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『月下に斬り結ぶ 』
鞍馬 真ka5819

 月光が、鞍馬真の少女のようにも見える美しい顔を淡く照らしていた。
 満月が下界を見下ろす、とても明るい夜だった。その代わり星影は薄く、月だけが孤独に、孤高に、煌々と輝いているのだった。
 森で、異様な獣の叫び声が聞こえるのだと言う。断末魔のようなそれは、獣同士の諍いのためか、あるいはそれ以外か、詳細は不明だが、人々に恐怖を与えたことは確かだ。で、あるから、万一と言うこともあり、ハンターである真に原因調査の依頼が舞い込んだのだ。
 真は、ある廃墟にたどり着いた。ここを中心に、獣の声は聞こえるのだと言う。
 それは、東方風の聖堂だった。大昔にリアルブルーからこのクリムゾンウェストにたどり着いたものが、現地で信仰を集め、建立したのであろう。
 しかし、いまや打ち捨てられて、誰も近づこうとはしない。外壁には蔦が絡みつき、草花の青々とした匂いが覆いかぶさっていた。かつては鮮やかな丹塗りであったろう門も崩れて、見る影もなかった。
 大伽藍だけが、かろうじて原型をとどめていた。
 しかし、伽藍の中へと入っていくと、その匂いは次第に血なまぐさく饐えたものに変わっていった。
 天井は崩れ、隙間から月光が差し込み、内装が照らし出される。絢爛を誇ったそれも、今や、誰もその意匠を理解することはない
 その床に蠢くものがあった。青色の鳥が床に落ちて、体から血を流してもがいているのである。
 よく見ると、床には点々と赤黒い染みと、動物の残骸が散らばっていた。
 そして、その中心には。
 紅蓮の甲冑を身にまとった武者が太刀を閃かせていた。
 かつてはこの伽藍の守護者であったのだろう。具足には建物に散見される意匠を施してあった。
 ……調査依頼だと思っていたが……。
 ……きっと、これが断末魔の原因だろう。
 ……迷い込んだ動物を殺していた、というところか。
 真の瞳が一瞬、金色に変わり、覚醒を示唆する。
 その刹那、なんの予備動作もなく、武者が爆ぜるように真へと飛び込んで必殺の突きを放った。
 それを、真は横飛びして避ける。その動作に連なって、長い黒髪が揺れた。
 さらに武者は真が飛んだ方へ横薙ぎの斬撃を放つが、真は後ろに飛んでそれを避けた。だが、まだ武者の攻撃も止まない。一歩踏み込んで返す刀で一閃斬りつける。
 即座に真は魔導剣を抜き放ち、軌道を逸らす。また大きく後ろに飛んで、間合いを取る。
 真は敵から目を離さない。剣を脇に構えて、敵の出方を伺う。
 武者も上段に太刀を構え、円を描きながら距離を詰めていく。
 真が先に仕掛けた。真は一歩大きく踏み込み、自ら敵の間合いに飛び込んで、下から上へ、胴を狙った一撃を放った。
 武者は叩きつけるように太刀を振るって魔導剣を迎え撃つ。
 魔導剣と太刀が触れ合った瞬間、真は力の向きを変えた。武者の太刀の流れに合わせ、円を描くように、攻撃を後方に流したのだ。
 それにより、武者の体勢が崩れた。
 すかざず刃を閃かせ、鋒に紅蓮の軌跡を残こす、空気すら焼け焦げるような斬撃を叩き込む。
 武者の、胸に裂傷が走った。
 武者は引っ掛けるように牽制の太刀を閃かせ、その動作と供に、一歩、後ろに飛んだ。そして、そのまま真の後ろに回り込むように移動していく。
 真は、右足を軸にして、その場を動かず武者へと体を向ける。
 武者は、首を狙って太刀を振るう。
 真は上体を後ろに倒して、それを避ける。そのまま、関節部分である脇へ向かって一刀浴びせかける。
 しかし武者も即座に脇を締め、真の刃は武者の大袖を掠めるのだった。
 そのまま武者は下段から、打ち上げるように真の剣を弾きあげる。そして、最前のお返しとばかりに、真の脇腹を斬りつけた。
 武者は具足に身を固めているが、真は機動性を重視した軽装であった。防御面では不安が残るのも事実。
 武者の太刀はやすやすと真の体にめり込んで、鮮血を溢れさせる。
 血が、服に染み渡り、そして、地面に新たな文様を作る。
 腹の傷は致命傷ではないものの、決して浅いものではないのだ。
 お互いに、決死の間合い。
 そこへ、さらに踏み込むか、それとも、一歩引くか。
 そこにあって、真は、その麗しい顔を愉悦に染めることもなく、恐怖に歪めることもなく、自身の傷にすら関心がないのか、顔色一つ変えなかった。
 武者は、少し身を引いて太刀を縦に、顔の横で構える八相の構えをとる。
 真は青眼に剣を構える。
 真が、一歩、踏み込んだ。
 武者も素早くそれに反応し、とっさに太刀を振り下ろす。
 しかし、真は剣を振るわず、出した足を再び元に戻した。
 真は、踏み込むと見せかけることで、武者の攻撃を誘ったのだ。
 太刀を半身になって避けて、そのまま武者の胸元に飛び込むように喉仏へ鮮烈な突きを放った。
 その衝撃で、武者の兜が吹き飛んだ。
 乾いた音を立てて兜は地面へ落下して転がっていく。武者の中身は空洞であった。大方、打ち捨てられた伽藍に残った鎧が歪虚となったものであったのだろう。だから、頭をなくすくらい、機能停止させるには足りない。
 武者は真へ振り抜いた太刀を斬り上げて、即座に反撃に転じる。
 真もまた、横へ飛びつつ太刀の勢いを殺す。
 武者は態勢を立て直すためか、後ろに下がって間合いをとる。
 しかし、真は再びそこへ飛び込んでいった。
 そして繰り出された斬撃に対して、武者はさらに大きく後ろに飛ぶことで避けた。
 だが、またも真は敵の間合いに飛び込んでいく。
 本来であれば自殺行為。しかし、敵を打ち倒す明確な決意があれば、命を奪う一撃を可能とする。
 武者もこのままでは防戦一方だと理解したらしい。
 剣と太刀が斬り結ばれる。
 真が放った水際立った刺突を武者はなんとか軌道をそらすことに成功する。そして、攻防は鍔迫り合いに発展した。
 互いの力が拮抗する。
 両者は互いに理解した。
 きっと、次の一撃が、生死を分ける。
 お互いの動きは、武器を通じて即座に伝わる。動くなら、決める瞬間以外ありえない。
 先に動いたのは武者の方だった。
 武者は真の体を蹴飛ばした。
 真が後ろによろめく。二人の間に距離ができた。
 その間合いを、大きく一歩、武者が踏み込んできた。
 そして、大上段に構えられた一撃が真に迫る。
 通常であれば、防御を優先するところだ。しかし、真は直ちに呼吸を整えて、なおも敵の懐に飛び込んだ。
 放つのは先ほどと同じ刺突。
 全体重を乗せた一撃が武者の胸に突き刺さった。
 同時に、武者の太刀が真の左肩にめり込んだ。
 武者は刃を、引き斬るために、後ろに下がろうとする。
 逆に、真は刃をより深く突き刺そうと、さらに前進する。そうする度、真の肩と武者の太刀が擦れ、より傷口が深くなっていく。それでも、真は歩みを止めなかった。
 遂に、真の魔導剣は敵の胸を穿った。
 武者は一度大きく痙攣した。甲冑が擦れ合って音を立てる。そして、武者の両手がだらりと垂れた。全身の力が抜けて、真へとしなだれ掛かり、一層深く刃が突き立った。
 武者の体は足の先から塵になって消えていった。さらさらと、風化するように。真の肩を斬りつけていた太刀も消えた。閉鎖物が無くなり、肩から吹き出た血が、真の顔にかかる。
 かくして、依頼は完遂された。予想外の死闘で以って。
 真は伽藍を後にした。顔についた血を拭うこともなく。
 その光景を、やはり月だけが見ているのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819 / 鞍馬 真 / 男 / 22 / 闘狩人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 月光のみが見ていた死闘。
 伽藍に満ちる剣戟の音。
 それらがなくなった今、この場所は、静かに、眠るように朽ちていくのか。
 あるいは……。

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2018年02月07日

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