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『卒業旅行は晴れ、時々しんみり』
暗山 影次jb9827)&槇 蘇芳jc1365)&華澄・エルシャン・御影jb6365)&獅子王 砕牙jb2791)&築田多紀jb9792)&望人jb6153)&神風 豹牙jb2823


 静かな山あいに佇む保養地の一角に、木々に囲まれた小さな貸別荘がある。
 ヨーロッパの田舎を思わせる木造建築は築50年を越えるというが、手入れが行き届いているせいか、さほど古いという印象は受けなかった。
 むしろ程よく歳月を経た木の床や柱、階段の手すりなどが、新しいものにはない独特の味を出している。
「建物は古いが、中の設備はほぼ最新だ。ホテル並に快適だぞ」
 この場所を選んだ暗山 影次(jb9827)が胸を張る。
 もっともホテルと違って全てセルフサービスだが、家族や気の置けない友人達との旅行なら、むしろその方が楽しく過ごせるだろう。

「さすが影次お兄ちゃんだな。テラスからの眺めも良いし、僕はここが気に入ったぞ」
 二階のテラスに立ち、手すりから身を乗り出さんばかりにして景色を眺める築田多紀(jb9792)が、満足そうに微笑む。
 遠くに霞む山はうっすらと雪を被り、手前に広がる森は鮮やかさを競うように赤や黄色に色付いていた。
「本当に、良い眺めね」
 その隣で多紀が転げ落ちはしないかとはらはらしつつ、華澄・エルシャン・御影(jb6365)も思わず目を奪われる。
 その目を真下に転じれば、枯れかけた芝生が広がる庭では昼食の準備が進められていた。
「BBQか、楽しみだな華澄ちゃん!」
 多紀は華澄の袖をくいくいと引く。
「早く食べられるように、手伝いに行こう」
 頷いた華澄はしかし、何か言いたそうに口を開きかけ、閉じては視線を彷徨わせている。
「ん? どうした華澄ちゃん?」
「うん、あのね多紀さん……言っても笑わないって約束してくれる?」
「華澄ちゃんが笑われたくないなら、僕は何を言われても絶対に笑わないぞ」
 それを聞いて、華澄は安心したように肩の力を抜くと、多紀の耳元にそっと顔を寄せた。
「実を言うとね、私BBQって初めてなの」
「そうなのか?」
 目を丸くする多紀に、華澄は恥ずかしそうに頬を染める。
「どんなことをするかは知ってるけど、実際に参加したことはなくて」
 久遠ヶ原の学生達はBBQが好きだ。
 酒飲みが何かにつけて酒を飲むように、海でも山でも学園のグラウンドでも、特別な日にも何でもない日にも、仲間が集まればとりあえずBBQ。
 そんな中にあって参加の機会を逃し続けてきたというのは――
「珍しいでしょう?」
「そうかもしれないけど、別に笑うようなことでもないぞ」
 恥ずかしいことでもないと、多紀は胸を張る。
「じゃあ今日は華澄ちゃんの記念すべき網デビューだな! たくさん食べて、めいっぱい楽しもう!」
「そうね、ありがとう」
 そう言って、華澄は可笑しそうに喉を鳴らした。
「なんだか多紀さんのほうがお姉さんみたい」
「そんなことはないぞ。華澄ちゃんは僕の憧れで、大好きなお姉ちゃんだ」
 臆面もなく言われ、華澄は素直に頷く。
「じゃあ少しはお姉さんらしいところを見せないと。皆のお手伝いに行きましょうか」
「うん!」
 勢いよく頷くと、多紀は華澄の手を引いて庭へと続く階段を駆け下りて行った。


「力仕事は男の役目ってな!」
 槇 蘇芳(jc1365)はレンタルした機材を庭に運び込む。
 コンロを組み立て、水道の傍に調理台をしつらえ、炭や食材を運び、テーブルや椅子をセットし――
「って真面目に働いてんの俺だけかよ!?」
 ふと周りを見れば、蘇芳以外の男子は傍観モード。
 いや、影次だけは別荘のキッチンから調理器具を出したり、テーブルにクロスをかけたり、皿やコップを並べたりと、細々とした雑用をこなしてはいる。
 しかし他の――望人(jb6153)、獅子王 砕牙(jb2791)、神風 豹牙(jb2823)の三人は完全に見てるだけ。
「そこの暇を持て余してる三人! 男たるもの働け!」
「いや、私は食べるのが仕事ですから。みなさん頑張ってくださいね」
 えらい剣幕で指をさした蘇芳に、望人はニコニコしながらヒラヒラと手を振る。
「そんな仕事があるか! 働かざる者食うべからず!」
「いいえ、それも立派な仕事ですよ? 料理を腹に収める、それはすなわち廃棄される量をを減らすということで……言ってみればゴミ掃除にも等しいと」
「食いモンをいきなりゴミ扱いしてんじゃねぇ!」
「そこ……喧嘩してる暇があったら手を動かしたらどうや……」
 見かねた砕牙が止めに入る、が。
「真っ昼間から缶ビール開けてる奴に言われたくねぇな!」
 しかし蘇芳に何を言われても、砕牙は動じない。
「網奉行の出番はまだ先やし……」
 まずは火を起こしてからと、その視線を火の番人である豹牙に向ける。
「そう急かすなよ、今やろうと思ってたんだ」
 庭先のベンチに寝転がっていた豹牙はおもむろに立ち上がり、コンロの下に炭を並べ始めた。
 着火剤を敷いた上に、空気の通り道が出来るように程よく隙間を作って炭を重ね、火を点ける。
 暫く待って炎が収まったら、後は炭が赤くなるまでひたすら団扇で扇ぐ。
「では、私も少しは仕事をしましょうか」
 望人は豹牙の手元を覗き込んだ。
「おぉ、豹牙殿はさすがに手際が良いですね」
 褒めて讃える、これも仕事。
 そんな仕事があるかと蘇芳に再び突っ込まれても、ニコニコと。
「応援サポートという立派な仕事ですよ。ほら、頑張れ頑張れ」
 褒められ、応援されながら――効果のほどは定かではないが、豹牙はひたすら扇ぐ。

 扇ぐ。
 扇ぐ。
 扇ぐ。

「……それだけ?」
「それだけ」
 興味津々な様子で作業を見ていた華澄は、拍子抜けしたようにかくりと首を傾げた。
「でも、どうして扇ぐの? 風で火が消えちゃうじゃない」
「消してるんだよ」
 華澄の頭上に大きな「?」が浮かぶ。
「いや、消してると言うか燃やしてると言うか」
「どっちなの?」
「両方、かな」
 華澄の頭上に浮かんだ「?」がますます大きくなるのを見て、豹牙はなんとか説明を試みた。
「暖炉の薪は燃やすもんだが、BBQの炭は違うんだ。何と言うか、炎じゃなくて真っ赤に燃焼させた熱で焼く……ま、説明するより見たほうが早いな」
 早々に説明は諦め、実践指導に切り替える。
 とは言え準備が終わるまで軽く30分はかかると聞いては、流石にじっと待っているのも手持ち無沙汰。
 ならばこの間に下拵えをしておこうと、華澄は調理台に向かった。
「材料を切るのは誰にも負けないんだから♪」
 切り方のコツはちゃんと予習してきた。
 野菜も肉も、火の通りやすいものは大きめに、通りにくいものは薄く小さく。
 串焼き用の具材は火の通りが均等になるように大きさを揃えるのがコツだと、ものの本に書いてあった。
「あ……丸ごとの魚や貝はそのままでいい」
「わかった、じゃあ切り身はサイズを揃えて、尾頭付きは鱗と内臓だけ取っておくね」
 砕牙に言われるまま、尾頭付きには軽く塩を振っておく。
「ねえ、このお肉ちょっと固そうじゃない?」
「そんなやつは……ビールに漬けておけば柔らかくなる」
「あら、そうなの? じゃあ、ちょっと借りるわね」
 砕牙の手から飲みかけの缶をひょいと奪い取って、肉にどばー。
 なお、借りるとは言ったが返すとは言ってない。
「……あー……」
 ビールを強奪された砕牙は、諦めたように苦笑しつつ首を振ると、切り終えた具材を次々に鉄串に刺していく。
 ふんだんに塗られたソースは秘密、でもないけれど、オリジナルのレシピで作った自家製だ。
「築田は何がいい……好きなもの、刺してやる」
 作業をしながら、皆の周りをちょろちょろしながら綺麗な落ち葉を広い集めていた多紀に声をかける。
「僕は何でも食べるぞ! 砕牙くんのお勧めは何だ?」
「……そうだな……」
 暫く考え、四角いサイコロステーキと赤と黄色のミニトマトを交互に刺した、カラフルで可愛らしい串が出来上がる。
「お団子みたいだ、早く食べたいぞ!」
 そこにタイミングよく、豹牙から声がかかった。
「そろそろ良いぞ、どんどん持って来い」

 網の下で炭が真っ赤に焼けている。
 手をかざすと、あっという間に耐えられないほどの熱さになった。
「燃えてないのに熱いなんて、炭って不思議ね……」
 感心する華澄の傍らで、砕牙が次々と食材を網に乗せていく。
 最初は火の通りにくい野菜から、続いてBBQの主役とも言える肉をどーんと。
「肉は……網に対して斜めに置くと、良い具合に焼き目が付く……」
 そこが網奉行の拘りポイントだ。
「適当に置くんじゃないぞ。場所によって火力が違うからな、ちゃんと考えて……ん?」
 火加減を見ながら指図する豹牙、その目の前で炭がポンと弾けて転がった。
「……何だ?」
 不思議そうに首を傾げつつ、転がった炭を火鋏で拾い上げ、しげしげと眺める。
「爆発した、わけでもなさそうだな」
 と、今度は別の炭が弾けて飛んだ。
 ひとつ、またひとつと転がって、炭の山が崩れていく。
「……なるほど、そういうことか」
 何個目かの炭が転がった時、豹牙は見た。
 背後の物陰に潜んだ影次がちょっかいを出している、その現場を。
 彼の手にあるのは学園から夏休みの宿題として配付された「夏休みの友」という小冊子。
 夏休みがとうに終わった今となっても新品同様のそのページから飛び出した、光で出来たミニトマトサイズのスイカが炭を弾いて消える。
(「……あの影野郎、また下らない悪戯を……」)
 無視だ無視、ああいうのはスルーに限る。
 豹牙は何事もなかったように崩れた炭を拾い上げ、元通りに並べ直す。
 だが拾っても拾っても、炭の崩壊は止まるところを知らず――
「……てめぇこの、いい加減にしやがれ……っ!」

 じゅわっ!

 熱く焼けた火鋏が影次の顔面を挟む。
「あっぢぃぃっ! 何しやがる傭兵野郎!!」
「それはこっちの台詞だ影野郎!!」
 豹牙は影次の顔を挟んだまま、力任せに影次を引きずり出した。
「熱い痛い首がもげる!」
「るせぇ、このまま網に乗っけて丸焼きにしてやる!」
「ただの可愛いイタズラじゃないか、ガチギレなんて大人げねぇぞ!」
 そう、誰かが怪我をしたり火事になったりしないよう、影次はちゃんと威力を加減しているのだ。
 ちょっと炭の山を崩したくらいで、そんなにムキにならなくてもいいではないか。
 だがしかし、それこそが火の番人たる豹牙の最重要拘りポイントだったのだ。
「これだからトーシロはよ! いいか、その耳たぶしっかり広げてよぉく聞きやがれ!」
 焼けた火鋏が今度は耳を引っ張る。
「BBQにはスリーゾーンファイアってのがあってな、炭の置き方で火加減をコントロールしてんだ」
 炭を多く積み上げたところが肉を豪快に焼く強火、半分程度にしたところが程良い火加減の中火、そして炭を置かずに油受け用のアルミホイルを敷いたところが保温用の弱火ゾーンだ。
「見ろ、てめぇが炭を転がすからどこも同じ火力になっちまってるじゃねぇか!」
 しかし、だからといってそれで何か影響があるかと言えば、多分そんなことはない。
 網奉行の砕牙は缶ビールを片手に何事もなかったように食材を焼き続けていた。
「別に誰も困ってねぇな?」
「そういう問題じゃねえ!」
 拘りとは美学である。
 実際に役に立つか否かは二の次なのだ。
 そして始まる喧嘩の第二ラウンド――いや、始まらなかった。
「そこまでにしとけ! 神風も兄貴も! 面白いけどよ」

 ゴッ!

 二人の頭上から落ちる、蘇芳の鉄拳。
「危ねえだろ、多紀が巻き添えンなったらどうすんだ」
「僕なら大丈夫だし、二人が仲良しなのはいつものことだけどな」
 その多紀は華澄と並んでコンロの端っこにしゃがみ、竹串に刺したマシュマロを炭火にかざしていた。
「そうね、通常運転ですもの」
 ああ見えてどちらも本気ではないことは知っているし、むしろ大人しいと却って心配になるくらいだ。
 そんな微笑ましい仲良しさんのことよりも、今は二人ともマシュマロの焼け具合のほうが気になって――
「ん?」
 崩れた炭の下に、何かがちらりと見えた。
「なんだ、これ?」
 多紀がそっと炭をかき分けると、出て来たのはアルミホイルでくるんだサツマイモ。
 ホイルを開くと甘い香りがふわりと広がった。
「良い具合に焼けてるな」
「あっ! それは俺が後でこっそり食おうと――」
 思わず口走った豹牙に影次がツッコミを入れる。
「ほぉ、独り占めか?」
「俺の芋だぞ、俺がひとりで食って何が悪い」
 またまた喧嘩になりそうな二人の様子を、多紀はくすくすと笑いながら微笑ましく眺め……ひとこと。
「影次お兄ちゃん、豹牙くんも。喧嘩するなら焼き芋はあげないぞ」
「いや、それ俺の……」
 言おうとして、豹牙は途中で口を閉ざした。
 多分この子には誰も勝てないし、勝たなくていいし、勝ちたいとも思わない。
「つーか暴れたかったら後で俺も混ぜろ、二人だけで楽しもうなんてズルいぞ」
「お前ら……、特に影次、弟に迷惑かけるなよな……」
 蘇芳が釘を刺し、苦笑しながら眺めていた砕牙が締めくくったところで喧嘩は終わり。

「多紀さん。サフランライス配ろ♪」
 肉や野菜が丁度良い具合に焼けた頃、別荘のキッチンから大きな炊飯器を抱えた華澄が現れる。
「ご飯ものも欲しいかと思って、こっそり作っておいたの」
「すごいな、美味そうだ! でもこんなに食べきれるかな、実は僕もサプライズが……」
 そこにタイミングよく、宅配の車がやって来た。
「華澄ちゃん! 取り寄せたアイスが来たぞ」
「まあ、こんな山奥の貸別荘にも届けてくれるのね」
 手渡された箱の中には、小さなカップに入った様々な味のアイスクリームがぎっしり詰まっていた。
「少し多かったかな?」
「大丈夫、動いてお腹空けようね」
 それに甘い物は別腹だし!

「では、いただきましょうか」
 これも仕事と望人が音頭を取り、皆で一斉に食べ始める。
「多紀、蘇芳、食えてるか? 腹一杯食えよ?」
 影次は取り皿に肉や海老を山盛りにすると、多紀と蘇芳の前に差し出した。
「うん、ありがとう影次お兄ちゃん」
 受け取った多紀は満面の笑顔、一方の蘇芳は礼を言いつつも兄に釘を刺すことを忘れない。
「食事時は女の子に迷惑かけんなよ……つか人の世話はいいから、兄貴もちゃんと食えよ。食わねぇとなくなるぞ」
「大丈夫だ……肉も野菜も、たっぷりある……」
 特製の串焼きを多紀に手渡しつつ、砕牙が答える。
「ありがとう、砕牙くんも焼いてばっかりいないでちゃんと食べるんだぞ?」
 こくりと頷きつつも網奉行の仕事をやめようとしない砕牙。
 それを見かねた望人が、そっと皿を差し出した。
「では閻魔王には私が取ってあげましょう、はいどうぞ」
「……それ……自分が嫌いなもの押し付けただけやないのか……」
 見れば差し出された皿の上には野菜ばかり、一方自分の皿には肉ばかり。
「なんだ、望兄は野菜が苦手なのか?」
 尊敬する望人の意外な一面を見たと目を丸くする多紀は、皆が次々と皿に盛ってくれるものを何でも美味しそうに食べている。
「いえ、そういうわけでは……」
 しまった、バレないようにこっそり押しのけたつもりだったのに。
 いや、そもそも肉の比率が元から低すぎるのではないか?
「あの、やけに肉が少なくありませんか?」
「……そんなはずは……」
 ない、と言おうとした砕牙の視線が、ある一点でぴたりと止まった。
「そこか!」
 肉ばかりが山のように積み上がった豹牙の皿を、視線を追った影次が掴む。
「寄越せ傭兵野郎、テメェに食わせる肉はねぇよ!!」
「離せ影野郎、これは俺の肉だ!」
「だから食事時に迷惑かけんなっつってんだろ!」
 蘇芳が拳を震わせ、華澄と多紀が「二人とも、本当に仲が良いのね」「微笑ましい限りだな」と笑みを交わす。
 その間にも網奉行はひたすら焼き続け、こうして終始和やかに(?)、全員の腹がまんべんなく満たされるまで、BBQは続くのだった。

 だがしかし、そのまますんなりとは終わらない。
「食べるばかりでは流石に申し訳ありませんし、片付けくらいは頑張りましょうか」
 望人は準備で特に何もしかなかった分を穴埋めしようと、率先して後片付けをしていた。
 と言うか他の男子は食べ過ぎて動けない。
 例の焼き芋も入る場所がない。別腹も既に限界だった。
 というわけで炭の中に置かれたままだったそれを望人が見付け――
「うっかり消し炭と一緒に土に埋めてしまうところでしたよ」
 誰も食べないなら、食べてしまっても構いませんね?
 では遠慮なくいただきます。

 そこでまた一悶着が起きたことは、言うまでもない。


 別荘の裏手には露天風呂がある。
 近くに流れる川に湧く温泉を引き入れた、天然の源泉掛け流しだ。
 いっぱいになった腹も程よくこなれた夕暮れ時、一行は水着姿で湯に浸かる。
「見てくれ影次お兄ちゃん、すー兄! 華澄ちゃんとお揃いだぞ!」
 デイジーの花飾りが付いた青いワンピースを見せびらかすように、多紀は湯船の縁に立ってくるりと回って見せた。
「ああ、よく似合ってる」
「その髪型も可愛いぞ、自分でやったのか?」
「華澄ちゃんに結ってもらったんだ、ヘアゴムもお揃いだぞ!」
 多紀は可愛らしく結われたその髪型がいたくお気に召したようで、脱衣所で何度も手鏡を見返しては頬を緩めていたらしい。
「なるほど、それで遅かったのか。二人がいつまで経っても来ないから、兄貴が大変だったんだぞ」
 影次を見て、蘇芳がニヤリと笑う。
「転んで怪我でもしたんじゃないかとか、あんまり可愛いから人さらいに連れて行かれたんじゃないかとか」
「余計なことは言わなくていい」
 ぷいと横を向いた影次は黒無地の海パンを穿いている。望人は真っ白、豹牙は紺色、砕牙は黒地に炎の模様が描かれたもの、そして蘇芳は――
「ここに来て学園指定のスク水とは、我が弟ながら希有なセンスだな」
「いいだろ、もう卒業なんだし着る機会もないだろうから……着納めっつーかさ」
 影次に先程の仕返しとばかりに言われて蘇芳は口を尖らせるが、それ以上の反撃はしなかった。
 卒業の一言が、皆を日常に引き戻す。
 この先、影次と多紀は学園に留まるが、後の五人はそれぞれに新しい道を歩き始めるのだ。
「とは言え、皆で集まるのがこれで最後というわけでもないでしょう」
 虹色に光る玉と一緒に望人の声が飛んで来る。
 早々に湯から上がった彼は、岩場に座って酒を片手にシャボン玉を飛ばしていた。
「わぁ、綺麗だな!」
 嬉しそうに手を差しのべる多紀に、望人はストローの先で空を指してみせる。
「ほら、もう月が昇って来ましたよ」
 いつの間にかすっかり暗くなった空に、丸い月が浮かんでいる。
 露天風呂の周囲にも明かりが点き、真っ赤に染まった紅葉を照らしていた。
「シャボン玉か。紅葉に映えて夢みてぇだな。すぐ消えるのにもっと見てたくなる」
 儚い泡を掌で受けて、蘇芳が呟く。
 その視線を空に向け、更に言葉を継いだ。
「何処にいても月は見えるからな。俺らは離れないけど、遠くに行くヤツがいても同じ月を見てれば夜だって明るい。良いもんだ」
 それから暫くは、誰もが言葉少なに皆と酒を酌み交わす。
 飲めない多紀は華澄の膝にちょこんと座って、残ったアイスを嬉しそうに頬張っていた。

 だが、そんな静かな時も長くは続かない。
(「こんなに静かだと、なんだか寂しい気がするな……」)
 アイスを食べ終わった多紀が何か言いたそうに身動きを始めると、場の空気が一気に変わった。

 ばしゃっ!

 のんびり空を眺めていた豹牙の顔面に、影次が飛ばしたお湯が直撃する。
「またてめぇか影野郎!」
 またしても一触即発、だが今度は誰も止めようとはしなかった。
 それどころか待ちかねたように童心に返り、あちこちでお湯かけ合戦が始まる。
「多紀さん、私達もこれで遊びましょ」
 どこに隠し持っていたのか、華澄が水鉄砲を取り出した。
「いいな、楽しそうだ!」
「もちろん皆もノッてくれるよね?」
 そう思って全員分を用意しておいたと、子供のオモチャのようなものから大型タンク付きの本格的なものまで、様々なタイプをずらりと並べる。
 なお性能の良いものは早い者勝ちである――が、多紀には特別に射程が長く連射も可能な電動式のものを。
「ええ、甘やかしてますが何か?」
 もちろん誰も文句のあろうはずもない。
 残った水鉄砲に次々と手が伸びて、最後のひとつは蘇芳の手に。
「って、竹筒かよ!?」
 そんなのアリか、まあこれも水鉄砲には違いないけれど。
「くっ、ハンデ上等! それでこそ燃えるぜ!」
 蘇芳は食事の時にセーブしていた分を取り返そうとするかのように、手当たり次第に撃ちまくる。
 筒先から湯を吸っては撃ち、吸っては撃ち、それを素早く繰り返せばオート連射にも負けない、はず!
 この撃ち合いにルールはない。やられたらやり返す、ただそれだけの単純な遊びだ。
「でも、だからこそ盛り上がるんですよね」
 望人はニコニコと笑いながら、正確無比に顔面を狙う。
「ほら、打ち返して来いよ築田、そのご立派な銃は飾りか?」
「じゃあ本気で行くぞ、泣いたって知らないからな!」
 多紀を狙った豹牙の挑発に、歓声を上げながら応戦する多紀。
 飛び交うお湯と、バシャバシャと跳ね散らされる飛沫が相俟って、湯煙がもうもうと沸き立つ。
 伸ばした自分の手の先も見えなくなって、誰を撃ったのかも誰に撃たれたのかもわからなくなって、それでも戦いは終わらない――体力の限界が来るまでは。


 やがて夜半も過ぎた頃。
 露天風呂には再び静寂が訪れていた。
 華澄はほろ酔い加減で砕牙にお酌をしつつ、はらりと舞い降りた紅葉を掌に乗せて月を見上げる。
「綺麗ね……」
 こくりと頷いた砕牙は、湯飲みで豪快に飲む豹牙を横目に見ながら、お猪口に浮かんだ月を静かに飲み下した。
 本当は徳利に口をつけて一気に飲みたいところだが――
「あら、砕牙も湯飲みが良かった?」
「いや……これでいい」
 お酌をしてもらう時くらいは雰囲気を大事にしたい思いもあるし。
 それに、もしかしたらこれが最後になるかも……いや、そんなことはないか。
 その心中を察したかのように、豹牙と酌み交わしていた蘇芳が呟く。
「帰るのが惜しいな。また集まろうぜ」

 そんな会話を、多紀は華澄に寄りかかってうとうとしながら夢見心地で聞いていた。
 栞にして皆にあげようと思って集めた、真っ赤な紅葉。
 夢の中で皆の手に渡ったそれが、次に会う時までの約束のチケットのように思えた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb9827/暗山 影次/男性/外見年齢18歳/仲良きことは】
【jb2823/神風 豹牙/男性/外見年齢17歳/美しきかな】
【jb2791/獅子王 砕牙/男性/外見年齢15歳/炎の網奉行】
【jb6153/望人/男性/外見年齢20歳/食べるのが仕事】
【jb6365/華澄・エルシャン・御影/女性/外見年齢21歳/心に笑顔を永久保存】
【jb9792/築田多紀/女性/外見年齢6歳/可愛い末っ子】
【jc1365/槇 蘇芳/男性/外見年齢22歳/拳で語る詩人】


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2018年01月29日

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