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『嗜好の罠 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)


 同好の士というのは、どの世界にも種族にも存在する。そこには垣根などは全く存在せず、だからこその趣向の為に情報の共有などが繰り返し行われている。
「お姉さま、今日はどこに向かっているんですか?」
 妹分であるティレイラが、そんな言葉を投げかけてきた。
「珍しいものが手に入ったからって、知り合いから呼び出されたの。ティレも勉強になるかしらと思ったから、付いてきてもらってるのよ」
「なるほど……勉強って言うと、魔法関係ですね! 楽しみです!」
 純粋な竜族の少女は、いつになっても高い好奇心を全面に押し出してくる。
 それを横目で確かめながら、シリューナは小さく肩を竦めて苦笑した。
「シリューナ、待ちかねたわ! さっそくだけどこれを見てちょうだい!」
 知り合い兼、依頼主の元へとたどり着いた途端、玄関の扉が開いてそんな声が飛んできた。声の主は、見た目はただの少女でしかない、シリューナの同好の士であった。
 その少女は二人の反応すら待つことがもどかしいのか、忙しなく彼女らを家の中に押し込んで、本題に入る。
「ふわ……これは、盾ですか?」
 少女が差し出してきたものを見て、最初にそんな声を漏らしたのはティレイラであった。
 魔法金属らしいそれは、大きな盾を模していた。強い魔力を醸し出している。
「ティレ、これは貴重なアイテムよ。強力な魔法や攻撃をすべて弾いてくれるんですって。ちょっと持って構えてみて」
「え、あ……はい。では、お借りします」
 依頼主である少女からその『盾』を借りたティレイラは、まずはその重さにその場でふらついた。
「あわわ……」
「力で持とうとしちゃダメよ。ティレちゃんもそれくらいのコントロールは出来るでしょ?」
「は、はい……でも、これ、凄い、扱いにくいですね……」
 ティレイラは油断をしていた。自分より小さく見える少女が軽々と持っていたその盾を、自分も同じくらいに扱えるだろうと思いこんでいたのだ。
 シリューナも少女も、その辺りを見抜けるかどうかという思惑が有り、彼女に最初にそれを持たせてみたのだが、やはりまだ修行と鍛錬が及ばないと言ったところだろうか。
「ティレ、その盾に魔力を集中させなさい。両手でもいいからちゃんと持って、意識を一点に向けるのよ」
「は、はい……っ」
 ティレイラは師匠であるシリューナの言葉をしっかりと受け止め、その盾を持ち直した。まだ体はふらつくが、それでも必死にそれを持ち、構えてみせる。
「じゃあ、ちょっと火の玉ぶつけてみるよ〜。ティレちゃんは火の魔法は弾けるよね?」
「え、はい、ちょっとだけですが……わわっ」
 少女がらしくない笑みを浮かべつつ、小さな攻撃魔法を放った。
 もちろんそれは、盾の効力を確かめるためのものだ。
 直後、パァン、と魔法の弾ける音がした。
 ティレイラがその盾で弾き返したかのように見えたが、実際は後ろでシリューナが僅かに助力をしてそれが成り立っていた。
「ふふ……」
「?」
 少女がふいに笑う。
 それを予想にしていなかったシリューナが、彼女へと視線をやった。
「あ、れ? お姉さま、これ……!」
「……あら」
 盾が形を崩し始めた、と最初に気づいたのは手にしていたティレイラであった。そして見る間にその盾は、強い光を放って液状化し、ティレイラの全身を覆った。
 シリューナはその様子を特に慌てる事もなく、眺めているだけであった。
「最初からコレが狙いだったのね」
「まぁね〜……ほらほら、最高のオブジェの完成よ〜!」
 少女が満面の笑みでそう言う。
 二人の目の前には、たった今完成したばかりのティレイラと言う名の魔法金属の像が佇んでいる。
 確かな防御力は存在したままだが、決して実用的とは言えない盾だったモノの成れの果てだ。
 だがそれでも、ティレイラの身体を覆って構築されたものであるので、造形美としては申し分ない。
「相変わらず、ティレの美しさは誰にも敵わないわね……」
 感嘆のため息が漏れたのは、シリューナの唇からだ。
 物言わぬ像になってしまったティレイラを愛おしそうに見つめる眼差しは、色っぽい。
「…………」
 一歩を引いた状態でその姿を見ていたのは、依頼主の少女だ。
 彼女は小さく笑みを浮かべつつ、後ろ手にしていた右手をくい、と動かした。当然、シリューナからは見えない角度であった。
 数秒後、足元で鈍い水の気配がしたとシリューナが気づいた。だが、それに反応を返すのに僅かな遅れが生じた。
「……っ、返事が変だと思ったら……こっちが真の目的だったのね……!」
「ふふ……っ、二人共ちゃんと元に戻してあげるから、少しだけ我慢してね」
 少女は楽しそうに笑いながら、そう言った。
 シリューナはそれに何も返すことが出来ないまま、身体の自由を奪われてしまう。
 足元で感じた水の気配は、先ほどティレイラを襲った魔法金属が液体化したものの残骸であったのだ。僅かに跳ねて飛び散った『雫』を魔力で増やし、今度はシリューナの身体を包んだと言うわけだ。
「覚えてなさいよ……!」
 シリューナは悔しそうにそう言って、その場で像となってしまった。
 足の先から髪の先まで、申し分のない妖艶なオブジェであった。
「そうよ……これ、これが見てみたかったの! やっぱり思った通りだわ!!」
 少女は若干狂気じみた笑みを浮かべつつ、全身で喜びを表しながらそんな事を言った。
 最初から、この展開を望んでいたらしい。
 つまりは、レアアイテムでシリューナとティレイラを呼び寄せ、自分の望みどおりに二人をオブジェにしたかったというわけだ。
「ティレちゃんが造形美として素晴らしいのは最もだけど、シリューナだって負けてないのよね。自分は気づいてないのかもしれないけれど……」
 はぁぁ、と切なげなため息を吐きこぼしつつ、少女がそう言う。
 そして眼前にある二つの像を交互に撫でては歩き回り、隅々までその姿を堪能するという行動がしばらく続けられた。
「シリューナ、愛でられる側になった気持ちはどう……? 聞こえてないかもしれないけれど、昂ぶってくるものがあるんじゃない?」
 頬を染めつつ、少女が再び言葉を投げかける。
 完璧なまでの造りであるオブジェ二人は、その少女の行動を黙って受け入れる他には術がないのであった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785 : シリューナ・リュクテイア : 女性 : 212歳 : 魔法薬屋】
【3733 : ファルス・ティレイラ : 女性 : 15歳 : 配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつも有難うございます。再び書かせて頂けて嬉しかったです。
 機会がございましたら、またよろしくお願いいたします。
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東京怪談
2018年02月13日

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