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『ミズカラデキルモノ? 』
海原・みなも1252

 海原 みなもは足を止め、細い路地を見つめる。
「何かいる……のでしょうか?」
 以前も見たことがある都内には珍しい石畳の道。トラブルに巻き込まれたが、常時起こっているわけではない。危険なところならば、何かしらの対処されているだろう。
 路地に違和感はあるが、疑ってかかればどこかしこに危険があるように思える。

 路地から通行人の女性二人連れが出てきた。どこの店に行くかなど楽しそうに話しながら、みなもの横を大通りに消えていった。
 みなもは立ち去ろうとしたとき、路地の方から一陣の風が吹く。

 キリキリキリキリ……カシカシカシカシ………。

 みなもは風に乗った音を聞いた。それらしいものは見えないが気になる。
 意を決し、路地に入った。石畳で足音がして壁で反響する。

 逢魔が時を迎え、赤い光がみなもを追い越した。光が路地の奥まで通り、闇を濃くした。
「異界に入った感触……です」
 視界が変わった瞬間、歩いてくる女性がいる。おもちゃめいた不自然な動きであり、みなもに気づいていない様子だ。彼女が音の元だとわかる。
 すれ違いざまに女性の背中が見え、不自然に大きなゼンマイを巻く道具――巻鍵がある。
 みなもはそれが呪いに関する道具だと感じた。
「助けますっ!」
 みなもが巻鍵に手をのばした瞬間、雷が飛んできた。
「きゃあああ」
 衝撃に手を引っ込めた。
 みなもは女性を追おうとしたが、路地をふさぐ巨大な目玉が一つ出現していた。その目玉の回りには電気が走っているのが見える。通るならば、無傷では済まないだろう。
 ――邪魔はしないーの!
 目玉からの子どものような声がする。
 みなもは打開策を探すため、視線だけ動かす。
(あれは、妖精でしょうか?)
 背後に、大きさ三十センチに満たない人間のようなモノがいた。人間を小さくし、目などを大きく描いた特徴的な姿をしている。背中に半透明で、素早く動く翼があるようだ。
(地面すれすれで、あえて飛ぶんですね。服装はアレンジされて可愛らしいです)
 妖精と推定できるそれは、洋服やドレスと言ったものではなく和服だ。花や毬などが描かれた赤い振袖で、十二単のように何枚か重ね着をしている。
(感心している場合ではありませんでした。妖精はあたしが気づいていることに気づいていないのでしょうか?)
 不意打ちで捕まえたい気もするが、女性の安全が確保できないため危険に感じる。
(妖精の性格……好み……)
 考えると「甘いものが好き」「牛乳が好き」など言葉が脳裏に浮かぶ。
「牛乳は何でできているか知っていますか? あまーい、甘い牛乳には何が入っているでしょう?」
 みなもの謎かけのようなつぶやきに妖精は反応を示した。
 女性が進むのは止まらないが、妖精の気は逸れたらしく目玉の回りを飛んでいた電気が弱まった。
「せっかくなら作ってみましょうか?」
 妖精はそわそわしている。
「まずはここに水が一滴」
 みなもは空気の中から水気を感じ取る。もったいぶるように右手をくるりと回し、手のひらを天に向けると、一滴の水が掌に乗る。
「そして……水は白くなるのです……」
 水からどうやって変化させるのか。化学式を知っていればいいのだろうか。確かに効率は良くなるだろう。
(そうはいっても、こればかりは直感ですよね)
 一つずつ考え味を調え、丁寧な作業の結果、牛乳になったはずだ。
「ここに一滴の牛乳が完成しました……さらにハチミツ入りにしてみましょう」
 掌の一滴の水はさらに変化した。
「さて、たかが一滴、されど一滴です」
 みなもは言いながら、視線を妖精と女性の間を行き来させる。
(焦ってはいけません。焦っては!)
 静かな水面を胸の内に描く。

『ってか、あんたはあたしを見て認識してるーってことよねー』
 妖精が怒った声を出した。
「はい、初めまして。素敵な出会いならば、おもてなしをしないといけないと思いました」
 取引につながるため慎重に言葉を発する。
『ふーん。ニホンジンの大得意、お・も・て・な・し! つまり、裏だけね!』
 妖精はケラケラと笑い始める。
『なら、ひとまず、それ頂戴』
「あのゼンマイをください」
『いやだよー。だって、そのミルクが本当にミルクかわからないじゃない?』
 みなもはその通りだと思ったが顔には出さない。
「表はない、裏だけだってあなたは言いましたよね」
 揚げ足をとるように告げつつ、疑われるのは心外だと表情に出す。
『わかった! じゃ、巻鍵は回収するよ! そして、それが本物だったら……次は考える』
「譲歩してくださってありがとうございます」
 おだてておくことが重要だと感じ取り、みなもはにっこりとほほ笑んでお礼を述べる。
 妖精は手をパンとたたいた。道をふさぐ目玉が消え、女性が糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
(頭は打っていないですよね?)
 みなもはハラハラしたがそれどころではなかった。ここで妖精の機嫌を損ねれば、女性がまた人形になり、みなもも同じ状況になるかもしれない。
(あたしの場合は妖精が見えるから良いですが……)
 みなもが気づいたときには掌のハチミツ入り牛乳は消えている。
(動きが早くて見えないかもしれません!)
 妖精はすでに、違うところに飛んでいる。
「味はどうでしたか?」
『まーまーね!』
 妖精は素直だ。目がキラキラ輝いている。
「何か器があれば、もっと作れますよ?」
『そんなことならこれよこれー』
 妖精はみなもの要請に応えた。妖精の大きさ試験管だった。
(大きいです!!)
『マグカップやビールジョッキがいいかなー』
(それはもっと大きいです!)
『これだとふたがあるんだ!』
 妖精、妙に現実的だった。試験管の口にはまるコルク栓を見せた。
「……わかりました!」
 みなもは内心泣いた。水はなくはないが、これだけ集めるというのは相当なことだ。
 ぶつくさ言っても始まらないため、集中をする。
 妖精の期待するまなざしがみなもの手元に向けられている。その姿を見る分には可愛らしいのだが、時々あのようないたずらをする。
 なぜするのかと言われても、妖精としても困るだろう。
 ここと異界の間を行き来し、自分たちの価値観で行動をとるから。人間が作り上げた秩序とは別の秩序がある。
「あの女性と何かあったのですか?」
『えー、なんかー、むかついたんだよねー』
 どうやら、妖精の怒りに触れることをしたらしい。
 それ以上詮索するのも機嫌を損ねそうだ。
 その間にもじわじわ水が湧く。
 牛乳に変わるには、ハチミツが加わるにはどれだけ時間がかかるのか。

 作業を終え、みなもがほっと息を吐いたときには、終電が間近だった。
 幸いなことに、ご機嫌な妖精はみなもも女性もそのまま解放してくれた。
「あ、巻鍵でしたっけ……あれは!」
 妖精の手の中のままだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生
???/名前は特になし/不明/不詳/妖精

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 内容はいかがでしたでしょうか?
 謎の通りすがりの声を生かしていただいて、ありがとうございます。
 まさかの再登場か、別の個体か不明ですが、巻鍵もって出現しました。
 さて、ねじを巻く部分は巻鍵なのかねじ鍵なのか、鍵巻なのか悩みながら「巻鍵」にした次第です。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年01月31日

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