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『鬼さん達のクリスマス』
鎬鬼ka5760)&瑞華ka5777)&ユキトラka5846)&アクタka5860)&一青 蒼牙ka6105)&マシロビka5721)&風華ka5778)&美風ka6309


 冬の寒さが本気を出し始めた師走のある日。
「くりすますやるぞー!」
 鎬鬼(ka5760)の一言で、鬼達の家でもパーティが開かれることとなった。

 とは言うものの。
「くりすますつりーって言うの? あれがないと始まんねーんだよな」
 棒きれを投げて愛犬サスケを遊ばせながら、ユキトラ(ka5846)は遙か町の方を透かし見た。
 今、風華(ka5778)とマシロビ(ka5721)がツリーと飾りを買いに行っている。
 二人が戻るまでは、これといってやることがないのだった。
「なんか掃除しとけって言われた気もすっけど……怒られてからやればいっか」
 言われる前にやる、という思考はない。
「マシロビもオイラ達にお説教すんのが生き甲斐みたいなとこあっからなー」
 うんうん、生き甲斐を奪っては申し訳ない。
 勝手にそう結論づけたところに、自分を呼ぶヒソヒソ声が聞こえた。
「ユキトラ、こっちこっち」
 振り返れば、鎬鬼が物陰からちょいちょいと手招きしている。
 その後ろには美風(ka6309)の姿もあった。

「どうしたシノ? ミカゼまで」
 誘われるままに廊下の隅に行くと、鎬鬼が声を潜めたまま耳元で囁く。
「二人とも知ってるか……くりすますの前の晩に現れる、なんちゃらいう赤い妖怪の話」
「おう、そいつと戦って勝たないと贈り物を貰えないってアレだろ?」
「相当に腕の立つ猛者らしいですね。名前は確か三太とか」
「さんたっていうの、そいつ?」
 それは白い髭の、返り血で真っ赤に染まった服を着た猛者の爺さんだと聞いている。
 背中の袋からプレゼントを取り出し、ニコニコ笑顔で「これが欲しくばワシと勝負せい!」と問答無用でバトルを仕掛けて来るとか。
「下の名前は九郎須っていうらしいぜ、ズイカの兄さんが言ってた」
「へえ、瑞兄はさすが物知りだな!」
 彼等の中で最も年かさのお父さん的存在である、瑞華(ka5777)が言うなら間違いはないだろう――とは思うけれど。
「でもなんかショボい」
「猛者って感じの名前じゃないよな」
 実はてんで弱いのかも?
「そう思わせて油断させる作戦かもしれないのです」
 美風が眉間に皺を寄せる。
「ニコニコと人の好さそうなお爺さんなのも、敵を見た目で判断してはいけないという教訓なのでは……!」
 しかもこの三太、良い子にしか勝負を挑んでこないという。
「悪い子は勝負の舞台にも立てないのです。これは、強くなりたければまずは精神を鍛えよということではないでしょうか……だとしたら師匠と呼ばせて頂きたいです!」
 鍛錬大好き、修行こそ生き甲斐な美風は、キラキラの瞳で拳を握り締めた。
「それに、三太は動物を生贄にした瞬間移動を使うとも聞いています」
 瞬間移動、しかも動物を生贄に!
「な、なあシノ……人や鬼も動物、だよな?」
「ま、まさか負けた子供を……?」
 二人の脳裏に「三太九郎須とは血塗れの服でニコニコ笑いながら子供達を狩り、それを生贄に更なる戦いを求めて彷徨うサイコな殺人鬼」というイメージが出来上がる。
「……でも実際にプレゼントを貰った子供も多いと聞きますし……」
 そう言えば、クリスマスに子供が失踪したという話も聞かない。
「うーん……謎だらけだな、三太って」
 謎と言えば、自分達が一度も挑まれたことがないのが最大の謎だ。
 めっちゃ良い子にしてるのに。
「そうだ! その正体、俺達の手で暴いてやろうぜ! ユキトラ、美風!」
 そして始まる、三太捕獲大作戦。

「捕まえるならやっぱり罠だな」
「そうですね、相手は強敵です。真っ正面から挑むのは分が悪いでしょうし、時には搦め手も必要です」
「強敵か、腕が鳴るぜ! で、どこに仕掛ける?」
 三人は屋敷の中を行ったり来たり。
「場所もそうですが、どんな罠を仕掛ければ……」
「何か好物で釣るのはどうだ? ネズミにはチーズとか、サスケには骨とか……」
「アクタには炬燵、みたいなやつか!」

「ぶふーーーっ!!」

 鎬鬼がポンと手を打った瞬間、傍らの炬燵がケタケタと笑い出した。
「炬燵のオバケ!?」
「やだなーしーったらー、ボクだよー」
 もぞもぞ、炬燵が動く。
 中から顔を出したのは安定のこたつむり、アクタ(ka5860)だった。
「なんだよアクタ、何がおかしいんだ!」
「べつにー、なんでもないよー」
 ケラケラケラ。
 何をどう妄想すれば、そんな森羅万象色々間違った認識が出来上がるのか。
 アクタは巷に流布するサンタの誤情報に踊らされることはないが、踊る彼等を止めることもしない。
 むしろ積極的に背中を押す、だって面白いし!
「それで、どうやって捕まえるのー?」
 暫く思案していた美風は、こたつむりの姿を見て何か思い付いたようだ。
「炬燵にお菓子を置いておくとか、どうでしょうか」
 夏場の黒い虫を捕獲するアレのように、床にネバネバのトリモチを敷き詰めておけば、いかな屈強な三太と言えども簡単には逃げられないはず。
「ほう、三太九郎須?とやらを捕らえようとな? これはまた面白いことを考えるものだ」
 ちょうど傍らを通りかかった瑞華が、くっくと喉を鳴らしながら声をかけてくる。
「良いとこに来たな瑞兄!」
「ズイカの兄さんも一緒にやろうぜ!」
「いやいや、爺は遠慮しておくさ。若者は寒くても元気で結構結構」
 からからと笑う瑞華はまだ爺という歳ではないが、本人はすっかりご隠居様の気分らしい。
「三太九郎須というのは子供にしか見えぬ妖怪の類と聞くしな、どちらにしろ大人の出る幕ではあるまい。しかし……聞くところによれば三太はとても恰幅が良い御仁であるそうだ。炬燵では入りきらぬのではないかな」
「炬燵では小さすぎますか」
「そんな巨漢がどうやって煙突に入り込むのかは謎だけどな」
 騒ぎを聞きつけた一青 蒼牙(ka6105)が呆れ顔で一同を見る。
「サンタって煙突から入るのか!?」
「ってことはさ、煙突の出口に網を仕掛けとけば――」
「それだユキトラ!」
「しかし残念ですが、この家に煙突はありませんよ、鎬鬼様」
 蒼牙は無邪気なお子様達の無謀な計画を断念させるべく、聞きかじったうろ覚えの知識を語って聞かせる。
「サンタを捕まえるなんて無理に決まってますし、そんなことをしたらバチが当たりますよ。そもそもサンタクロースとは蒼の世界における子供の守り神であり、神であるがゆえにその怒りを買った時の祟りは怖ろしく……聞いてますか鎬鬼様?」
 あれ、いない?
「しー達ならあそこだよー」
 蒼牙も踊っちゃう方だったかとケラケラ笑いながら、アクタが庭を指さした。
 彼等はそこで、何を始めるつもりなのだろう。


 その頃、マシロビはひとり雑貨屋に入り、ツリーに飾るオーナメントを物色していた。
 キラキラ光るモールに、ふわふわの綿、木で出来た人形、天辺に飾る星、小さなプレゼントボックスや松ぼっくり……カラフルなキャンディや、日持ちのするように固く焼いたクッキーなどもある。
「これは……飾った後に食べられるようになっているのですね」
 鎬鬼達が喜びそうだが、予算の都合を考えると毎年使い回せるようなものを選びたいところ。
「色々あって目移りしてしまいます」
 やはり風華にも一緒に選んでもらえば良かっただろうかと、マシロビは往来に目を向ける。
 彼女は今、そのどこかにある店でツリーを選んでいるはずだ。
 買ったツリーを家まで運ぶのは大変だからと言われるままに任せてしまったが、大丈夫だろうか――いや、力仕事については何の心配もしていない。
 問題はその前、ツリーを買う段階にあった。
 ツリーとは何か、どんなもので何に使うのか、その説明は十分だったと思う。
 ただ、それを売っている店はマシロビにもわからない。肝心な情報が愛用の百科事典には載っていなかったのだ。
 自分が店頭のディスプレイを見てこの店を見付けたように、商店街を見て歩けばそれらしい店も見付かるとは思うのだが――
「……あら?」
 マシロビの目が、店の隅に置かれたツリーに留まる。
 見本用に飾られたものとは違い、その木には何の飾りもない代わりに値札が付いていた。
 どうやら、これも売り物らしい。
「ツリーも飾りと一緒に売っていたのですね……風華さまに教えてさしあげなくては」
 手早く買い物を済ませ、マシロビは店の外に出る。
 さて、風華はどこへ……?

 その少し前、風華は一軒の店に立ち寄っていた。
「すみません、こちらに……くりすますつりー……というものはありますでしょうか……?」
 それは三角錐の形をした、家の中にも飾れる小さな常緑樹であるという。
「小さな木ということで、こちらにあるかと思ったのですが」
「あー、まぁそりゃ確かにね、ウチの店で扱ってるのは小さな木だよ」
 店の主人が申し訳なさそうな表情で頬をヒクつかせ、肩を震わせながら言った。
「でもね、お嬢さん。うちは盆栽屋だからねぇ」
「……盆栽屋さんに、クリスマスツリーは売っていないのですか……」
 それならどこに行けば手に入るのか。
 そう尋ねて教えられたのが――

「モミノキ、というのは……はて、どれでしょう?」
 見渡す限りの針葉樹の森。
 真冬の寒さにも葉を落とさずに青々としている木々は、どれもこれも同じに見える。
「家の中にも飾れる大きさと言うと……これくらいでしょうか」
 風華は一本の形の良い真っ直ぐに伸びた若木に手をかける。
 幹の太さは両手で掴んで指先がぴたりと合わさる程度、高さは多分、物干し竿くらい。
 室内に入れるには少し大きい気もしたが、長すぎたら適当に切れば良いと幹を掴んだ手に力を込める。

 ずぼぉっ!

 根っこごと引き抜いて、肩に担いだ――それこそ物干し竿のように、軽々と。
 そして意気揚々と帰途に就くのだった。


「風華さま、先に戻られていると良いのですが……」
 結局、町では風華の姿を見付けることが出来なかったマシロビは、期待を込めて玄関の戸を開ける。
 だがそこに風華の履き物はなく――出て行った時のままに、雑多な履き物が脱ぎ散らかされて転がっていた。
「やはりと言いますか、期待に違わずと言いますか……いえ、期待はしていませんでしたが」
 風華のことはともかく、玄関の惨状が放置されていることは、期待などするだけ無駄だと心得ているから驚きもしない。
 が、怒らないとは言っていない。
「鎬鬼さん、ユキトラさん……それに美風さんも」
 玄関先に荷物を置くと、マシロビは何やら物陰でコソコソしている三人に後ろから声をかけた――周囲の気温が三度ばかり下がるほどの低音で。
「うわぁっ!?」
「ひっ!?」
「は、はいっ!」
 弾かれたように飛び上がり、振り向く三人。
「出かける前に私が何と言ったか、覚えている人はいますか?」
「え、いや、あの」
 もじもじと居心地悪そうに肘を突き合わせ、三人は互いに発言権を譲ろうとする。
 やがて後ろ手に隠したじゃんけんで負けたユキトラがモゴモゴと答えた。
「……玄関を片付けて、部屋を掃除しておくように……って」
「そうですね」
 その答えに頷いて、にっこりと笑うマシロビは今、この中の誰よりも鬼らしく見えた。
「それで、今は何を?」
 言えない、三太が罠にかかるのを見張っているなんて。
 掃除なんてどうせまた年末にやるんだから、しなくていいじゃんなんて。
「え、いや、その……そ、掃除してきまっす!」
 蜘蛛の子を散らすようにすっ飛んでいく三人を見送り、マシロビは苦笑いと共に肩の力を抜いた。
 この分だと残る三人も似たようなものだろう。
「風華さまのことは気がかりですが……」
 掃除をしながらもう少し待って、それでも戻らなければ探しに行こうと、マシロビは庭先に目を転じた。
 三人がじっと見つめていた何かが、そこにある。
 紙製の、少し歪んだ大きな箱――いや、底がないからただの四角い筒だ。
 近寄ってみると、外側にはレンガを重ねたような模様と「えんとつ」の文字が書かれていた。
 文字が示す通りそれが煙突だとして、何故ここに?
 何かの遊びか、悪戯か。
「どんな意味があるにしても、ただのゴミですね」
 無慈悲に断じて、片付けようと手をかけた瞬間――足下が崩れた。

「きゃあぁぁっ!!?」

 突然の悲鳴に、三人は掃除道具を取ろうとしていた手を止める。
「何だ、今の悲鳴」
「罠に何かかかった!」
「三太でしょうか?」
 それにしては声が可愛かった気がしないでもない。
 が、それは気のせいだったことにして、戦闘態勢を整えた三人は庭へ走った。
「三太九郎須覚悟ぉー!」
「いざ尋常にぃ!」
「御手合わせお願いします!」
 罠の周囲を取り囲み、思い思いに得物を振りかぶる三人。
 しかし。
「……って、あれ……マシロビ姉じゃん」
「あれ、マシロビ姉さんどうしたんですか?」
 落とし穴に嵌まった「三太」を見て、鎬鬼と美風が首を傾げる。
「はっ! まさかマシロビ姉が三太の正体!?」
「ええっ、そうだったのですか!?」
 驚く二人の声に、ユキトラの断末魔が被った。
「ぎゃあああっ!!」
 全力で明後日の方向に解釈する二人に「違うそうじゃない」と身振りで示しながら五体投地。
「悪ィマシロビ! 怪我してないか!? 大丈夫か!?」
「……ええ、まあ……怪我はありませんけど……」
 陥没した穴の底から響く、氷点下の声。
「これは、どういうことでしょうか?」
 事ここに至ってようやく事態を理解した鎬鬼と美風の顔から血の気が引いていく。
「えっ、いやこれはその、三太を捕まえようと……ひいいごめんなさいーー!」
「落とし穴の上に煙突を置いておけば三太が……す、すみませんでした!!」
 なるほど、なるほど。
「……ふふふ、それではお待ちかねの、お説教で・す・ね?」
 それはそれは良い笑顔でにっこりと微笑むマシロビの周囲にはブリザードが吹き荒れていた。

「若い者は元気で良いな」
 縁側でお茶をすすりながら、瑞華は寒風吹きすさぶ庭先に正座で並ぶ三人を見下ろす。
 知っていながら止めなかったとわかれば、瑞華も容赦なくその列に並ばされることになるのだろう。
「でもさー、訊かれてないことまでわざわざ言う必要ないよねー」
 その奥で、こたつむりがクスクスと笑う。
 直後、一陣の風が庭に飛び込んで来た。
「待ってくれマシロビ!」
 スライディング土下座の形になった蒼牙が、背中に鎬鬼を庇おうとする。
「全ては鎬鬼様を止めきれなかった、この俺の責任! 説教なら俺が代わりに――」
「却下します」
 凍てつく視線に射貫かれて、蒼牙は凍り付いてしまった!
 そして始まるお説教。
「そもそもサンタクロースは良い子の皆に分け隔てなく無条件でプレゼントをくれるのです。しかも皆が楽しく過ごしているクリスマスの夜に、一晩中せっせと働いてくれているのですよ?」
「ほう、三太九郎須とやらも大変だな。くりすますも祭りなのだから、休んで楽しみたいだろうに」
 呑気に感想を述べた瑞華の言葉に頷き、マシロビは続ける。
「あなた達はそんな立派な人を罠に嵌めようとしたのです」
 思わず首を竦める当事者の三人と、とばっちりを受けた蒼牙。
「みんな可愛いなー♪」
 炬燵にもぐって熱いお茶をすすりながら、アクタはやはり遠慮なく笑うのだった。

 痺れる足と、食い込む小石、身を切るような冷たい北風。
 脳味噌が寒天か高野豆腐になりそうなくらい冷え切って、話の内容も風と共に素通りを始めた頃。
「さてさて、それくらいにしてはどうかな?」
 ぽいっ。
 まだ叱り足りない様子のマシロビの口に、一房のミカンが放り込まれる。
「つりーとやらも届いたようだしな」
 正座スタイルで固まった四人の口にも次々と放り込みながら、瑞華は庭木戸の方へ目をやった。
「兄様、ただいま戻りました」
 目が合った風華は、大きなツリーを肩に担いだままにっこりと微笑む。
「あらあら、鎬鬼さん達はまたお説教ですか?」
 ころころ笑うその姿を見てマシロビも一安心、四人はようやく正座から解放された――と言ってもすぐには動けないけれど。
「でっかい木だな!」
「家の中には入りそうもないのです」
 痺れる足をさすりながら、ツリーを見上げた鎬鬼と美風が目を丸くする。
「ええ、でも適当な長さに切れば……」
「切るのか!? せっかく根っこごと持って来たのに!」
「なんだか可哀想なのです」
 美風が庭に目を転じれば、なんとそこにはお誂え向きの穴が!
「お庭に植えてみるのはどうでしょう?」
「そうですね、屋外の木に飾り付ける場合もあるようですし」
 こんな立派な木をどこで手に入れたのだろうと思いながら、マシロビも頷く。
 でも、何か変だ。
 百科事典で見た樅の木とは微妙に違う気がする。

 その違いに、アクタは気付いていた。
 でも言わないよ、だって面白いし!

 庭に植えられたのは、青々とした葉を三角錐の形に茂らせた――杉の木だった。


「さあ、サンタさんをお迎えする準備をしましょう。プレゼント交換の用意も忘れずに……」
「それはわかったけどさ」
 ツリーの植え付けは風華と瑞華に任せ、さっさと掃除を済ませてしまおうと踵を返したマシロビをユキトラが呼び止めた。
「ぷれぜんとはサンタがくれるんだろ? なんでオイラ達が自分で用意すんの?」
「それは……」
 暫く考え、マシロビは子供の夢を壊さない答えを探す。
「大人も一緒にクリスマスを楽しむためです」
「そっか、子供ばっかじゃ不公平だもんな! ところで、ぷれぜんとって何だ?」
 え、贈り物?
 で、贈り物ってどうすりゃいいの?
(「うーん……父ちゃんが母ちゃん口説き落とす時に、贈り物どうするか丸一日滝に打たれて考えたっつってたっけ」)
 贈り物とは、かくも厳しい精神修養を必要とするものらしい。
(「オイラもそうした方がええんかな?」)
 しかし、その時は真夏だったと聞いた気もする。
 当日にはまだ間があるし、滝行のことも含めてもう少し考えてみようか。


 クリスマスに向けての準備が本格的に動き出す。
 台所からは手間のかかる料理の下拵えをする良い匂いが漂い始め、庭の木も飾りのおかげでだんだんとツリーっぽく見えてきた。
「みんな楽しそうだなー」
 その空気に背中を押され、こたつむりは珍しく自分から殻を脱ぐ。
「ボクも飾り付けのお手伝いしよー」
 ポケットにカイロ、腹巻きに湯たんぽを忍ばせて、いざ――
「さーむーいーーー」
 無理、外で作業なんて絶対無理!
「そんなことだろうと思った」
 再び殻に潜り込んだアクタの耳に、蒼牙の声が飛び込んできた。
「やだよーボク出ないからねー」
「知ってる」
 意外な返事に、アクタは思わずその顔を見上げた。
「そーやさしー」
「優しくない、うだうだ文句垂れるだけでちっとも役に立たない奴を無理に使うより、マシな方法を思い付いただけだ」
 炬燵の上に大きな箱が置かれる。
 中には折り紙やカラフルな包装紙、ハギレや綿などがぎっしり詰まっていた。
「この部屋が一番ツリーの眺めが良い」
 この寒い中、外でパーティをするわけにはいかないからこの部屋をパーティ仕様に飾り立てろ、というわけだ。
「わかった、任せといてー」
 今こそ、その女子力を存分に発揮する時。
「ところでさー、そーはもうプレゼント決まったー?」
「当然だろ」
 嘘です、まだ悩んでます。
 主に鎬鬼様が喜んでくれそうなものを探して。
「へー、どんなのー?」
「それは……当日のお楽しみだ。そういうアクタはもう決めたのか?」
「なーいしょ♪ でもさー、まだ決めてない人は大変だよねー」
「なんで」
「お店で買うなら良いものはもう売り切れてそうじゃない」
「そうかもな」
 他人事のように返事をして台所へ向かう蒼牙、頭の中は「まずい」の大合唱だった。

「切り株のケーキを作ろうと思いまして」
 台所では風華がブッシュドノエルに挑戦していた。
 いつぞやのチョコ作りで培った知識と技術を元に、カカオ豆を豪快にすり潰し、トッピングに使う胡桃を素手で握り潰す。
 すり鉢が真っ二つになりませんようにと祈りつつ、マシロビは定番の苺と生クリームのケーキ作りを。
 他には雪だるま型の小さなおにぎりや、カラフルなサラダにサンドイッチ、そして寒い時期にはやっぱり鍋。
「あと、鶏肉料理も定番だっけな」
 リアルブルーの聞きかじった知識でケーキを作――るのは止められたので、蒼牙はチキンの担当に。
「こうやって、皆で準備するのも楽しいですね」
 せっせと手を動かしながらマシロビが笑いかける。
 と、その手がぴたりと止まった。
「どうした?」
「用意した材料が足りないみたいで……ちょっと買いに行って来ます」
 エプロンを外しかけたマシロビを蒼牙が止める。
「あ、だったら俺が行くよ」
 チャンスだ。
 今ならまだ間に合うかも……!


 そして、いよいよクリスマスイブ。
 パーティ会場はアクタお手製の造花やハギレのリボンでカラフルに彩られていた。
 ツリーが見える窓には折り紙や木の実で飾った大きなリースが飾られ、そこから左右に分かれるように赤いカーテンがかけられている。
 赤と緑の上掛けのかかった炬燵の上には、二種類のケーキを始めとして山のようなご馳走が並んでいた。
「おぉっ、クリスマスっぽい!」
「ご馳走もなんかすげぇ!」
 部屋に躍り込んだ鎬鬼とユキトラが歓声を上げる。
「でも鶏の唐揚げってなんか違うよねー」
「うるさいよアクタ」
 鶏肉料理と聞いて、蒼牙はそれしか思いつかなかったのだ。
 それを言うなら鍋もおにぎりも場違いだが、美味しければそれで良し。
 マシロビと風華が料理を取り分け、ジュースとお茶で乾杯し、お腹いっぱい食べたところで――

「それでは!」
「お待ちかねのプレゼント交換だよー」
 トナカイの着ぐるみに身を包んだ美風と、ミニスカサンタ姿のアクタが登場。
「プレゼント渡すならヤッパリこれだよねー♪」
 うん、美風は誰が見ても文句なしに可愛い、しかしその隣はダメだと、蒼牙はめっちゃ蔑んだ目をアクタに向ける、が。
 その脇からすっと差し出される、豪華アイシングクッキーby鎬鬼。
(「鎬鬼様がアレに敬意を! ならば俺もそれに倣って……いやしかし!」)
 その耳に聞こえて来るクリスマスの歌、蒼牙は慌てて手にしたプレゼントを隣へ渡す。
 歌の間にぐるぐる回し、歌が止まった時に手にしていた物が手に入る方式だ。
「今日は楽しいクリスマスー♪」
 作詞作曲鎬鬼、なお即興だからどこで詰まるかわからない。
「サンタがうちにもやって来るー、えーと、えー……終わり!」
 手元に来たのが自分のものではないことを確認し、いざ開封。
「おぉー! 駄菓子の詰め合わせだ!」
「あ、それ俺の!」
 狙っていた鎬鬼の贈り物はユキトラに当たったかと唇を噛みながら、蒼牙は自分の包みを開ける。
「寒くなってきましたから、何か暖かいものをと」
「風華か、うん、ありがとう」
 若干テンション低いのは勘弁してほしい。
 その風華には美風が用意した、鍛錬用に集めた自然石の中から二番目にお気に入りの物――ではなくお気に入りのお菓子の詰め合わせを。
「後で皆さんでいただきましょうね」
 マシロビには市松模様の巾着。生成に焦げ茶と配色は抑えめだが、紐の部分に可愛らしい花のストラップが付いていた。
「あら、可愛い」
「でしょー」
 男女どちらでも使えるようにストラップで可愛さをプラスした、どうせなら使える物をな基準で選んだ心遣いとセンス――とは、贈り主アクタの談。
 これだけ気合い入れて選んだんだから、自分にも何か良い物が来るはず。
 そう期待を込めて、アクタはずっしり重い包みを開く。
「……なに、これ」
 壺だ。しかも中に梅干しがぎっしり詰まった。
 贈り主は訊かなくてもわかる、瑞華だ。
「梅干しは身体に良いんだぞ」
「だからってさー」
 クリスマスプレゼントにこれはないと、盛大に拗ねるアクタ。
「私でさえ自重したのに、趣味全開とは流石です……」
 むしろ尊敬すると瑞華を見つめる美風には、風邪をひかないようにとマシロビが用意したクリスマスカラーのマフラー。
「ほう、これは可愛らしいな」
 瑞華の手に渡ったのは、くるくると巻かれた二本の手拭い。
「それオイラだ!」
 それぞれに柴犬と虎猫が描かれたそれを広げてみると、クッキーやキャンディなどの洋菓子が転がり出た。
 そして蒼牙がリゼリオで買った温かいマフラーとミトンのセットは念願叶って鎬鬼の手に。
「蒼兄ありがとうなー」
 若干テンション以下略、だってお菓子とかが良かったんだもん。


「こうして皆で過ごし……成長が見られるのが、何よりの贈り物だな」
 夜中、騒ぎ疲れて泥のように眠る鎬鬼の寝顔を見て、瑞華はその頭をそっと撫でる。
「三太は良い子供に贈り物をするそうだが……はて、これで皆がこの一年良い行いをしたか分かるという事か」

 翌朝、彼等の枕元には可愛いガラスの壺に入ったカラフルな金平糖が置かれていた。
 はてさて、サンタの正体は――?



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka5760/鎬鬼/男性/外見年齢10歳/外来文化は踊るもの】
【ka5721/マシロビ/女性/外見年齢15歳/鬼の鑑】
【ka5777/瑞華/男性/外見年齢29歳/三太疑惑?】
【ka5778/風華/女性/外見年齢26歳/気は優しくて力持ち】
【ka5846/ユキトラ/男性/外見年齢14歳/滝行はまた今度】
【ka5860/アクタ/男性/外見年齢14歳/納得の女子力】
【ka6105/一青 蒼牙/男性/外見年齢16歳/痛恨のリサーチ不足】
【ka6309/美風/女性/外見年齢11歳/いつか真剣勝負を】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております、STANZAです。
いつもありがとうございます、今回も楽しく書かせていただきましたジスウ足りない(ぐぬぬ

口調等、気になるところがありましたら、ご遠慮なくリテイクをお願いします。
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2018年02月13日

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