▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『伝説のアイドルを目指して 』
泉 杏樹aa0045

 銃声が轟く。刃の交錯する音が響く。

 今まさに、エージェントとヴィランズが衝突していた。その数は、6対14。
 明らかにエージェント側が押されていた。

「俺達を捕まえるんじゃなかったのかぁ?」
 数の有利で調子づいたヴィランズが、高笑いしながら攻撃を仕掛けてくる。エージェント達は押されるしかなかった。
「くそっ……こんなに数がいるなんて……!」
 銃弾を肩に受け、血を滴らせながらエージェントが呻く。事前情報では敵は半分しかいないはずだった。予知が大きく外れたのである。
 いつのまにか6人はヴィランの群れに取り囲まれるような形になっていた。揃って武器を手にし、勝ち誇った笑みを浮かべている。圧倒的なピンチを前に、エージェント達の顔が曇った。

 その時である。

人の後ろばっか回りこんだ彼女
恋人失って自分見失った彼氏

 倉庫に積まれた箱の上に、一人の少女が立つ。扇を広げて優美に舞いながら、少女――泉 杏樹(aa0045)は静かに歌っていた。

プライド高くて見下ろしてた男
偶像に夢見て勝手に捨てたオマエ

 少女の舞いに合わせ、光の雫がエージェント達に降り注ぐ。激しい戦いの中で傷ついた身体が、癒されていく。

英雄に憧れて悔しがってた君
敵に破れて再戦を誓ったアイツ


「何だぁ、お前。頭おかしいのか?」
 ヴィランズの中の誰かが杏樹を指して嗤い始める。しかし、その罵声は彼女に届かない。指先一つにも心を込めろ、節一つにも魂を込めろ。全身全霊で表現しろと、トレーナーに堅く教えられていたからだ。
「……バカにするな!」
 エージェントはヴィランズに飛びかかった。彼女の澄んだ歌声が、彼らに力を与えていた。振るう太刀筋が鮮やかになっている。


我を忘れて
自分が見えなくなって
鏡で光を照らしたけど

 杏樹は胸元に手を当て、扇を天井へ掲げる。“彼”が今、其処に居るであろうから。
 喩え愚神であったとしても、その手は人の心を毀してしまったのだとしても、彼は人の幸を祈っていた。その遺志を受け継ぐために、彼女は歌う。

影しか映らないで
嘆き悲しんだ
壊れた鏡の物語


 両手を広げ、杏樹は高らかに歌う。薄暗い倉庫が、仄かな光に包まれた。ヴィラン達はエージェント達に向かって縫止の針や毒刃を叩きつけるが、皆揃って弾き返してしまう。彼女の歌に乗ったライヴスが、清らかな空間を演出していた。
「くそぅっ!」
 一人が舌打ち、銃を構えて杏樹へと狙いを定める。照星を合わせ、彼女の姿を凝視する。藤色の巫女服をふわりと棚引かせながら踊る、純真無垢な彼女を。


人を救いたいんだ
叫び続けた

 杏樹は手を伸ばし、ゆるりと身を翻す。その動きに合わせて、小さな藤色の玻璃が何枚も散らばる。透き通った玻璃は鏡のように光を乱反射した。ライヴスミラーを応用した
彼女なりの演出。
 武器としては役に立たない。しかしこの歌を歌うなら、絶対に外せない演出だった。

例え無駄に終わっても
諦めないで

 彼女には今、舞姫の霊が下りていた。自ら何日も考えて考え抜いてその心から削り出した歌詞を、アイドルとロックの“師匠”に曲付けしてもらった歌。ゆるりふわりとしている普段の彼女には、そのリフを追う事も大変な程に熱く疾く――そして愛らしいポップな歌。

何度も鏡を掲げて行けば
いつかは人を救えると

 銃を構えた男は、いつまでも引き金を引けない。彼の眼には今、杏樹が地へ舞い降りた天女か天使かと見えていた。薄汚れた男が千の矢を引き絞ろうと、天人の持つ光はその全てを焦がす。その心を搦めて、血に飢えた思いを萎えさせる。
「……うぅ」
 ついにはその穢れを洗い流し、罪の重さを厳然と知らしめるのだ。

信じ続けた
アイツの心は今もここにいるよ

 杏樹自身にそんな事は分からない。いつだって百パーセントの想いを込めて一事にぶつかっていく。紫の司祭によって洗礼された、皆を護りたい、癒したいという想い。
 その想いを身体で、心で表現することに必死となっていた。


「降参、します……」
 気付いた時には、ヴィラン達は杏樹に向かって平伏していた。はらはらと涙を零し、ヴィラン達は晴れやかな顔で彼女を見上げている。歌に夢中だった杏樹は、きょとんとして首を傾げた。が、やがて扇を畳み、階段を下りるようにトントンと箱を降りていく。
「……もう、悪い事しちゃ、だめ。なの」
 一人の男の頭を、杏樹は扇で優しく叩く。男はこくりと頷くと、深々と頭を下げる。

 こうして、ある日の戦いは一人のアイドルの歌が終わらせたのだった。


「……という、事が、あったの」
 レッスンの休憩時間。汗を軽く拭いながら、杏樹は傍でギターを弾いていたトレーナーにその出来事を話す。彼はギターを弾く手を止めると、ふむと唸って椅子にもたれ掛かる。
「プロデューサーからの頼みで正式に面倒見てきたけど……やっぱり君には素質があるのかもしれないね」
「素質……です?」
 彼もまた、紫鏡の奇妙な縁に導かれ、H.O.P.E.の芸能課でアイドルリンカーの育成に当たっていた。そんな彼の神妙な顔を、杏樹はじっと覗き込む。
「ああ。いわゆる“伝説のアイドル”の素質だね」
「伝説?」
 杏樹は鸚鵡返しにした。何せ彼女はホームスクーリングで家庭教師に帝王学その他を仕込まれてきた生粋の箱入り娘。アイドルという職業の噂と魅力に惹かれて世界に飛び出したものの、“あいどる”とは何なのか、今もよくわかっていない。そのせいでプロデューサーにたまに騙されてしまうくらいだ。そんな彼女がアイドルの伝説など知る訳も無かった。
 トレーナーはしたり顔をすると、勿体付けながら語りだす。
「ああ、教えてあげよう。……そのアイドルは、18年前、嵐のように現れて一世を風靡したんだ。常にライブは満員御礼、そして戦場に立てば、愚神や従魔すらもその声で魅了してしまうほどだった。けれど彼女は、たった1年の活動の後、『普通の少女に戻ります』という言葉をステージに残し、マイクを置いて去ったという……」
 杏樹はトレーナーの語りに聞き入っていた。眼を閉じると、そんな伝説のアイドルの歌が聴こえてくるかのようだった。この世の艱難辛苦を全て洗い流してしまうような歌が。
「あくまで噂だけどね。俺も小さかった頃の話だから自分じゃ記憶ないし、活動期間が短くて特集が組まれる事も無いからね……名前、何だったかな……」
 トレーナーは懐からスマートフォンを取り出すと、何やら調べものを始める。そんな彼の横顔をじっと見つめて、杏樹は尋ねた。
「杏樹も……伝説のアイドルに、なれる、かな?」
 杏樹は眼を輝かせる。今、杏樹の夢は膨らんでいた。全てを遍く癒す歌。彼女が目指すアイドルの理想形だ。世界のどこかで苦しむ人の為にそんな歌を歌いたい。
 トレーナーは椅子から身を乗り出すと、杏樹と真っ直ぐに目を合わせて尋ねる。
「伝説は、なろうとしてなれるものじゃないから伝説だ。これまで以上に練習は大変になる。それでも、なってみたいかい?」
 トレーナーは杏樹に向かって尋ねる。杏樹は眼を見張ると、迷う事なく頷いた。
「はい。なって、みせるの。伝説の、アイドル。練習再開、するですよ」
 早速杏樹はやる気満々になった。立ち上がって、彼に向かって意気込んで見せる。トレーナーは頷いていたが、ふと苦笑いを浮かべる。
「……あ、でも程々にね。倒れたら、怒られるの俺だから……」

 アイドルあんじゅーの奮闘の日々は続く……


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【泉 杏樹(aa0045)/女/17/生命適性】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
こんにちは。影絵 企我です。この度はご指名頂き誠にありがとうございました。
某ロボット物の雰囲気という事で、今回はひたすら歌ってもらう事にしました。初仕事なのでどこまでやっていいのか手探りしながらという形でしたが、満足いただけたでしょうか?
最後の伝説のアイドルについては、ご想像にお任せです。
不備などありましたが、お手数ですがリテイクをお願いします。
ではまた、御縁がありましたら……

カゲエキガ

シングルノベル この商品を注文する
影絵 企我 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年02月01日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.