど。
 縫った産着が、あの子の成長に役立つならこんなに嬉しいことはない。
「お姉ちゃん、遊ばないって」
「フラれちゃったね」
「フラれたって言うな!! お姉ちゃんこれ終わったら遊んでくれるって言ってる!!」
 子供達のやり取りに噴き出すイスフェリア。笑い過ぎてケホケホ咳き込む彼女を、子供達が心配そうに覗き込む。
「お姉ちゃん大丈夫? 風邪ひいた?」
「もしかして寒い? 暖炉の火強くしようか」
「ボクひざ掛けもって来てあげる」
「身体があったまるお茶淹れて来てやるよ!」
「あ、あたしも手伝う!」
「あ。あの違うの。大丈夫だから……!」
 一斉に動き出した子供達に慌てるイスフェリア。オロオロしながらバタルトゥを見る。
「どうしよう、バタルトゥさん。笑い過ぎただけなのに子供達に心配かけちゃった」
「……気にするな。皆お前の役に立ちたいだけだ……。普段世話になっているから余計にな……。こういう時に返させてやってくれ……」
「そうかな……」
 ――わたしは、バタルトゥさんの役に立ちたいんだけど。
 そんな言葉を飲み込むイスフェリア。黙々と縫物をするバタルトゥは、変わらず仏頂面ではあるが自分を追い詰める様子もなく穏やかで……いつもこうだったらいいのにな、と思う。
 そこに聞こえてきたパタパタという足音。
 クッションやひざ掛け、上着を持ってきた子供達。それらであれよあれよという間にイスフェリアを包んで行く。
「皆ありがとう。でもちょっと大袈裟じゃないかな!?」
「え。誰かが風邪引くと皆でこうするんだよ」
「そうだよ。温かくすると風邪がすぐ治るんだよ」
「お姉ちゃん、お待たせ! これ、身体があったまるんだぜ!」
「きみもありがとう。戴くね」
 そう言ってコップを渡してくる少年。紅茶の香ばしさと濃厚なミルクの味がイスフェリアの身体に染み渡る。
「……おいしい。これってミルクティー?」
「うん。オイマト族では良く飲むんだ」
「そっかぁ……。一族の味なんだね」
 じみじみと呟くイスフェリア。
 オイマト族の子供達は皆元気で素直で愛らしい。
 ――オイマト族は、一族皆で子供を育てると聞いた。
 それ故、一族の子供達は皆兄弟のように育つ。
 この紅茶も、こうして一族で受け継がれてきたものなのだろう。
「……一族の味かぁ。羨ましいな。わたしは故郷も家族も無いから……」
 ぽつりと呟くイスフェリア。
 ――しまった。こんなこと言うつもりじゃなかったのに……!
 慌てて顔を上げた彼女。
 目が合った子供達は驚いた顔をした後、目をキラキラとさせて……イスフェリアは首を傾げたまま続ける。
「……ごめんね、変な事言って。あの……」
「何だ! じゃあお姉ちゃん、オイマト族の一員になればいいよ!」
「そうだよ! 族長と結婚すれば皆と家族になれるよ!」
「……お前達。そうやってイスフェリアを困らせるんじゃない……」
 きゃあきゃあと歓声をあげて盛り上がる子供達に淡々と言い聞かせるバタルトゥ。
 イスフェリアは子供達の予想外の反応に紫色の目を丸くする。
 族長と結婚しろと言われるのは初めてではないけれど、どう反応を返していいか……。
 うっかり変な答え方をすればバタルトゥさんも困るだろうし……。
 目を泳がせた彼女。誤魔化すようにコホンと咳払いをする。
「えっと……あの。それはさておき……いつもみんなと一緒に楽しい時間を過ごして、幸せをお裾分けしてもらって、感謝しているよ」
「え。お姉ちゃん族長ヤダ? そうだよなー。顔怖いもんなー! じゃあ俺と結婚しよう!」
「あっ。兄ちゃんずるい! ボクだって大きくなったらお姉ちゃんと結婚したい!」
「……だから、困らせるなと言っているだろう」
「あははは……。ありがとね」
 子供達の立て続けの求婚にくすくすと笑うイスフェリア。
 出自も分からぬ自分をこうして温かく受け入れてくれる心優しい人達。
 バタルトゥの心の重荷は心配だけれど……オイマト族には、これからもっともっと繁栄して貰いたいと思う。
 だからこそ。今後も、オイマト族の子供たちの幸せのために、色々な面でお手伝いしていけたら……。
「お姉ちゃんお風邪引いてるならお外遊びはやめた方がいいね」
「そうだね。お絵描きがいいかなあ」
「カードで遊ぶのもいいと思う!」
 聞こえてくる子供達の相談する声。薪が爆ぜる音。
 あまりお待たせしては申し訳ないと、イスフェリアは産着を縫う手を早めた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ka2088/イスフェリア/女/16/子供達のお姉ちゃん

kz0023/バタルトゥ・オイマト/男/28/仏頂面な族長(NPC)
オイマト族の子供達(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております。猫又です。

イスフェリアちゃんの冬支度、いかがでしたでしょうか。
族長も変わらず仏頂面ですし、子供達も変わらずお姉ちゃん大好きな感じですが、少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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2018年01月25日

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