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『星降る夜に 』
メーナka1713

 夕暮を伝える鐘の音が街に響く。
(……ああ、もうこんな時間なのね)
 メーナは煮込んでいたシチューを味見しながら思わずそう胸で呟く。
 昼過ぎまで降っていた冷たい雨も今はもう止み、空は綺麗な茜色。
 そして今日は何より、メーナが楽しみにしていた日――流星群なのだ。
 いつもよりも早めに仕込んでいた夕食は、もう丁度いい頃合いだ。火を落とし、器に盛ってテーブルに移る。少し固めのパンと、ほうれん草をたっぷりいれたシチューの夕食は、一人暮らしでも心をほかほかと暖かくしてくれた。
 冬は煮込み料理が美味しい季節。あたたかな湯気を纏ったシチューを美味しく食べれば、寒い冬も乗り越えられるような気がして、なんだか胸までほかほかしてくる。
 そして食後の紅茶を飲みおわると、水筒にも温かい紅茶をいれ、つまむためのクッキーや愛犬のための水等を前もって用意していた大ぶりの鞄に詰めていく。
 鞄の中には簡易テントやコッヘル、カンテラ、毛布などと言った簡単なキャンプ用品も詰められていて、ちょっとした冒険気分といった感じだ。
 ――わふっ!
 そのそわそわとした準備の様子に相棒でもある柴犬の『おから』もが、そわそわと尻尾を振り、小さく鳴いてみせる。
「さて、と。だいたい準備も出来たかな……」
 メーナはそういうと鞄を肩から提げ、
「さ、おからちゃん。行きましょ!」
 そう言って、にっこりと笑いかけた。
 
 あたたかい格好をしているとは言え、冬の夜は風も冷たい。と言っても、おからにしてみれば夜の外出なんて滅多にあるわけでもなく、嬉しそうにはしゃいでいるが。
 もっともメーナの方はそうも行かない。とがった耳は先端があっという間にかじかみ、鼻の頭などもほんのり赤く染まっている。
「やっぱり夜は随分冷えるな……」
 しみじみ言いつつ、それでも足を止めるでもない。街を抜け、小川を渡り岩山を抜けていく。おからはそのそばをはっはときちんと着いてくる。賢い犬なのだ。
 やがて道は緩やかな上り坂となり、振りかえれば街の喧騒も遠く。ぽつぽつと輝く灯は、まるで地上の星のよう。この道は普段は地元のものでもそれほど使わない獣道にも近い道で、それでも踏みしだかれた枯れ草をゆっくりと踏みしめていけば、少しずつ空が近くなる。登り切ったそこには、ぽっかり広がる小さな開けた場所。――今日の目的地だ。
 要領よくテントを組み上げ、ひざに毛布を掛けて持ってきた折りたたみ椅子に座り、水筒の中に入った紅茶をすする。保温加工の施されている水筒の中身はまだ十分に熱く、ふうふうと息を吹きかけて飲めば心もまたあたたかく軽やかに。ふわりとただよう香りは何処か懐かしさも感じられた。
 おからは差し出された水を飲みながらお行儀良くメーナの隣に座り、メーナも持ってきたクッキーを時々口に入れながらその時を待つ。口の中でほろほろと崩れるクッキーはほどよく甘く、おからにもちょっとだけお裾分け。
 ――と。
 きらり、と空から星が一粒零れ落ちた。
 まるでそれを合図にしたかのように、ちらちらちら、とまるで星が雨のように降り注ぐ。
 思わずメーナは立ち上がり、それにつられておからもぴょこっと立ち上がった。
 空から降り注ぐ光のシャワーは、きんと澄みきった空気のなかでまるで雨のように、或いは雪のようにも見えてくる。けれど音はしない。静寂の世界で降り注がれる一大天文ショー、今ここで見ているのは彼女だけ。
 メーナは息を呑んだ。その光景の素晴らしさに、そしてそれをこうやって見ることの出来る幸運に。
 ふと横にいるおからを見れば、おからも何処か誇らしげに尻尾を振って見せている。
 やがて光の洪水は、一段落したようだった。時々思い出したかのように名残が零れ落ちるけれど、世界はまたキンと静まりかえっている。星が降ったとは思えないほどの、満天の星空。
 流れ星と、見ている星々は違うと言うけれど、その輝きはやはり何処か似ているような気がして、思わず彼女はおおきく息を吸う。ほどよく冷えた空気が、メーナの頭をまたクリアにしていって、そして彼女はにっこりと笑みを浮かべた。
 ――きっとこれで、明日からもまたがんばれる。
 少女の笑みは晴れやかで、酷く嬉しそうだった。
 
 
 空に輝く綺羅星を、眺めていれば手が届きそうで。
 それを掴むことは出来ないけれど、深呼吸すれば胸に欠片が転がり込むような気がして。
 だから少女は空を見上げる。
 素敵な明日になることを信じて、空を見上げる。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1713/メーナ/女性/17歳/聖導士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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今回は発注ありがとうございます。
そして遅くなってしまい申し訳ございません……!
星を見る夜。素敵ですよね。
空に瞬く星は、だれもがきっと一度は憧れるもの。
その憧れをイメージして、ドキドキ、わくわくした雰囲気を書いてみましたが、お気に召しましたでしょうか。
お気に召して下さったなら、なによりです。
もし機会がありましたら、またよろしくお願い致します。
では、今回はありがとうございました!
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2018年01月26日

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