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『彼らの一幕 』
逢見仙也aa4472)&ディオハルクaa4472hero001
 H.O.P.E.東京海上支部の訓練室から引き上げてきた逢見仙也。
 シャワーでぞんざいに汗を流し、適当に水気を拭っただけの髪を指で梳きながら自室の倉庫へ篭もる。
「飯は?」
 倉庫の口から顔を出したのは、仙也の契約英雄たるディオハルクだ。
「後でいい」
 短く返した仙也は手にしていた古めかしい槍を卓へ置き、小さく首をかしげた。
「仙也にも悩む頭があるか」
 ディオハルクの皮肉滴る言葉は、ごく親しい相手にのみ向けられる性。
 それを誰よりも知る仙也は肩をすくめて説明した。
「悩むほどじゃないが、槍のままでいいのかどうかってな」
 天地の槍と銘打たれたそれは、主武装ならぬアクセサリの一種ではあるのだが、形が形なだけに使い処はあるものと踏んでいた。先に知人と模擬戦を行った際、アジ・ダハーカの鎖との併用で槍を“奥の手”としたのは記憶に新しいところでもある。
「最近は槍も子どもよりは使えるようになっただろう。なにが不満だ?」
「……」
 仙也は答えず、ディオハルクの視線を避けるように槍と向き合った。
 彼が身につけた、槍を始めとする近接戦闘術はみなディオハルクに習ったものだ。結局のところ借り物で、自分の技ではありえない。
 戦いは仙也のすべてである。
 エージェントとなって、多くの誰かが他人のために戦う様を見た。その中の誰かが語る夢を聞いた。しかしそれらはもれなく戦いの先にあるもので、戦いの内にあるものではなかった。
 彼らの目はまぶしい。
 戦う理由を持ち、それを果たすべく命を賭ける心は美しい。
 そんな熱を持たない仙也は、彼らをひどくうらやましいと思うのだ。同時に、どうでもいい話だとも。
 俺は戦いてぇんだよ。誰かのまぶしさやら綺麗さが彩ってくれる戦場で。
 俺のいる戦場が、戦いが胡蝶の夢だっていうんなら、そいつが終わっちまう瞬間まで、俺の全部を尽くして無我夢中に楽しみてぇんだよ。
 だから、ディオから借りたもんじゃなく、俺の力と技で戦えなきゃ意味がねぇのさ。
 ――エージェントとして、その経験と心身とにおけるひとつの区切りを迎えた今だからこそ、今までよりも強く感じずにいられない衝動がそこにはある。
「どこまで通るかわからんが、弓に改造申請してみるか」
 弓は仙也の得物だ。
 研ぎ澄ました一射は純然たる仙也の得意であり、ディオハルクの卓越した戦闘技術すら入り込む余地はない。
 と、いちいち口に出して言ってやるつもりはなかったが。「仙也の繊細さに気づいてやれなくてすまなかったな。俺が忘れんよう、ぜひ毎日教えてくれるとありがたい」などと嫌みったらしく絡まれるのがオチだ。
 そんな面倒に巻き込まれてたまるか。なぜなら面倒臭いから。
 心の内でいろいろなことを「面倒臭い」で丸め込んでしまった仙也の機微に気づくことなく、ディオハルクは首を傾げる。
「どうして槍をわざわざ弓にする必要がある?」
「……天地の弓はねぇからな」
 返しながら、胸の内でつぶやく。弓にしたいわけのもうひとつはディオ、おまえに引きずられねぇためだよ。
 共鳴によって仙也は少なからずディオハルクに侵されている。凶暴化はそのもっともたる例だが、抑えるためには両者のズレを補い、繋ぐものを携えるのが手っ取り早いと、これまでの経験則で知ってもいた。
 ゆえに、武具の化身たるディオハルクと弓使いたる自分とを融和させる象徴としては、やはり弓がふさわしかろうと思うわけだ。
「それにあれだ。弓ならいざってときにAGWを矢にできるだろうが」
 はぁ? ディオハルクが顔をしかめて歯を剥いた。
 体や瞳の色こそちがえど、やけに自分と似通った顔で正気を疑われるシチュエーションは、思った以上にもやもやする。
「意味がわからん」
 嫌味のカーブもなしに、剛速球の感想を投げ込まれることもだ。
「鎖で引き込んで槍を繰るってのがひとつの戦術だろうが。そもそも弓と鎖でどう戦う気だ?」
 そのことはすでに考えてある。
 仙也は三連リングに改造したアジ・ダハーカの鎖を槍のそばに置いた。
「こいつを再改造する。隠し持ちやすくて奇襲がやりやすい、教鞭型にな。伸ばせば矢の代わりに――」
 ディオハルクの表情がおかしい。
 なんというか、かなり深刻に引いている。
「なんだよそのツラ?」
「仙也の癖(へき)に嘴突っ込む気はないけどな……教鞭っておまえ、あれだろうがよ」
 ちなみにこのときのディオハルク、かつての教育の場で指示と仕置きに使われていた硬鞭(鉄以外の素材で作られた棒状の打撃具)を思い浮かべていたわけだが。
「いや、なに考えてんのか知らねぇけどな。縮めたり伸ばしたりできる指し棒的な……ディオ、おまえオレのことなんだと思ってんだ?」
 仙也の問いに迷うことなく、ディオハルクはずばっと。
「クール気取りのセクハラ野郎」
 いやいや。いやいやいやいや。
「クールなんざ気取ってねぇよ。ちょっとまあ、モテてぇなとは思ってるけど」
「後半のセクハラ野郎のところはなんなんだよ。もてたい男がすることじゃないだろうが」
 ディオハルクの追求をかるく払いのけ、仙也は言い切った。
「セクハラじゃねぇ。人生を彩る遊びだ。モテ狙いばっかじゃ息が詰まんだろ。緩急ってやつが大事なんだよ」
「モテたい奴が我欲たらたらの遊びにはしってどうする」
 げんなりと言うディオハルク。
 しかし仙也はなんでもない顔で。
「ぶっちゃけた話、モテ狙いでクールぶってんのがめんどくせぇ」
 この――怠惰系テキトーだる五枚目野郎が!
 教育的指導を加算して叱りつけてやろうかと思ったが、やめた。
 大丈夫。こいつがモテる日など、絶対に来るはずがない。あえて矯正してやらないほうが、本人のためというものだ。口ではともかく、セクハラについては相手を選んでしていることも知ってはいるし。
 それに、俺も面倒はごめんだしな。
 この世界に英雄として顕現したディオハルクだが、基本的には敵と見定めた者と存分に戦い、どんな手を使ってでも殺す――それ以外のことに強い興味はない。一応は、世界とそこに住まう人々とを救ってやろうという気はあれども、だ。
 だからこそ、ヒーロー役を他のエージェントへ投げ渡し、好き勝手に暴れたいという仙也の欲が心地いい。
 結局は似たもの同士ってことだ。姿形だけじゃなく、心の中身まで。
 ディオハルクも仙也も、戦い以外のすべては戦いをより楽しむためのスパイスに過ぎないのだ。だからこそ、遊びにかかるときは思いきり遊ぶし、他者の因縁に関わることも厭わない。スパイスは単品よりも組み合わせたほうが味を深めるものだから。
 まあ、情っていう厄介なスパイスは持て余し気味じゃあるが、それでも結局はぶっ込んじまうんだ。あいつも俺も。
 皮肉な笑みを漏らしたディオハルクは表情を引き締め、仙也に強い声音を投げた。
「……改造でも再改造でもいいけどな、それにも金がかかるってことくらいは言われる前に気づいておけよ」
「おう」
 意外なほど素直にうなずく仙也。得物をどう改造してどう使うかを考えるのにいそがしいのだろう。
 と、ここでディオハルクはふと。
「仙也、俺が敵にまわったらどう戦う?」
 特になにを考えたわけでもない思いつきだ。さて、どんな答が返ってくるものやら……
「戦うもなにも、ディオが愚神につくとなりゃオレはもう喰われてるんだろ? 戦えねぇのはつまんねぇ」
 予想外の返答だったが、まあ、確かにそうなるか。
 ディオハルクは仙也にそれなり以上の愛着を持っている。きっと出来の悪い子分くらいには思っているのだろう。これまでも、これからも。
 一方、仙也はディオハルクが自分にどのような感情を抱いているのかを知らない。
 基本的に彼は、ディオハルクのことをぐれた犬みたいなものだと考えていた。自分は敬愛されない主人だと。
 自分がディオハルクにとって大切な主人であったなら、ディオハルクは尻尾を振って尽くすだろうし、邪英へ堕ちるくらいなら喜んでその命を投げ出すだろう。そういう律儀さというか、一途さがあるのだ。それをしない以上、自分は彼にとってその程度の存在でしかないということ。
 だから、邪英化はしない。
 口でも言ったが戦えないのはつまらないし、それ以外の部分でもおもしろくないし。もちろん、それ以外の部分がなんなのかはよくわからないのだが。
「実際、俺たち同士で戦う必要なんざないくらいに敵はいるからな」
 ディオハルクは意味を成さない話題を打ち切り、代わりに仙也の思考を断ち切りにかかる。
「改造のことを考えるのもいいがな、その前に強化をしろ。どれだけ改造したところで力が上がるわけじゃない。“僕の考えた最強武器”ごっこがしたけりゃ、最強に届く努力を怠るな」
 改造は得物に個性と取り回しやすさを与えるが、武器や防具により強い敵と対するための力を吹き込むのは地道な強化に他ならないのだ。
 ゆえにこの言葉は嫌味ではない。死なないために鍛え抜けという、保護者にして師からの教えである。
 対して被保護者にして弟子たる仙也の返答は。
「めんどくせぇ」
 きっぱりはっきり、まさに竹を割ったようにまっすぐな、怠惰。
 今度こそ教育的指導をいう名の鉄拳を叩き込もうと両手を握り締めたディオハルクだったが。
「……強化とか改造っていや、借金のカタに巻き上げたアイツもあるんだっけな」
 仙也は倉庫の片隅に立てかけた、むき身の刀を見やって言った。
 妖刀「華樂紅」。妖刀の字にふさわしく、その二尺三寸の刃は美しい薄紅を映す。
「最近は刀も使ってるし、まあ、知り合いから渡ってきたもんでもあるしな」
 仙也にしてはめずらしく、微妙に歯切れの悪い口ぶりである。
「ああ、あいつらからか」
 ディオハルクが首肯した。
 仙也の言う知り合いとは、事あるごとにサムライだ剣士だと声を上げるシャドウルーカーの男女コンビ。最初はなにか言ってるなーくらいに思って見ていたのだが、いつの間にか、その言葉に恥じないレベルの兵法家へと成り上がったものだ。
 そして。いらない刀をくれてやった……最初はそれだけの縁だったはずが、気づけばそれなりに長いつきあいとなっていて、唯一の交友相手として名を挙げるほどになっている。
 仙也は口の端を笑みの形に歪め、妖刀を片手で斜に構えた。
 そもそも剣に通じているわけじゃない。ディオハルクのサポートはあれど、思うがままの無手勝流だ。ゆえに、他の得物や兵法との組み合わせが肝となるのだが。
「とりあえず、専用の鞘でも拵えるか。それとも改造して形ごと変えちまうか。倉庫ん中にしまっとくだけよりはそっちのほうがいいだろ」
 もともとが個人主義で他者への関心が薄く、戦いというものに他者から水を差されることを嫌う仙也である。
 それが今、誰かとの縁を意識しているのだから、本当に合縁奇縁とはよく云ったものだ。
「あの女がもう少しオレ好みだったら、別のカタも要求できたんだけどな」
 空いているほうの手を思わせぶりに握ったり開いたりしている様は、どうしようもなく浅ましかったけれども。
 いや、そうじゃないのか。
 あの女の心がどこに向かっているのかを、端から見ている自分たちは知っている。そこへ手を差し込むのがひどく野暮なことだと仙也はわきまえているのだ。
 そういうところを押し出せば、少しはモテることもあるんじゃないのか?
 ディオハルクは言ってやる代わりにひとつ息をつき、長身を翻した。
「とにかく飯だ。ローカーボでまとめておいたからいくらでも食え」
「ローカーボ? それじゃエネルギー足んねぇだろ」
 後に続く仙也へ、ディオハルクは苦い顔を振り向け。
「それ以上でかくなってどうする。知らんのか? 30センチ以上身長差があると、互いの声が聞き取りづらくなるって。ちなみに日本の18歳女子の平均身長は158センチだからな」
 仙也の身長はディオハルクと同じ200センチ。この日本においては、大抵の女子と“標高差”が生じるでかさである。
「ああ、いちいちかがんでやるのもめんどくせぇな」
 よくわからない納得を見せる仙也。
 もちろん、身長に関してはすでに手遅れなわけだが……指摘するのはそれこそ面倒だ。
 こうして10分足らずの会話劇は幕を下ろし、仙也とディオハルクは食事という次なる一幕へと向かうのだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【逢見仙也(aa4472) / 男性 / 18歳 / 寝坊こそ至高の睡眠!】
【ディオハルク(aa4472hero001) / 男性 / 18歳 / 死の意味を問う者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 此は同じ性(さが)持つ者たちの日常、その一瞬。
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2018年02月19日

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