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『野郎共のバレンタイン 』
ガルー・A・Aaa0076hero001)&夜城 黒塚aa4625

 二月十四日。そう、バレンタインデー。
 バレンタインがどういう日なのかは今更説明する必要もなかろう。
 町中の店はここぞとばかりにチョコレートカラーで彩られていた。特に洋菓子店はそれが顕著だ。

 そしてここに、スイーツショップの自動ドアの前に立つ男が二人。

「……!」
 奇遇ともいえるタイミング。男の内の片方――夜城 黒塚(aa4625)は横目に見やった男の横顔に見覚えがあった。
「お前は……」
 冷徹な低い声。スッと外すサングラス。細める鋭い三白眼。どれだけ好意的に解釈しても、穏やかさや友好的という言葉からは程遠い。ハッキリ言おう、睨んでいるようにしか見えない。
 対するもう一人の男――190センチ近い偉丈夫だ――ガルー・A・A(aa0076hero001)は、眼差しに気付いてはジロリと視線を黒塚に向けた。彼の瞳もまた刃のように物騒で、着物も相まってヤのつくアレの印象が凄まじい。
 今にも喧嘩が始まりそうな剣呑さ。
 視線をかち合わせる男二人の目の前は可愛らしいスイーツショップなのだが。シュガーでショコラな雰囲気が負けている程度にはアレだった。通行人は殴り合いでも始まるんじゃないのかとそそくさと視線を逸らしつつも固唾を飲む。
「あら黒塚ちゃん、久しぶり。正月以来かね」
 だが通行人の緊張に反して、ガルーが発した声はニコヤカそのものであった。
「……まさかお前とこんな所で会うたぁな……」
 対する黒塚も、笑顔を浮かべることはないが気を許した雰囲気である。そう、ガルーと黒塚は知り合い同士なのだ。正月に猫カフェで偶然会い、一緒にお酒を飲んだ仲。

 さて。

 男二人の目的は、この目の前の洋菓子店。つい最近に新規オープンしたばかりの人気店だ。バレンタインフェアー中で限定商品もあるという。
 バレンタイン、それは想い人へチョコを贈る日である――が、この二人はそういうアレをしに来たのではない。
 バレンタイン、それは世間が猫も杓子もチョコレートを謳う、スイーツの祭典でもあるのだ。

 そう、二人の目的は甘くて美味しいスイーツなのである!
 そう、二人は甘いものだ〜いすき(はぁと)なのである!

「……行くぞ!」
「おう」
 ガルーの声に黒塚が頷く。まるで任務に赴くような凛々しさだ。ザッと店内へ歩みを進める野郎二人。自動ドアが開き、若い女性店員が「いらっしゃいませ〜」と笑顔を向けるが、強面野郎二人の登場に笑顔の口がヒクッとなった。正直、一瞬強盗が来たのかと思った。
「ここが噂の……」
「ほう……」
 ガルーと黒塚のギロリとした品定めの眼差しは、なんというかとても物騒というか鋭いというか。断っておくが本人達に害意はない、マジでない、内心は「あれ美味しそう」「あのケーキ可愛い」と思っているのである。マジである。
 そしてまあ当然っちゃ当然だが、可愛らしい店内には女性しかいない。男二人にとっては物凄いアウェー空間なはずなのだが、この二人の堂々さたるや。退かぬ媚びぬ省みぬ。逆に女性達がアウェー感を感じ始めるほどである。店員さんがマニュアルに従って「只今バレンタインフェアー中でして……」と尻すぼみな小声で勇気を出して呟く。
「……、」
 黒塚はサングラスの奥から店員を見、それからショーケースに視線を戻した。
「……おいガルー。決めたか?」
「ああ、黒塚ちゃん。……今決まった」
 殺しに行く相手がですか? と聞きたくなるような面持ちだがここはケーキやさん(はぁと)だ。男二人はそのまま、戦々恐々としている店員へとこう告げる。
「俺様はこの、三種のベリーとチョコのタルト、クラシックガトーショコラ、ホワイトチョコと抹茶のムースケーキ。イートコーナーで食べるんで、紅茶もよろしく頼む」
「……俺は、マカロンケーキを。同じくイートコーナーで食べる。コーヒーを一つ」
 ドス低い声で告げられる注文(繰り返すが害意皆無)。まもなくしてお皿に盛られたケーキさん(はぁと)達がトレイに乗せられ、差し出される。「イートコーナーはあちらです」と店員の言葉に頷きを示した男二人は、可愛らしいケーキさん(はぁと)達が乗せられたトレイを手にそちらへと向かった。

「やっぱり時期柄ショコラは外せねぇよな」
 いそいそ席に着きつつ、ガルーは上機嫌にフォークを手に取った。その目は三種類のケーキに注がれている。イチゴとブルーベリーとラズベリーがふんだんに乗せられたチョコレートのタルト、シンプルなレシピで作られたトロリとしたガトーショコラ、ホワイトチョコの白い生地と抹茶の緑の生地がオシャレなムースケーキ。
「……ああ」
 向かいに座る黒塚は、懐から取り出したスマートフォンでマカロンケーキを撮影していた。マカロン生地で生クリームや果物などを挟んだ小さなケーキが三つ、それぞれチョコレート、イチゴ、抹茶、三種類の味。見るからに可愛らしく、そしてオシャレで、SNS映えする逸品である。
 二人ともドッ強面だが、その眼差しは綻んでいる(当社比)。尤も、周囲の女子達からは「イカツイ男の人二人が可愛いケーキ食べてる……!?」と思われているが。そしてガルーはそういった眼差しを何ら気にしておらず、黒塚も「またか」くらいの認識で。
「家だとのんびり食えねぇからな」
 偶の癒しは必要だろ? ガルーはそう続け、どれから食べようか散々悩んだ挙句、タルトから食べ始めた。黒塚も撮影を終え、チョコレートのマカロンケーキから食べ始める。黒塚にとっても久しぶりの甘味であった。
「相棒ちゃんは元気にしてるか?」
 チョコレートの甘みと、ベリーの甘酸っぱさと、タルト生地の香ばしさと。舌鼓を打ちつつ、ガルーは正面の黒塚に問う。同じ年下の相棒を持つ者同士、ちょっぴりシンパシーを感じているのだ。
「うちのガキは、雪が降ろうがお構いなしに駆け回ってんよ」
 溜息のような物言いだが、黒塚の眼差しに嫌悪というものはない。マカロン生地は軽やかで、チョコレートクリームの気品ある風味な甘さと、ラズベリーのじゅわっとした甘酸っぱさが、口の中で踊るようにとろけていく。うん、美味い。一人頷きつつ、黒塚もまたガルーをチラと見やり。
「……そっちの嬢ちゃんも変わりねェか?」
「うちのチビか? まあ、相も変わらずさね」
 男の大口に、小ぶりなケーキは瞬殺である。これでも一応味わっているけども、まあ。答えつつ、ストレートの紅茶を一口飲んだガルーは、次いで抹茶のムースケーキに手を付け始めた。舌触りなめらか、甘さ控えめの抹茶生地と、風味豊かな甘みを誇るホワイチョコムースのシンフォニー。上には小豆と生クリームがトッピングされていて、和の味わいがそこにある。
「しっかし……」
 モグモグとムースケーキを頬張りつつ、ガルーは幸せそうに――一見して分かりづらいが雰囲気は確かに華やいでいる――マカロンケーキを食べている黒塚をまじまじと見る。
「お前さんも甘いの好きなんだな」
「四六時中食おうとは思わんが、まァ、な」
 ピンクのマカロン生地に、イチゴジャムがトロリとかけられ、挟まっているのは生クリームにたくさんのベリー。そんなマカロンケーキにフォークを刺し、ゆったり食べる黒塚が答える。「ま、そらそうだ」とガルーが小さく笑って、しみじみと続ける。
「この世界は甘味の種類が豊富なのが良いよな。俺様のいたところはまぁ、ここまでじゃなかったよ」
「へえ。……逆じゃなくてよかったじゃねェか。元居た場所が絶品ばっかじゃ、残念すぎんだろ」
「ははっ、確かにな!」
 ある意味ラッキーだったのかもしれない。ガルーはムースケーキの最後のひとかけらを頬張った。お次はガトーショコラだ。黒塚は小豆入りの生クリームが挟まった抹茶マカロンケーキを味見していた。

 女子のようにキャッキャと話は盛り上がりこそしないが、彼等二人の会話は気ままに続く。
 お互いが甘味好きと知り、今は「駅前のあの店がオススメ」「モンブランならあそこの商店街の……」「あそこはアップルパイが絶品、でもいつも長蛇の列」などなど、スイーツ関連の情報交換に話題の花が咲いている。
 黒塚は笑顔を浮かべたり声を弾ませたりこそしないものの、同好の者に邂逅できたことについては内心少し嬉しさを感じていた。
 対するガルーも、黒塚の仏頂面や口数の少なさに不快感を覚えることなどカケラもなく。こういう気質だが、根っこは良い奴なのだと知っているがゆえだ。それに一緒に酒を飲んだのだ、もう友達だろう。

 そして、楽しい時間というものは一瞬で過ぎるのだ。
 空っぽのお皿、空っぽのマグカップ、満たされた心と針が進んだ時計。

「ふう、美味かったな」
 ガルーは満足そうな息を吐く。その手にはバレンタイン限定デザインの紙袋、中には家で待つ相棒達へのお土産として、チョコレートと焼き菓子を。
「ああ、悪くなかった」
 黒塚も同じく、テイクアウト用としてケーキを幾つか。「ありがとうございました」と店員の言葉を背中に受けつつ、店を出る。自動ドアを潜れば二月の冬風が吹いて、店の暖房に慣れていた体をサッと冷やしてゆく。「おお寒い寒い」とガルーはマフラーに顔を埋めた。まだ春は当分先だろう。黒塚も羽織っていたコートの前を締める。
 さてと。ガルーは黒塚へと振り返る。
「んじゃ、またな。今度は家で菓子作るから、いつか食いに来てくれ」
 その言葉に――黒塚はほんの微かにだが、口の端に笑みを浮かべた。
「……悪くねェな。楽しみにさせてもらうぜ」
「ん、腕によりをかけるとしよう。とゆわけでー、気を付けて帰れよ〜、相棒ちゃんにもよろしく」
「おう。そっちもな」
 片手をヒラリ、黒塚は歩き始める。ガルーは寸の間だけその姿を見送ってから、反対方向へと歩き始めた。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ガルー・A・A(aa0076hero001)/男/32歳/バトルメディック
夜城 黒塚(aa4625)/男/26歳/攻撃適性
イベントノベル(パーティ) -
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2018年02月23日

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