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『お互いの在り方 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&沢城 葵ka3114

 少し離れた喧騒に耳を傾けている。
 アルヴィンにとって、人の声を拾える場所は様々だ、手近なところで言えばハンターオフィス、小隊のアジト、日当たりのいい公園だったり、たまには商店街というのも悪くはない。
 今回は大通りに面したカフェテリアの室外席。新年を迎えたばかりで、浮足立つリゼリオの人々のざわめきを、少し離れた場所から聞き届けている。

「あの店のフルーツパフェが美味しくて」
「今年のバレンタインは――」
「冬服と春服の同時展示だって」

 間接的に伝わってくる歓びの感情が緩く心地いい。
 拾い集めた情報を頭の隅に書き留めて、アルヴィンはドリンクを飲み干し、席を立った。

 +

 アルヴィンが所属している小隊のアジトは、かつて賊のねぐらだったものを友好的に譲り受けたものだ。
 隊の面々が取り留めもなくたまり場にしている和風一軒家は、今日は閑散とした様子を見せている。
 家主は外出中、アルヴィンは居間で蜜柑を剥きながら暇を持て余していた。

「ダリオ、いるー?」
 門外から呼ばれるのは家主の名前だ、声色で来客の見当をつけたアルヴィンはごろん、と襖に手を伸ばして開いた。
「イナイヨー、鍵はアイテルー」
 上がってくるかな、と一応居住まいを正したら、玄関先で靴を脱いで上がってくる音がする。
 顔を覗かせたのは外出装備の葵で、部屋を覗いて「貴方だけ?」と問いかけてきた。
「ウン、何か用事ダッタ?」
「あー……うん、外出について来て貰おうと思ったんだけど……」
 葵の歯切れは悪い、逡巡は代わりをアルヴィンに頼んでいいものか、と言ったものだ。
 葵が自分を苦手としている事にアルヴィンは気づいている、勿論口に出したりはしないけど、きっと色々やりづらいのだろう。家主を連れて行こうとする用事なら力仕事、恐らくは荷物持ちといった所だろうか。
「急ぎ?」
「そうでもないんだけど……」
 急ぎではないけど今日行きたいのかな、そうアルヴィンは蜜柑を口に運びつつ考えを巡らせる。
 こっちから誘う分には割りと応えてくれるんだけど、向こうからだと少し躊躇があるらしい、これに対してコメントをするなら微笑ましい、みたいになるんだろう。
 どうしようか。普通の感性なら葵に遠慮して静観を決め込むところだが、アルヴィンの感覚は少し人とずれている。
 だが勘のいい葵の事だ、こちらから誘ったら間違いなく勘ぐられる事だろう。
「ソウいえば、今街で人気のフルーツパフェがあるらしくてネ」
 今日あたり行こうと思ってたんだけど、そう付け足せば葵の迷いが少し変化したように思える。
 別に嘘ではない、たった今そういう気分になった、葵にフられてもその時は一人で食べに行こうと思うくらいには。
 選択肢は用意するし、気兼ねはなるべく取り払っておくけど、決めるのはいつだって目の前にいる人だ。
「……買い物に行くつもりだったんだけど、良ければ付き合ってくれない?」
 葵がそう切り出せば、アルヴィンは微笑んでそれを了承した。

 …………。

 葵からしてみれば、出向いた先での買い物は、意外な程につつがなく進んだ。
 アルヴィンはさして突飛な事を言い出す訳でもなく、問題を起こすでもなく、黙々と付き従って荷物持ちを務めている。
 不調だとか不満だとか変なものを食べたという訳でもない、彼なりに街を見て楽しんでる素振りはあった。

 服を見て悩めば少し距離を置いて一人にしてくれるし、セールスをしようとする店員を見つければさっと割り込んで相手を務めてくれる。
 時々姿を探せば、他のものを見ながらやはーと笑顔を向けてきたり、歩いてきては品物の感想をくれたりと様々だ。
 楽ではある、ただ二人きりで、この男がそれをすると気味が悪い。
 気を使われたのかもしれないが、その素振りすら見せる事はない、きっとこういう腹の見えない所も苦手なんだと、葵は感想を抱く。

 結論を言うと、世話になった。
 重い荷物を持ちながら買い物をせずに済んだし、他人に煩わされる事なく、静かで心ゆく買い物が出来たと思う。
 わだかまりが解けた訳でもないけれど、事実は事実だ。付き合って貰った礼に話のパフェをご馳走しようとした点で少し押し問答をしたけど、パフェは葵の奢り、残りは各自で注文するという点で落ち着いた。

 コーヒーを二つ、アルヴィンの前にパフェ、葵は新作らしいシフォンケーキを摘んでいる。
 会話はない、それ自体は然程苦ではなかった。
 世話を焼くでもなく、気を使うでもなく、力を抜いていい時間は葵にとって心地いいものだった。
 ……その点を、多分見抜かれている。恐らくは、葵がアルヴィンに対して壁を作っている事も。
 それでもアルヴィンはそれを気にした風もなく接してくれている、その噛み合わなさが、多少の心地悪さに繋がっていた。
 お互い嫌いなら距離をとって何も問題なかったのに、渡されるのは気遣いだから、律儀な葵は返すものに困ってしまう。

 深入りなんて必要ない、そう思っていた。
 自分が奇矯なのはよくわかってるし、一方で繊細だから、下手な他人に踏み荒らされたくもない。
 仲間なら少し許してもいいかと思い始めたのは最近の話で、それでも、少しばかり身構える気持ちがないと言えば嘘になる。
 だが、これはきっと今明らかにしておくべきカードだろう。意味があるかどうかはわからないが、何かの勘違いから気を使われ続けるのは主義に反する。

 どう伝えるべきか少し考えて、結局、直球で、自分の気持ちを口にする事にした。

「私、あんたの事あんまり好きじゃないんだけど」
 いきなりで、大概な言い方だと思う。でも核心をつくならそういう事だ。
 好きかどうかで言うなら間違いなくそっちに寄っている、知ってるだろうとは思うが、それを自分から明らかにして、アルヴィンがどういう反応をするか知りたかった。
「ウン、知ってるヨ?」
 …………身も蓋もない。こういう奴だとは知っていたが、実際に投げ返されると少しの腹立ちと共に呆れてしまう。

「わかってるのに付き合ってくれた訳?」
 責めたい訳ではないのだけれど、そういう言い方になってしまう。
 戸惑いと、呆れと、少しばかりの疚しさ。フェアじゃないとわかっているし、そこまでしてもらう人間じゃないと思う気持ちも多少はあるのだ。
「私、あんたの事好きじゃないって言ったんだけど」
「イイんじゃナイ?」
 なんでよ、というのが正直なところだった。
 幾ら好感情を向けてもらっても、葵にはそれを返す自信がない。だからさっさとそれを明かして、アルヴィンを止めようとした。
 普通に言って止まるとは思ってなかったけど、やはり理解は出来ない。
 他人に尽くしたがる奉仕主義者? まさか。葵が懐疑の目を向ける一方で、アルヴィンはコーヒーをかき混ぜながら、なんでもない事のように口にした。
「ダメなものを無理にスキになる必要はナイ」
「……あんたの事なんだけど」
「ソレでも、ダヨ」
 好きになって欲しいためにそうした訳じゃないとアルヴィンは言う、付け加えるなら、好きになる必要もないと。
 理由を求められてるのなら、割りと簡単に答える事が出来た。だって。
「少なくトモ、沢城氏はソウイウ形で僕に向き合ってくれてイル」
 一方的な好意を向けるアオちゃんではなく、沢城葵という一人の人間に向けた評価だ。
 好きも嫌いも、それが正直な気持ちならそれでいい。自分をごまかしてないから、それだけが理由になっている。
「ソレに、僕はケッコウ好きダヨ」
 一方的な感情で構わないと彼は言う。
 感情を駄々漏れにしない慎み深さはあるが、葵は基本的に思った事には素直で、アルヴィンにとってはそれが心地良いから、葵の頼みならなるべく叶えてあげたいと思った。

「…………。そう」
 コーヒーに口をつけて、葵はそれだけを言った。
 理解は出来ない、だが理由を明かしてもらったから、許容は出来ると思う。
 方向性を共有出来る気は一生しない……が、アルヴィンがそれでいいと言ったのだ、ならば、葵もそういう風に振る舞おうと思った。

「じゃあ改めて言うけど、今日は助かったわ」
 正直である事。それがアルヴィンの理由なら、ここまで明かしてようやくフェアと言ったところか。
 アルヴィンは苦手な相手だ、でも全部がそれという訳じゃない。認められる部分が確かにあって、助けられてる部分もちゃんとある。
「後ねぇ、確かにあんたの事苦手だけど、嫌いとまでは言ってないの、その辺間違えないように!」
「――ウン」
 だからアオちゃん好きだよ、そんな言葉をアルヴィンが口に出す事はなかった。


 イコウか、と言われて葵も席を立つ。
 会計のカウンターにはパンフレットと、持ち帰り自由の棒キャンディーが幾つか飾られている。
 果汁を固めて作ったと思われるそれはキラキラしててとても可愛かったが、ファンタジックな見た目からして子供向けだろう。
 思わず見つめてたら、アルヴィンはそれを二つ手にとって、一つを葵に渡した。大人の良識で思わず躊躇するが……アルヴィンは気にした風もなく、自分の分の包装を解いて口に入れている。

「可愛いヨネー」
 またもや言外に気を使われた気がして、葵はため息をつく。
「……そういうとこよ」
 そういう所が合わないのだと言外に言うが、今度はとぼけられた。
「なんのコト?」
 知ってる癖に、そう言っても逃げ切られるのはわかっていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26/聖導士(クルセイダー)】
【ka3114/沢城 葵/男性/28/魔術師(マギステル)】
イベントノベル(パーティ) -
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2018年02月15日

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