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『 鬼子母人 』
鬼子母 焔織aa2439)&宮ヶ匁 蛍丸aa2951)&阪須賀 誄aa4862hero001)&彩咲 姫乃aa0941)&青色鬼 蓮日aa2439hero001)&藤咲 仁菜aa3237)&煤原 燃衣aa2271

プロローグ
「ああ、我が子よ」
 そこは暗い穴倉。悪徳の巣。その冷たい床に根差した冷たい玉座で。虚ろな瞳の青年が抱かれていた。
 その青年は虚ろな言葉をぽつぽつと漏らすばかりで微動だにしない。
 それはそのはず、彼……『鬼子母 焔織(aa2439@WTZERO)』は今はその名はないのであるが今は『紅孩児』と呼ばれている。
 名を、体を、心を愚神『愚神(NPC)』……通り名は『鉄扇公主』である。そんな彼女に縛られた彼は。
「ああ、母様。私はどうすればあなたのお役に立てるのでしょうか」
「紅孩児よ。愛しのわが子よ。お前の好きなことをなすがいい。そのために私はお前をはぐくんだ」
 そうさらりと『鉄扇公主』は青年の髪を撫でると青年はスイッチが入ったようにその瞳に憎悪を宿した。
「わたしは。浄化の炎。一切の悪を焼き尽くす。そして、そして悪に染まったこの身すらくべて、反逆ののろしとしてみせましょう」
「うむ、よいよい。よいぞぉ。では早速」
 『鉄扇公主』は甘い声で息子を撫でながら視線をあげる。その先には暗がりで見え辛くはあるが、数名のリンカーが立っているようだった。 
 『鉄扇公主』は息子を世に解き放つ。
「奴らを食い散らかせ」
「わかリ。マシた。母さん。あああああああああ!」
 膨大な霊力が沸き立つ。愚神の力が逆流する。青年に力を与える。その時。
 紅孩児が起動したのである。

第一章 食らい合う火

「蛍丸さん。だめです返してきなさい」
 暗がりに『煤原 燃衣(aa2271@WTZERO)』の声が響く。
「で、でも煤原さん」
 この物語は『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』が燃衣の事を兄と呼び始める前の話。
 それこそ燃衣にとってはかなり昔。決定的な出会いは済ませてはいる。その胸の内に彼方との記憶を残し。隊長が板に付き、白い炎も心に宿り始めた頃。
 そんなときに暁全体で任務を受けた時のお話だ。
「でも、煤原さん。これ。離れないんですよ」
 そう蛍丸が視線を向ける先には。何かを諦めたように項垂れる『彩咲 姫乃(aa0941@WTZERO)』と
 姫乃にがっちり組みついて離れない英雄がいた。
 名を……。
「『青色鬼 蓮日(aa2439hero001@WTZEROHERO)』だ! よろしくな!」
 困り果てる燃衣。
「あの、あまり大きな声は、あと危険なので戦闘区域から出てくれますか? 能力者のあっせんはしますから」
 そう冷静に対処しようと心がける燃衣だが、蓮日はそうはさせないとばかりにわめきたてる。
「僕が子らを見捨てて! 死地からカエルだと! ありえない。いい加減にしてもらおうか!」
「もうどうにでもしろ」
 他人にとっ捕まるという経験自体が稀有な姫乃だ。
 いろいろ傷つくこともあったのだろう。
 女性に巻きつかれているのに放心状態である。
「ふふふふ、それは僕の愛を受け入れたという事かな。どれ、耳の裏をぺろぺろしてやろう」
「それはやめろ!」
「隊長……」
 不安げな視線を向ける『藤咲 仁菜(aa3237@WTZERO)』
「うーん、置いていくのも危ないしワンチャン連れていくのもありかと」
 兄に代わり任務に参加している『阪須賀 誄(aa4862hero001@WTZEROHERO)』が告げた。
「うーん、愚神『鉄扇公主』とヴィラン紅孩児の討伐任務は、契約していない英雄を連れて行けるほど簡単ではない任務だと思うんですが」
 そう渋る燃衣に対して。蓮日は少しだけ声音を下げて告げた。
「つれてけ、必ず役立つ」
 その言葉に燃衣は何かを感じ。頷き。そしてため息をついた。
「仕方ない。時間も押してますし行きますよ」
 そうしてたどり着いた大広間。
 砕けたガラスが散乱した広い部屋で、その男は待っていた紅孩児。
 沸き立つような霊力は陰炎のように彼にまとわりついている。
 一筋縄ではいかない。
 そう全員が思った。
「あなた達に勝ち目はないです。投降してください」
 燃衣が告げる。誄が銃を構えた。
「アナタ達も。焼キ尽くすベキ。悪デスネ!!」
 燃えたつ霊力。その体から発されるエネルギーに一同は圧倒された。
「悪?」
 仁菜が首をひねる。その時。
 紅孩児が地面を踏み砕いて燃衣たちに突っ込んできた。
 誄は妨害射撃。
「シールダーは僕がやります」
「任せたよ、蛍丸!」
 仁菜は今日は盾役ではない。その体のばねはシャドウルーカーのものであり、一足で紅孩児の攻撃範囲から離脱。
 真っ向から正拳を受け止めた蛍丸はやや後退しつつもその一撃に耐え。
 動きの止まった紅孩児へ誄は弾丸を浴びせる。
 それを紅孩児は首をひねり、腰を回し、一歩後退して回避。
 その紅孩児へと襲い掛かったのは姫乃。真っ赤に髪を燃えたたせ加速、間合いを詰める。
 それに対して紅孩児は微笑んだ。
「アワレなコよ。悪徳からカイホウシテヤロう」
「あ? 何言ってんだ」
 姫乃はまず駆け抜けざまに紅孩児の掌底を回避。
「八極拳か!」
 重たくどっしりと重心を落す構えを見て姫乃はそう看破。
 背後をとって紅孩児が振り向く動きに合わせ、背中を蹴った。
「悪いな、俺はお行儀のいい流派とかねぇけどよ」
 そのまま天井に足をついて力をためる。
「それでも、楽しませて見せるさ!」
 次いではじかれたパチンコ玉のように姫乃は飛び出した。
 紅孩児のすぐ右を駆け抜け。放たれた掌底を身をひねって回避。上半身をブリッジするような動きそのままにバク転。
 地面につま先がつくと同時に真っ直ぐかけ。蹴りをかいくぐり旋風脚。
 それを紅孩児はキャッチすると円運動で弾き飛ばそうとした。
 しかし。
 その顔面を蹴りぬいたのが仁菜。
「ぐっ」
 解放された姫乃はめちゃくちゃにくわえられた運動エネルギーを地面を飛び跳ねながら調整、一方方向の加速度に直すと天井に向けて飛ぶ。
「おいたは、これで終り」
 そう冷たく告げる仁菜の手にはぎらつく鋼の爪。
 その一撃をすんでのところでよけると紅孩児の胸板に真っ直ぐ赤い線が引かれた。
 そのまま紅孩児はサマーソルト。仁菜は其れを回避するために追撃をキャンセル、逆方向に飛ぶ。
 紅孩児めがけ背後から姫乃のタックルその動きを回転する扉のようにいなすと、姫乃は仁菜のもとに突っ込んでいった。
 それを蛍丸がキャッチ。かわりに突っ込んだ燃衣を紅孩児は軽くいなすと仁菜はにっこりほほ笑む。
「終わりだね」
 次いで縛られる影、見れば焔織の影には髪留めが突き刺さっており、霊力で動きを止められているようだ。
 次いでキュラキュラと何かが巻き取られる音。
 同時に紅孩児は磔にされた聖人の様な態勢でその場に縛り付けられる。
 姫乃のハングドマンである。
 この二重捕縛に抗う術など無いだろう。
「すみません、少し眠っていてもらえますか」
 次いで燃衣の拳に霊力が集まる。貫通連拳のかまえ。しかし。
「わが子よ。悪徳をなす者達を潰えさせるがいい。そのみに悪徳を詰みつつも」
「はい、かあさん」
 次の瞬間信じられないことが起こった。
 紅孩児の胸から腕が伸びたのだ。
 それは血まみれのままに燃衣の心臓に伸ばされ。
「煤原さん!」
 間一髪のところで蛍丸の籠手に止められた。
「なにが?」
 混乱する燃衣。しかし側面から見ていた誄からは一目瞭然だった。
「紅孩児が……もう一人? そんなんありえないだろJK」
 しかしあり得る、実際に燃衣の心臓をえぐり取ろうとしたのは紅孩児。その二人目。
 双子ではない。単なる分身だ。
「我が子は何人いてもいい、そうは思わぬか?」
 『鉄扇公主』の言葉にピクリと反応する蓮日。

 戦いは第二局面を迎える。

第二章 血戦

 ヴィランズ紅孩児はある一定の社会貢献をなしていると蛍丸は燃衣に報告したことがある。
「彼は多くの人間を殺していますが、それはヴィランとして認定できない組織や、闇に根付いた組織を潰しているだけで、それで助かった子供たちは大勢います」
 そう蛍丸は告げると燃衣の反応を見る。
「しかし、死んだ人はそれで納得するでしょうか」
「やり方が、分からないだけだと思うんです」
「それを聞く耳を持つでしょうか」
 その燃衣の言葉に、蛍丸は真っ直ぐと告げた。
「僕が見極めます。だから時間をください」

   *   *

「あなたはこんなことしたくないはずだ!!」
 そう叫びをあげたのは蛍丸。紅孩児の爪を止めると、紅孩児の分身がとけるように消え、目をぎらぎらとたぎらせた紅孩児の姿が露わになる。
「イエ。これこそワタシの望み。全てを破壊し焼き尽くす!」
「力で相手を押さえつけているだけでは。子供を上から押さえつける悪党と変わりはありません!」
「それ以外ノ方法を知らない」
「教えてあげます。だから僕たちといきましょう」
 そう告げる蛍丸を紅孩児は鉄山靠で吹き飛ばした。燃衣もろとも地面を転がる蛍丸。
「なら僕が…………分からせてあげます!!」
 蛍丸は血をぬぐってそして駆けだした。
 だがその蛍丸の隣をすり抜ける紅孩児。
「まだいたんですか!」
 三体目の紅孩児。向かう先は誄である。
「おおおおっと、これはまずいぞっと」
 そう兄の口調をまねて見せる誄。だがその中に添えられた左手はフリーとなり、銃口はやや下に下げられる。
 次の瞬間紅孩児の鋭いけりが誄を狙う。
 しかし。
 それを誄は銃身でそらして、屈んで肉薄。
 膝の関節を戻せないように固めた上で肩に担ぎ姿勢を伸ばすことで、地面に足をつかなくする。
「古龍武術の多くは力の移動に主眼を置いている。地面と足を使って力をため、受け流し、込める。しかし、その地面がなくなれば……」
 誄は冷静に分析結果を口にする。
 そのまま膝に対して銃口を向けてトリガーを引く。前に一歩進んで掌底を顎に。
 そのまま弧を描くようにいなして誄を地面に叩きつけ。
 無情にトリガーを引く。
 一瞬のうちに紅孩児は体制を整えて、銃弾を受ける痛みなど構わず誄の周囲を紅孩児はまわる。
 素早く背後をとる紅孩児、しかし遅すぎた。
 今の仁菜は燃衣や姫乃にも遅れをとらない速度を持っている。
「狙撃主をやらせるほど甘くないのだけど?」
 後ろからカギヅメで突き刺された紅孩児は衝撃で地面を転がるも跳ね起きて構えをとる。
「仁菜さん、別に大丈夫だったのに」
 そう静かに告げる誄は軍隊格闘技を身に着けている。
 他の武術にはその大きすぎる武力を何に使うべきか、信念めいたものがあるが。
 軍隊の仕事は敵を殺すこと。
 つまり、軍隊格闘技に信念はない。正確には相手を殺してしまわないように、と言った信念はないのだ。
 つまり、殺傷に特化した武術であり。
 CQCの基本は、どこを壊せば人は動けなくなるのか。である。
 それを実践した結果。紅孩児はすでに利き足と左肩を壊していた。
 だがそれに容赦するリンカーではない。
 誄の支援射撃を受け仁菜は天井を走る。
「ぐっ」
 紅孩児は痛みをかみ殺し、銃弾を回避。
 動かされている。当てることを考えていない。
 失血を狙っているのだ。
 その真上から仁菜が斬撃を、それを回避する暇が紅孩児にはない。
 両腕でその攻撃を受けると、がら空きの腹部に弾丸が命中した。
「ぐぅ」
 血だまりが床を伝う。それを見て仁菜は追撃を仕掛けようとしない。
「ごめんなさい、こんなやり方で」
 むしろ背後に回ってアキレス腱を切った。
「正々堂々? 残念ながら私は武道じゃなく殺し合いをしてるので。」
 残るもう片方の膝を打ち抜くと誄はロープを片手に歩み寄る。
 その時だ。
「ワタしが本物だと思いましたか?」
 誄が動きを止める。
「はっはははは、違ウ、私デハ!」
 その瞬間、信じられないことに紅孩児は太ももの筋肉だけで伸び上がった。鋭い歯で誄を狙うが。それを誄は両手で迎撃。
 両手で耳を叩き空気圧で鼓膜を破壊する技がさく裂すると分身紅孩児は横たわる。
「あははははははは、全部壊れろ」
 次の瞬間。
 紅孩児は鮮血をまき散らして爆発した。
「藤咲さん! 阪須賀さん!」
 蛍丸が声を上げる、だがあちらには治療に行けない。
 なぜなら単純に紅孩児が強いから。
「この程度ですか!」
 踏込、震脚、腰をひねり、肩をひねり、拳を突きだし、インパクトの瞬間に拳を握る。
 その動作が完璧にかみ合った時、人の拳は岩を砕くという。
 それをガードした蛍丸は勢いを殺し切れずに壁に叩きつけられる。
 これを寸勁と呼ぶ。
「蛍丸さん!」
「やろう!」
 燃衣と姫乃が同時に襲い掛かる。
 しかし、姫乃を弾いたのは『鉄扇公主』。
「な!」
「なぜ、わらわが参戦せぬとおもったのじゃ?」
 束ねた鉄扇で姫乃を横なぎに。想像以上に重たい一撃がろっ骨を揺らす。
 姫乃は地面をバウンドしつつ、爪を立てて勢いを殺す、四つん這いになった姫乃の指から血が滴った。
「てめぇ!」
 沸き立つ炎。
 姫乃たった一人で愚神の相手をすることになる。
「どこヲ、ミテいるのです?」
 すり足からの対捌き。右前重心から左前へと重心をずらし、ゆったりした動作で、けれど確実に、紅孩児は燃衣の心臓を捕える。
「ハッ!」
 掌底が決まると燃衣の心臓が不自然に脈打った。
 次の瞬間、全身がさっと冷える感覚。
(心臓が、とまった?)
 まるで鋼を通されたように、体動きを止める。指先一本動かすのにも激痛が走る。
 体のあちこちで細胞が死んでいく。
「終ワレ!」
 次いで紅孩児は燃衣を蹴り上げた。俯いた姿勢のままがら空きになる燃衣のくび。
 それに合わせて紅孩児も飛ぶ。
 そのまま紅孩児は垂直にかかとをのばすと、ギロチンのように足全体を振り下ろす。
 それだけではない、燃衣の眼前に迫る膝。
 それはさながら獲物を捕らえる虎の咢。
 終わった。燃衣はそう歯が砕けるほどにかみながら、そっと目を閉じる。

第三章 許し

 迫る虎の咢、しかしそれに燃衣がかみ砕かれることはなかった。
「煤原さん!!」
 だが蛍丸がそれを許しはしなかった。
 蛍丸は渾身の力で紅孩児を吹き飛ばすと、地面に激突。
 紅孩児の両手を抑え、四つん這いになって紅孩児の動きを止めた。
「滅ぼさなければならない、誰かを悲しませる者すべて」
「それが、俺らだと?」
 誄の声に燃衣が振り向けば誄も仁菜も負傷はしているが無事だった。
「OK、仮に俺らを悪だとしよう、まぁそれなりの事をやってるから、言われても仕方ない。だけどそのやり方じゃ何も変わらない、他の悪が出てくるだけだ」
「であればまた殺す!」
 全身を波打たせ紅孩児がそう叫ぶ。
「他のバカどもに好き勝手暴れる口実を与えるだけだろ、それ。常識的に考えて最低のプランだろ。そこら辺のバカと大差ない」
「だったら! 手をこまねいていればよかったのか! そのあいだに誰かが死ぬ。子供たちが死ぬ。だったら、だったら誰かが戦わなければならなかった」
「その気持ち、僕はわかります」
 次いで重たく響く爆炎の音。見れば燃衣の左胸、心臓の真上に当たる部分の布が燃え尽きて真っ赤に焼けただれている。
 爆破して衝撃で心臓を動かしたのだ。ただ肋骨が肺に刺さったようで喀血していた。
「僕も最初は、手段なんて選んでられなくて、憎い存在の殲滅さえ出来れば良かった。けど、それをだめだと言ってくれる人がいたんです。力を貸すからって」
 そして燃衣は告げる。
「あなたにもそんな人がいればよかったのに」
 その時紅孩児は首を振ってもがき苦しんだ。
 何かが頭の中から這い出してきそうだった。
 誰かの背中が脳裏に浮かぶ。
 誰かが自分に残してくれた言葉。それは。
「シリマセン、分からない。彼女は殺せと言った、殺し尽くしたなら綺麗な世界が出来上がるからって。綺麗な世界、ガできあがるなら。そうすれば、神様の愛情はみんなに届くのでしょう?」
 紅孩児は叫ぶ。痛みを、苦しみを。
 夢を、希望を。
 自分がその光景を見たかったのだと。
 いくら汚れても、この世には綺麗な物があって。綺麗な世界があって。
 自分には見えないけど、それがあるのだと実感できるなら、命を終えてもいいのだと。
 たどり着けなくていいのだと。
「だから! ワタシは」
「あなたはそれをもっと早く叫ぶべきだった」
 蛍丸の言葉に紅孩児は目を見開く。
「え?」
「あなたを救ってくれる存在と、救える力、両方あります。任せてください。僕ら暁ですから」
 その言葉に紅孩児は涙を流して首を振った。
「救われる? 私が? 違う、それはいけない。私は悪だ」
「そうですね」
「だったら、裁かれるベキデス」
 紅孩児の目から光が失われていく、再び心をとざそうとしている。
「イツカ、いつか悪ヲ根絶ヤシニシテ、そしてソノ時自……分デ命ヲ絶つのです」
 その言葉に『鉄扇公主』は、その通りと頷いた。
「でなければ、私ハ何のタメニ悪ヲ殺していたんでショウ。ソレガ分からナクなる」
 そう涙を流す焔織に、蓮日はあの日の影を見た。
 敗戦の国の妃。万の命を守る為、燃え盛る火の中にくべられた幼い背中。
 泣いて見捨てた最愛の息子に。
 であれば、そう蓮日は立ち上がる。
「させない」
 そう声を上げたのは蓮日。そして視線は姫乃を吹き飛ばした『鉄扇公主』に向けられる。
「人は過ちを犯すことはあるだろう、しかし、過ちを灌げないなど誰が言った」
 そして蓮日は歩み寄る。姫乃の傍ら、気遣うように姫乃の肩を抱きそして、二人で真っ直ぐ『鉄扇公主』を見すえる。
「少なくとも僕は言ってない」
 次いで姫乃と蓮日を包む蒼炎の業火。

「この子を放せ、羅刹女。こ奴は……ボクの息子だ」

 次いで二人の体は解け合った。そこに立っていたのは青い炎を全身からほとばしらせる姫乃の姿。
 やや成長し体が大きくなり左半身からは赤い炎が噴き出している。それがお互いを食らうようにまじりあい、高密度な霊力の壁と化していた。
「俺はさ。難しいことは分からない」
 一歩踏み出せばその膨大な霊力が熱量となって地面を溶かす。
「けどな!」
 振り上げた手にはハングドマン。それが火焔の龍を模して『鉄扇公主』に襲い掛かる。
「お前がやろうとしてることだけは違うってわかる!」
 『鉄扇公主』を守ろうと蛍丸を弾き飛ばし、両足に力を込める紅孩児、跳躍し一気に迫ろうというのだろう。
 だが、瞬発力なら、燃衣の方がうえである。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 両手の中で霊力を爆破させ加速。
 腕を突きだし爆破させ方向転換、紅孩児の真横に着地すると前傾姿勢をとっていた紅孩児の腹を蹴り上げた。
「がはっ」
 それだけではない。その足がさく裂。
 紅孩児の体が木の葉のように宙に浮く。
 そのまま燃衣はひじ打ちを背中に。そしてショルダータックルで紅孩児の体を吹き飛ばすと、その動きに合わせて回転。
 灼熱の温度に熱せられた裏拳が紅孩児にヒットし、さく裂。
 コンクリート壁をぶち破って紅孩児は瓦礫の中に埋もれた。
――なめるなよ! 三下が!
「なめるなよ! 三下が!」
 対して姫乃は、あり余る霊力を振る展開。
 目にも留まらぬ速さで五段ジャンプ。
「ええい! 小賢しい」
 『鉄扇公主』の扇の風はやすやすと炎をかき消すが、姫乃を止めることはできない。
――例え釈迦が赦しても、ボクは貴様を赦さぬ。
 背後をとられた『鉄扇公主』。そのまま姫乃は全運動エネルギーを拳に集中。
 そのまま解き放つ。
 りんっと音がして、輪上に光彩がほとばしる。その衝撃を受けて吹き飛んだ『鉄扇公主』は炎の網に捉えられて、がんじがらめにされる。
「あつい! 熱い!!」
 悶える『鉄扇公主』。
 それを姫乃は冷たい目で見下ろした。
「浄土の炎でやかれてくたばれ」
 その姿が燃え堕ちると、大フロアに静寂が戻ってきた。


エピローグ
 蛍丸は戦いが終わると燃衣の治療もそっちのけで。
「あの、蛍丸さん。肋骨が、肺に。こぷっ」
 紅孩児の捜索に乗り出していた。
 瓦礫をどかすと全身ぼろぼろの紅孩児が横たわっている。
 ただ、生きてはいるようだ。だから蛍丸は。
「一緒に子供が安心して笑顔でいられる世界になるよう戦っていきませんか?」
 そう手を差し出す。すると紅孩児は泣きだしそうな顔をしてその手を取った。
「では新しい名が必要だろう」
 そう告げたのは蓮日。
「きみは我が息子となり、これから『鬼子母 焔織』を名乗るといい」
 そう甘く囁かれる言葉に焔織は安心して意識を手放した。
 最後に少女が笑っているような光景を見た。
 まだ焔織が暗殺者の頃の話。鬼子母神を熱心に信奉し良く笑う菩薩の様な少女の英雄と組んでいた。
 しかし、それは儚い夢のように壊れて消えて。
 そして……。

 結果から言うと焔織はH.O.P.E.の所属となった。燃衣の口利きのおかげである。
 そんな燃衣も苦しむべき時がやってきた。
 人を殺める可能性の高い任務に悩む、暁のメンバーには任せたくない。
 食堂でワイワイと楽しむ彼らの笑顔を守ってやりたかったのだ。
 そんな燃衣を見て焔織は手を差し伸べることになる。
「ワタシが。ソノ仕事を引キ受ケましょう」
 そうして、焔織は暁の闇として、ほんのちょっと明るい場所で生きることを許された。
 しかし後に彼は退治することになるのだろう。あの時死んではいなかった、あの愚神と。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『紅孩児/鬼子母 焔織(aa2439@WTZERO)』
『阪須賀 誄(aa4862hero001@WTZEROHERO)』
『彩咲 姫乃(aa0941@WTZERO)』
『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』
『藤咲 仁菜(aa3237@WTZERO)』
『煤原 燃衣(aa2271@WTZERO)』
『青色鬼 蓮日(aa2439hero001@WTZEROHERO)』
『愚神(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 皆さんいつもお世話になっております、鳴海です。
 この度パーティーノベルご注文ありがとうございました。
 久しぶりの肉弾戦メインで楽しかったです。
 実はアイディアが三倍くらいあったけど削りました、無念です。
 それではまた本編でお会いしましょう。鳴海でした!
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2018年02月09日

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