▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『 』
橘 由香里aa1855)&飯綱比売命aa1855hero001)&宮ヶ匁 蛍丸aa2951
今年もまた……


「ふんふふーん……」
 肌寒い部屋に小さな鼻歌が響いている。テレビから漏れ聞こえる音よりも若干高いそれは部屋の中では浮いて聞こえ、なおかつ楽しそうだ。
『橘 由香里(aa1855@WTZERO)』はワイパーに括り付けた雑巾で床を拭いている。
 すこし前に大掃除を下ばかりだというのに、またそうじか……。
 そう由香里を一瞥して『飯綱比売命 (aa1855hero001@WTZEROHERO)』は一つ大きな欠伸をした。
 その口を閉じるついでに大福をパクリ。
 そんな飯綱比売命を警戒してテーブルの上の重箱は固く閉ざされていた。
 今日のために買ってきたおせちであるが、メインは台所で煮えている鍋故。手抜きではない、手抜きではないのだ。
「飯綱、そこどけて」
 そうワイパーを走らせると飯綱比売命は上半身だけ持ち上げて器用にワイパーを避けた。テレビを見たまま。
 それになんとなくイラッとした由香里は、ベランダから干していたこたつ布団を取り込みつつ、飯綱比売命の目の前に立つ。
「手伝う気が無いなら、ちょっと部屋に戻っててもらえる?」
「いや、この部屋の方があったかいんじゃ。何でじゃろうな」
 悪びれる様子もない飯綱比売命。由香里はそれにため息をついてこたつのセッティングを始めた。
 しかし、少し目を話したすきにこたつ布団に飯綱比売命がくるまっている。
「これ、飯綱のおもちゃでしょ」
 そう部屋の片隅に転がっているコインやらアニメのグッズやら、マッサージ器やらを段ボールにまとめ始める由香里。その姿を見ても、飯綱比売命は布団とじゃれるだけである。
 本能がそうさせているのかもしれない、というくらい無防備である。
「なぜそこまで躍起になる、多少生活感があってもよいではないか」
「蛍丸にだらしないところを見せるのはいやなの」
 その時、飯綱比売命がやっと楽しい物を見つけたと言いたげに目を細めた。
「あの坊主じゃろ? 家に来るよりでーとでもしてくれば良いものを」
 にやりにやりという擬音が似合うほどに表情を変え由香里を見あげる飯綱比売命。
 それにいよいよ、イライラのピークを迎えた由香里はそのダンボールを飯綱比売命の部屋に叩き込むと、扉を開けたまま飯綱比売命に歩み寄り、そして。
「お……。おおぅ」
 飯綱比売命をこたつ布団で簀巻きにして部屋に叩き込んでしまった。
「ちょっとは反省しなさい!」
 その時ピンポーンっとベルがなる。
 女性とは面白い物で、先ほどの鬼の形相が嘘のように晴れやかな笑顔になり、由香里はドアチェーンを外した。
 そこに立っていたのは『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』
「あらためて、明けましておめでとうございます、由香里さん。今年もよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。今年もよろしくね、蛍丸」
 その時、由香里は思い至る。恰好が掃除ルックでおめかしの一つもしていない。
 長い髪はポニーで纏められ。セーターにジーパン&エプロンというラフな恰好。
 少し顔を赤らめる由香里。
「そ、そのこんな格好でごめんなさい。あの」
 埃とか髪の毛についていたらやだな。
 そう体のあちこちを触ってみる由香里。
 それに対して蛍丸は微笑んでいう。
「髪をあげた由香里さんも素敵ですね」
 まぁ、褒めようと思っているわけでなく、素でこのような言葉が出てしまう子なんだろうが。
「ラフな格好もいいですね」
「そ、そりゃ鍋ですもの。晴れ着とか着てできないでしょう?」
 由香里はそれとわかっていても顔面温度を上げてしまう初心さである。
 由香里は蛍丸の顔を直視できないままに居間に通す。
「その、なんていうか。その……」
「格好のこと気にしてます? 新しい一面を見れたようで嬉しいですよ、でもお着替えが必要なら待ってます」
 そう言われるとふと由香里の頭をよぎるのがあの衣装だな。
 蛍丸はどんな反応をするのだろう。
 そう言う妄想に身を投じそうになって、由香里はあわてて首をふる。
「あ、そう、鴨鍋を用意したのよ」
 そう蛍丸とすれちがって台所に向かおうとしたとき。
 蛍丸が由香里の手を取った。
「え?」
 引き寄せられる由香里。顔が近い。
 目と目、鼻と鼻。唇と唇がくっつきそうである。
 この時、由香里の脳は許容量の限界を迎えた。思わず目を瞑る、期待と不安がいっぱいで胸が爆発しそうなのだが。
 次いで蛍丸の告げた言葉に思わずこけそうになった。
「あ、僕の贈り物使ってくれてるんですね!」
「え? ……うん」
「気に入っていただけたなら嬉しいです」
 そう、少し前に由香里は蛍丸から香水と口紅を送ってもらっていた。
 おそらく蛍丸は匂いで気が付いて、唇も確認したくなったのだろう。
「なんだか照れ臭いですね」
 そうはにかむ蛍丸が可愛いと思う由香里である。
「そ、そうね。あの。蛍丸」
 その後の言葉を由香里はどうつなげようと思っていたか全く分からない。
 だがそんな由香里のもどかしい気持ちが表に出ることはなかった。
 それはとある一室からどたばたと跳ね回る音が聞えたから。
「おお! 小僧がきておるんじゃな。あけおめ! あけおめじゃ!」
「あれ? 飯綱さん? どこにいるんですか」
「あ、ちょっとまって、蛍丸……」
 そうするりと由香里を避けて飯綱比売命の部屋に近づく蛍丸。
 ばたばた跳ね回る衝撃をドア越しに感じると、そこで蛍丸は立ち止まり。
 そしてドアノブに手をかけると。
 雪崩のように諸々が押し寄せ。それに蛍丸は埋まってしまった。
「たすけてくださーい」
「あああ! 蛍丸!」
 そうおもちゃや衣服、よくわからないものの山から蛍丸は顔を出すと。頭にパンツをひっかけたまま微笑んだ。
「たすかりました、ありがとうございま……って!」
 ゆでだこのように赤くなる蛍丸。よく見ればブラやらキャミソールやら、普段お目にかかれない女性下着が山のようにからみついていてほどけない。
 その様子を眺めて飯綱比売命は笑っていた。
 そんな三人が無事こたつに入って、鍋をつつき始める時には夕時になっていた。
 遠慮なく飯綱比売命はパクパクと鴨を口に運ぶが。
 お互い気まずいのか、今日だけでもいろいろあったせいで疲れているのか。お椀を片手に顔を赤らめて俯いている。
 出てくるのは当たり障りのない会話ばかり。
 最近の仕事だとか、街中で面白そうなお店を見つけた、だとか。鍋おいしいですね。
 だとか。
「去年は忙しくてあまり一緒に遊びに行けなかったから、今年はたくさん遊びに行けるといいわね」
 そう由香里は告げると飯綱比売命がすかさず茶々を入れた。
「もっとストレートに言えばよいではないか」
 にやにや顔である。
「素直ってなによ」
「もっと一緒にいたい! とな!」
 ポンッと蛍丸の顔が赤くなる。
 そんな呆けた蛍丸の手を取って飯綱比売命は立ち上がった。
「彼女の家に来たんじゃからお部屋ちぇーっく! とかしていかんのか? ん?」
「お部屋チャックとかはいらないですよ!」
 そう拒否する蛍丸だったが、ずるずると飯綱比売命に連れて行かれてしまい。
 由香里が止める間もなく、蛍丸は由香里の部屋に放り込まれた。
「ちょっと! さっきから飯綱比売命、どういうつもりよ」
「いや、どうもこうも。なにも……」
 割とマジでキレている由香里にたじたじとなりつつも。そこはさすが飯綱比売命というべきか、由香里の肩を叩いて告げる。
「ゆるりとすればよかろう、ふたりで」
 次いでバタンと扉を閉めると飯綱比売命はいそいそとこたつの中に入ってテレビをつけた。
 鍋をつつきながら満足そうにつぶやいた。
「うむ、良い仕事したのう!」
 そして問題の二人といえば。
「由香里さん」
「……なにかしら」
「割と、何もないですね」
 殺風景な部屋を二人で眺めていた。
 生活感が無い由香里の部屋は最近やっと私物が増え始めただけあって、仕事部屋のように見える。
 ただ、机周りは頻繁に使うのだろう。コルクボードが立てかけてあって、そこには沢山の写真が飾ってあった。
 英雄たちと四人で写っている写真が多くある。
「そう言えば、いつもみんなで写真を撮っていましたね」
「ええ、なんだかんだいって写真好きよね。あの子たち」
「今度は二人だけでとりましょうか」
 そう微笑みかける蛍丸。
 そんな蛍丸の表情を直視できず、由香里はうん、と頷くだけにとどまった。
「なんだか私だけ部屋を見られて不公平よ」
 そうつんっとそっぽを向いてしまう、由香里。そんな由香里に少し困った表情をみせながら。蛍丸は告げた。
「では、今度は僕の家でご飯ですね、招待しますよ」
 その時、蛍丸の視界にクローゼットが映った。そのクローゼットなのだが、服が挟まって布がはみ出している。
「由香里さん、服が」
 そう蛍丸はまたもや由香里の脇をすり抜けクローゼットに手をかける。
「だ、だからちょっとまってって」
 ぱかりと開け放たれたクローゼット、その中に収められていたのは真新しい。フリルが施されたワンピースであったり、背中があいたセクシーなものだったり。ふわっとした素材で作られたパジャマであったりが並んでいた。
 どれも可愛いと一言で表されるようなガーリー系の衣服達。
「へぇ、由香里さんってこんな服も着るんですね」
「着ないわ」
「え?」
「来たこと無いの。買うけど着ないのよ。恥ずかしくなっちゃって」
 女子力高めなのは抵抗あるらしい。由香里はうつむいた。
「女の子っぽい由香里さんも可愛いいと思います」
 そうあっけらかんと言い放つ蛍丸。
「え? そ、そう? だったら着て見ようかしら」
「来てくれるんですか!」
「ええ、蛍丸が喜ぶなら」
「嬉しいです。じゃあ部屋の外で待ってますね」
「え? いまから?」
「ぜんは急げですよ」
「……その慣用句、いまこの場で使うには適さない気がするわ」
 ただ、溜息はついても拒否はしない由香里である。
 そのまま由香里のファッションショーが続くのだが、それは、また。
 別の話。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
『橘 由香里(aa1855@WTZERO)』
『飯綱比売命 (aa1855hero001@WTZEROHERO)』
『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 この度OMCご注文ありがとうございます、鳴海です。
 今回自宅デートということで、リラックスした感じで描ければと思ったんですが、いつも通りのラブコメになってしまいました。
 個人的に飯綱比売命さんを書けたのが嬉しかったです。地味に飯綱比売命さんのキャラが好きだったので、動かせて嬉しかったです。
 それでは、またお会いしましょう、鳴海でした。ありがとうございました。
パーティノベル この商品を注文する
鳴海 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年02月01日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.