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『激情の戦乙女』
サクラ・エルフリードka2598


 サクラ・エルフリードは、商売人のような取引をしてみる事にした。
「大勢のお客様が、私の試合に熱狂して下さいます」
「そ、そうだな。いや助かるよ、お嬢ちゃん」
 でっぷりと太った男が、体積において己の半分にも見たぬ小柄な少女の剣幕に押されている。
 この大会の、現場係員の元締めのような立場にいる男だ。
「お客がこんなに沸いてるのは初めてだよ。今後も、あんた目当ての連中が金を落としてってくれるだろうさ」
「そう……私は稼ぎ頭、というわけですね」
 今サクラの胸には、元々はマントであったボロ布が巻き付けられて少しだけ膨らみ、腰には小さな下着が結び付けられている。未熟な白桃を思わせる尻の双丘が、可愛らしくはみ出して何にも守られていない。
 全裸寸前とも言える少女の細身が、男の大柄な肥満体をずいと威圧する。
「それならば私にも、いくらかは要望を押し通す権利があると思うのですが」
「お、俺の権限で叶う事なら……」
「鎧の修繕をさせて下さい。もしくは新しい鎧を下さい」
 これまでの人生15年間、ここまで堂々と口調強く、他人に何かを要求した事は恐らくない。
 男は、あからさまに難色を示した。
「そ、それは……」
「何も試合で、私が有利になるよう取り計らって欲しいと言っているわけではありません。いかなる相手とも私は、光の御名において正々堂々と戦って見せます。そのための戦いの装いを整えさせて欲しいというのは、貴方たちにとってそれほど無理難題なのですか?」
「無理難題なんだよなぁ。お客が何を期待しているのか、お嬢ちゃん本当はわかってんだろ?」
 男が、下卑た愛想笑いを浮かべる。
「大体よ、今の格好……あんたが最初に着てた鎧と大して違わねえだろ」
「ちっ違います! あれとこれとは大違いです!」
「まあまあ、あと2試合だからよ」
 男が言った。
「最終戦には、うちの親分もおいでになる。あんたも、うまくいきゃあ幹部待遇でスカウトしてもらえるぜ」
「親分……この大会の、主催者の方ですか」
「この大会だけじゃねえ。この街の裏通りで催されてるもの全部、片っ端から利権を握っておられる……恐い御方だぜ。睨まれりゃ命はねえ、けど気に入られりゃ闇社会での栄達は思いのままだ。頑張りな」


 闘技場全体で、相変わらず獣のような歓声が渦巻いている。観客は皆、人ではなく獣だ、と思えてしまうほどに。
 客の事を、サクラはとりあえずは気にしない事に決めた。集中しなければならないのは、目の前の敵に対してだ。
 いや、目の前だけではない。左右にも、背後にもいる。
 猿の如く敏捷に動き回る、ゴブリンの集団であった。何匹いるのか、一目では把握しきれない。
 全員、片手あるいは両手に、鉄の鉤爪を装着している。
 そしてサクラの周囲を落ち着きなく疾駆・跳躍し、攻撃の機会を窺っている。ニタニタと笑い、ギラギラと眼球を血走らせながらだ。
 劣情の眼差しが、あらゆる方向から、サクラの全身に絡み付いて来る。
 愛らしい膨らみを、布で巻き隠しただけの胸に。
 その胸を精一杯、強調する感じに細くくびれながら美しく腹筋の線を浮かべた胴に。
 小さな下着を食い込ませ、可憐な丸みを露出させている尻に。スリムに可愛らしく引き締まった左右の太股に。
 ゴブリンたちの、観衆の、劣情そのものの眼光が集中してくる。
 盾を装着した左腕で胸を隠しつつ、サクラは耐えた。耐えながら、燃やした。闘志を、怒りを、羞恥心を。
「全て……ぶつけさせて、いただきますよ。主催の方……」
 ぶつけるべき相手は、今はここにいない。この闘技場に姿を現わすのは、最終戦の時だけだ。
 今ここにいるのは、劣情を燃やしながら敏捷に駆け回り跳ね回るゴブリンの群れである。
 今いる敵に、だからサクラは叩き付けるしかなかった。まずは左手の盾を。
 鉤爪で斬りかかって来たゴブリンが1匹、グシャリと潰れて盾に貼り付いた。
 それを振り落としている暇もなく、サクラは右手の剣を一閃させた。斬撃の弧が、いくつも生じた。
 不気味なほど敏捷に跳躍し、襲いかかって来たゴブリン数匹が、片っ端から真っ二つになっていた。
 飛び散る屍や臓物を蹴散らしながらサクラは駆け、踏み込み、剣を振るう。
 斬撃が、刺突が、しかしことごとく空を切った。
 ゴブリンたちが巧みに回避、と言うよりも逃げ回っている。なりふり構わず、恥も外聞も無い生き物らしく。
「あ……こ、こらっ! 待ちなさぁーい!」
 サクラは追った。やはりどうしても、なりふり構わない動きになってしまう。
「こ、こんなものは……人様に見せる戦いでは、きゃあっ!」
 風が吹いた。その風を、サクラは完全にはかわせなかった。
 胸に巻きつけたボロ布が、僅かに裂けた。
 ゴブリンが1匹、近くに着地して鉤爪を舐め、ニタリと笑い、逃げ去って行く。
「このっ……!」
 追おうとするサクラに、別方向から別のゴブリンが斬りかかった。
 かわしたサクラの身体を、風が撫でる。
 胸を隠す布が、また少しだけ裂けた。
 1匹が逃げ回る、サクラが追う。そこへ、別の1匹が襲いかかる。
 嫌らしいほど巧みな連携であった。女の子の服を切り刻む、だけのために特殊な訓練を受けているのではないかと思えるほどだ。
「ひっ、光……光の、御名において……ッ!」
 また少し、布が裂けた。谷間が丸見えでもおかしくないほど裂けているが、サクラの胸には谷間がない。
「貴方たちのような生き物! 存在を許してはおけませんっ!」
 限りなく裸に近付きつつある細身の肢体が、怒りの躍動を見せた。
 スリムにくびれた胴体から、やや未熟な白桃を思わせる尻にかけてのボディラインが、竜巻の如く捻転する。綺麗な腹筋の線が柔らかく歪み、そして細く愛らしく鍛え込まれた太股が元気良く跳ね上がる。
 左右の蹴りが、左腕の盾が、右手の剣が、ゴブリンたちを殴打・粉砕・斬殺してゆく。
 今にもちぎれそうなボロ布をこびりつかせたまま、胸はしかし揺れない。
 気がつけば、ゴブリンは1匹残らず、屍に変わっていた。
 轟く歓声の中、現場係員の元締めである男が、肥満体を揺らして駆け寄って来る。
「いやあ良かった! 最高の試合だったよ、お嬢ちゃん」
 でっぷりと肥え太った全身に、喜びが満ち溢れている。
「お客も感動している。見ろよ嬢ちゃん、嫌らしい目的しかなかった連中が今みんな、お前さんの戦いぶりに感動しているんだぜ」
「そう……ですか。3戦目にして皆さん、ようやく……わかって、くれたのですね」
 サクラは微笑んだ。男が何度も頷き、サクラの右手を掴んで上げる。
「ほら、お客の歓声に応えてやらねえと」
「そうですね……って……」
 サクラは気付いた。切り刻まれた布が、胸からはらりと舞い落ちてゆく。
「……ぁ……ち、ちょっと手を……手を、離して下さい……」
 血の気が引くほどの恥ずかしさに息を呑みながらサクラがそう言っても、男は手を離してくれない。
 羞恥と激怒が、サクラを衝き動かした。
 左足が、超高速で離陸する。スリムな肉付きの中に強靭な脚力を内包した太股が、猛然と躍動する。
 サクラの膝蹴りが、男の肥え太った腹をズドッ! と凹ませていた。
 血を吐き、崩れ落ちながらも、男は嬉しそうに気持ち良さげに笑っていた。


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登場人物一覧
【ka2598/サクラ・エルフリード/女/15歳/聖導士】
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2018年02月21日

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