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『これで漸く、満足出来そう。 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 シリューナ・リュクテイアの営む、魔法薬屋店内で。
 …少々場違いであるような、いや逆にむしろ似合いであるような紫竜の飴細工オブジェが――この場の主、とばかりに、でん、と鎮座している、と言うのが現在の状況。

 勿論、主と言うのは数多ディスプレイされているコレクションのメイン、と言うような意味で、である。

 場を支配して然るべき本来の主は、当然、店の主ことシリューナの方。
 そしてこの飴細工オブジェの正体は――毎度の如く、ファルス・ティレイラである。

 このティレイラは、シリューナの魔法の弟子にして妹のようなもの。二人共に別世界から異空間転移してこの東京に訪れた紫の翼を持つ竜族であり、今回のこの状況の原因だろう事々――多種多様な魔法絡みの代物とは親和性が高い。と言っても訪れた先の世界が世界、場所が場所。常から本性の竜姿で居るのは非常に目立つ上に色々と支障が出て来るので、シリューナもティレイラも普段は人の姿を取って人の中に紛れて生活している――の、だが。

 何だかんだで今のティレイラのように、竜の姿を取ってしまう事もままある。
 …主に、シリューナの趣味で仕掛けられる悪戯やら、ティレイラ自身の好奇心が招いた失敗やらが原因で。
 そしてそんな「悪戯」やら「失敗」で怪しい封印魔法やその手の呪いに取り込まれ掛けた場合、状況の打開を狙って、竜姿になって頑張る事がティレイラにとってはある意味奥の手。
 でもそれでも、解決しない事もままある。
 …例えば今日のこの場合。成り行きを言うなら、シリューナがティレイラに店番を頼んで出掛けた結果、帰って来たらこうなっていた訳である。シリューナの方でも辺りに漂う仄かな甘い香りに気付いた時点で、後の悪戯用としてこっそり用意しておいた飴玉状の魔法菓子(仮)をティレイラがつまみ食いしようとした結果だとすぐにわかった。…つまり、手間暇掛けて悪戯を仕掛ける前に、自分で勝手にやらかしてくれた訳である。
 となれば、シリューナとしてはお仕置きと称して存分に堪能出来るのでそこについては構わないのだが――その造形がまた、何処からどう見てもティレイラが「頑張った」形跡をそこかしこに残しているものになる。努力、根性、嘆き、後悔、そういった諸々がリアルに刻まれ、まるで才能豊かな何者かの技巧によって素材から見出され、芸術として取り出されたかのようでもある。…まぁ、この場合はそうやって何も無いところから造り出された造形と言う訳では無く、元となったティレイラが可愛いから可愛くなる、と言う話でもあるが。
 とまぁ、竜姿で頑張っても解決しない事がままある証拠は、はっきりと今現在のシリューナの目の前にある。
 そうなれば勿論、このシリューナが黙って我慢している訳も無いもので。

 当然、じっくりと愉しませて貰っている。





 で。





 ティレイラで出来た紫竜の飴細工をシリューナなりにじっくりと鑑賞し、堪能した、その後。
 どういう訳か、それでもまだ…どうしても何か、物足りない気がしてならなくなっていた。
 ただ名残惜しい…と言うのとも違う(名残惜しいだけならいつもの事だ)。もっと他に、何かが足りないと言う飢餓にも似た欲求が――シリューナの中の何処かにある。じっくり堪能した筈なのに、何をしそびれているのか――暫し考えつつティレイラの飴細工に再び触れ――何となく、気が付いた。

 この場合、どうしても『素材らしい』愉しみ方が出来ないからだ、と。

 つまり、飴細工らしい愉しみ方――文字通りの意味で「味わって」しまう訳には行かない。感触を愉しむにも、あまりじっくり触れていては体温で溶けてしまう。どちらも当たり前の事ではあるのだが、カタチとしての造形美だけではなく素材の質感、感触を楽しむ事もシリューナにとっては趣味の一環な訳で、ソチラについてはある程度我慢しつつ愉しむしかないとなれば――それは無意識下で欲求不満にもなるだろう。理性の上でわかっていても、感情の方はそれでは納得しない。
 とは言え、飴細工――でそれをやってしまうと、肝心の造形に支障が出る。素材になっているティレイラの方も色々困る事になるだろうし、後の事を考えるとあまり宜しくない。…なので、それらの不可逆的な鑑賞を実行する気は取り敢えず無い。
 無いが。

 この欲求不満は――如何ともし難い。

 ので。

 その欲求不満を解消する為に、シリューナはちょっとした悪戯を仕掛けてみる事にした。



 まるでゆっくりと虫の蛹が羽化するように、竜姿のティレイラ――の飴細工オブジェが微かに鳴動する。その動きに伴い、光の加減で煌く紫色。恐らくは効果が薄れ始めている飴状の魔力の膜の内側で、可愛いティレが必死に頑張っているのだろう様子。爪の先、尻尾の先、翼の先――飴らしく固化していたその身の先端から少しずつ、「自分の身体を拘束する力」を竜姿ならではのパワーを以って、幾分強引に、一つ一つ力尽くで打ち破っていく。

 シリューナにしてみれば奮闘するその姿すらも健気で可愛らしく見応えがある、のだが。

 ティレイラにしてみればそれどころではなく、どうして元に戻してくれないのか――と、文句の一つも言いたくなる方が先である。…それは「こうなった」のは元々自分の落ち度でもあったし、シリューナからはそれなりの小言もあって然るべきだと思うが――それでもその失敗の「結果」で既にしてシリューナの方から充分「お仕置き」はされている訳で、更にはその「お仕置き」自体もある程度済んでるっぽい(?)のだから――何で早く戻してくれないんですかぁっ、と嘆き混じりで訴えたくもなるのは人情である。そう、別に勝手な言い分を押し付けている事にはならない…と思う。

 やがて飴から完全に解放されると、ぷはぁっ、とばかりにティレイラは思い切り息を吐く。…別にそれまで息を止めていた訳では無いのだが、何となくそんな心持ちで。
 そしてそれから、精一杯の非難を籠めてお姉さまを――シリューナをじろり。勿論、竜姿のままなのだが――それでもティレイラである事に変わりは無いので、何処となく迫力に欠けて見えてしまうのは気のせいか。…人の姿であったなら恐らくはぷくーと頬を膨らませてこれ見よがしに怒って見せているところ。

 なのに、お姉さまは――シリューナは、それまでそうしていた通りに黙ってティレイラをじっと見ているだけ。そんなシリューナの様子に、ちょっと、私は怒ってるんですよっ、とティレイラは更にアピールするように一歩前へ出――また、威嚇するように一声嘶く。…人の姿だったら詰め寄って問い質す――問い質そうとしている、と言ったところか。

(何とか言って下さいお姉さまっ――)

 と。

 そう思った――と言うかお姉さまに伝えようとしたところで、あれ? とティレイラは微かな違和感に気付く。一歩踏み出した足の下。金属のような冷たい感触――店の床とは違う。思う間にもその冷たい感触に触れている部分から、ぴしり、ぱきりと冷たい何かが競り上がってくるのを感じ、背筋が泡立った。ティレイラにしてみればある意味で慣れた感触と言えばそうだが――まさか、このタイミングでと思う。
 足の下を見る。何か、黒っぽい金属の板――のようなものを踏んでいる。尻尾の先も少しその板の範疇に入っている。…その両方に、何故か、同じ感触がある。その板と自分の接触面の境――その色に違いが無い。…黒い。え? と思う。金属らしい板は黒かったかもしれないが、自分の脚や尻尾は紫色の筈で。どうなっているのか頭の方ではわかっているのに気持ちの方で絶対に認めたくない――まさかまさかと焦燥ばかりが募ってしまう。自分の脚と尻尾の感触。色が黒くなっている部分が今どうなっているのか、考えたくもない。けれど幾ら現実逃避しても状況は変わらない訳で――…

 …――つまり、この金属板が何かの封印とかその手の魔法が込められてる魔法道具で、その板を踏んだ事で発動スイッチが入り――既にその効果に嵌ってしまっている、と言う事になる。

 今度は、飴細工では無く、金属化。

 これは勿論、シリューナが仕掛けた事。…いや、仕掛けると言う程の事でも無い。先程感じた欲求不満の解消がてら、いい機会だから少し前に仕入れた魔法道具もついでに試してしまおう、と思っただけの事に過ぎない――これが、ちょっとした悪戯、である。
 方法としては飴細工から元に戻るまでティレの事はわざと放っておく事にし、元に戻り次第、目の前に居る何もしないシリューナに食って掛かるように仕向ける。そしてそうなった場合に足を踏み出すだろう場所に、魔法のオブジェ用の台座――になる金属板の魔法道具を置いておく。…準備はそれだけである。

 而して、シリューナの思惑通りにティレイラはその台座を踏み付け、効果の通りに金属化スタート、と相成る訳である。

 と、シリューナにしてみれば思惑通りだが、ティレイラとしては想定外もいいところである。飴細工化から漸く元に戻れたかと思えば、殆ど間を措かずに、また、である。…え、そんな訳無いよねとまず思う。それでも金属板との接触面から――膜が広がるようにその金属板の色が自分の体表を這い上がって来るのと、その膜に包まれた部分が明らかに金属化して固まっている感触がわかれば――どうしたって身体の方で理解する。が、身体で理解しても頭の方が理解を拒否して真っ白になる。え、どうしようどうしたらと完全にパニック。対処法とか考えなきゃと思えば思う程、対処法のたの字も出て来なくなる。
 結果、その場であたふたするだけで、何も出来ない。助けて下さいお姉さまとすら思う余裕が無い。ただ、うわ〜ん!! とばかりに嘆くだけ。嘆いている間にも金属色が這い上って来る。脚や尻尾から胴、胸、背、肩、翼――首元辺りまで金属質に変化が進む。それでもまだティレイラはなけなしの嘆き声を上げている。やだようやっと元に戻ったばっかりなのにぃ〜、と、そんな風にすら言っていたかもしれない。
 しれないが――竜姿のままなので、大口開けて必死で嘆きの鳴き声を上げているようにしか見えなくもある。わかっているが、嘆くのを止められるものでもない。…人の姿になって訴える事すら忘れている。そして竜姿のままのところに板の金属色が完全に這い上り、大口開けて嘆いているそのままの姿で――長い舌の先すらもそのままの形で固まった。…本当に、声を上げているその最中を切り取り、断ち切る形。途端に舌先の感覚すら無くなったかと思うと、嘆いていた自分の声も途切れ――その直後にぷつんと意識も飛ぶ。

 ティレイラがそうなるまでを見届けてから、シリューナは、はぁ、と嘆息。つい今し方まで動いていた――今は金属化しているティレイラの舌先に触れながら、嘆く前にする事があるでしょうに、とぽつり。私の弟子なのだから嘆く前に魔力で抵抗を試みる事くらいして欲しい。そんな希望もあるが――まぁ、今は。

 それより先に、自分の欲求不満を晴らすのが、先。
 金属質のこのオブジェなら、先程の飴細工のような繊細な我慢をする必要は無い。

 だから今は、目の前にあるこの素晴らしいティレイラの造形を思う存分愛でていたい。
 …こういう場合の対抗措置としての魔力を使った抵抗は、いずれ出来るようになってくれれば、それでいい。

 思いつつ、シリューナは黒光りする金属質なオブジェと化したティレイラを、今度こそ思う様愛で始める。じっくりと撫でたり抱きしめるようにして背に乗ってみたりと、心地好い冷たさと滑らかな硬質感を――先程の欲求不満を取り戻す勢いで、思う存分味わっていく。

 ああ、素敵。

 ――――――これで漸く、満足出来そう。


【了】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212歳/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15歳/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 紫の翼を持つ竜族な御二人にはいつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。
 そして最早毎度の如くになってしまっているのですが(汗)、またもお渡しが遅くなってしまっております。大変お待たせ致しました。

 内容についてですが、前回の続き調で、再び御二人が参加した別パーティピンナップからのイメージでとの事でしたが…「飴細工だと出来ない事があるので金属塊の方に」と言う流れで纏めてみました。強引かそうでなく済んだかの判断はお客様にお任せします(苦笑)
 文字数についてのお気遣いも有難う御座います。取り敢えず規定内でこんな感じで纏まりました。

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年02月07日

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