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『戦う理由 』
雁屋 和aa0035)&紫 征四郎aa0076

 あの日差し伸べられた手があったから、今がある。
 だから自分もエージェントとして、誰かを救けたい。救けよう。
 そう思いながら、紫 征四郎(aa0076)は紫の剣を振るってきた。
 だから、いつぞや雁屋 和(aa0035)に
「戦うことが怖くないの?」
 に問われた時も、答えに迷うことなどなかった。

 誰かを、その人の明日の為に救ける。その思いには偽りはない。
 一方で、本当は――。

 ■

「ね、『征四郎』。お茶でもしよっか」

 和の誘いに征四郎も応じて、二人はとある街の喫茶店へとやってきた。
 外装は煉瓦造りであるのに対し、内装は清潔感を漂わせるオフホワイト。二人はその店内の、テラスに一番近い席に向かい合って座る。窓の外の木々は寒空の下で震えていたけれど、店内はとても暖かかった。
 注文は、和はカフェオレ、征四郎はハニーラテ。お菓子にはスコーンとジンジャークッキーをそれぞれ頼んだ。
 他愛もない雑談をしつつ、和やかな時を過ごす。
 それはそれで大切な時間なのだけれども、征四郎にはひとつ、尋ねたいことがあった。

「ノドカ、征四郎の呼び名が変わりましたね……どうしてです」

 窓の隙間から漏れた風がすり抜けていくような、一瞬の感覚が二人の間を通り抜けていく。
 緊張ではないけれど、その問いは場の空気をおそらく変える。
 そうだと分かってはいても、知りたかった純粋な疑問。

 件の和の問いに対しての返答をしてからのことだ。
 和から征四郎への呼び方が、変わった。それに、呼びかける声も少し低くなった。
 それは征四郎にとって、何故かとても嬉しいものだったけれども――タイミングからして、向けられる感情に変化があったのだと思う。
 だからこそ、今度は自分が問おうと考えたのだ。

 カフェオレを啜りながらその質問を聞いた和は、カップを置くと――紡ぐ言葉を考えるように一つ、息を吐いた。

 □

「戦うのは、怖いです」
 以前の問いかけに対して征四郎がそう答えた時、和は「私も怖い」と告げた。
 その言葉があったからこそなのかもしれない。
「征四郎は迷っています」
 自らの迷いを、
「なにもなくたたかえるほど、つよくはない」
 こうも素直に聞かせてくれたのは。
 和自身もまた、共感を覚えたのは。

 和は、幼き頃から苛烈な日々を送ってきた征四郎に対して『戦う事の先達』として、一種の憧れの念を抱いていた。
 それ故の『紫さん』という呼称。
 一方で、まだ幼い見た目と言動から、どこか子供として扱っていた。
 それ故の、呼びかける時の声の高さ。

 けれども――今は、少し違う。

「私は、征四郎を『信頼』している」
 自分に向けられた問いかけに、和は小さく笑みを浮かべながらそう静かに答えた。
 対面の、体格の差故座った姿勢でもやや低いところにある征四郎の目を見つめる。
 それは決して子供を見るものではなく、
「信頼出来る。あの時、そう思ったから」
 自分自身を冷静に見ることの出来る、一人の人間を――まっすぐに見据える視線だった。

 □

 戦うことは怖い。
 それでも剣を振るい続けたのは、ただ、もう置いていかれるのは嫌だったから。
 英雄や仲間たちと並び立つ為には、子供のままではいけないと考えたから。

 にも関わらず、戦う理由を「なにもない」と考えてしまうのは、何故か。
 考えるまでもなく、本当は分かっていた。
 自らを『征四郎』と呼ぶ理由と同じ――自分の辛い境遇から、逃避してしまっていたからだ。
 でもそんな折に、和からの呼び方が変わり――そしてその理由を聞いた。

 征四郎は征四郎で、和のことはすごいと思っていた。
 自らの弱さを見つめながら、前に進むことが出来るから。
 ボロボロになっても戦うことを、覚悟している人だから。

 ――自分にはなかった『強さ』を、持っている人だから。

 そんな人に『信頼している』なんて言われたら、嬉しいに決まっている。
 それならば、自分はその『信頼』に応えなければいけないと思う。

 征四郎もまた、和の目を真正面から見据えた。
 その表情は、いつも仲間たちの前にエージェントとして在る時と同じく凛々しいものだったけれど――これまでよりも『芯』を感じさせるものだった。

「それならば。征四郎……いえ、わたしは」

 過去から逃避することは、もう終わりにしよう。
 過去と向き合う? 否、そういう問題ではない。
 大事なのは今この時から、自分が何の為に戦うか――。
 置いていかれないが為だけに戦うのではない。
 『わたし』は、ここに立ち続ける為に戦うと、そう決めた。

 □

「わたし、は、ノドカとともに、戦いたい」

 自らのことを見上げて告げる征四郎に、和は一瞬驚いた。
 その後、小さく肯いてみせると、言葉を返す。
「私の方こそ」
「え?」
「征四郎と一緒に……並んで戦いたいと思ってる」
 そうは告げたものの、本心はそれだけではない。
 可愛い先達。
 ――この人に、追いつきたい。
 だからまだ、『並んで戦う』のは、和の中ではそう在りたいという希望に過ぎない。
 それでも、ひとりで戦うわけじゃない。それだけで、大きく違う。

 戦うことは、今でも怖い。
 ただ、その怖さを知っているからこそ――こんなにも、互いが心強く感じるのだろう。

 ■

 気づけば、お互いのカップの中身も空。窓の外の陽も傾き始めていた。
「そろそろ行こっか」
「はい」
 二人は並び、歩き出す。
 その行く先でまた新たな戦いに向かうことになるのだろうけれども、それぞれが、今までとは違う一歩が踏み出せそうな気がしていた。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【雁屋 和(aa0035)/女/20歳/能力者】
【紫 征四郎(aa0076)/女/9歳/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 津山佑弥です。
 私自身かなり久々のライターとしての納品であること、そして初めてリンクブレイブのキャラクターを描かせて頂くことから、丁寧に作業をするべくお時間を頂いてしまいましたが、ご満足頂ければ幸いです。
 また、このノベルを切っ掛けに、という大事なタイミングに私を選んで頂いたこと、大変うれしく思います。ありがとうございます。

 口調違い等リテイク要素がございましたら、遠慮なくお申し付けください。
 この度はご発注、ありがとうございました。
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2018年02月05日

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