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『 君のいない朝 』
彩咲 姫乃aa0941

 画面の向こうの彼女は、笑顔だ。
 『彩咲 姫乃(aa0941@WTZERO )』は思う。
 最初は、笑顔を見るのにも苦戦した。だって彼女はいつも気取っていて、クールで。覚ったようなことを言っていて。
 でもそれがいわゆる、思春期特有の中二病だと気が付いたのはいつからだったろうか。
「なつかしいな」
 姫乃はスマートフォンの表面をなぞった。乾いた血がぱらぱらと明るい画面に降りかかる。
 暗闇に浮かび上がった姫乃の表情は、無感情。
「あいつ、蟲とかへいきだったからな」
 いろいろな時間を共に過ごした。
 外に遊びに行った。虫を取ってきて『三浦 ひかり(NPC)』 を驚かせたり。
 『ナイア・レイドレクス(NPC)』 が送ってくるひかりとのツーショット写真に、少し嫉妬したりして。
 ひかりと友達になりたての頃、姫乃はひかりが心配だった。
 孤児院で一人……な気がしていた。
 だからナイアと仲良くなれた時、気持ちが楽になったのを覚えている。
 思い出はたくさんあった。それに伴って写真もたくさん。
 けれどその振り帰りの時間にも終りが来る。
 正月に山頂でとった三人の写真。
 みんな。笑ってる。

『また、会いに来るよ。みんなも会いに来てくれるよね?』

 ナイアの声が蘇った。それに姫乃はスマホを握りつぶす勢いで力を込めた。
「ばかやろう」
 姫乃はベッドに横たわるナイアを見た。
「俺が、私が……会いに行くまで、待ってなさいよ」
 姫乃は壊れた笑顔で告げる。
「もう、会えない……じゃない。そこまでは俺だって。いけないんだ」
 そうナイアの体にもたれかかる、冷たい、体だった。
「ナイアちゃん!!」
 その時、扉がはじかれたように開かれて、血相を変えたひかりが入ってきた。
「ひかり」
 そう振り返る姫乃に驚きの表情を向けるひかり。
 だって、髪はほどけぐしゃぐしゃで。
 なにより、ナイアの血にまみれたその体も服も洗わないままにそのままだったから。
 それで、全てを察したひかり。
「そんな……」
 車いすをあわててベットに近づけようとするも、段差に躓いて倒れてしまう。
「ひかり!」
 姫乃は慌ててひかりの体を起こす。しかしその視線はナイアに注がれていて。
「うそだよね? 姫乃ちゃん。ナイアは。眠ってるだけだよね?」
 その言葉に姫乃は返す言葉が見つからない。
「ねぇ! 姫乃ちゃん! なんで、なんでナイアが死ななくちゃ、いけなかったの!?」

 死。

 その単語に姫乃は目を見開いた。
 拒絶していた現実が襲いかかってくる。
 思い出すのは最後の光景。
 貫かれるナイア。
 そして、最後の言葉。
『ひめの、だいすきだったよ。ひかりもそうだとおもう』

「私のせいだ」
 姫乃の口からぽつりと言葉が漏れる。
「え?」
「私が、護れなかったから。だから」
 ひかりはかなしみ、ナイアはもう手の届かないところまで行ってしまった。
「ちがう! それは違うよ! 姫乃!」
「違わない。違わないんだ。気を付けてたんだ。最後に気が緩んだんだ。俺が、俺が招いた結末なんだ!!」
 姫乃の叫び声がこだました。あわてて駆けつけてくるのは孤児院の職員たち。
 ひかりのわがままを聴いて送ってきてくれたのだ。
 彼らが言うには、眠った方がいい、とのこと。
「私は気にしないでください、ひかりをつれて孤児院に戻って」
 そう虚ろな瞳で告げる姫乃。車いすで運ばれていくひかり。
「姫乃! ひめの!」
 ひかりは連れて行かれるのを嫌がっていたが、抵抗できるはずもない。
 やがて、病室は静けさを取り戻す。
 生者などいない静けさを。姫乃は顔を伏せる。
「ナイア。おれ。ひかりに嫌われたかもしれないよ」
 相変らず涙は出なかった。かわりに溢れ出すのは、負の感情と後悔。
 その時だった。姫乃は誰かの気配を感じて振り返る。
「嫌ってるわけ、ないでしょ?」
 だが振り返ってもそこにはだれもいなくて、代わりに震えるスマートフォンがあった。
 それは孤児院の職員からの連絡。
 すぐさま電話をとった姫乃は、その向こうから割れんばかりに響く破壊の音からすべてを察した。
「助けてくれ! 今愚神の追われているんだ!」
 姫乃はナイアを振り帰る。
「俺に、護れるとおもうか?」
 ナイアは答えない。けれど、答えを誰かに尋ねる時点でもう、したいことは決まってる。
「おれ、いくよ。また……」
 友達を失うなんて考えられない。
 次の瞬間姫乃は窓から飛び出していた。
 夜風がカーテンを巻き上げてナイアの表情を覆う。
 次の瞬間月に照らされた彼女は笑っている気がした。

   *   *

 その愚神は環状線をひたすらに走る、サイの様な、イノシシの様な愚神だった
 それは姫乃の乗った車両を一撃で吹き飛ばすと、次は本気だとでもいいたげに四肢に力を込めた。
「助けて姫乃!」
 その時だ。
 軽やかな足取りで愚神とひかりの間に、姫乃が割って入った。
 その姿は炎に包まれていて、なびく髪が朝の光のように輝いた。
 姫乃はひかりへと振り返ると一つ笑って見せる。
 それにお構いなしに突っ込んでくる愚神。
 次の瞬間。軋んだのはガードレールや電柱だった。
 建造物を起点に張り巡らされたハングドマンは一瞬で愚神の体をからめ捕り。宙に浮かべる。
「助けに来たよ、ひかり」
 次の瞬間愚神は細切れに吹き飛んだ、霊力が粒子となって舞い散る。
「姫乃!」
 そんな姫乃が、たった一人で立つ姫乃がいたいたしくて、ひかりは立ち上がった。
 ふらつき、がたつく足で車を降りると、よろよとろ姫乃のもとへと向かう。
 それを姫乃は抱き留めた。
「ひかり、お前、足……」
 先ほどは気が付かなかったが、足には無数のボルトや固定具がついている。
 だがそれについて言及する前にひかりは口を開いた。 
「姫乃は一人じゃないから!」
「え?」
 予想外の一言に姫乃は首をひねる。
「誰も姫乃の事せめないよ、ナイアちゃんもきっとそうだよ」
 姫乃は気付く、ひかりの体が震えていることに。
「わた、わたしが、しっかりしないと」
「どうしたんだ、ひかり?」
 その時、ひかりははじかれたように顔をあげ、真っ直ぐに姫乃の目を見た。
 潤んだ瞳で。
「姫乃は、わたしのこと、たすけてくれたから。だから、今度は、私が姫乃を……」
 姫乃の体から力が抜けていく。
「ナイアからも、頼まれたんだよ。すぐに、すぐに無茶するから、悲しいことがあっても人前で泣けない子だからって」
(あいつ)
 姫乃は思う、他人の心配より自分の心配をしろと。 
「だから、だから、ないて、ないていいんだよ。ひめのちゃん」
 それはひかりにも言ってやりたい言葉だった。
「ひかりだろ、泣いてるのは」
 姫乃の胸に縋り付き表情を隠すひかり
「やだよぉ、もう会えないなんてやだよぉ!!」
「ああ、そうだな。そうだなぁ」
 嗚咽をかみ殺す姫乃。やっと、やっと実感が戻ってきた。
 そう、そうだ。
 死ぬっていうのは、もう会えないってことって。
 笑いあえないってことで。
 あの雪山で、時間が止まるってことなんだ。
「ナイアは勝手だよ! 私に何もいわないで!」
「うん、そうだな、あいつは、勝手だったよ。最後まで!!」
「大好きだったんだよぉ」
「俺も、俺もだ。おれもだよ」
 泣き崩れる少女が二人。その背中を照らす白い光は、夜明けを示す日の出。
 同じ太陽なのに、あの日見た光景とまるで違っていて。
 二人はそれに背を向けて抱きしめあっていることしかできなかった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『彩咲 姫乃(aa0941@WTZERO )』
『三浦 ひかり(NPC)』
『ナイア・レイドレクス(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はOMCご注文ありがとうございました。
 鳴海でございます。
 今回は姫乃さんの痛みと苦しみと、優しさをテーマに描ければいいなと思って書きました。
 ちょっと難産だったのはここだけの話です。
 姫乃さんの回復をお祈りしております。
 それではまた本編で会いましょう



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2018年02月15日

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