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『『彼女の誕生日』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 年末年始の仕事を終え、温泉宿で疲れをとって帰宅して数日後。
 1月8日がアレスディア・ヴォルフリートの誕生日だった。
 ディラ・ビラジスに誕生日を尋ねられた時、「何も気を使う必要はないぞ」と、アレスディアは即座に釘を刺した。
 そのせいか、互いにそれ以降話題に出すこともなく、当日を迎えていた――。
「ここか……」
 その日、2人は都市部の外れにある、廃ビルに訪れていた。
 かつては商業施設が立ち並んでいたこの地だが、現在は老朽化によりこの辺り一帯、立入禁止になっている
 夜には暴走族のたまり場となっていたこの場所だが、ある日を境に、チームに所属していた少年少女が、1人、また1人と姿を消すようになった。
 表向きは家出として扱われているのだが、警察では対処できない案件として特殊能力者へ密かに依頼が出されていた。
 夜、何者かがこの地に訪れ、少年少女達をどこか遠く――異空間に誘拐している。それが真相のようだった。
「暴走族のメンバーとしては、ちと年を食いすぎてる気もするが、俺が囮になる」
「そうだな。集会に訪れる子供達は私が守る。ディラ殿は攻めに出てくれ」
「ああ」
 担当を決めると、明るいうちに2人はビルへと入り、アレスディアは物陰に潜み、ディラは軽装で鉄パイプを持ち、ビルの中を歩き回る。

 午後7時を過ぎた頃。
 その人物は現れた。中年のどこにでもいるサラリーマン風の男、だった。
「ここで何をしている?」
「ぁあ? ここは俺らの縄張りだ、出て行けよ」
 声を掛けられてすぐ、ディラはそう凄んだ。
「そうかすまなかったな。空いているホテルがなくて、ここで一晩過ごそうと思ったんだが。ネットカフェでも探すことにするよ。ああ、これは君達にあげるよ」
 そう、男はディラに近づき、コンビニの袋を差し出した。
 受け取ろうとディラが手を延ばした途端――。
 空間に歪みが生じた。
「アレス、来い!」
 ディラが声を上げる。
「中に魔物がいる。退治するまで待て」
 1階にいたアレスディアは訪れた少年少女達にそう告げて、ディラのもとへと走った。

 ディラが振り下ろした鉄パイプが、異様な力で歪んだ。
 部屋から置物や椅子が飛び出し、彼に襲いかかる。
「ディラ殿、剣を」
 預かっていた剣をディラに投げて、アレスディアが跳ぶ。
 2枚の盾を振るい、飛び回るもの全てを叩き落とす。
「アレス、あいつの後方に捕らえられた奴らがいる。頼んだ」
「任せろ」
 ディラが剣を手に、男に斬り込み、アレスディアは男の後方に繋がる異質な空間に飛び込んで、その中に捕えられていた少年少女達を、引きずりだした。
「よし、媒体となっているこいつをやれば……」
「まて、ディラ殿」
 急所に剣を突きたてようとしたディラの前に飛び、アレスディアは盾で敵を押し潰して、意識を奪った。
「手足を拘束してしまえば、憑かれていても、身動きできないはずだ」
 アレスディアは可能な限り、命を奪うことはしない。
「……そうだな」
 ディラは猛る心を抑えて、男を拘束し、依頼を請けた際に預かった札を貼り付けた。
 この札には、霊を抑える力があるそうだ。
「もう入っていいぞ! この子たちはお前達の友達だろう? 早く救急車を」
 アレスディアは暴走族のメンバー達を呼び、異空間に取り込まれていた少年少女達を運んでいく。
 かなり衰弱していたが、皆生きてはいた。

 そして、数時間後――。
 2人はおしゃれなカフェに来ていた。
「事件解決が遅れたのなら、捕らえられた者達は同じように霊に憑かれ、襲う側となっていただろう」
 紅茶を一口飲み、アレスディアは微笑んだ。
「彼らも、そして彼らにより無辜の者が傷つけられることなく無事護れたのは、ディラ殿のおかげだな。ありがとう」
 そうして頭を下げるアレスディアを、ディラもまた微笑みを浮かべながら見ていた。
「そういえばさ、今日誕生日だよな」
「ん? ああそうだったな」
「プレゼントだ」
 言って、ディラが差し出したのは、黒色の手袋だった。
 滑り止めがついた、実用的なものだ。
 もう一度感謝の言葉を述べて、アレスディアは手袋を受け取った。
「それから、ここの支払いも今日は俺にさせてくれよな。この程度じゃ、俺が貰った誕生日プレゼントには全然満たないけどさ」
「そんなことはない。良い一日だった」
 そう言って、互いに微笑みを浮かべた。
 ささやかな食事。そして、食後に小さなケーキを食べて。
 2人は今日の出来事、明日からの仕事のことを話しあっていく。
 
 今年の1月8日はアレスディアにとって、少しだけ特別な日だった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもありがとうございます、ライターの川岸です。
この時期の負担にならない程度のプレゼント……と考えてすぐ、手袋が思い浮かびました。
依頼も含め、アレスディアさんに喜んでいただき、彼も幸せな気持ちになったようです。
ささやかですが、お祝い、お返しができてよかったです。
ご依頼ありがとうございました!
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年02月06日

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